千秋真一×野田恵
![]() ふと寒気がして目が覚めた。 ――今何時だ…? ベッド脇のサイドテーブルの上においたはずの腕時計を、暗闇の中さぐる。 時刻は午前2時を回ったところだった。 隣りにはのだめが静かに寝息をたてている。 ――あのまま何も着ずに寝てしまったのか…。 どおりで寒いわけだ。 ベッドの横に脱ぎちらかした下着とTシャツを着ながら、のだめの方を見た。 窓から零れる月の光がのだめの白い肩を照らしている。 あの時、のだめは艶めかしく鳴きながらそのまま意識をなくしてしまった。 なのでのだめもまた躰に何も着けていない。 「…ったく、風邪ひくぞ」 ――ドイツのオケの客演から昨日帰ってきた。 のだめの顔を見たのは2週間ぶりだった。 久々だったからつい夢中になって…。 …っていうか、オレってそーゆータイプだったっけ…? 高校生ぐらいの時でも、こんなにガツガツしてなかったのに。 さすがに初めての時はあんまり余裕なかった…けど。 ――しかし…こいつはオレが初めてなんだろうけど、…いろんな意味で…成長早いよな…。 感受性が豊かなのかもしれないけど。 音楽と一緒で急上昇思考なのか? …まぁ、黙って寝てれば…肌もきれいだし、顔も…まあかわいいし。 …胸も…結構…あるし。 「―ん…センパイ…ムニャ…」 突然呼ばれて振り向いたがのだめはまだ寝息をたてている。 「寝言か…」 一人でいろんな思いをはせていたから、のだめの声で我に返った。 ―――びっくりさせんなよ…。 最近オレにも妄想癖が伝染してる様な気がする…。 「…センパイ…キッスしてくだサイ…ムニャ」 …はぁ…しかも何の夢みてんだ…(さっきしたばっかなのに…) オレは溜め息をつきながらも、のだめの髪をなでながら、唇に顔を寄せた。 すると。 「…高野センパイ…キッス…」 ―――え? のだめの口からこぼれた名前はオレの名前じゃなく… 「…タカノ…って誰…」 はっきりと『タカノ』と口にした。 **************************** 「どうして真一君だけ服を着て寝てるんデスか…」 朝日が窓から差し込んで、のだめは瞼を開けて開口一番に不満を口にした。 「…おまえがいくら起こしても起きないからだろ」 「むきゃー!じゃあ着せてくれてもいいじゃないデスか…ぶつぶつ」 まだ起きるには早すぎるから、オレはのだめに背を向けたまま眼を閉じていた。 本当は起こしていない。 のだめの口から知らない人間の名前が出たことで、のだめに触れられなかった。 男か女かはわからない。というか実在してる人物かどうかも。 …でも、キスをせがんでる夢の途中で起こせるわけねーだろ!! 「なんだか今日の先輩は…朝っぱらからカズオデスね…」 口を尖らせながら、のだめはパジャマを着ている。 ―――先輩って言うな。 のだめのこの言葉に今日のオレは妙な違和感を感じた。 12歳で日本に帰ってきてから、中学、高校、大学と。 自分も上級生は「先輩」と呼んできたし、後輩にもまたそう呼ばれた。 でも、あいつの「先輩」は。 大学の時も、あいつが「先輩」とつけて呼んでいたのはオレに対してだけだった気がする。 真澄のことも「真澄ちゃん」って呼んでたし、鈴木姉妹も然り。 彩子のことも、「彩子さん」と呼んでた(はず)。 峰は年上だけど同級生だったし…。 二人とも大学を中退して、オレが学生じゃなくなった今も、あいつは千秋先輩って…。 別にそう呼ばれることに抵抗は感じてなかったし、…いや、むしろ心地よかったのかもしれない。 だから、なおさら。 あいつが夢の世界でキスをねだった「タカノ先輩」がものすごく気になって…。 そんなことを考えてたから、実は…あれから寝ていない。 「先輩、あんまり寝てないんデスかー?」 「…うん。まあ」 「…昨日あんなに頑張るからデスよ」 「うるせー」 「…むー」 いつもだったら割と甘い雰囲気になる、事後の朝なのに、今日のオレはとても不機嫌になっている。 その"昨日あんなに頑張った"あとに、見る夢がどんな夢だったのか。 頑張ったのはオレなのに、何で違う奴の夢見るんだよ。 オレのイライラは背中にも漂っていたのか、めずらしくのだめがオレの髪をなでながらぴょこんと起き上がった。 