甘い言葉と甘い香り
黒木泰則×ターニャ


ドンドンドンッ

突然荒々しいノックに、練習の時間を中断された。

(こんな時間に誰だろう?)

気がつくと時計は夜の9時を回っている。

「しまった・・・大家さんだ・・・。」

きっとオーボエの音がうるさかったんだろう。

そっとドアをあける。

「Pardon!今後本当に気をつけますんで・・・あれ?」

立っていたのはターニャだった。

「ターニャ?こんな時間になんだい?」

というかなんで僕の家を知っているんだろうか・・・。
ターニャはうつむいたまま何もしゃべらない。

「・・・ターニャ?」

「ヤスのバカッ!」

「・・・は??」

顔を上げたターニャの瞳からはぼろぼろと涙が流れ落ちていた。

「え!?タ、ターニャ!?」

「ヤスのバカバカ〜!」

ターニャは急に、胸の辺りをポカポカと叩いてきた。
うっ、酒臭い。

「ちょっ、痛いよターニャ!」

「うわ〜ん!!」

何がなんだか分からないが、この状態はまずい。

「よ、よくわからないけど、話をちゃんと聞くから中に入ってよ」

ね?と顔を覗き込むと、ターニャは叩くのをやめ、小さく頷いた。

ホットココアを作って、ターニャに渡す。

「どう?落ち着いた?」

ターニャはうつむいたまま、小さく頷いた。
向かいに座ってみる。

「何かあったの?」

「・・・何もないわよ。」

何もないわけあるか!という言葉をなんとか飲み込む。

「じゃあ、何か用があってうちに来たんだよね。どうしたの?」

「・・・ヤスがバカだからよ。」

・・・これでは埒が明かない。
ふー、と大きなため息をついた。

「じゃあ何でバカな僕のところにきたんだい。うちの場所も、わざわざ誰かに聞いたんだよね?」

「それは・・・場所はのだめに聞いて・・・うっ。」

ぶわっとターニャの目がうるんだ。

「ご、ごめん!いや、何がごめんか分からないけど、泣き止んでよ!」

一体どうしたらいいんだろうか。
ハンカチ、ハンカチはどこにしまったんだっけ?

「とにかく落ち込んでる理由を教えてもらえない事には、僕も何もできないよ!」

おろおろしていると、ターニャは口を開いた。

「・・・ダイエットしたのよ、私。」

「???」

「キレイになったでしょ、ナンパもされたのよ。いっぱい。」

「・・・???」

まったく話の意図が見えない。

「そ、そうだね。そういえば腕と足がほっそりとしたような・・・」

とりあえず話を合わせてみる。

「私幸せになりたいのよ!」

急に大きな声を出したターニャに驚いた。
以前話の流れが分からない。

「想われて、付き合って、バカンスして・・・幸せになりたいのよ・・・」

「・・・ナンパされたんだし、相手がいいひとだったら付き合えばいいんじゃないの?」

そう言った瞬間ターニャの顔が歪んだ。

「・・・帰る!!」

「え!?」

ターニャは急に立ち上がって、フラフラとドアへと向いた。

「ちょ、ちょっと待ちなよ!どうしたの!?そんな状態でちゃんと帰れるの!?」

慌てて追いかける。
肩に手をかけようとしたら、はじかれた。

「ヤスのバカっ!どうしてわからないのよ!!」

「ナンパされて、嬉しかったわ・・・!遊んでて楽しかったわ・・・!だけど何か違うの!」

ターニャの目からは、ぼろぼろと涙が流れ続けてる。

「だって、ヤスじゃないんだもん!」

・・・・え?

「え?え?」

どういうことなんだろうか?
僕じゃないから、何か違うって?

「・・・まだ分からないなんて!ほんとにバカねっ・・・!」

ターニャは急に接近してきて、抱きついた。

「・・・ヤスが好き・・・っ!ヤスが好きなのよ!!」

えーーーーーー!?
急にパニックになった。
だって、僕のことを青緑だ、暗いだと言っていたターニャが!?

「タ、ターニャ?」

「・・・そうよね、ヤスは私のことなんとも思ってないの、知ってた・・・」

「いや、そうじゃなくて、意識してなかったというか、君が僕のことを嫌ってると思っていたというか・・・」

ジッと覗き込んでくるターニャの目に、顔が熱くなる。

「ふふ・・・ヤス、顔が真っ赤よ。」

そう言ってターニャは背伸びした。
唇があごに当たる。

「バカ、こういう時はかがむのよ!」

急に襟を引っ張られて、今度は、唇が重なった。

「・・・んっ、んうっ!」

舌を入れられて、口内をかき混ぜられる。

「・・・ふはっ、タ、ターニャ!ちょ、ちょっと待ってよ!」

改めてターニャの顔をのぞくと、トロンとした目でこっちを見ていた。
・・・酔ってる。大分酔ってる。

「ヤス、日本には『スエゼン食わぬは男のハジ』ってのがあるんでしょ?」

誰だろうか、こんなことをターニャに教えたのは・・・。
と考えた次の瞬間には、ソファーの上に押し倒されていた。

「ヤス・・・好きよ・・・」

甘い言葉と甘い香りに、理性をなくしてゆくのだった・・・。






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