「江戸のクロキン2」〜前編〜(非エロ)
黒木泰則×野田恵


今日、恵ちゃんと(リュカも一緒だけど)ミサのリハーサルを見に行った。
彼女の隣ですばらしい音色に包まれて、僕の世界はまた1つ広がって。
千秋くんのいない間に、と少し後ろめたさはあったけれど、確かに幸福で。
だからかな、こんな夢をみたのは……?

「江戸のクロキン2」〜前編〜

きんぎょーや〜、きんぎょ〜♪

およそパリには似つかわしくない物売りの威勢の良い声が辺りに響く。
目の前に広がるのは、町人が忙しく行き交う姿や着物姿の女たちが立ち話をする光景。
ああ、またこの夢か。
自分も着流し姿であることを確認してから、黒木は大きな溜息をついた。
この間見た夢は、恵ちゃんと再会する前のときだったし。
それに千秋くんと付き合ってるなんて知らなかったから、あんなコトもできたわけで。
「あんなコト」を思い出して、頬を赤く染めた黒木はぶんぶんと首を振る。
と、とにかく、僕はもうそんなんじゃないんだから!
目が覚めるまでなるべく何事にも巻き込まれないようにしようと、彼は足早に
往来を通り過ぎた。

必要も無いのに急いで歩いた為か、喉の渇きを覚えた黒木の前に
一軒の茶屋が見えた。
あそこで一息つこう、と思い、念のため懐を探ってみると。
麻で出来た財布の中にいくらか小銭が入っていた。
この時代の金銭価値はわからないけれども、まあ夢なんだし。
どうにかなるだろうと考えて赤い布の敷かれた腰掛に座り、茶屋娘にお茶と団子を頼む。
しばらくして運ばれてきたお茶に喉を潤し、黒木がふうぅと息を漏らすと。
後ろからなんだか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「かあぁ〜っ! やっぱ団子うめー!!」
「いいからさっさと食べちゃってよ! ご隠居に追い付かなきゃならないんだから」

振り返ると、そこにはもちを喉に詰まらせてむせる峰と、その様子に呆れながらも彼の
背中をトントン叩いてやる清良の姿があった。

「どうせあのエロじいさんのことだから、どっかで女の尻追っかけてるって」

お茶でどうにか詰まったもちを流し込んでから、だからもうちょっとのんびりしてこーぜ、
と言う峰に、やれやれと清良は首を振りながらも。

「……まあ、否定はしないけどね」

ふたり、目を合わせて苦笑うのであった。

そのふたりのやりとりを、半ば呆然と聞いていた黒木の後ろでガシャンと何かが
割れる音がして。
見るとなにやらガラの悪そうな男二人が娘の腕をつかんで言いがかりをつけている。

「おい嬢ちゃん、俺にこんな茶ぁ飲ませやがって! どう落とし前つける気だ?」
「嬢ちゃんが詫びとして身体で払うってンなら、許してやらねぇこともねぇけどよ」

すみません堪忍して下さいと涙目で謝る茶屋の娘を囲んで、その男たちは
ニヤニヤといやらしく笑っていた。

「ちょいと兄さんたち、そういうことはヨソ行ってやんなよ」

怒りにまかせて腰のオーボエを抜こうとした黒木の前に、清良が凛とした面で
立ちはだかる。

「ああ!? なんだ姉ちゃん?」

片方の男が清良の方に向き直り、睨みつける。

「なんだったら、お前が代わりに相手してくれてもいいんだぜ?」

そう言って伸ばしてきた腕を捻り上げて、そのまま大の男を投げ飛ばした。

「この女ァ!!」
「龍っ! もう片方は頼んだわよ!!」

話の展開に追い付けず、オーボエに手をかけたままの姿勢で立ち尽くしていた黒木の
後ろに峰がしがみついた。

「ここは任せたぜ☆」
「って、ええ!?」

見ると男の一人が刀を構えてこちらに切りかかってくる。
黒木はあわててオーボエを抜き、その脳天めがけて振り下ろした。

ポカリ。

軽い音のあと、目をあけるとそこには頭にひよこを回らせて気絶している男の姿。
ほっと胸を撫で下ろして清良の方を見やると、そちらもどうやら片がついたようで。
こちらに向かって手をヒラヒラと振っている。
そういえば、と後ろを見やると、峰は先程男たちにからまれていた茶屋娘の手を取り

