千秋真一×野田恵
![]() 「ふぃー、お腹いっぱいデス!」 「…あれだけ食ってりゃ当たり前だ…」 もうすっかり日も暮れて、外はすでに真っ暗。 学校が休みだったのだめは、昼をだいぶ過ぎた時間に俺の部屋にやって来た。 サロンコンサートが近くなってきて、のだめは必死に練習に励んでいる…らしい。 学校からの帰りも遅く、電話で話すのは深夜か、話せない日もある。 「頑張ってるんデスよ!」 という言葉ばかりを聞いているが、 実際にのだめのピアノを、俺は最近聴いていない。 何の曲を弾くのかも…。 少々不安も覚えるが、あのリサイタルを思い出せば、きっと大丈夫だと どこか安心なところもあり… 「のだめ、おニューのドレスなんデスよ!ぜひ注目してくださいね、ぎゃはっ」 「注目するのはドレスじゃねぇだろ…」 どんな演奏をするのか、心底楽しみにしている。 「あと、どのくらい?」 「何がデスか?」 「…何時くらいに送っていけばいいのかと思って…」 のだめは最近、俺の部屋に泊まっていかない。 練習に集中したい気持ちはわかるし、引き止めたりはしないけど… のだめは先輩に、「ぎゃぼん」と言わせたいんデス。 コンクルには出られないし、ただの学生ののだめ。 先輩になかなか追いつけないのが、こんなに悔しいんデスよ。 わかってるんデスかね、このかっこいいオトコは。 本当はもっと一緒にいたいし…いっぱい充電したいし、もっと先輩の匂いを吸い込んでいたい! 先輩に…触れていたいけど、ここで我慢しなくては。 のだめも少し成長したんデス。 だから、今日もあとちょっと…。 そんなことを考えて黙り込んでいると、先輩が顔を寄せて覗き込んでくる。 ぎゃぼっ、ち…近いデスよ…。 「も、もうすぐしたら…送ってもらって…いいデスか?」 「…いいよ」 息がかかる距離。 のだめ、今たぶん真っ赤になっちゃってマスね…恥ずかしい。 前みたいにいつでも会えるわけじゃないから、こうして久しぶりに会うと それだけでもドキドキするのに。 また黙り込んでしまったのだめに、先輩がゆっくりと… 「んっ…」 耳まで赤くなっているのだめに、ゆっくりとキスをする。 頬に触れて、一度唇を離し、また角度を変えて唇を重ねる。 なかなか会えないから、会える時くらいは出来る限りそばにいたいし…触れていたい。 でも、今はだめだとわかってる。 この先、ピアニストとして成功していくために、とても大切な経験の場を与えられている彼女を 自分のわがままでこの部屋に引き止めるわけにはいかない。 だから、これだけ。 でも、あと少し… 舌を差し込むと、のだめはそれに応えてくれる。 絡めあっていくうちに、のだめの口から甘い声が漏れ始める。 あと少し…がなかなか止められない。 俺って…情けねぇ。 でも、そろそろだめだ。本当に止まらなくなってしまう… 本当は、もっと…って思った。 もっとキスしていたいし…触れて欲しい。 でも、きっとそうしたら止まらなくなっちゃうし、帰れなくなってしまう…。 先輩も同じこと思ったのかな。 唇を離した後、ぎゅっと抱きしめてくれた。 表情がわからないのが、ちょっと残念デスけど。 「夜とか、体冷やして風邪ひくなよ」 「大丈夫デスよ〜バッチリ暖かくしてマスから」 「ちゃんとメシ食えよ」 「ターニャという素晴しいシェフがいます!」 「…遅くてもいいから、何かあったら電話してこいよ」 「…ハイ」 のだめから電話することはないデス。「もしもし、オレ」が聞けないデスから。 だから先輩、かけてきてくださいネ… 「…充電完了デス!」 物足りないけど、あと少しの我慢。 サロンコンサート、必ず成功してみせマス! ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |