気がつくと
黒木泰則×野田恵


リードを削っていた。
帰宅してから、何も食べていない。
コンクールに向けた練習と千秋たちとのオケの練習に追われ、だいぶ疲労していた。

「でも、これだけはやっておかないと…」

黒木はこの作業が、嫌いではなかった。
地味な作業ではあったが、リードを作っている時は無心になれる。
だが、最近はそうでもなくなってきたようだ。

「恵ちゃん」

気がつくと、その名を口にしてしまうときがある。

(恵ちゃんは、好きって言ってくれた。
オーボエの音ー
ボクの奏でるオーボエも
好きになってくれるだろうか?)

机の上には、小さな鉢植えの鈴蘭があった。
先ほど、オケの練習の帰りに花屋で見つけて買ってきたのだ。
清楚で可憐で愛らしい。
一目見て、愛しい女性に似ていると思った。
先日のおにぎりのお礼と言えば自然に渡せるかもしれない、
そんなことを考えた。

「次のオケの練習のときに、会えるといいな…君に」


数日後ーーー

オケの練習はつつがなく終わり、帰り支度をしていると
三木清良がにこにこしながら近づいてきた。

「最近の黒木くんの演奏、すごくいいわね」

清良は出し抜けにそう言った。

「そう? ありがとう。君のような人に誉められると嬉しいね」
「本当よ。前からすごく上手だと思っていたけど、最近すごく脂が乗っている感じ!
もしかして恋をしているのかしら?」

清良はふふっと笑った。
ドキッとした。
千秋から聞いたのだろうか?
もし聞いていたとしても、恥ずかしがることなんかないのだけど。
ーーモーツァルトにぴったりね
と清良が言いかけていたその時、練習室の窓からボブカットの人影がちらりと見えた。

「ご、ごめん…!」

黒木は慌てて清良に謝ると、荷物を抱えて飛び出した。

「野田、恵ちゃん!!」

呼びかけると、その女性は振り向いた。女性と言っても、少女にしか見えない可愛らしさである。

「黒木くん」

淡いブルーのワンピース。小さな花柄は、白い鈴蘭の柄だった。

(やっぱり…恵ちゃんは鈴蘭が似合ってる)

「あの、これー」

おずおずと、黒木は鉢植えを差し出した。

「ほわぁー。 お花デスか?」

恵はキョトンとしていた。

「あ、あの、この間の おにぎりのお礼にと思って」

もう少しスマートに渡したかったのに、言葉が上ずってしまって全く決まらなかった。
恵はじっと花を見つめていたが、

「ありがとうゴザイマス! かわいいお花デスね〜」

と言い、両手で包み込むようにして受け取った。
その、輝くような笑顔の愛らしさ。

(あぁ……)

もともと恋愛経験が乏しく、恋よりもひたすらストイックに音楽の道を歩んでいた。
これほど一人の女性にほれ込んでしまったのは初めてと言ってよいほどで、
花を受け取ってくれたことだけでもう彼は天にも上る気持ちだった。

(もしかしたら、これは夢なのかもしれない)

ただ漠然とそう思った。

(もし夢だったら…)

「恵ちゃん!」
「ハイ?」
「今夜、空いてますか?!」

恵が、大きな目を見開いてこちらを見ている。

「今夜、デスか?」

怪しまれてしまっただろうか。でも、もう後に戻ることなどできない。
黒木は深く頷いた。恵にか、それとも自分にか。

「もし予定がなかったら、一緒にごはんいかがですか」

心臓が口から飛び出るような思いだったが、身体の奥から声を振り絞った。

「いいデスよ」

恵の返事は、なんともあっさりしたものだった。

「い、いいの?」
「いいデスよ。どこで食べますか?
あっ、裏軒がいいですかね。峰くんのおうちだから、永久フリーパスだし」

だが峰の実家では、邪魔が入ってしまうかもしれない。
特に峰と親友だと言う千秋は黒木の恋路に反対しているようだったから、こんな日に会いたくはない。

「あ、いや、できれば別のお店がいいな…」
「別のお店ですか?」

恵は少し考え込んだ。

「でものだめ、今月ピンチなんデス。だから裏軒以外では…」
「だったら、ボクがご馳走するよ」
「えっー」

途端に恵の瞳がぱぁっと明るくなった。

(可哀そうにー。恵ちゃん、ひもじいのかな)

