LOVE2000
千秋真一×野田恵


事務所でテオとオーディションの打ち合わせをしながら何気なく時計を見た。
時間は14時。
そろそろ、あいつの出番かな…。

1週間前、あの噂のヤキトリオが俺を訪ねてきた。
3人の曲の解釈に対して意見がまとまらないから、俺に聞いて欲しかった、
と黒木君は言ったが、実際のだめのアイデアが採用されて、俺の出番は全く無かったんだけど。
試験曲のプーランクを眼前で完成させてて、その試行錯誤の末のハイテンポな仕上がりは、あのユニークなメロディにはしっかりマッチしたもので
俺は少なからず聞いてて興奮したし、うん、なにより楽しい仕上がりになっていた。
だが、実際評価するのは、音楽の指導員、コンヴァトの教員であって、俺じゃない。
それに、あの3人がその後しっかりチームワークを発揮させて、万全で試験に臨めたかどうか…。
当日を迎えて、なぜか俺の方が緊張してる。
一般公開を見に行きたい気持ちもあったけど、こっちはこっちで、新団員の公募先を雑誌社と
話し合わなければいけないし、なによりテオは、俺が事務作業を手伝うことに味を占めたのか
当たり前のように俺にも仕事を分担するようになっている。
まぁ、コンクールってわけでも無いし、失敗すれば成績が下がるだけのこと。
あんま心配するのも過保護な気がしないでも無いけど。

そう考えて、微かに笑うと、すかさずテオが突っ込んできた。

「あー、チアキ、なに笑ってるの?原稿のリライト終わった?ちゃんと数字は半角にしてよね」

……なんで、こいつ手伝ってもらってるのに、こんな偉そうなんだ?
しかも、相変わらず変なTシャツ着やがって…。(鮭の溯上の劇画調プリント)
思わずため息を吐いてテオを睨んでも、不思議そうな顔をされるだけだった。

再び机に向かってキーボードを叩くと、携帯が鳴った。
のだめ…にしては早すぎるな。
第一あいつから電話なんて……よっぽどじゃなきゃ掛けてこねーし。

そう思って液晶を見ると、見慣れない番号。

「allo?」

とりあえず電話に出て、相手を確認しようとした。
が、しかし、その相手は思いがけない人物だった。

ヤキトリオ
これで解散
もうたくさん  

「ふ〜っ、緊張しまシタねー!」
「うん、でも、かなり上手く演奏出来たじゃない?
正直ほっとした。先生たちも、ちゃんと拍手してくれたし…」
「ノーン!クロキ、34小節目の入りがズレてたよ!」
「すぐノンって言うな!!あそこはリハで確認したら、ポールが少しゆっくりめでって…!」

くそぉ、ポールの奴、直前のリハで打ち合わせたこと、なんでいきなり無かったことにしてるんだ?
こいつのこういういい加減なとこ、日本人の僕には全く理解できない!

「まぁまぁ、試験は終わったんだし、もういいじゃないでスカぁ
それより、あっちで待ってるの、ポールのお家の人デスか?」

僕らをなだめながらそう言う恵ちゃんの視線を追うと、
さっきステージ上から見た、多分…っていうか絶対ポールの家族と思われる3人が、
ベンチに腰掛けていて、僕らが歩いて行くのに気付くと、立ち上がって駆け寄ってきた。

「あれ?のだめ、なんで分かった?」

そう言って彼らに近づいていくと、順番に抱き合い、称賛の声を一身に浴びているポール。
正直、どれが本物のポールだか分からない…。

「なんか…すごいね(色んな意味で)」
「そ、そうデスね、勢いがありマスね…」

その光景を見て呆気に取られている僕らの元にも一家はやってきて、ポール同様に
惜しみない賛辞を贈ってくれた。
それを受けて、初めて3人とも試験が終わったこと、しかも大成功に演奏が終わったことを
実感出来て、満面の笑みになったんだ。

帰り支度を終えて再び恵ちゃんとポールと噴水の前で合流したけど、
…なぜかポールは一人で歩いてきた。

「ポール、お家の人いいんデスか?」

一人でやってきたポールを不思議に思ったのだろう、恵ちゃんが声を掛ける。

「うん、今日はこのまま、3人でディナーするからって言ったら残念そうにしてたけど、
弟が、欲しいニンテンドーがあるからって、そのまま買い物に行ったよ」
「ニンテンドー…って?」

訝しそうに尋ねる僕に、ポールが不思議そうな視線で返してきた。

「ニンテンドーはニンテンドーだよ。って、元々日本の物デショ?」
「スーパーファミコンのことデスよ」

こっそり恵ちゃんが耳打ちしてくれたけど、スーファミがニンテンドー?
ウィンドウズをマイクロソフトって呼ぶようなもんだろ!?
思わず抗議の声を上げようとしたが、ポールはすかさず恵ちゃんに、ほ、頬ずりをしてて…!

「やっぱりのだめは分かってるネ〜」

…って、恵ちゃんも、えへへ、なんて笑ってる場合か?

「ちょ、もうヤキトリオは解散なんだから、そんな馴れ馴れしく…!
大体、いつディナー行くって決まったの!?」

思わず口調が荒くなってしまった…。
二人とも、冷めた目で僕を見ている…!
うぅ、なんで僕がいつもいつも悪者になるんだ!?

「分かったよ、ごめん……」

こういう、相手の空気を読めなくて、嫌な思いをさせちゃうのは良くないって
管理人さんとのやり取りで勉強済みだし
第一、僕の留学の課題の一つは、社交性を身に付けることから始めなきゃって
こないだのノエルで学んだばかりだし…。
不本意ながら謝ると、二人ともパッと笑顔になった。

まぁいっか、これでポールとも最後だし…。(決め付け)
それに、せっかく最高の演奏が出来たんだからつまらないこと考えるより
お互いを慰労し合うべきだよな…!!

「それじゃあ、どこに行きマスか?」

見上げる恵ちゃん。
どこって言われても、多分ポールのがパリには詳しいしなぁ。
そう思って彼に視線を送ると、なぜかニヤリと笑っている…ように見えた。

「じゃあさ、クラブ行かない?今日、リファニでイベントがあるんだけど。DJ.ブラッドも来るんだよね」

ポールがそう言うと、恵ちゃんの目が急に輝き始めた。

「むっきゃーーー!行きたいデス!のだめクラブって行ったこと無いデスよ!!」
「あれ?のだめ行ったこと無いの?じゃあきっと楽しいよ?音楽はクラシックのみにあらず!
テクノもトランスもハウスも、音を楽しむ音楽だ!ちなみにダンスも芸術だからね!」

そう言って、ハイテンションで意気投合する二人を前に、僕は戸惑っていた。
クラブって、派手な格好して、皆で大騒ぎして踊りまくる…。
僕には全く縁が無いけど、テレビで明滅する照明の下、大勢で踊ってる映像をテレビで見たことがある。
その時は、なにこいつら…って呆れたけど、そこにこの3人で行くの?
音楽院在学中の僕らが?本気かポール!

「ちょっと!そんなとこ行けるわけないでしょ!」

僕が言うと、またさっきと同じ冷めた視線…。もう、もう嫌だ…。

「黒木君…行かないデスか…?じゃあ、ポールやっぱり…」

恵ちゃんがポールの顔色をしょんぼりと伺うと、ポールは彼女の手をぐいっと引っ張った。

「じゃあ、のだめ、二人で行こうか?」

だぁーーーーーーーーーーーー!!

