試着
千秋真一×野田恵


昼下がりの三善のアパルトメント。
学生たちは皆学校に行き、静かなひとときの中、千秋は一人、ピアノを弾いていた。

「今日早く終るって言ってたし、そろそろ帰ってくる時間かな・・」

のだめと出会ってから、バタバタと落ち着かない日々を過ごす千秋にとって、
こういう一人の時間はとても貴重で楽しいものではあるが、
その反面、なんだか物足りないと思ってしまうのも事実だった。
千秋がふと時計を見た時、パタパタと階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
しかし、足音はそのまま、隣の部屋に入って行った。

「あれ?珍しいな。」

最近ののだめは千秋の部屋を居住用、自分自身の部屋を物置のように活用していたので
学校帰りには、いつも直接千秋の部屋に来るのが普通になっていた。

「ま、たまにはいいか」

千秋は弾き続けていた曲の世界に、再び入り込むのだった。

「せんぱーい、みてみてー!」

ノックもせずに勢いよくドアを開けて入ってきたのだめに、千秋はいきなり現実に引き戻された。
そして、のだめのあまりに予想外な格好に、千秋は危うく椅子からずり落ちそうになった。

「なんだ、お前、そのカッコ・・」
「ヨーコが送ってくれたんです。新作のはんてん♪どデスかー?」

のだめは、いつものワンピース姿の上に、赤地の麻の葉模様のはんてんを羽織っていた。
その格好があまりにものだめらしくて、千秋は思わず噴出した。

「・・・お前、そういうカッコ、本当に似合うよな。『まんが日本昔ばなし』に出てきそう。」
「え?昔ばなしですか??『浦島太郎』の乙姫様?それともかぐや姫??」
「いや、『舌きりスズメ』の舌切られたスズメ・・・」
「むぎゃ。人じゃないじゃないデスかー!!」
「ハハハ、洗濯ノリを舐めちゃうなんてお前っぽいじゃん。」
「ムキーー!!!」

(でも、ほんと可愛いよな・・)

千秋は心の中でそう思って、そんな自分に赤面した。

「のだめがスズメなら、千秋先輩は、おじいさんデスね」
「はぁ?なんで俺がじいさんなんだよ!」
「・・・いや、どっちかっていうと、いじわるばあさん?」
「おい、けんか売ってんのか?」
「まあ、いいからいいから。先輩もこれ着てくだサイ。」

のだめがそう言いながら「はい」と千秋に紙袋を差し出した。

「え?なに?」

そう言いながら紙袋を受け取り中を確認すると、
そこにはのだめが着ているのと同じ柄の紺地のはんてんが入っていた。

「・・・こ、これって・・・」
「先輩のですよー。のだめとおそろいデス。先輩、絶対似合うと思いますよ。
早く着てみてくだサイ!」
「着るかーーーー!俺は仮装は大嫌いなんだ!!」
「仮装じゃないデスよー。れっきとした日本の民族衣装じゃないデスか。」
「民族衣装って・・・。とにかく、俺はこんなもっさりとした服は嫌いなんだ!」
「ぷぷぷ。先輩ってば、コタツの時もそんな事言ってたくせに、
結局愛用してたじゃないデスか。これだって、着てみれば気に入りますよ。
ぬくぬくのホカホカです〜」

千秋は、初めてのだめが自室にコタツを持ち込んできた日の事を思い出した。
あのコタツ・・・。
あれのせいで俺は危うく人生転落しかけたんだ。同じ過ちは2度と繰り返さないぞ!
千秋は鼻息荒く、「いらねぇよ!俺は絶対に着ないぞ!!」と叫んで、
紙袋ごとはんてんを床に叩きつけた。

のだめは、千秋を寂しそうに見上げながら紙袋を拾い上げ、

「そデスか・・・。先輩が着ないなら、仕方ないデスね。
でも、せっかくヨーコが作ってくれたし・・
あ、黒木君なら着てくれるかな。リュカにはまだちょっと大きめデスね。
そだ!ポールは喜んでくれそうデス。
じゃ、ちょっとのだめは出かけてきます・・・」

と、元気よく部屋を出て行こうとした。

「・・・ちょっと待て・・・(黒木君やポールはともかく、リュカって誰だよ?)」

千秋はのだめの言葉を聞いて、妙に落ち着きがなくなっている自分に気付いた。

「なにそれ、他のヤツに上げるの?」
「だって、先輩着てくれないんじゃ、もったいないじゃないデスか。
ヨーコだって、せっかく作ってくれたんだし、誰かに着てもらわないと・・・」
「・・・・・」