「今日は先輩もお休みデスよね?お疲れでしょうから、今日は部屋でまったりしましょう! 実は昨日実家からいいものが届いたんデス!千秋先輩にも見せてあげマスから!!」 「いいもの?」 「えへへ〜、あとでのお楽しみデス!」 2週間ぶりのこいつの笑顔。 のだめなりに、旅の疲れを癒してくれようとしているのがわかったから、 『タカノ先輩』が気になりつつも、それ以上オレは何も言えなかった。 少し遅い朝食をとってから、部屋の窓を開け放って、部屋中の掃除をした。 のだめが居たら邪魔になるから、とりあえず隣の部屋に帰して。 昔からイライラすると、掃除に熱中してしまうのは…オレの癖だ。 でも、部屋がきれいになると、さっきまでのモヤモヤも少し消え去ってくれた。 ここのところサボっていた楽譜の整理をしようと、本棚から大きな箱を出した。 指揮者になってからの総譜や、大学以降使ったピアノ譜等は 取り出しやすいところに整理整頓してあるが、それ以前の物は、少しだけ持ってきていた。 楽譜と言うものは、ほとんど捨てられない。 変わるものでもないし、開くとそのたびに厳しいレッスンを思い出せる。 子供の頃のバイオリンの楽譜にはそのときの先生の書き込みがびっしりなされているが、 わかりやすい言葉で書いてあるから、今でも参考にするときがある。 音楽の表現を、人に伝えることの難しさは今でも痛感しているから…。 「…あ…これ…」 ふと、手に取ったのは高校時代乗ったオケの楽譜。 その間から、学園祭の演奏終了後、パートごとに撮った記念写真の束が出てきた。 これは高2の時か。 第一ヴァイオリンのメンバーで、オレは3年生のコンマスの隣にいた。 …そしてオレの横に写るのが…初めての相手だった。 このときはもう別れていたけど。 同じクラスで。同じ管弦楽部で。同じパート。 付き合うことになったきっかけはいろいろあったけど。 …やっぱり、彼女の音が好きだった。 音高の中でもそんなに目立って上手いわけでもなかったが、 部活で初めて一緒に弾いた時に感じた居心地の良さを、今でも覚えている。 髪は長かったな。制服のリボンをいつもきちんと結んでいた。 …今頃どうしているんだろうか。 手を止めて写真を見ながら立ちつくしていると バーン! 「せんぱーいっ!お掃除おわりましたカー?」 のだめが勢い良く部屋のドアを開けた。 オレはとっさに写真を箱の中に隠した。 「…っお前、もっと静かに入って来いよ…せっかく掃除したのに…また埃が舞うだろ」 「えへへ〜すみません。…ん?古い楽譜デスね〜。どーしたんデスかソレ」 そう言いながらのだめはオレの持ってた楽譜を覗きこんだ。 「音高の時のオケの楽譜。整理してたら出てきて…」 「ふぁお〜!そっかあ、センパイ、高校まではバヨリン専攻だったんデスよね〜!制服でバヨリンを弾く真一クン〜…あへー」 「…オイ、また変な妄想すんなよ」 「写真とかないんデスか?」 「――…ない」 「ざんねーん」 ほんとはあるけど。 こいつ絶対盗んでいくし…。 それに、オケの写真には、ほとんど彼女が写ってる。 見せない方が懸命だ。 「じゃあ、のだめの写真みまセンか?」 「え?」 オレが再び楽譜の整理を始めると、のだめは持ってきたカバンの中からアルバムを数冊取り出した。 「昨日ヨーコが送ってくれたんデス!高校の時の卒業アルバムとー、あとその頃の写真いっぱい」 「じゃあさっき言ってたいいものって…」 「エヘヘ、のだめの高校時代のお宝写真デス!!セーラー服デスよ〜」 のだめは机の上にドサーっとアルバムを並べた。 装丁された卒業アルバムから、スナップを入れっぱなしにしただけの小さいアルバムまで、 軽く10冊は超えていた。 「お宝って…自分で言うなよ」 「そう言って見たいくせにぃ〜」 セーラー服…こいつの高校、セーラーだったのか。 好きか嫌いかといえば…好きだけど。 見たいか見たくないかと言えば・・・ ――見たい…けど。 オレが複雑な表情をしていると、のだめはうきゅきゅと笑って 「たくさんあるんで、ソファーで見まショ〜☆」 そういってアルバムを抱えてソファーに移動した。 「のだめの実家の部屋、すこーし散らかってるんですけど…ばあちゃんが我慢できずにこないだ掃除してくれて。 