僕は…千秋君のことが大好きだし、尊敬してる。
だから、その恋人である恵ちゃんに対して、もう邪な気持ちなんて持っていないし
今は室内楽でトリオを組んでた同志、しかも同じ日本人留学生だから、仲間意識しか持ってない。
…でも、千秋君がいない間、恵ちゃんを守るっていう気持ちだけは持ってるんだ。
別に千秋君に恵ちゃんのことを頼まれたわけではないけど、でも、もし恵ちゃんに何かあったら
僕は千秋君に顔向けできないような、変だけど、そんな責任感があるんだ…!
そんな、クラブなんて怪しそうなところ、しかもポールと二人なんて絶対行かせられない!
「いや…ぼ、僕も…行くよ…」
結局、渋々であるが、ポールの提案に従うしかなかったのであった。
むっきゃー!と奇声を上げている恵ちゃんを見ながら、僕はため息しか出てこなかった。

恵ちゃんの家に一旦荷物を置きに行くことになって、螺旋階段を上がっていると
階上から、化粧の濃い女の子が下りてきて、恵ちゃんに声を掛けた。

「ノダメ!おかえり、今日の試験どうだった?」
「はう〜!大成功デス!トレビアンは頂きデスよ!」

いしし、と笑っている恵ちゃんに、その女の子は、良かったわね〜と返しながら僕らに視線を向けた。
それに気付いた恵ちゃんは、慌てて僕らを紹介してくれて、ついでに今からの予定を話すと
彼女は興味津々で食いついてきた。

「え〜!ブラッド来るの!?あたしも行くわよ絶対!」

なんて言って興奮している。

ターニャ…ちゃんだったっけ。なんかどっかで見た気もするけど…。
まぁ、彼女はそういうとこにいてもあんまり違和感無さそうな感じだよな…。
そう考えながら、僕はさっきから気になってることを恵ちゃんに聞いてみた。

「それより恵ちゃん、千秋君はいいの?ていうか、今留守?声掛けてった方がいいんじゃない?」

すると、恵ちゃんは急にひょっとこ口になった。

「先輩最近忙しいみたいで、朝帰り多いんデスよ…。今日もお仕事だし。夫婦の危機デス!
だから、夕食も作ってないから大丈夫デスよ!」

拗ねたような顔で言っている。

いや、そういうことじゃなくて…。
突っ込もうかと思ったけどやめておいた。
千秋君はご飯係か…。
呆れつつも、この間の手際のいい蕎麦の支度を思い出して、こっそり吹き出した。

ポールの提案で、イタリアンレストランで夕食を取ってから行くことにした。
やっぱり地元の人間だけあって美味しいお店を知ってるなぁなんて感心しつつワインがどんどん進む。
僕も酒は弱い方では無いけど、3人のペースには正直負けている。
ターニャちゃんはウォッカの国ロシア出身だし、ポールは5歳からワインを飲んでたらしい。
恵ちゃんは…多分千秋君の教育の成果だろうな。
ボトル4本目なのに、潰れるどころか、ますますみんなハイテンションだ。
僕も、試験から解放されたのも手伝って、なんだか愉快な気持ちになってきた。
ポールの下らない駄洒落が笑えて仕方無い。

「フランスではイカのことを“アシジュポーン”って言うんだ!」

なんて…くそっ、笑ったら負けなのに…!

結局9時頃までそこで飲んで、すっかり出来上がった後リファニに移動した。
僕は知らないけど、DJ.ブラッドって人は、その道では知らない人がいないほど有名で
今日のイベントはノンチケで入れるとあって、僕らが着いた時にはすごい人だった。
人もすごいけど、それ以上に音が大きすぎて…!入り口に立っているだけなのに、頭がガンガンしてきた。
正直言って、こんな音楽美しくない!でも…
隣を見ると、恵ちゃんは初めて見る光景に大興奮の様子でキョロキョロしている。
ポールに促されて、とりあえずドリンクを取りに行くと恵ちゃんとポールはそのままホールの方に踊りに行ってしまった。
ターニャちゃんは、さっき飲んだワインが今頃効いてきたのか僕が座るソファの隣に一緒に腰掛けた。

「もーー!来るのが遅すぎたわ!ブラッドはもう1回目を回し終えて、次は1時からだって!」

なんて、少し機嫌が悪そうにしている。
僕はとりあえず来てはみたものの、なんだか浮いてる気がしないでもないから
とりあえずここで時間を潰そうと思っていたから、こうして隣に座ってくれて、少しホッとしていた。

「ターニャちゃんも…コンヴァトの学生なんだよね、楽器は?」
「え?聞こえない!」

…もういいや…。静かに会話を出来る雰囲気でもないし…。
そう思って、何でもない!と言うと、微かにC'est glauqueと聞こえた気がしたけど…。
僕も急にお酒が回ってきたみたいで、疲れもあって目を閉じると、大音量がダイレクトに耳に
響いてきて、不快なのもあるけど、それ以上になんか意識がどっかに吸い込まれていくような…。
みんなが馬鹿みたいに踊ってるのもなんとなく分かるような気がする。

あぁ、そう言えば、恵ちゃん大丈夫かな…
あんな人ごみで、ポールとはぐれてなきゃいいけど…
でも、もう、なんだか頭が真っ白になってきた…

初めて来るクラブ。
お店に入った途端に、耳をつんざく程の大音量で、鼓膜が破れそう!
ポールは慣れた足つきで、とっととカウンターの方に行くと、のだめは何を飲む?って
聞いてくれたから、本当はもうお酒はたくさんだったけど、とりあえずポールに任せた。
黒木君は雰囲気に呑まれたみたいで、ブラッドって人がいなくてがっかりしてるターニャと一緒に
少し離れたボックスの方に歩いていった。

改めて回りを見渡すと、人が多いのももちろんだけど、とにかく皆さん過激な格好ばっかしてて
ろ、露出が高すぎデス!
のだめ、こんなワンピで来ちゃったけど、なんか場違い?
ポールの方を見ると、もうエキサイトしてるのか、頼んだお酒を一気に飲むと
踊りに行こうよ!って腕を引っ張ってくるから。
のだめもさっきのワインで頭がふらふらしてるから、そのままポールと一緒に行くことにした。
それに…えへへ…なんだかすっごく楽しそう!

人ごみを掻き分けて前の方へ行くと、ますます音がガンガンしてきて
はう〜
こんな変則リズムなのに、体が動いちゃうのはなんでデスかね〜
ポールの真似して踊ってると、ますますお酒が回ってきて、ほわ〜、すっごく楽しい気分になってきて。

ほわぁ
し、知らない人が、なんか、距離近すぎデスよ
もきゃーーーー!

電話の相手は、松田さんだった。
この間、なぜかしつこく絡んできたのを断ってからは音沙汰が無かったから
ほっとしてたのに、どうやらまだ諦めてなかったらしい。
以前俺がのだめと喧嘩した日に、のだめと会ってたって言うんだけど
本人に聞いたら、電車の中で一緒になって少し話しただけって、
別に隠すでもなく正直に話してくれたから、別に浮気とか密会だとは思ってない。
なのに、松田さん一人だけが、まるで秘め事でもあるかのように勝手に盛り上がってて…。
もったいつけるように、のだめとの事を匂わせてくるんだけど
正直俺ものだめも呆れて相手にしていなかった。

なのに、またしつこく電話してきて…。

実際、松田さんは俺の先輩だし、誘われれば断ることも出来なくて
こうして夕食の誘いに乗ってるわけだけど。
俺は、忙しいんだよ!
もし、また下らないことで絡んできたら、今日こそはガツンと言わなきゃな…。
まぁどうせ、うまく丸めこまれるんだろうけど。

待ち合わせの店で、ビールを飲みながら、これから数時間の苦難を考えて溜息が出た。

約束の時間から10分ほど遅れて松田さんがやって来た。

席に着くなり足を組んでタバコを吸い始めてニヤニヤしている。
ていうか、謝れよ!
おまけに彼が着ている服は、最初に家に来た時に借りていったままの俺の服だし!