こいつ、解って言ってるのか?
絶句して、その場に立ち尽くす千秋を残し、

「じゃ、ちょっと行ってきます!」

のだめが再び千秋の部屋から出て行こうとしたその瞬間、

「おい、待てよ!」

千秋に紙袋を持っている方の腕を強引に掴まれ、のだめは後ろによろめいた。
そのまま千秋はのだめに後ろから抱きついた。

「お前っ!なんで俺以外の男に渡すなんて言うんだよっ!」
「え、だって、先輩が着ないって言うから・・」
「俺が使わないって言ったら、お前、全部他の男にあげちゃうわけ?」
「先輩、ち、ちょっと待って。何言ってるんデスか?」
「俺以外の男と、おそろいの服着て、お前本当に嬉しいわけ??」
「せんぱい?・・・!」

のだめは、なんとか顔だけで千秋の方を向くと、千秋はその唇を、
すかさず自分の唇で覆い、また更に腕の力を強めた。
はんてんの上から抱きしめるのだめはいつも以上に柔らかくて、
まるでぬいぐるみを抱いているような感触だった。

「・・・俺以外の男にプレゼントなんてするなよ・・・」

唇はかろうじて開放されたが、身体は拘束されたままののだめは
半分気を失ったようにがくんと首を振り下ろし、うつむいたまま、

「プレゼントなんかじゃないデスよ。先輩、考えすぎ・・・」

とつぶやいた。
その後、自分を抱きしめている千秋の腕をギュッと握りながら、

「真一クンは、やきもちやきやさんデスね」

と言いながらふっと笑ったようだった。

(こいつ、もしかしてわざと・・・?)

千秋は、のだめに何もかも見透かされたような気がして、
頭の中で恥ずかしさと苛立たしさが絡まり、何かがはじけたのを感じた。
そして、のだめを引きずりながら後ろに1−2歩下がり、
そのままさっきまで座っていたピアノ椅子に腰掛け、膝の上にのだめを座らせた。

「ギャボ、なんデスか、このかっこ!」
「お前って・・・ほんと酷いヤツだよな」
「えー、のだめが酷いんですか?酷いのは、先輩の方じゃなかですか。
せっかくのおソロいのはんてん、着たくないって言われて、のだめも傷ついたとデスよ」
「おまえさぁ・・・、ほんとに俺があんなの着ると思ったの?」
「だって〜、絶対先輩好きだと思いますヨ。ね、着てみてください、おじいさん!」

のだめは紙袋をぶんぶん振り回した。

「おじいさんじゃないっ!・・・でも、まあ・・・、じゃあ試してみる!」

千秋は紙袋をのだめの手から奪い、それを椅子の脇に放り投げた。
そして、のだめの着ている赤いはんてんの裾を思いっきり上にたくしあげ、
のだめの背中と、着ているはんてんの中に頭を突っ込んだ。

「ちょ・・、先輩、何シテるんデスかーーー!!!」
「だから試着だよっ!」

千秋はそのまま、のだめの両手を後ろに引っ張り、はんてんの袖から抜いて、
その空いた袖口に自分の手を入れて、のだめごと抱きしめ、そのまま首筋にキスをした。

「きゃっ・・」

のだめは突然のことに驚き、千秋から身体を逃がそうと努力したが、
はんてんと千秋に縛られた状態になり、身動きが取れない。
千秋は、ゆっくりと首筋を舐めあげながら、襟口から顔を出し、
そのまま耳元までキスの雨を降らせた。

「せんぱっ・・く、くるし・・・。はんてんの着方、間違って、マス・・・」
「そう?これでいいはずだけど?」

千秋はのだめの耳を軽く噛んでからささやくように言った。

「ほら、二人羽織。はんてんってこうやって使うんじゃないの?」
「そういう使い方も確かにありますけど、・・・なんかちがくないデスか?」
「いいんだよ、ほら・・」

千秋は、長い間のだめを拘束してた、その2本の腕を、今度はピアノに伸ばした。

〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

「ふおぉぉぉ!もじゃもじゃ!!」
「な、お前が弾いてるみたいだろ」
「先輩凄いです。っていうか、この曲弾けたんですね。」
「・・・。お前がよく弾いてるからイヤでも耳に入ってくるんだよ!」
「でも、先輩、二人羽織って、後ろの人は顔出しちゃダメでしょー」
「細かい事言うな。」
「じゃあ、このまま組曲12曲全部おねがいしマス。のだめが歌いますから」
「調子に乗るなーーーー!」