「お嬢ちゃん、怪我はないかい?」

とすべて自分の手柄のように振舞っていた。

そこへツカツカとやってきた清良に親指を立てて片目を瞑るも、
その顔面に右ストレートが鮮やかに決まり、はうっ! という声とともに崩れ落ちる。

「い、痛ぇじゃねーか、お清姐さん!」

あんまりだ、と左頬を押さえて涙ぐむ峰を見下ろし、

「痛い、じゃないわよっ! ったくあんたって本当にちゃっかりしてるだけの役立たず
 なんだから!!」

このちゃっかり龍太郎! と峰を足蹴にしてから、清良はくるりと黒木の方に
顔を向けた。

「ごめんなさいねぇ。……でもお侍さん強いわね」

そう言って笑う清良に黒木は妙な可笑しさと懐かしさを感じながらも首を振った。

「い、いや、僕は何もしてないから……」
「あのぅ……」

峰と清良のやりとりに戸惑っていた茶屋の娘がふたりの会話に割って入り、
深々と頭を下げる。

「助けていただいて有難うございました。あの人たちには本当に困っていて……」
「いやいや礼にはおよばねぇよ☆」

あんたは黙ってなさい! 今度は後頭部に蹴りがクリーンヒットする。
とりあえずこの二人は放っておいて、と黒木は自分の疑問を投げかけた。

「キミの言い方だと、この男たちは何度も嫌がらせに来てるみたいだけど」

よかったら話してみてくれないか? そう言って安心するよう娘に微笑みかけた。
先程まで「何事にも巻き込まれないように」と考えていた黒木の気が変わったのは、
R☆Sのメンバーに夢の中とはいえ会えた嬉しさが理由だったのかもしれない。
初めは俯いたまま黙りこくっていた茶屋娘だったが、やがて意を決したように
顔を上げ、黒木に真っ直ぐな視線を向けて頷いた。

「実は……」

最近この町にはこの男たちのようにたちの悪い連中がたむろしていて。
そこいらの店に入っては難癖をつけて金を巻き上げていくという。
困り果てた町人はお役人に訴えたが聞き入れてもらえず。
今では怪我人が出ても奴等の言うなりになるしかない状況らしい。

「どうやらお代官とつながりがあるようなんです」

なんだかほんとに時代劇だなぁ、と黒木が感心しながら頷くと。

「それはほっとけないわね」

峰にマウントで平手打ちを喰らわせていた清良がいつの間にか横に立ち
腕を組んで思案顔をしていた。

「これは早くご隠居と合流しなきゃ……」

ほら龍、さっさと起きて行くわよ、と言う彼女の先にはボロボロになって倒れている
峰の姿があった。
ゲフ……、あ、姐さん非道いっスよ。
半死状態の彼を抱え起こして、心の中でゴメンと謝りながら黒木は二人に尋ねる。

「あの、キミ達の言うご隠居って、もしかして……」

黄金色の帽子を被った、髭のある人? 黒木は以前見た夢に出てきたシュトレーゼマンを
思い浮かべた。

「え? お侍さん知ってるの!?」
「え……と、知ってるというか、この間めぐ、女の子に付きまとってるところに
 居合わせて、その――」

殴ってしまった、と言う前に、それよっ!! と清良の叫びによって遮られた。

「エロジジイに間違いないわ! 悪いけど案内して!!」

がしりと腕を捕まれ有無を言わさぬ話の流れにただあわあわと付いていく形に
なった黒木。
その後ろから「待ってくれよ〜」と団子を抱えて追いかけてくる峰。
彼に向かって「遅い!」と叱咤しながら、前を向いてずんずん歩く清良。
さて、この三人の珍道中はいかに?

それにしても、峰くん。キミはうっかり八兵衛のポジションなんだね。
僕はそんな風に思っていないはずだけど、これは僕の夢なんだし……。
なんだか少し、申し訳ないような。でもちょっと面白いかも。ププッ。






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