意図せずコメカミがピクピクしてしまった…が、もういいや。
この人はこういう人だし…。
そんなことより、用だけ済ませて早く帰りたい。

「わざわざ呼び出して、なんなんですか」

俺が言うと、まぁまぁ落ち着いて、とウエイターを捕まえてメニューを持ってこさせた。

「今度のオーディションのことなんだけど…」

のだめのことを言われるかと思ったのに、彼が切り出したのは、純粋に音楽のことだったから
俺は拍子抜けした。

「知ってるんですか?団員が足りなくて…。ちょこちょこ声は掛けているんですけど。
今なんてトラが多くてガタガタだし。全体的にレベルアップさせたいんですよね」

俺が言うと、彼はうんうんと頷きながら、自分がR管の常任だった時の苦労話をしてくれた。
それは、新任指揮者の俺には十二分に興味深いものだった。

なんだ、最初はみんな苦労してるんだよな…!
しかも、松田さん、今日は嫌味なことも言わずに、純粋に俺の話に共感してくれて
なんだか、親身にアドバイスまでしてくれて…。
やばい、めちゃめちゃ嬉しい…。
実力もある人だし、やっぱりまともな人なんだよな…!

少し感動もしつつ、夕食を一緒に取りながら、俺はもっとこの人と話していたいと思っていた。

千秋君を呼び出して、やっと第一関門突破だな…。
美容院でカットしてもらいながら、俺は鏡越しに見る自分の顔が満面の笑顔なのに気付いて慌てて顔を引き締めた。

電話越しの相手は、僕だと分かると、少し、いや、かなり不愉快そうだった。
けど、今日のミッションは絶対失敗出来ない。
僕は来週にはR☆Sを振りに日本に帰らなければいけないから
こうしてパリにいられる時間はもう…無い。

この間のだめちゃんに会ってからこっち、
もう印象なんて大分薄れてるはずなのに、なぜか執着心だけ膨れ上がって…。
冷静に考えればそれが子供っぽい感情で、決して彼女に恋してるわけじゃないって分かるのに。
ただ、人の物は良く見えるだけなんだけど。
ましてやあの千秋“様”の彼女。
僕が知らないすごい魅力があるんじゃないかと考えるだけで、興味が沸いて仕方無い。

なんとしてものだめちゃんにコンタクトを取りたいと頑張ってるんだけど
少し今日は作戦を変えることにした。

美容院を出ると、約束の時間に少し遅れてしまいそうだった…けどとりあえず急ごう。
あー、いきなりムカつかせちゃうかな?まぁいっか。

店に入ると、当然彼は先に来ていて、少しイライラしてるみたいだった。
謝ろうと思ったけど、席に着いて彼の顔を見ていると
ここまで必死になっている自分が可笑しくなってきたのと
これからの作戦の確認をしている内に、顔がニヤケてきてしまった。

とりあえず、美味しいディナーとワインを。
それに、この間聞いたマルレ情報。新団員を募集しているって…。
俺が切り出すと、案の上、千秋君は食いついてきたから
俺がR管に入った当初の苦労話をすると、目をキラキラさせて食い入るように聞いている。
まぁその苦労話も半分嘘なんだけどね。

話している内に、千秋君と僕との音楽性の相違なんかも、少し興奮して話してしまった。
いけないいけない、今日の目的はのだめちゃんだった。
そろそろ彼の警戒心も溶けてきたかな…?

表情を窺うと、もう俺を信じきっている目だった。こうして見ると、可愛い後輩に見えてきたなぁ。
正直言って、今から彼の信頼を裏切ると思うと、かなり心苦しくなってきた。
やめるか?

自分に聞いてみたが、答えはNOだった。
残された時間は少ないし、本当に申し訳ないとは思うんだけど
目的は遂行させてもらうね?
この間、俺に“デブ”って言ったこと、忘れたわけじゃあないんだよ?

頃合を見て、千秋君に切り出した。

「そろそろ店変えようか?ていうか、俺の知り合いがやってるクラブがあるんだけど
千秋君、そういう喧しいとこ、好きじゃないかな?」

嘘じゃない。
知り合いがやってるクラブリファ二は、有名なDJを呼んだりして今若者の間で噂になっている。
僕はああいう下品な場所は好きでは無いんだけど、今日の目的は、彼を潰してそこに置き去りにすることだった。

実は、ヒップホップ系のダンスイベントをやっていながら
その実ある一角ではゲイ達が集まって、つまり、お洒落なハッテン場の役割を兼ねているのだった。

僕って、鬼畜かなぁとも思ったけど、まぁ少しでものだめちゃんと話す時間が欲しいだけなんだ。
鍵を借りたら(奪ったら)、そのまま彼女の家に向かうつもりだった。

返事を待っていると、少し考えたようだったけど、快く応じてくれた。

「俺、あんまそういうの興味無いんですけど…まぁ行ってみるだけなら…」

ってね。よし、第二関門突破だな。
僕がガッツポーズをしたのを見て、千秋君が少し怪しい目で見てきたので、慌てて姿勢を正した。

クラブってあのクラブだよな。
日本にいる時、彩子に誘われて数回行ったことがあるけど
俺はああいった場所は大嫌いだった。
彩子が踊ってる間も、一人で酒を飲んでることが多かったし
第一音楽を志すものが、こんな下品な機械音をだまって聞いていられるものなのか?と
いつも疑問に思っていた。

それでも、こうして松田さんに誘われると、さっきまでのいい気分も手伝って、
行ってみようかなという気分になってきた。
なにより、松田さんの知り合いなんだから、まともなクリエイターなのかもしれないし。
ジャンルに拘らず、なにか勉強になるかもな、なんて考えてとりあえず了承した。
松田さん…?
影でガッツポーズしたように見えたけど…き、気のせいだよな!

あー、とりあえずのだめに電話しておかなきゃな。
松田さんに断ってコールしてみても、のだめは電話に出なかった。
ったく、あいつ、何やってんだ?
念のため、自分の部屋にも電話してみたけど、やっぱり出ない。
まぁ最近俺も徹夜が多いから、飯なんて期待してないよな…。

その間に松田さんはタクシーを捕まえていた様子だったから、
彼に促されるまま乗り込んだ。

リファニに着くと、なるほど、松田さんの言う通り、結構人気があるみたいだな。
若い奴らが大勢集まってて、みんなかなりハイテンションで弾けてる。
まぁ俺には関係ないけど。
松田さんがビップルームがあると案内してくれた場所に入ってドアを閉めると
ホールの大音量が大分遮断された、落ち着いたバーの作りになっていて安心した。
ここで、さっきの松田さんの話をもう少し聞けるんだな。

カウンターに座ると、松田さんが、スピリタスを2つ頼んだ。
スピリタスって、あの火が点くほどアルコール度数の高い…

「あの、俺、もう酒はいいんで…」

俺が言うと、松田さんの目が一気に鋭くなった。

「いいから、今日は飲んだ方がいい日だよ!」

はぁ?意味わかんねー…。
まぁいいか…。
口を付けると、うぇ、やっぱキツイ…。
隣を見ると、松田さんは同じ酒を一気に飲み干していた。
くそ〜、負けてられるか!…って、俺ももう酔ってきてるのかな。
同じように一気に飲み干すと、食道を熱湯が通り抜けていったようだった…。

よし、第3関門突破だな。
隣でカウンターに突っ伏している千秋君を横目に、3度目のガッツポーズ。
後はポケットから鍵を抜いて…よしよしあった。

でも、………これって……思い切り犯罪だなぁ。

僕はずっと水飲んでたから、全く酔ってないんだけど
素で考えると、ちょっと鬼畜すぎる気がしないでもない…。

取り出した鍵束を見付けて溜息を吐くと、さっきと同じように
千秋君のポケットにそれを戻した。
流石に、ちょっと僕も大人気なかったね。
寝顔を見ていると、ふいに彼がうわ言を言い始めた。

「うぅ、のだ…のだめぇ」

彼が口にするのは、愛する彼女の名前…か。
ちくしょー純愛してるんだな、千秋君。
正直、そういう若々しさが羨ましい気もするけど。
まぁ、僕には今更打算抜きで恋愛なんて出来ないからなぁ。

千秋君の酔いが冷めるのを待って、もう帰ろう。

そう考えて、トイレに行こうと立ち上がった。
また、千秋君ちでトイレに行くとトラブルになるからね。

そのままドアを開けて、ホールの喧騒の方に向かった僕は、
周りのゲイ達の好奇の視線に全く気がつかなかった。

あれ?少しホワイトアウトしてたのかな。
相変わらず回りはうるさいけど、慣れてくるとむしろ無音に感じるのは結構不思議かも。
体を起こすと、隣のターニャちゃんはとろんとした目でさっきと同じ姿勢でホールの方を眺めていた。

