くろきんNoelでーと(非エロ)
黒木泰則×野田恵


「ミサすごかったデスね」

教会でリュカの劇の練習を見学した後、黒木とのだめは教会を後にした。

「そうだね。みんな上手だったし、クリスマスの本番が楽しみだね」

リュカのおじいさんの言葉に悩みが吹っ切れた黒木の表情は明るい。
パリの街を並んで歩く二人。

「あー、あれ見てくだサイ!」

のだめが傍らのショーウィンドーを指さす。
ケーキ屋のウィンドーはサンタのディスプレイで飾られていた。
ムキャーとなぞの感嘆符を連発するのだめに苦笑しながら、黒木もショーウィンドーを覗く。
ガラスのショーウィンドーに映る二人は、まるで恋人同士のようで。
黒木の頬が思わず赤くなる。

  僕は、もうそんなんじゃなくて…

心の中で、誰に向かってか言い訳する黒木をよそに、のだめはショーウィンドーに向かって駆けだした。

「ぴぎゃっっ!」
「危ない!!」

石畳につまずいて前につんのめった のだめを、転ぶ直前で黒木が両手で支える。

「だ、大丈夫だった?」

幾分青ざめながらのだめを助け起こす黒木に、のだめは笑顔で礼を言った。

「ふぉぉ。黒木君、ありがとございマス」

真正面からのだめの笑顔を受け止めてしまって、たじろぐ黒木。
いや、とか、あの、とか口を出る言葉は意味をなさない。

思わず目を伏せると、のだめの手をしっかりと握りしめた自分の両手が目に入る。
離さないといけない、と思いつつ、すぐに離すのも失礼な気がして黒木がためらっていると、
のだめは小首をかしげて、黒木を見上げた。

「黒木君? サンタさん、見に行きましょうよ!」

黒木と片手をつないだまま駆け出すのだめ。
つられて走り出しながら、黒木は頬が上気するのを止められなかった。

「クリスマスが近いと街がキレイですね!」

黒木を見上げて、楽しそうにのだめが話し続ける。
なんとなくそのまま手をつないで、ウィンドーショッピングを続ける二人。
黒木もだいぶ落ち着いてのだめと会話ができるようになっていた。

  千秋君ごめん。でも、ちょっとだけなら許されるよね

自分に少し言い訳して、遠くオランダにいる千秋に少し謝ってみる。
のだめとつないだ手は、真冬なのにとても温かかった。

町並みを抜け、セーヌのほとりで、のだめお薦めの焼き栗を食べる。

「11…12…13……」

眉間に皺を寄せて神妙に焼き栗を数えるのだめがかわいくて、黒木はおごると言い出しそびれた。

「いいよ、恵ちゃん。君が多く食べなよ」

のだめの手にひとつ焼き栗を載せると、潤んだ目でのだめが黒木の言葉に感動していた。

「黒木君、いいひとですネ!!」
「…はは…は……」

こんなことでいいひと認定されても、あまり嬉しくない。
ただ、目を輝かせて焼き栗を剥くのだめを見ていると、それでもいいか、という気になってくる。

パリに来て、初めて食べる焼き栗。初めて歩くセーヌ河。

「僕は何にもまわりが見えてなかったんだな…」

温かい栗を手でもてあそびながら、ぼんやりと河に浮かぶ舟を見る。
今朝まで何であんなに青緑な気分だったのか、自分でも信じられない。

「何かあったんですか?」

栗を食べながらのだめが問うと、ぽつぽつと黒木はパリに来てからの出来事を話し始めた。
たまに入れられる相槌は、的を射たものばかりじゃなく、黒木が面食らうほどとんちんかんな相槌の方が多かったが、それでも自分の言葉に耳を傾けてくれる人はパリに来てからのだめが初めてで。
人と話すのがこれほど楽しい事だとは、黒木はそれまで知らなかった。

「…それで、昨日の夜から暖房が壊れて、寒くて眠れなかったんだ」
「ぎゃぼん。この寒さだと凍っちゃいますヨ。それで、直ったんですか?」
「いや、まだ…」

黒木の中にふつふつと今朝の怒りが湧いてくる。

  そうだ。僕はすぐ来いと言ったのに、全然修理に来る気配もない!

武士のような表情になった黒木に、のだめはぱちん、と手を叩いてこう言った。

「黒木君、よかったらウチに泊まりますか?」

虚をつかれた黒木は、とっさに反応できない。

「千秋先輩オランダ行ってるし、ベッド空いてます」
「え…あ……えぇえ?! いや、それはマズイよ」

目を白黒させて手首をちぎれんばかりに振る黒木に、のだめはあっけらかんと答える。

「先輩のベッド、セミダブルだから広いですよ。羽布団に羽根枕だから寝心地もいいんデス」

セミダブル…寝心地……刺激的な単語に、黒木の頭にとめどなく妄想が押し寄せる。

「のだめの部屋は隣だから、一人でも寂しくないですよ。安心デス!」
「え…となり……」

ぴたり、と黒木の動きが止まる。
千秋の部屋に黒木が泊まり、のだめはのだめの部屋で寝る。
黒木がそんなごく当たり前の結論を導き出せたのは、たっぷり5秒後のことだった。

「あぁ、僕が千秋君の部屋に…」
「そうデス!」

にっこり微笑むのだめを前に、黒木は自己嫌悪に陥る。

  こんな純真な恵ちゃん相手に、僕はなんてこと考えたんだ……

「ごめん、遠慮しておくよ」

申し訳なさそうに断る黒木の手を、のだめは引っ張った。

「大丈夫デス!寒いより暖かい方がいいです!
ごはんも一人より二人の方がいいです!!」

その言葉に、はっと気づく黒木。のだめも一人で暮らしているのだ。

  千秋君がいなくて、恵ちゃんも寂しいんだ

「じゃあ、すまないけどお邪魔しようかな」
「今夜はのだめが腕を振るいマス!ひじきと切り干し大根があるので、おにぎりパーティーデス!!!」

意味がよく分からないが、何か和食がでてくるに違いない。
そう言えば、はじめて恵ちゃんと出会ったときもおにぎりを持ってたっけ、と黒木は懐かしく思い出す。

「恵ちゃん、今日はマロニー入ってないよね」

何故か黙って早足になったのだめに、一抹の不安を覚えながら、黒木も足を速めてのだめに並んだ。
手をつないでアパルトマンへ帰る二人は、まるで恋人のようにショーウィンドーに映っていた。






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