俺がやりたかったのはそんなんじゃないんだよっ!
千秋はピアノを弾くのをやめ、突然のだめの胸を鷲掴みにした。

「ぎゃぼ!突然なにするんデスかー!」

のだめは反射的に千秋から逃げようとしたが、無駄な努力だった。

「せ、先輩、なんか、手元がミルヒーそっくり・・・」
「ちょっと黙ってろ」

片手でのだめを胸を揉みながら、もう片方の手で、
ワンピースの胸の下のボタンを1つだけはずし、
千秋はすばやくその中に手を滑り込ませた。
その手は器用にブラジャーの中にまで潜り込み、柔らかなふくらみを直接掴んだ。

「やっ、せんぱ・・・やめ・・・」
「やだ、やめない。」

二人羽織のせいで、二人とも身動きが取りにくい。
のだめは後ろに回された手を動かす事が出来ず、ただ、千秋のシャツを握り締めるしかできない。
千秋はのだめの耳をそっと噛んで、

「ねえ、俺が居ない時、こうやって一人でシたりするの?」

と囁いた。

「し、してまセン・・・あぁ・・っ」

千秋の指が既に充分に硬くなった突起をつまむと、のだめの身体がビクンと跳ねた。

「うそつけ。お前、今、目をそらしたじゃん」
「そ、そらしたんじゃないデスよ。目、開けて、らんない・・・はぅっ」

千秋のもう1つの手が、ワンピースの上から、のだめの中心をつつくと
のだめの息はさらに荒くなった。
そんなのだめが愛しくて、千秋はそのままもっと苛めたくなる。
今のこの状態、のだめは完全に俺の手中にある。
もっと好きなようにしたい、もっと縛りたい、もっとめちゃくちゃにしたい・・

「のだめ、・・・ベッド行こう?」

そんな千秋の要求に、普段なら素直に応じるのだめが今日に限っては首を横に振った。

「だ、ダメですヨ、のだめ・・約束が・・」
「え?約束?」

予想外の返事に千秋の手が止まったその瞬間、「バタン」とドアが開く音が響いた。

「ちょっとー、のだめ、いつまで待たせるのよ!!・・・ってあんたたちなにしてんの?」
「あへー、ターニャ・・・。これはですねー、『二人羽織』と言って、日本の伝統芸能なんですよ」
「はぁ?何それ?」
「だから、こうして、ほら、この袖から出てるのが先輩の手なんですけど、
こうやって、この手でソバとか食べたり・・・」
「へー、とにかく早くでかけましょうよ。フランクも待ちくたびれてるわよ」
「ターニャ、お前、そのかっこ・・・」

放心状態だった千秋が我に帰って改めてターニャを見ると、なんと、ターニャもはんてんを着ている。

「どう?似合う?のだめにもらったのよ。キモノって初めて着たわ。」
「いや、それ、着物じゃないし・・」
「フランクもね、大はしゃぎよー。で、これからみんなでこの格好でパリの街を練り歩くの!
千秋も行きましょうよ。似合ってるじゃない。」
「いや、俺は・・・勉強があるから・・・ってえ?似合ってる?」

のだめは、千秋の膝の上からぴょこんと立ち上がって、千秋を振り向いた

「ほんとだ。やっぱり似合いますよ、千秋先輩。」

のだめが膝から降りると、ちょうど千秋が赤いはんてんを着ているだけの状態になったのだ。

「先輩って赤も似合うんですね。意外でした。きゃは。やっぱりいじわるばあさん・・・」
「誰がばあさんだ!」

千秋は急いでそれを脱ぎ、のだめに向かって投げつけた。

「ぎゃぼ!」
「行くなら早く行け。お、俺は本当に勉強があるから。」
「そデスかー。せっかく4人でパリジャンの心を鷲掴みにしようと思ったのに」
「・・・」
「じゃ、ちょっと行ってきまーす。夕飯には戻りますから、
美味しい洗濯ノリ用意しておいてくださいね。」

のだめははんてんを羽織り、「チュンチュン」と口を尖らせながら言ってから
ターニャと逃げるように出て行った。

「くそ!ばかのだめ!!」

部屋に一人になった千秋は、足元にあった紙袋を思いっきり蹴飛ばした。

「人がせっかく・・・ハックシュン!」

はんてんも脱ぎ、のだめも抱いてない自分の身体が、とても冷え切っている事に千秋は気付いた。
とぼとぼと先ほど蹴飛ばした紙袋を取りに行き、その中から紺のはんてんを取り出し、
黙ってそれを羽織った。誰も見てないのに顔が赤くなるのを感じた。

「あいつ・・・帰ったら、捕まえて舌引っこ抜いてやる、覚悟しとけよ・・・」






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