「あれ…?どれくらい時間経ったっけ?」

僕が聞くと、彼女は5分くらいよ、とだけ言った。
そっか、まだそれだけしか経ってないんだ。
まだ少し頭がぼーっとしている。きっと慣れない大音量を聞いたせいだな。
とりあえずトイレに行こう。
ターニャちゃんにそう告げて、僕は立ち上がった。

排尿を済ませて手を洗うと、少し頭がスッキリしてきた。
鏡に映る自分の顔は、真っ赤だし、瞳孔が開いてなんだか自分の顔じゃないみたいだ。
このままここにいても仕方ないし、3人には悪いけど、もう帰ろうかな。
そう考えてトイレを出ようとした時、丁度入ってくる人とタイミングがあった。

「paldon」

そう言って相手を中に通して出て行こうとしたが、その相手は…

「ま、松田さん!?」

なんでここに…
僕の知る限り、こういうとこに来そうな人では……あるな。
音楽には真摯でも、結構遊び人だもの、松田さん。

「あれ?確か黒木君…だよね。どしたの、こんなとこで。奇遇だね。」
「いえ、友人に誘われて…。」
「友人って、学校の?確かコンヴァトだったよね、留学先」
「ええ、試験の打ち上げです。って言っても僕はもう帰るとこですけど」

僕が苦笑いすると、松田さんも愛想笑いを一瞬浮かべたけど、すぐに何か考え込んだように黙った。

「あの…」

声を掛けると、急に満面の笑顔になって、僕の両肩を?んできた。

「そっか、何人で来てるの?」
「えっと4人ですけど、…なにか?」
「女子はいるのかな?」

…一気に脱力した。この人はこういう人だった!

「いえ、いません」

そう言って、彼の手を振り解こうとした……あれ?ちょ、ちょっと離してくれ!

「女子、紹介してくれるよね?」

目が笑ってないよ!
はぁ…。多分抵抗しても無駄な気がする…。
とりあえず、ターニャちゃんのところに戻ろう…。

あれ…?俺、少し寝てたのかな…。
ここ、さっきの店だよな…。うぇ、気持ちわり…。久しぶりに吐きそうかも…。

顔を上げて、隣に座っている松田さんの服の裾を思わずつかんだ。

「あの、松田さん…俺、なんか気分悪くて…」
「大丈夫?」
「いえ、ちょっと水かなんかもらえますか…?」

そう言って顔を上げると…。

……?ここ、さっきの店だよな?辺りを一回見回してみた。うん、来た時と同じだ。
再度隣の席に座っている男を見る。
どう見ても松田氏ではない、イスラム系の大男が座っていた。

意味わかんね…。
とりあえず財布を確認…ちゃんとあるみたいだし。何なんだこれ…?

松田さん…帰ったのか?時計を見ても、そう長い時間は経っていない。
とりあえず、タバコに火を点けて、さりげなく隣の男を横目で見ると…すげー見てるんスけど…。
勘弁してくれ…。

「あの、何か…?」

俺が恐る恐る聞くと、その男は、椅子を近づけてきた。

「こういうとこは初めてかい?」

な、何なんだこいつ…こういうとこって、そりゃ来るのは初めてだけど…

「や、初めて…ですけど?」
「そうか、どうする?」

はぁ!?何をどうするんだ?

「どうって…何が…?」
「ここか、個室か、外?」

そこまで聞くと、流石に酔っている頭でも状況が分かって。
改めて見回すと、明らかにそれっぽい男たちが大勢…それぞれペアを組んで睦みあっている光景が見えた。

はぁ…。俺、あの人に嵌められたのか?
怒りと共に、裏切られたような悲しい気持ちがあったのも事実だった。
頭が痛くなってきた。もう、とっとと帰ろう。

「俺、そういうんじゃないんで」

それだけ言うと、ウエイターを呼んで水を頼もうと手を上げた…がその手を隣の奴につかまれて…

「…っなせよ!!」

つい大声を出してしまった。

相手はびっくりしているみたいだった。
そりゃそうだよな…元々そういう場所だったら、理由はともかく誤解されてもおかしくないんだから。
謝ろうとして、相手に向き合ったら、なぜか笑顔だった。

「緊張してるのかい?大丈夫!いい物があるんだ!」

そう言って彼がポケットから出したものは、パッキングされたスポイトに入った液体。
待て待て待て待て!ドラッグだろ、それ!?

俺が聞くと、違うよ〜、と更にポケットから何かの紙を取り出した。
それは、見慣れた日本語の広告。あの、よくジャンプの裏とかにあるようなうさんくさい広告。
“これで彼女をメロメロに!”“飲むフェロモン日本発!”とか書かれていた。

「わざわざ高品質な日本製を輸入したんだ!」

なんて、相手は何故か得意げだった。

はぁ…。とりあえず水を飲んで落ち着こう。
そう思ってグラスを手にすると、男はそこに“フェロモン”を注入しようとした。

「おい!何やってんだよ!」

思わずそれを奪い取って、男の肩を押すと、体の割りに簡単によろけて椅子から落ちそうになっていたから
その隙に、店を出ることにした。カウンターに100ユーロを叩きつけると、俺は絶対に振り向かなかった。

僕は、ある種の確信を持ったまま、黒木君に付いて歩いていた。
理由として、黒木君が日本人で、千秋君と友達であること。
それに、コンヴァトの学生だということの2つ。
もしかして、君が連れている女子って、のだめちゃんじゃないのかい!?

だけど、実際紹介された子は、化粧の濃いロシア人のティーネイジャーだった。
おい、黒木!
僕は怒鳴りたい気持ちで黒木を睨んだ。

そうだよな…。そんな上手い話、あるわけないよなぁ。
ターニャの相手をしつつ、半ば諦めた気持ちで、残りの2人のことを聞いた。
その途端…黒木君が何かを感づいたような、しまった、という顔をしたのを見逃さなかった。
こいつ、僕がのだめちゃんのことを狙ってるのを、千秋君から聞いてるんじゃないのか?

そう考えると、黒木君が全精力で僕の気を反らそうとし始めた理由が分かった。
つまり、のだめちゃんがここにいる!

僕はコナンになりきって、バーロー!と言いたい気持ちだった。
とりあえず、周りを見渡しても人が多すぎて100%見分けられないだろう。
探すか?そう考えて、「ちょっと俺も向こうで踊ってこようかな〜」と言うと
黒木君はますます焦り始めた。

「松田さん!この間のタンホイザーのオーボエ奏者、めちゃめちゃ上手いですよね!」

なんて、そんなこと今はどうでもいいんだよ!
つまり、のだめちゃんはホールにいるに違いない!
じっちゃんの名にかけてのだめちゃんを探すまでは帰れないんだよ!
黒木を無視して立ち上がると、彼が腰にタックルしてきた。
ええい、離せ離せ!

「いませんから!恵ちゃんは今日はピアノのレッスンでまだ学校…」

必死で叫ぶ黒木と、彼をはがそうとする僕。
その光景を見ていたターニャがポツリと言った。

「ノダメ?ノダメならホールで踊ってるけど…」

腰の抵抗が一気に軽くなった。
黒木君は、ソファにどさりと倒れこむと、白目でぶつぶつと独り言を言い始めた。
“千秋君ごめん…”とかなんとか。
ふふふ、ははははは!さらば黒木!

僕は勢い良くホールに向かった。

ほわ〜〜!
な、何でスカ、この人!
いい気持ちで踊ってたのに、急に見知らぬ男に抱きしめられた。
それに、腰を押し付けてくるし〜!き、気持ち悪い!

ポールに助けを求めようと探したら、離れた場所で一人でリズムを取ってて
のだめのことを見てさえいないし、声も届いてないみたい…!

ど、どうしよどうしよ!