「あっ。それじゃあ、ご馳走になるだけでは悪いので、
のだめがご飯作るのはどうデスか?」

恵が鉢を持つ手に力をこめ、前に乗り出して言った。

「め、恵ちゃんがご飯?!」

青天の霹靂だった。

それから二人は共にスーパーひとしくんで買い物をし、約束どおり会計は黒木が負担した。
恵の家にたどり着いたのは、夕方だった。
まだ辺りは明るかったが、恵の部屋の玄関に入ったときは陽が入らなくて
思いのほか暗く感じられた。

「どうぞ。ちょっと散らかってマスけど」

電気を点けながら恵が案内した部屋は、
ピアノ科ならではのグランドピアノとベッドが部屋の大部分を占めてはいたが
女子大生らしいきれいに整頓された部屋だった。

(女の子の部屋に入るなんて、初めてかもしれない)

黒木は胸がいっそう高鳴るのを感じた。
静かな部屋の中でその鼓動が恵にまで聴こえてしまうような気がして、
恵に背を向けてシャツの胸の真ん中を拳で押さえた。
恵は手に持っていた鈴蘭の鉢をテーブルの隅に置いた。

「黒木くん、座っていてクダサイ」
「う、うん。でも、何か手伝ったほうがいいんじゃ…」

(またマロニーの味噌汁が出てくるのかな)

「いいんです。のだめ、今日は鍋にしますから。鍋は失敗したことがないんデス」
「へぇ。そうなんだ。よかった。

あ、でもやっぱり何か」

「いいんデス!」

キッチンのほうへ向かおうとする黒木の腕を恵は掴み、強い力で後ろに押さえつけてベッドに座らせようとした。

「のだめがやりますから! 黒木くんはここに座っていてくだサイ!」

あまりにも強く押されたので、黒木はよろめいてベッドに尻もちをついた。
そして、なんとその弾みで押したほうの恵までもが、黒木の上に倒れ掛かってしまった。

「うわっ」
「ぼへぇっ」

結局黒木は恵の下敷きになり、二人はベッドの上で重なる格好になった。
恵の柔らかい髪の毛が黒木の鼻先で揺れ、華奢な身体が腕の中にあった。

(どうしよう)

「恵みちゃ…大丈夫」

そう言って恵の身体を起こしてやろうとした。
が。
頭では紳士的に振舞おうとするのに、身体がそのとおりにしようとしない。
恵の細く括れたウェストを押さえる腕に、力が入る。

(こんな風に、しちゃいけない。だけどー!)

「恵ちゃん!」

その名を口にすると、まるで堰を切ったかのように想いがあふれ出す。

「恵ちゃん!恵ちゃん!」

ひたすら名を呼んだ。そして彼女の身体を、肩をかき抱く。
しかし、何度も何度も呼んでいるうちに、段々と我に返ってきてしまった。
何も、言おうとしない恵。
ただ、彼のなすがままに、彼の上に横たわり抱かれていた。

「ごめん…」

急に怖くなり、黒木は抱きしめる腕の力を抜いた。

「ごめん…恵ちゃん」

(だめだ。こんなことをして。もう絶対に軽蔑された)

「ごめ…」
「どうして」
「え?」
「どうして、謝るんデスか」

突然恵が口にした言葉は、彼の予想しない言葉だった。
しかし、説明しようにもうまく説明できるはずもなく、
また何かを言おうとすれば、また ごめん と言ってしまいそうな気がした。
言葉を捜していると、恵はまた言った。

「どうして、謝るんデスか。
イジワルしたんですか。それともふざけてっ…」
「違う!」

黒木は半身を起こして、恵を自分の隣にそっと下ろした。
恵はベッドの上に上半身を寝かせ足は床に下ろし、半身になった黒木の目を下から見つめた。

「違うんだ、恵ちゃん。
ふざけてなんかじゃない。
ボクは」

大きく息を吸い込んだ。

「ボクは君が好きなんだ!」

恵は、目を丸くして黒木を見つめ続けた。

「君が千秋くんと話しているのを見たあのときから、ボクの頭の中から君の姿が離れなくて…」

黒木は、しどろもどろに告白を続ける。

「あの、す、鈴蘭も、花屋の店先で見たときに、君にそっくりだと思って買ったんだ。
ボクは 君のことがー」

そこまで言ったその時、半身を起こして恵は顔を黒木に近づけた。

「からかってるんじゃ、ないんデスよね…?」
「からかってなんか」

んっ。
小さな声が漏れた。
恵の桜色の唇が、黒木の唇に軽く触れた。

「め…」
「しっ…デス」

恵はそう言うと、恥ずかしそうに少し俯いた。

「のだめ…のだめも、黒木くんのこと」

その言葉が終わらぬうちに、今度は彼のほうから口づけた。
恵の長く細い指が、彼のうなじに絡みつく。
慣れなくて、お互いに不器用なキス。
唇が、恵の肩をそっと抱き寄せる掌が、身体の奥が、熱くなっていくのを感じていた。
頭の中は真っ白だった。
二人の唇がゆっくりと離れ目が合うと、恵は恥ずかしそうに黒木の胸元に額を寄せた。
黒木は彼女の髪の毛を優しく撫でた。
その手はやがて首すじから肩へ下り、背中へと這った。
背中から腰へと指が伝うと、恵は身を縮める。

(かわいいな)

何度か恵のその反応を愉しみ、彼は自分の胸に額を押し付ける彼女の髪に口づける。
女性経験は殆どなかったので自信はなかったが、
彼女の反応は自分を受け入れてくれていると彼は思った。
恐る恐る背中を這わせていた掌を、脇腹を伝って恵の胸へと持っていく。
下着とワンピースの上からでも、かなり大きくて柔らかい。
初めはそっと撫でていたが、すぐに我慢ができなくなり、
黒木は再び彼女にキスをしながら、そのふくらみを掴んだ。

「あっ…」

恵が小さな声をあげた。
その声を聞いた瞬間、もはや黒木を止めることなど彼自身にもできなくなってしまった。
恵の唇を少し乱暴なほどに吸い、左手をワンピースの裾の中へともぐりこませる。

「黒木く…」

恵は反射的に太腿を閉じたが、彼の左手は太腿を通り過ぎて背中へ行き、
ブラジャーのホックを外した。
片手で外すのは少し手こずったのだが、恵には気づかれずに済んだようだった。
そして黒木は恵をベッドに寝かせ、今度は彼が上に覆いかぶさって、
恵の淡いブルーのワンピースを喉元までたくし上げた。

「い、いや。恥ずかしいデス…」

恵は少し抵抗するそぶりを見せたが、黒木がブラジャーを上にずらして
小さな突起の片方にそっとキスをすると、今度は身をよじらせて熱いため息を漏らした。
そのまま左手で恵の右の胸を愛撫しながら、もう片方の乳首を口に含んで転がす。
恵の漏らす息は湿り気を増し、愛撫を続ける掌からは強く速い鼓動が感じられた。

「恵ちゃん」
「はっ、はぁっ…。なん…ですか…あっ」

恵は泣くような声を上げた。
黒木はブラジャーと同じ純白のショーツの上から優しく撫でた。

「あ、ぁっ」

恵は一層大きな声を上げてよがった。
そこは、経験の薄い黒木からしてもはっきりと判るほど、潤んでいた。

「恵ちゃん、いい? ここ、解いても」

黒木は返事を待たずに、ショーツの紐を引く。
紐はいとも簡単に解け、恵は顔を背けた。

「ずるいデスよ…」
「え?」
「のだめだけ、こんな…。
黒木くんもハダカ、見せてください」
「あ、ごめん…。そうだよね、脱ぐよ」
「あと」
「なに?」
「恥ずかしいから。電気消してくだサイ」

着ていたシャツを脱ぎ捨て、部屋の灯りを消した。
恵はベッドの中心に移っていて、黒木が恵の上に覆いかぶさるとベッドがきしんだ。
シングルベッドなので、二人が横になると明らかに狭かった。

「恵ちゃん、こっちにおいで」

黒木は腕枕をするようにして左腕に恵の頭を乗せさせ、キスをした。
恵の咥内を深くくわえ込み、喉の奥のほうまで犯していく。
唇や、その周りがどろどろと溶けあっていくような気がしたが、そんなことはどうでもいいと思った。

「んっんんっあふっ」

お互いに不慣れなぎこちなさはあったが、ただひたすらに相手を求めた。
手探りで恵の両腿を開かせる。

「んんっ」

彼女は脚に力を入れたが、黒木はそれを許さず茂みの中に指を這わせた。

「あふっ!」

ゆっくりと中指を出し挿れしてみる。恵は口を両手で押さえながら、こらえるようにしていた。

「いや?」
「いやじゃ、ないデス。あっあん!いやじゃないけど…あっあっ」
「いやじゃないけど?」
「あぁっ!だめ!だめです!」
「やめる?」

恵はふるふると頭を振ってよがる。

「やっぱり…。黒木くん、あふっ、イジワルして、マス…あっ」

口ではどう言おうと、恵の身体が拒否していないことは黒木にも判っていた。
シーツが濡れてしまうほど、溢れ出す蜜。
恵の蜜は黒木の指にまとわりつき、卑猥なほどの水音を響かせている。
ゆっくりと出し挿れしていた指を速めていく。
蜜を纏ったその指で、突起を優しく擦ってみた。

「ひぁっ!い、イヤです…もう、のだめ…もう…あっ!」
「…………」
「く、黒木くん?」

忘れていた。
こんなことになるなんて思っていなかったから、今日は何の用意もしていない。
でも、ここで引き返すなんてこと、できるわけがない。

「黒木くん? どうしたんデスか?」

頭が真っ白になって、ズボンのポケットに指を入れると、
何故かポケットの中から、コンドームが一枚出てきた。

「あ、あれ?」

今日恵とこうなるまで、久しく恋人がいたことがなかったのにー。

(なんでこんなものが入ってるんだ??)

頭が混乱してきたが、考えている暇はない。

(誰のだか知らないけど、ここに入ってるって言うことは使っていいって言うことだよな)

パッケージを開けて、中身を取り出す。
暗い部屋の中だけれど、見られたらと思うと恥ずかしくて、恵に背を向けて急ぎ装着した。
その動きから恵も黒木が何をしているかは察したようで、黙って待っていた。

「ごめん、待たせて」
「は、ハイ!」
「挿れても、大丈夫?」

一瞬躊躇したかに見えたが、恵は「ハイ」と小さな声で頷いた。

「力、抜いていてね」

黒木は恵の脚を開くと、ゆっくりと挿入を始める。
恵は痛がっているのだろうか。黙っているが、時折力が入る。
下腹に力を入れられると、締め付けられて一気に達してしまいそうになる。

「恵ちゃん、痛い?」
「んっ、大丈夫デス…」
「恵ちゃん…」

繋がったまま、キスを繰り返す。

「あふっ」

恵はキスに答えてくれる。

「動くよ?」
「んっ」

ゆっくりと腰を前後に動かす。
陰部が擦れて、一層淫猥な音を立てている。

「んっんっんっはぁっ」
「め、恵ちゃんっ、かわいいね…」
「んんーっ!あんっ。見ないで、クダサ、あっ」

恵は黒木の肩にしがみついてきた。
汗が、髪をつたってぽたぽたと落ちるのを感じる。

(夢じゃない…夢じゃっー)

ずぷ、ずぷ、と音を立てて、恵の中をかき乱す。
ゴムを装着けていても、彼女の中の温度が伝わってくる。
ゆっくりだった腰の動きはすぐに速度を増し、
浅かった挿入も今では奥の方まで深く突き上げている。
強く突き上げるたびに恵の爪が深く黒木の肩へ食い込んでいったが、
痛みは不思議と感じなかった。

「あふんっ!んんんっ!」
「めぐみちゃんっ!!」

(だめだ…もうっ)

「ごめ…もう…ボクーあっ」
「くろきくー」

 ガタガタガタッ!!

「いたっ!」

ゴンッ。

「〜〜〜〜〜」

(あ、あれ? ここは…)

目を擦ると、そこは自分の部屋の机の下だった。

(夢、だったのか…)

「はっ」

慌てて下腹部に目をやったが、幸い何も汚してはいなかった。
あと少し長く夢を見ていたら、間違いなく放っていたに違いない。
憧れの女性とのデートも、告白も、なにもかも、
全てが夢だったのは残念だったが、それならばせめて夢精しなかっただけでもよしとしよう。
机に突っ伏したまま寝てしまい、その格好で夢精するなんて情けなさ過ぎる。
どうやら、夢の中での絶頂の寸前に椅子から転げ落ちた落ちたようだった。
おかしな体勢で寝てしまったので、身体のあちこちが痛い。
窓を閉め切っていたためか、それとも夢のせいか、全身汗でびっしょりだった。
身体が痛いのでゆっくりと体勢を立て直す。
窓を開けると、明け方の爽やかな風が入ってきた。
ひんやりとした風に当たっていると、
先ほどまでのことが本当に夢だったのだと身にしみてくる感じがした。

(あ、そういえばリード…)

はっとなって机を見ると、
夜のうちに完成させておいたリードがきちんとケースに納められ、
その隣には小さな白い花を咲かせた鈴蘭が揺れていた。

  (恵ちゃん、
   いつか君に、伝えられたらいいな。
    今度は夢なんかじゃなくー)






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