その時に見つけてくれたみたいなんです」 「ふーん…」 高校の卒業アルバムからめくりだすと、のだめが寄り添ってきた。 「何組?」 「36HRデス。音楽コースのクラスデス。」 「音高じゃねーのか?」 「のだめの学校は普通科デスよ。その中に音楽コースがあったんデス。田舎ですし。音高は近くにはなかったし」 「へえ…」 確かに、音高とは雰囲気がずいぶん違う。 オレの行ってた都内の音高は、圧倒的に女子が多かったし、私立だし、お嬢様が多かった。 クラスごとの写真を順に見ていく。 …結構男多いな・・・。 今まで、あんまり昔の話とか聞かなかったけど。 …もしかして、彼氏とかいたのか? でも…変態だし。 いやしかし… 頭の中に浮かんでは消える思いを抱えながらページをめくった。 ―36HR。 今よりずっと髪が長い。 セーラー服に身をつつんだのだめは、今よりすこし幼い顔をしていた。 しかし、普段あんまり見られない、のだめの穏やかな表情…。 ――ヤバイ。 すごく…かわいいかも…。 本人が隣にいるのに。 18才の頃ののだめに、間違いなくドキドキしていた。 そんなオレの動揺を悟られないように、無言でページを進めていく。 卒業アルバムを見終わると、スナップも。 「ムキャ☆制服カワイイでしょ〜?中学の時のはふつーのセーラー服だったんデスけど、 高校のはちょっとオシャレなセーラーで〜」 のだめは自慢げに写真を指差しながら説明している。 「なんか、この辺写ってるメンバー同じだな」 アルバムは一応年齢順に収められていた。 あるところから、男女6〜7人の写真ばかりになった。 「あ〜、この頃、一緒に遊んでた仲間デス!同じ高校の先輩と同級生で〜」 なるほど、同じ高校の…。ほとんどが制服姿やジャージで、写っている。 よくよく見ると、のだめにヘッドロックを決めてる男とか。 ふざけて腕組んで写ってる写真とか。 …別にいいけど。 「一緒にプリごろ太体操やったり〜、線香大花火大会やったり〜」 「なんだ…お前の学校、変態ばっかだな」 「失礼デスね〜。。みんな結構すごかったんデスよ!」 「すごいって何が」 「この髪の短いアイちゃんは、陸上の短距離でインターハイ出場したし、ケンジ君は写真やってて、フォトコンテストで入賞したり。 ああ、このメガネかけたハカセみたいなのは…」 一人づつうれしそうに説明しながら、瞳をキラキラさせている。 大学進学で東京に出てきて、そして今、遥か遠いパリにいるこいつにとって、 高校の時の友達の顔を思い浮かべながら話す時間は…なんだかとても幸せそうだ。 それを見て俺も少し頬がゆるみかけた。 「あ!そうそう!この人は甲子園に出たんデス!のだめに甲子園の土をくれたのもこの人です!」 と、のだめはひときわ弾んだ声で写真の人物を指差した。 甲子園の土?…もしかして、大学時代、のだめのアパートに大切においてあった甲子園の土って…この男にもらったものか。 短髪で、背が高くて…爽やかな感じの男だ。 「なんか、彼も大事そうにしてたんデスけど、強奪しました!」 「強奪…って、お前、いいのかよ…返さなくて」 「先輩は懐の大きい人間デスから大丈夫デスよ〜☆」 ―――先輩? 他の仲間は名前で呼んでたのに、この男だけ、『先輩』…。 心なしか、のだめもこの男については饒舌に語ってるような…気もする。 さっきのモヤモヤが再びオレの中に現れる。 ――もしかして。 この男…。 「先輩はセカンドで〜いつも…」 「のだめ」 のだめの言葉を遮って、オレはのだめと目を合わせないように口を開いた。 「この人…が『タカノ先輩』?」 「ぎゃぼ!?なんで知ってるんですか!?真一くん、エスパー!?」 のだめの顔がかーっと赤くなる。 ―――やっぱり。 「…ついでに、お前。昨夜、夢みただろ」 こんなこと。聞くのはばかげてる、と思いながら… 流れ出した気持ちが止まらない。 のだめの肩をつかんで瞳を見つめた。 「夢…見ましたケド…」 声のトーンが下がり、さっきまでオレの顔をうれしそうに見てたのだめは、 …オレから目をそらした。 「…のだめ、何か寝言言いマシタ…?」 ――自分でもわかってるみたいだな…。 「こいつと…付き合ってたんだろ」 心臓の音で自分の声が少し聞こえにくい。 