押しのけようとしても、酔っ払ってるのかますますくっ付いてきて
為すがままになってるしか無くって。
なんとか逃れようともがいてると、急に目の前からその人が消えて、腕を引っ張られた。
むきゃ、こ、今度は何デスか!

のだめの手を引いている相手を見たら、それは

「ま、また松田さん!?」
「お待たせ」
「待ってません!!」

なんでこの人のだめのピンチにいつも現れるんデスか!?
それに、先輩に松田さんと関わるなって言われてるんだった。
捕まれた腕を振り払おうとしたら、ますます強く引っ張られて体を引き寄せられて。
はう〜、また身動き取れまセン!

「危なかったね。駄目じゃない、こんなとこ来ちゃ」

耳元で松田さんに言われて、無意識に顔が赤くなってきた。
それに、改めて考えると、確かにここってあんまりいい場所じゃないみたい。
軽い気持ちで来ちゃったけど、先輩が知ったら多分、相当怒られそうな気がする…。
うぅ〜。
悔しいけど、この人が来なきゃ、のだめ危なかったのは事実デス…。

お礼を言おうとしたけど、松田さんは無言でのだめの手を引っ張って歩き始めたから
人ごみを縫いながらそれに付いて一生懸命歩くことしか出来なくて。

気が付いたら、周りに人の少ないボックスのソファに座らされていた。
まだ息が上がったまんまで、少し苦しかったけど、もう酔いも冷めてたし落ち着いてはきてたから。
だから、あの、手、手ぇ離してくれませんか?
そう言おうとして、顔を上げると、今、この世で一番会いたくない人と目が合ってしまった……。

ビップルームを出て、人が馬鹿みたいに騒いでいるのを尻目に、俺は店を出ようとした。
馬鹿か、こいつら。
こんなことしてる時間があったら他にすることねぇのか、アホくせ。
俺はさっきのこととか、それに松田のことがあって相当ムカついてたから
心の中で毒付きながら、歩いていた。
タクシー、捕まるかな、通りに出て探すより、店員に呼んでもらった方がいいか?
そう考えて、耳をふさぎながら、奥のバーカウンターの方に進んだ時だった。

向こうから歩いてくる見慣れた男…!
松田だ。

俺は文句の一つも言おうと、いや、顔面一発くらいしても…と思い彼の方に歩み寄った。
次の瞬間、全身が凍るような思いがした。

松田が手を引いているのは、紛れも無くのだめだったから。
俺のことには全く気付かず、二人で人目に付きにくいボックスに行くと、隣同士に座っている。
手はさっきからずっと繋いだままだ。

そして、息を整えたのだめが顔を上げた瞬間、向こうも初めて俺に気付いたようで
口をアワアワさせて動揺しているのが見えた。
のだめの様子を見て、そして、その視線の先を追って、松田がゆっくり振り向いた。
その瞬間、俺は店を飛び出していた。
なんで、俺が逃げなきゃいけないのか。
俺は何もしてないのに、なんでこんなに嫌な目にばかり合うのか。
プライドがズタズタにされた気分で、もうどうでも良かった。

あんな下品な店に、俺に黙って行ったのだめ。
俺を嵌めて、のだめと逢引しようとした松田。
最低だ…!

「くそっ!」

声を出すと、急に吐き気が催してきて、俺は道端に盛大に吐くと
そのままそこに座り込んで、しばらく動けなかった。

あっちゃ〜……
千秋が走って店を出て行くのを見て、僕も少なからず動揺した。
これって、もしかしなくても、しゅ、修羅場…だよね…?
目の前ののだめちゃんに視線を移すと、さっきの千秋よりも蒼白な顔をして
ガタガタと震え始めたから、思わず抱き寄せようとしたら強い力で突き飛ばされた。
いや、うん、どう考えても、俺が20%くらいは悪い…いや、40%くらいか…?

どこから見ていたのか、黒木とターニャも慌てて近寄ってきた。

「め、恵ちゃん、ごめん、僕、こんなことになると思ってなくって…」

そういう黒木君の顔も真っ青だった。

「ノ、ノダメ、とりあえず、帰ろう?ちゃんと話せば千秋だって…」

ターニャもなんて声を掛けていいか迷っている様子だった。

そうする内、のだめちゃんの目から大粒の涙が零れ始めた。

「も、駄目デス。のだめ、先輩との約束破って、ま、松田さんと関わっちゃったから…」

ちょっと待て!俺はバイキンか!?

黒木とターニャも俺を睨んでいる。
そんな、俺はただちょっと…。
大体ここに彼女を連れてきたのはお前らだろ!?
…って、もうそういう問題じゃないよな…。
やれやれ…40近くになってこんなことになるとは流石に俺の人生計画にも無かったよ…。

とりあえず、4人で店を出たが、当然千秋の姿は無くて…。
タクシーを呼ぶとそのまま乗り込んだ。
行き先は当然千秋宅。

こうなりゃ全員で土下座でも何でもするしか無いっていうのが
即席千秋対処委員会の満場一致の採択だったから。

のだめちゃんはずっと泣き止まないし、黒木はごめんごめんとぶつぶつ言い続けているし。
ていうか、事情を聞く限り、別に誰も悪くない気がしないでもない。

別にクラブなんて、今時の若い子なら頻繁に来るんじゃないのか?
それ自体に後ろめたさを感じる必要は無いと思うんだけど。
俺がそう言うと、ターニャがきっと俺を睨んだ。

「そりゃ、そうだけど、じゃあ悪いのは全部あなたってことになるけど!?」

って、そ、そうなるのか?墓穴?

大きく溜息を吐くと、そこから誰も何も喋らなくなった。

千秋君の家に着いて、チャイムを鳴らしたけど、当然…というかなんというかやっぱり帰っていなくて。
何度も携帯も鳴らしたけど、電源が切ってあったから僕らにはどうすることも出来なかった。
いつもなら勝手に誰でも千秋君の部屋に上げる恵ちゃんも、今日ばかりはそれはしなくて。
1時間ほどターニャの部屋でみんなでいたけど、千秋君が帰ってくる気配は無かった。

「のだめ、一人で待ってマスから、も、ダイジョブです。みんな帰って下さい」

恵ちゃんがそう言うと、申し訳ないけど、僕らに出来ることは確かに無かった。
松田さんは、残りたそうにしてたけど、ターニャちゃんが、あなたがいるともっとこじれそうだわ、って
言ったら、悔しそうにしてたけど、結局僕らは帰ることにした。

「本当にごめん、あの…僕からも千秋君に事情を説明するから…」

僕が言うと、泣きながらも恵ちゃんは微かに頷いてくれた。

「いやー、僕からも死ぬ気で謝るし、ねっ?」

松田さんがそう言うと、口を尖らせながらもやっぱり頷いていた。

松田さんの乗ったタクシーを見送って、メトロへの道をとぼとぼ歩き始めた僕は
ふとポールのことを思い出したけど…まぁいいや、また謝れば…。
はぁ、別に松田さんも、何か悪さしたってわけでも無いんだけど…タイミングが悪すぎるんだよ!
それに、千秋君がなんであんなとこにいたのかも分かんないし。
そもそもあんな店に行ったのがそもそもの発端なのか?
でも、松田さんじゃないけど、クラスメートだってよくクラブに行くって言ってたし
それ自体であんなに怒ったわけじゃあないんだろうなぁ。
まぁ確かに、自分の彼女が別の男とあの店にいたらって考えると、やっぱり僕だって頭に来るだろうし…。う〜ん…。

ポケットに手を入れて考えながら歩いていると、ふいに目の前に見慣れた人影。

「ち、千秋君!?」

よろよろとふら付きながら歩いて来る長身の人物は、間違いなく千秋君その人だった。

「だ、大丈夫?」

慌てて駆け寄って体を支えると、初めて僕に気付いたようで、虚ろな目を向けてきた。

「あ〜…黒木君…?どしたの?こんな時間に…。俺に用事だった?」
「いや…ていうか、あの…と、とりあえず、家まで一緒に行くよ、僕も…」

彼を支えて歩き始めたけど、正直何て切り出せばいいのか、分からなかった。
泰則、お前ってほんと卑怯者だな…。
自嘲気味に笑うと、千秋君が不思議そうに見てきたから、勇気を出して言ってみた。

