江戸のクロキン
黒木泰則×野田恵


えーと、あれ? なんでボクはこんなところにいるんだろう。
それにこの風景、これはまるで太秦の……。

「江戸のクロキン」

さーおや〜、さおだけ〜♪
およそパリに似つかわしくない雰囲気の中、黒木は首をひねった。
そう、ボクは今パリに留学中のハズなのに。
ってそうか、コレは夢なんだな。うん、夢だ。
そうして納得すると、映画村を思わせる町並みも、自分の着流し姿も
なんだか面白く思えてしまう余裕がでてきたので、
黒木はぶらりと一人、町のあちこちを歩いてみることにした。

爽やかな風に勢い良く回る風車に、はしゃぐ子供たちの声。
道端で博打を打ちながら、男たちが燻らせる煙管の煙。
境内に並ぶ店先に並べられた、繊細な細工が施されたかんざし。
それらを物珍しげに眺めていた黒木だったが、いつしかその足は人通りの
少ない、川沿いの道へと向いていたようで。
一本の樹齢を重ねたであろう柳の木にもたれ掛かると、ふうと一息ついた。

そこへ、突然さほど離れていない場所から悲鳴のような声が上がった。
何事かとあわてて声のする方向へ目を向けると、一人の女性がこちらの方に向かって
懸命に走ってくる。

「そ、そこなお侍さま、お助けくだサイ!」

え!? お侍って……。辺りを見回しても、自分しか見当たらず。
まさか、と思っても彼女は明らかに自分に助けを求めている。
しかも、黒木の腰には大小がきちんと下げられていた。
ヒィィ、ど、どうしたら、と混乱する黒木だったが、彼女の後ろに男が追いかけて
きているのを見ると、どうせ夢なんだし、と腹を決めて。
刀を抜くや疾風の如く男のもとへ駆け寄り、相手を一刀で切り伏せた。

「う、うぐっ……、やられタ」

そう呟いて、やけに芝居がかった様子で倒れる男の顔をよく見ると、それは
フランツ・フォン・シュトレーゼマンで。
驚いて自分の手を見るも、そこには刀ではなくオーボエが握られており。
いまさらながら夢であることに安心しつつ、おかしさがこみ上げてきて、笑った。

「あ、あのぅ……」

クスクスと笑い続ける黒木に、助けを求めた女性がおずおずと話しかける。

「助けていただいて、ありがとうゴザイマシタ」

そこでようやくこの女性の顔を見た黒木の笑い声が止まる。

「このご隠居サンは、いつもしつこく付きまとってきて」

……そんな、何故キミがここに?

「さっきも『もっと楽しいコト教えてあげマス〜♪』って抱きつかれて」

恵、ちゃん。

「変なトコに連れ込まれそうになったんデスよー」

黒木の前には、にこやかに微笑むのだめが、いた。

お一つドウゾ、と言われてお猪口を差し出す。
お銚子から注がれる酒の香りはほのかに甘く、黒木の鼻をくすぐる。
助けてもらったお礼にとやや強引に連れてこられた茶屋の座敷で
黒木とのだめは差しつ差されつ酒を酌み交わしていた。

「それにしても、お侍サンお強いデスねぇ〜」

そう言ってしなだれかかる彼女のうなじから香るお白粉の艶っぽさにドギマギしつつ
こ、これは夢なんだから、と必死に自分を取り繕う黒木。
そんな黒木の様子に「んもう、ウブなんですネェ」とのだめはツツと
隣の部屋に続く襖を開け。

ブ――ッと黒木は酒を噴出した。

そこには一組の布団が敷かれており。
ココはいわゆる出会い茶屋というやつなのか、と黒木はあわてふためき。
しかしのだめは彼の腕をがっちりと掴んで離さない。

「女に恥をかかせてはイケマセンヨ」

ウフフと妖艶に笑うのだめに顔を真っ赤にして何も言えない黒木だったが、
そうだ、これは夢なんだからと首をぷるぷると振り。
意を決してのだめの肩にそっと手を置いた。

「そ、それじゃ、あの……恵ちゃ、め、恵さん」
「……恵、って呼んでクダサイ」

それを合図に、二人は布団へなだれこんだ。

(ここからは音声のみでお楽しみください)

「め、恵……って、えぇ!?」

もそもそもそ。

「ギャフー! 怖くないデスから……ネ」
「わぁっ!! ちょ、ちょっとそん……っあ」

ぐりん。

「ウキュッキュー。黒木くんのココ、とっても感じやすいんデスネ」

くちゅくちゅ。ばるんっ。

「そ、そんな、ことはぁっっ! や、やめ……」

くっぷくっぷ。くりくりくり。

「おネエサンが優しく教えてあげマス♪ ハアハア」

しゅぽっしゅぽっ。つるるん。

「こんなっ……で、でも、うっ……、いいっ」
「クスクスクス。今の黒木くんの顔、すごくそそりマス」

ずるるっ。ぐりぐり。

「あっ、も、もうボク……ああぁ〜っっっ!!!」

自分の声で目が覚めた。
な、なんて夢を見てたんだボクは……。
しかも、あろうことかめ、恵ちゃんが、あんな、あんな……。
彼女はあんな変態じゃないし、もっと清楚で可憐なヒトなんだ!
きっと千秋くんの「恵ちゃん変態説」の影響だな。
朝早くから洗濯機をまわしながら、黒木は火照る顔をごまかすように
独り言をブツブツと呟く。

でも……、気持ちよかったなー。

純情に見えてなかなかお年頃の男の子☆な黒木くんなのでした。

合掌。チーン。






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