過去のことだって、わかってるけど…。 確認せずにいられなかった。 「・・・ハイ。」 ちいさくそうつぶやいたのだめは、なんだか悪いことをした子供のように しょぼん、となっていた。 思い起こせば…オレは何でのだめは自分が初めての男だと思ったんだろう。 付き合う前から、風呂とかのぞかれたり。 キスしたときは「何やってんデスかー!」とか言われるし。 初めてセックスしたときも…痛がってたけど…それなりに形になってたし。 (ネットで研究したとか言ってたけど) オレの頭の中で単に変態だと思って片付けてたことが、 全部1本の線でつながった様な気がした。 「どのぐらい付き合ってた?」 「エト…1年ぐらい?」 「ふーん…(結構長いな…)」 「って言ってもー。高野先輩、部活忙しかったし、のだめもプリごろ太にどっぷりはまってた時だったから…」 ――だからなんだよ。 なんだか言い訳がましく話すのだめにオレはイライラしてきた。 「そいつも大概変態だな。お前と付き合おうなんて。どーせ変態同士おかしな付き合い方してたんだろ」 「失礼デスね!高野先輩は変態じゃないデスよ!千秋先輩みたいにカズオじゃないし!」 ――なんで、昔の男と比べられてけなされなくちゃならないんだ! オレは自分が失礼なことを言ってるのを分かっていながら、のだめを責め続けた。 のだめが、変態なのはきっと昔からだろう。 でも、そんなのだめに自分が惹かれたのは…やっぱりこいつのピアノがあったから。 もちろんピアノだけじゃないけど。こいつ本人にも惹かれてるけど。 でも…この『タカノ先輩』は、音楽抜きで、のだめを好きになったんだろうか。 だったら…オレはなんだか…負けてる気がする。 「おかしな付き合い方なんてしてませんヨ!!フツーに部室でお話したりだとか…キ…」 そこまで言いかけてのだめは自分の口を押さえた。 ――ホントにイライラする…。こいつ…わざとやってんじゃねーのか? 部室って。。部室ってお前…。 プツン。 ヤバい。何かが音をたてて切れた。 「・・・で?部室で?キッスしたんだろ」 「イエ、あの…」 「で、どーせ成り行きで最後までしたんだろ」 「最後まで…って…恥ずかしいこと聞かないでクダサイ!!」 ――否定しないのかよ…。 もう、ダメだ。 「もういい、黙って…」 オレはまだ何か言いたげなのだめの唇を強引に自分の唇で塞いだ。 「…んっ…」 ソファーにのだめを押し倒し、腕をつかんで動けなくした。 これ以上変な言い訳も聞きたくなくて。 まるでその言いかけた言葉を吸い尽くすように、唇を舌で割り入り…のだめの口内を侵食していく。 「ふっ…あっ…ん」 息が続かなくて、のだめは一旦オレから離れたが、また捕まえる。 「…しん…いちく…ん、まって…んっ」 「………」 奥へ逃れようとするのだめの舌に、自身のそれを絡ませた。 「ん…あっ」 飲み込みきれないお互いの唾液がのだめの唇の脇をつたう。 両手がふさがり、抵抗できないのだめは、足を少しばたつかせた。 そんなことはおかまいなしに、溢れた唾液を吸いながら首筋に顔を埋める。 「しんいちくん…どーして…ん…」 「黙れって…」 耳たぶを甘噛みしながら、のだめの背中に手を回してファスナーをおろす。 白い肩を露出させたら、いつもより大げさに音をたてながら愛撫を降らせた。 「はぁっ…ん、はぁっ…」 わかってる。 不毛な感情だっていうことも。 最初から知っていたら、こんなにイラつくこともなかっただろう。 でも…今現在ののだめだけじゃなくて、過去の彼女まで手に入れたいなんて。 そんな術はないのに…どうしてオレはこんなにもがいているんだろう。 のだめの体に隙間なく、花びら残していく。 最初は抵抗していたのだめも、すこし涙目なり ところどころでビクッと体をしならせはじめた。 「あっ…ん…ふぅ…」 「…めぐみ…」 ブラのホックをはずさずに、そのまま紐だけを肩からおろす。 紐の隙間を縫うように指をすべりこませると、すぐにやわらかな乳房に到達した。 柔らかなそれはしっとりとオレの手のひらに吸い付いてくる。 「はぁっ…んっ」 吐息はさらに熱を帯びる。 オレは自分の指に唇を沿わせて、そのままの頂点の実を口に含んだ。 