「あの…千秋君、あのね、今日、ていうかさっきなんだけど、僕もあの店にい、いたんだよね…」

僕が言うと、千秋君の目が少ししっかりしたように見えた。

「別に、あの、当然だけど、松田さんと待ち合わせたりしたわけじゃなくって
ほんとにたまたま…。ポールと僕とターニャちゃんも一緒に、試験の打ち上げのつもりで。
ごめん、最初に僕がみんなを止めるべきだったかもしれないのに、つい流されちゃって。
あの、だから恵ちゃんは別に何も悪くないって言うか…」

そこまで言うと、僕にかかっていた千秋君の体重が一気に軽くなって
足取りがしっかりしてきたように見えた。

「いや、こっちこそ、変なとこ見せて…ごめん。のだめは、もう帰ってるの?」
「うん、さっきまでターニャちゃんの部屋にいたんだけど、今は自分の部屋に…」
「そっか…、ありがとう。世話掛けたね」

そう言って少し寂しそうに笑った千秋君に、ほっとしたのと同時に、僕はますます苦しくなった。

「ここで大丈夫、もう酔いも冷めたし。あ、あと、試験お疲れ様。打ち上げるくらいだから、大成功だったんだろ?」
「う、うん!」

僕が返すと、片手を挙げて、アパートの方に一人で帰って行って、もう僕は彼に付いて歩くことはできなくて
振り返るとメトロの方にまた歩き始めた。

ターニャの部屋から自分の部屋に帰っても、何もする気が起きなかった。
あの時の先輩の目……
のだめのこと、否定するような冷たい…それにとっても傷ついた目をしてた。
のだめ、考え無しにあんな店行って、結局松田さんと会うことになっちゃって
それに、変な人に抱きつかれたりして…。
先輩を裏切ったのとおんなじことだもん…。
もう嫌われちゃっても、仕方無いかも…。
今日、ううん、これから先、先輩がのだめから離れちゃったら、どうやって生きていけばいいんだろ。
鬱々と嫌な考えが頭の中をぐるぐるしてる。
きっと、のだめのこと、汚い女だ…って思ってるんだ。
黒木君や、松田さんが先輩に何か言っても、きっと聞く耳持たないかも…!
それどころか、のだめの話でさえ聞いてくれるかどうか分かんない…!

微かな物音がして、顔を上げた。
先輩、帰って来たんだ…!
ちゃんと、のだめが謝らなきゃ、ダメなんだ!

急いで部屋を出て、先輩の部屋を見ると、丁度ドアが閉まるところだった。

「千秋先輩!!」

呼びながら、ドアを引っ張ったけど、瞬間ロックを掛けられて
何回チャイムを押しても、強く叩いても、絶対に開けてくれなかったし、中からは物音一つしなかったから。
どうすればいいんだろう…。
やっぱり過去最高に怒ってるんだ…!

自分の部屋に帰って、先輩の部屋の電話を鳴らしたけど、電話線を切ったのか
1コールでつながらなくなった。
頭が真っ白になって、また体が震えて止まらなくなった。
どうしたら、許してくれるのか、皆目見当が付かなくって、ただじっと先輩の気配を窺うことしか出来なかった。

部屋に戻ってドアを閉めた瞬間、のだめが駆け寄ってくるのが分かったから俺は反射的にロックを掛けて。
その後もしばらくはドアを叩いたり、大声を出したりしていたけど諦めて部屋に帰って行ったみたいだ。
一度部屋の電話も鳴ったけど、それも電話コードを外してしまったから。

ベッドにうつ伏せて、今日のことを考えてみた。
黒木君の話も聞いて、別にのだめが悪いなんて思ってやしないけど
でも、とにかく許せなかった。
松田さんだって、別にたまたまのだめのことを見付けたんだって分かってるし
隠れてこそこそするなら、あの人はもっとうまくやるだろうから…。
だけど……じゃあ、おれの怒りはどこに向ければいいんだよ!
くそっ!

頭がボーっとしてきて、眠りにつきそうになる瞬間
隣からピアノの音が響いてきて、また現実に呼び戻された。

バイジェロの…虚ろな心…か。
何考えてんだ、のだめの奴…。それ弦の曲だし!嫌がらせかよ、全く…。

体を起こすと、ポケットからタバコを出そうとして、指先に触れる感触に、しばし固まった。
ゆっくり取り出して、その物を見ると、表面に“LOVE2000”の文字の入ったスポイト。

まじかよ…。

あの時、もって来ちゃったのか。
まぁ、その後の衝撃であの大男のことなんて、今まで思い出さなかったけど。
しかし、ドラッグじゃないって言ってたけど、本当か?
中身の液体は、少し黒っぽくていかにも怪しい感じだし、まぁ日本製って言ってたから
よっぽど危なくはないと思うけど。

そう思って、蓋をねじると、少し指先に取って舐めてみた。

……。
………。
…………。

どう考えてもただの薄めた醤油じゃねーか!!
馬鹿外人!こんなアホな商売に引っ掛かりやがって!

ゴミ箱に放り投げようとして、ふと思いとどまってテーブルの上に置いた。
隣室からは、相変わらずピアノの音が懺悔するように鳴り続けていたが、俺は無視をし続けた。
ていうか、本当に今日は眠いし、もう疲れた…。

のだめが一生懸命ピアノを弾いてるのに、先輩からは何のリアクションも無くって。
ますます悲しくなるだけだったから、しばらくして鍵盤から手を離した。
ずっとそうしてても仕方無いから、お風呂に入ってベッドに入ったけど
やっぱり眠れるはずも無くって。

さっきは先輩が怖くって出来なかったけど、合鍵…使って先輩の部屋入っちゃおうかな
なんて思い始めていた。
直接話せば、先輩だってのだめの話聞いてくれるかもしれないし…。
そう思い切ったら、すぐにベッドから起きて、鍵を持って部屋を出た。
時間は1時。
ひょっとして、もう先輩は寝てるかもだけど、このまま悶々と考えてるのは
のだめにとって死ぬほど辛いことだから…!
音を立てないようにドアを開けると、先輩は電気を点けたまま、帰ってきたまんまの格好で
ベッドにうつ伏せてグーグー寝ていた。
その顔は、嫌な夢でも見ているかのように辛そうで、のだめの心はますます痛んできた。
近づいて、髪の毛をそっと触ったけど、やっぱり起きる気配は無くて。

どうしようかな…と考えていると、ふいにサイドテーブルの上にある物に気が付いた。
手に取ってみると、何だろ、これ…?黒っぽい液体?
LOVE2000?って、どっかで聞いたことがある…けどぉ。
む〜なんだったっけ?

…あっ!よっくんの買ってたジャンプの裏に載ってた奴だ!
えと、確かこれを使ったっていうすんごい変顔の人が札束のお風呂で
女の人両脇に抱えて大笑いしてる写真見たことある。
あと、女の人もこれ飲んだらプロポーズされて目も二重になったって。
要するに、異性を引き付ける…っていうお薬ですよね…?
なんで先輩がこんなもの…。も、モテたいとか?
まさか、のだめがほんとに松田さんと浮気してると思ってこれで…?(大誤解)
もきゃ、ちょ、ちょっと嬉しいデスけどこんなのに頼らなくても、のだめ、先輩のこと大好きデスよ?
そう思って、今度はほっぺを指で突いたら、いきなり先輩が目を開いた。

あれ…何で…のだめ?
あー、入ってきたのか………っておい!今の状況分かってんのかこいつ?
よく平気で入ってくるよな、ほんと…本物の馬鹿じゃねぇ?
しかも、なぜか嬉しそうだし…!

「帰れよ」

俺がそう言って背中を向けると、なぜかのだめもベッドに上がりこんできた。

「おい…!お前いい加減に…!」

俺が振り返って怒鳴ろうとすると、のだめが手に持っている物体に目が行った。
そ、なんでこいつがそんな物持ってんだ!?

「捨てろって」

のだめの手からLOVE2000を奪おうとしたら、ひょいっと交わされた。
うっきゅっきゅ〜なんて笑ってるけど…。

「お前、今日のことで俺が怒ってるって分からない?」

俺が冷めた目で見ると、急にしゅんとした。
「あの、ごめんなさい、あの、のだめクラブって、もっと楽しいところかと思ってて
みんなに誘われるまま軽い気持ちで行っちゃって…。
松田さんがいるなんて思わなかったし…」

いや、松田に関しては俺にも責任あるし…俺もあんなゲイの餌食にされそうになっときながら
ほんとはのだめを怒る理由なんて無いんだけど…。

それでも、少なくとも今の俺たちには暫定的に上下関係が生まれてるみたいだ。

「あっそ……まぁいいけど、お前の人生だし…好きにしたらいいんじゃない?」

俺が言うと、怯えたような目で俺の方を見た。
なんだこの感覚…妙にゾクゾクしてくる…!

「大体、お前がどこで何してようが、俺には関係無いし。
合鍵も返せよ。お前のペースで行動されちゃ、俺だって迷惑なんだよ」

あ…泣くかな…?
ていうか泣け!俺の気が治まるまで、泣いて機嫌取るくらいしろよな!(俺様学)

「ご、ごめなサイ、せ、せんぱ、のだめ…」
ふえ〜っと泣き出したのだめを見ても、まだ気が治まらなかったが、まぁもういいや。
実際こうしてのだめが部屋に来て顔を見せたことで、幾分か機嫌が直ってるのも事実だった。

「とりあえずコーヒー入れて」

俺がそう言うと、のだめは泣きながらもキッチンに向かった。

先輩、やっぱりまだ怒ってるんだ…。
そりゃ、当然だけど…でもこうしてコーヒー入れろって命令されて
なんだか仲直りの挨拶のようで、ほんの少しだけ気が楽になった…かな?

…それにしても…このお薬、のだめの為じゃなかったみたいデスね…
ふぅっと溜息を一つ吐いて、コーヒーメーカーの電源を入れてしばらくぼーっとしていた。

この薬…コーヒーに入れたら…どうなるんだろ…。
もう怒るのやめて、ニコニコしてのだめの気を引くのに一生懸命になってくれる…かな?

いやいや、ダメだよ!そんなのほんとの先輩じゃないし!
それに悪いのはのだめだし…素人は真似しちゃダメなんだもん…!

いや、うん、でも、こんなの嘘っぱちかもしれないし…うん、ちょっとだけ…
あー…でも!

「おい、早くしろよ!」

その声にびっくりして、持っていたスポイトの手につい力が入って
あの、勢い良くコーヒーの中に…って蓋開いてたんデスか!?ぎゃぼっ!

はわ〜、どうやら全量入っちゃったみたいだし…。
ど、どうしよ、でも、ま、まぁいいか…?

「お待たせしました〜」
「おせーし」

そう言ってカップに口を付ける先輩の姿を穴の開くほど凝視してしまったけど
あ、あれ?普通に飲んでる…。
な〜んだ、やっぱりあんなの嘘だったんだ…。
自分で入れといてなんだけど、少しホッとしまシタ!

のだめが持ってきたコーヒーを受け取って飲もうとするとなぜかじっと見つめてくる。

なんだよこいつ…気持ちわりーな。

そう思って顔を反らしながら口を付けて……思わずコーヒーを吹き出しそうになった。
何だこの味…?
いつものブラックコーヒーじゃないし…。醤油っぽいっていうか…。

…………………。
はぁ、何考えてんだろこいつ…。
発想がここまで幼稚だと、もはや笑いしか出てこない。

人間て真性の変態を前にすると、とっても優しい気持ちになるもんなんだな…なんて
新しい発見に妙に感心をしつつ…のだめの提案に乗ることにした。

「のだめ…」
俺が声を掛けると、少し体をびくっとさせて俺を見上げてきた。
「今日のこと、反省してる?」
「はい、マグマより深く反省してます…けど?」
首を傾げて訝しそうな視線を向けてきた。
「じゃぁ、さ、なんか形で表してよ」

俺が言うと、のだめは最初何を言われてるのか分からない様子だったけど
段々俺の言ったことを理解してきたのか、みるみる顔を赤らめた。

「形……デスか?」
「うん、形」

俺が言うと、覚悟を決めたような表情になってベッドに上がってきた。
そして、俺の隣に座ると、軽いフレンチキスをちゅっとして、えへへ、と照れている。

え…終わり…か?
のだめを抱き寄せて耳元で囁いた。
「なんか…さっきからお前が可愛く見えて仕方無いんだけど…。
体が熱くなってきて堪んないんだよな…なんでだろう…」

もきゃーーーーっ!
何でいきなり先輩そんなエッチなこと言うんデスか!?
可愛いなんて、先輩の口から初めて聞きまシタけど、これがLOVE2000の効果!?
えと、ど、どうすればいいんデスか?
頭がパンクしそうになっていると、先輩がのだめの手を、あの、そんなとこ、なんで触らすんデスか!
でも、チュってキスしただけなのに、なんでこんなに、お、大きくなってるんデスか!!
た、確かに熱い気がしないでもないっていうか…あの…。

「今日…口でしてよ…」

………。
はう…数秒意識が飛んでたみたいデス。
あの、口って口で舐めたりするアレですよね。
断るにものだめが薬飲ませたせいでこんなことに…?

「あの、先輩…」
「ダメ…かな…」

先輩の目が少し潤んできた気がするのは、気のせいですか?
だ、大胆すぎデスけど!

そこにあてがわれてる手を少しずらしたら、先輩がびくっと体を跳ねさせた。

「なんか…今日俺、変かも…」

そう言って息を荒げている先輩を見たら、断る理由も思い浮かばなくて…。

「わか、分かりまシタ…電気、消してきます」

そう言って立ち上がろうとしたら、いいよそんなの、って言ってズボンのファスナーを下ろして
パンツの上のとこから、あの、直視できまセン!
こんな明るいとこで、先輩の…。先輩の…。

「んなジロジロ見るなよ…」

そう言って少し先輩は顔を赤らめたけど、なんだかのだめ、大きくなってる先輩のを見たら
俄然やる気が出てきて、可愛いなんて感想、変かな。
だって、なんか、うん、可愛いとか愛しいとしか、やっぱり表現出来ないや。

「い、いきマスよ」
そう言って顔を近づけたら、うんって返事が返ってきた。
って言ってもどうしていいか分かんないから、とりあえず、舌の先でボコッと出てるとこを舐めたら
頭の上の方で、はぁって切なそうな声が聞こえた。
合ってるのかな?
そのまま続けていたら、先輩が、もっと下の方も、って言ったから
その通りにペロペロ全体的に舐めてたら、ある一点で、先輩の腰がグッ、って跳ねたところがあった。
上から下まで一直線になってる血管みたいなとこ。
そこを舐めると、きっと気持ちいいんだ…!
根元の方から先端まで、その血管に沿って舐め上げたら、うぁっ!って声がして先輩が仰け反ってベッドに倒れていった。

薬が効いたフリをしていると、いつもより大胆な気持ちになってくる。
口でして、なんて、今までこいつに言ったこともやらせたことも無いのに。
でも、覚悟を決めて真剣に俺のを舐めてる姿を見ると、相当興奮する…。
ぎこちない仕草で一生懸命舐めている姿にさっきよりも充血してくるのが分かった。
次の瞬間…!のだめが裏筋のところを一気に舐め上げてきて…
不覚にも俺はその刺激に後ろに倒れこんでしまったけど…しっかりしなきゃな。
再度起き上がって快感に耐えながら、咥えてみろって言うと、のだめは素直に従って
俺のはのだめの口の中に飲み込まれていった。

くっっ…あ、暖かい…
はぁ…

そのまま上下に動いてって言ったら、のだめは、ふぁい、と返事をしてその通りにした。
その度にのだめの口角から唾液が泡になってはみ出してきて…
やばい…視覚だけでイキそうになる…!
それに、じゅっぽじゅっぽってなんてやらしい音立てんだよ、こいつ…。
はぁ…たまんね……

天井を向いて目を瞑ると、全神経がそこに集中して、あぁ、くそっ、気持ち良すぎる…。
と、急にのだめが口を離した。

「はう、なんか先っぽから…しょっぱいのが出てきまシタ…」

涙目になっているのだめをベッドまで抱え上げて、頬にキスをした。

「なんだと思う…?」

俺が聞くと、のだめは少し考えている様子だった。
そのまま首筋に吸い付きながら、パジャマの裾から手を入れて、剥きだしの胸に触れると
びくっと体が震えるのが分かって、のだめを押し倒した。
パジャマを捲り上げ、つんと上向いた乳首に吸い付くと、身を捩じらせて逃げようとしたから
「めちゃめちゃにしてやる…」
と耳元で囁くと、や、と小さく声を上げた。

乳首をつまみながら、耳元をくちゅくちゅと音を立てて舐めると、のだめの息がはっはっと短速になってくるのが分かった。

「松田さんと、あそこで何してたの…?」
「はっ、な、何って…んっ、何もして、ないデス…」

乳首を強めにつまむと、背筋を仰け反らせた。

「どうだか…。体触られたり、したんじゃないのか?」
「そ、そんな、手…て、つながれた…んん!やぁっ!それだけデスよっ」
「他には…?」
「………んっ…も、やだぁ…」

ズボンとパンツを一気に下ろし、のだめの陰部に手を伸ばすとそこはとろとろと粘性の液が絶え間なく溢れていた。

「正直に…言った方がいいんじゃない…?今日、俺少し変だし…。」

そう言って、穴の周辺をひたすら撫で続けた。

「や……んっ!最初に少し…抱きしめられたっていうか、ほんとにそれだけデス!」

最後の方は叫ぶようにしてのだめは言った。
抱かれた…?ってそれは聞いてない。
さっきまでのからかうようなものとは違って、本当にムカついてきた。
何やってんだよ、この女…!

「お前、無防備すぎるんじゃねーのか?」
「はう…ち、ちが…!」

緩めていたネクタイを、首から外すと、それで頭上に持ち上げたのだめの両手首を縛った。
それに、タオルで目隠しも。

「やぁ…!怖い…せんぱい!やだぁ!」

怯えるのだめにキスをして言葉を塞ぐ。
いつものような優しいものじゃなくて、かき回すような乱暴なキス。
のだめは視界が遮られているせいか、小刻みに震えている。
両方の乳房を強引に揉みしだくと、塞いだ唇の隙間から、んー!と苦しそうな声が聞こえた。

体を離して、距離を置いてのだめを眺める。
荒い息をさせたまま、口からは一条のよだれ。
胸は上下に大きく動いていて、足は閉じたまま膝を曲げている。
次に何をされるのか、緊張して強張っている。

のだめの上に覆いかぶさり、舌で乳首だけをペロペロ舐めた。
そこだけを接点にしているせいか、のだめは激しく声を上げ始めた。

「あぁっ…!あっ!も、だめぇ!」

無視してそのまま舐め続けると、涙声になってきたけど、構わない。

「お前、この間ポールにも、気安く触らせてたよな…。
何考えてんだよ。俺がどういう気持ちだったか分かんない?」

そう耳元で言うと、ひぐひぐと泣き出した。

「ちが…せんぱいのことしか、好きじゃないデス、ほんとに…。だ、だから…!」
「だから…何?」

剥きだしになった脇をくちゅっと舐めると、またのだめは身を捩じらせた。
手近にあった携帯を持って来て、バイブレーターのスイッチをONにした。
のだめは、何をされるのかと、また体を縮めて震えだした。

なんで、今日先輩そんな意地悪ばっか…
もうのだめ嫌デス!
あんな薬飲ませるんじゃなかった…!

急に先輩が何か機械みたいな、モーターみたいなものを取り出したみたい。
つ、次は何する気なんデスか?

戸惑っていると、その機械をのだめの…な、何やってるの?
やだ…。やだやだ!

嫌なのに…冷たい振動がそこに触れると、頭が真っ白になりそうだった。
こ、声が自然に出ちゃうし…。
何なんデスか…?

あ…駄目…なんかすぐにイッちゃいそう…。

足先が自然に伸びて、全身に力が入って…!
いやなのに、こんなの!

「イケよ、のだめ」

頭の上で声がして…目の中がバチバチと弾けた。


気が付くと、ネクタイもタオルも外されて、のだめ、気を失ってたんデスか?
ボーっと隣を見ると、先輩が心配そうにのだめの頭を撫でてて…。

「ごめん、大丈夫だった…?」
なんて優しく聞いてくれた。
も、もしかして、薬の効果やっと切れたんですかね?
はう、よ、良かった…。
ホッとしてたら、先輩がのだめの上に覆いかぶさってきて

「ごめん、まだなんだ…」

って申し訳無さそうに言って、一気に入ってきた。

あ…!
声を上げる間も無くって、そのままのだめの足を大きく開くと
いつもより激しく動いてて、先輩の汗がのだめの目の方まで飛んできた。
腿がぶつかり合う音が、パンパンってずっと聞こえてきて…。
のだめはまだ頭がぼっとしててすぐには反応出来なかったけど
何回も奥の方をノックされてる内に、また目がチカチカしてきて…!

のだめが気が付くのを待って、正常位で挿入すると
さっきのフェラの余韻もあって、割とすぐイッた。
のだめも一緒だったみたいで、また意識が飛んでるみたいだった。

しかし、今日はやりすぎた気がしないでもない…。
こんなこと、俺の人生の中でも初めて…だったし、結構ひどいよな…。

溜息をついて始末をしていると、のだめも帰ってきたらしい。

「先輩……馬鹿」

それだけ言って、布団の中に閉じこもってしまった。
すぐに追いかけてのだめを抱きしめる。

「馬鹿って…俺のこと?」
「他に誰がいるんデスか?」

お前だよ、と言おうとして口を噤んだ。
そのまま頭を撫で続けていると、思いついたようにのだめが言った。

「そだ!もうなんかおかしいの、治っちゃいましたか?」
「なんかおかしいって?」
「先輩!さっき今日変だって自分で言ってたじゃあないデスか!」
「あ?あぁ、うん、もう治った…かな?」

言ってから考えてみる。
たしかに俺はあの薬を飲まされたけど、あれはただの醤油だし…
でもなんか入ってたのか?
途中からは俺も自分が自分じゃないような高揚した気分になっていた。
ま、まさか…な。
のだめをいじめて気持ちよかったなんて認めたら
俺は松田と同レベルに落ちる気がしていた。

「はう〜、仲直り完了デスね!」

機嫌の良さそうなのだめにデコピンをしつつ、少しは自重しろよ、と言うと
「はい!もう、こんなの懲り懲りデスから!」
と、元気いっぱいに答えてきた。はぁ…。


後日

「ち・あ・き・君♪」
「……………」
「ご、ごめんね?」
「……………」
「……なんで、無視するのかなぁ…?」
「触らないで下さい」
「(ムカッ)僕、明日日本に帰るんだけ…」
「お元気で」
「とりあえず、僕は謝ったからね!これで、チャラだ!!」
「はぁ…借り作りまくっておいて何言ってんだ!?」
「違う!僕は一度は思い留まったんだ!その証拠にのだめちゃんは無事だっただろ?」
「おい…何企んでたんだ…!?」
「じゃあ、元気で!失功を祈る!」
「服返せ!!」



「…と言う訳でぇ、万事解決しまシタ♪」
「という訳って…何が?」
「むふ〜、黒木君のエッチ!とにかく無事に済みましたので!」
「あの日のこと…?ノダメも皆も気付いたらいなくてさぁ!せっかくブラッド来たのに
意味ないじゃんか!」
「はぁ……」


「LOVE2000、検索……ほわぁ、この会社、詐欺で訴えられてます!むきゃむきゃーー!」






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