「!…いやッ…あっ…」 "イヤ"と言われても。やめることなんてできない。 「…お前のせいだ…」 他の男がまだ触れていないすべての部分を、オレが…踏み荒らしてやる。 ワンピースの裾から手を差し入れてのだめのしなやかな素足をなでた。 「!んっ…」 一瞬、下着越しにの蜜部に指が触れた時、のだめの体は大きく反応した。 今度はその部分に唇で触れる。 「あっ…」 下着の上からでも、もうその泉は溢れそうになっていた。 耽美な水音をたてていると、オレの手首をつかんでいたのだめの指に、ぐっと力が入った。 「んぁ…あっ…ダメ…んっ…」 「…どうした?…」 「…のだめ…なんか…変…んっ…ふぁ」 「…いいよ、いまさら…」 すでに機能を果たさなくなったショーツの紐をほどく。 のだめの片足を持ち上げると、溢れた水がキラキラ光っている。 手を伸ばし、胸の上のさらに硬くなった実をもつまんだ。 「あっ…あ…っ…のだめ…どっかに飛んでっちゃいそ…う…デス…」 「…飛べよ」 「んっ…ヤダ、離さないで…」 「…大丈夫、一緒についてってやるから…」 潤んだ瞳を見つめるために、オレは上半身を移動して、のだめの唇にキスをした。 そして、そのまま自身をそこにあてがい、一気に突き上げた。 「!―――ふぁっ…あっ」 「…んっ…ん」 恥ずかしい音が部屋中に響き渡る。 「あっあっ…しんいちくん…っ」 「んっ…めぐみ…っ」 もっと奥まで。だれも見たことのない…お前を見たい。 …だから、お前も、誰にも見せたことのない自分を…オレに見せてくれ。 もっと顔を近くで見たくて、のだめの体を起こして オレの上に座らせた。 「んっ…!」 さらに奥まで突かれて、オレの背中に爪を立てた。 ワンピースは胸まではだけて、ブラもめくれたまま… ショーツは片足にだけ引っかかっていて… オレの動きのすべてに反応して…すごくいやらしいけど。 でも。オレの手で乱れるのだめが、すごく愛しくて… 「あっ…のだめ…もう…あっ」 「…ん…一緒に…」 「はぁっ…あっ!」 「め…ぐみ…!」 「あぁっ――――…!!」 のだめの中に大きな波が現れ、オレ自身を包み込んだ。 鼓動がのだめの中にとくとくと流れ込む。 ―――そのまま二人でソファに倒れこんだ。 自分自身が放出されると同時に、オレは自分のさっきまでの熱が急速にクールダウンしていくのを感じた。 誰かに抱かれたとか。 すごく気になるけど。…今、お前はここにオレと一緒にいて。 なのに…これ以上何を望んでいるのか…。 「のだめ…」 「…ハイ」 うっすら瞳に涙をためたのだめが、オレの呼びかけに答えた。 「…ごめん。ちょっと…どうかしてた」 「…どうして謝るんデスか?」 抱き合ったまま顔を見ずに会話を続ける。 「お前が。オレと出会う前に、誰とどうしてた…とか。もうどうしようもできない事なのに… なんつーか…その…」 「…千秋先輩、もしかしてヤキモチ焼いてくれたんデスか?」 「えっ…」 「うきゅきゅ☆実は〜途中からそうなんじゃないかなって…」 途中から…って… 人が、必死になってる時に…――! 「そう思ったら、うれしくなっちゃって☆ぎゃは☆」 「…うるさい」 さっきまでの艶っぽい表情が一気にいつもののだめの顔になり、 なぜか安心してしまった。 まだうきゅきゅ、と微笑むのだめをみて。 「…もう…そういうことにしといてやるから…服着れば?」 「ぎゃぼ…なんデスか…この乱れっぷりは…」 「今頃気づいたのか?」 「あわわわ…」 のだめは慌てて服の乱れを直し、それが終わるとオレに抱きついてきた。 「…千秋先輩、さっきの話の続き、聞いてくれマスか?」 「え?」 「さっきー、のだめもあんまり上手く言えなくて、イライラさせちゃったのかもしれませんケド…」 「いや…オレも悪かったし…」 先ほどの自分の醜態にオレはバツが悪かった。 そんなオレをたしなめるように、のだめはソファーに深く腰掛けて手をつないできた。 そしてぽつりぽつりと高野先輩との思い出を話し始める。 高校の学園祭のイベントの罰ゲームで、一緒にプリゴロ太体操を踊ったのがきっかけで仲良くなったこと。 二人とも漫画が大好きでいつも貸し借りしてたこと。 そのうちに付き合うことになったこと。 遊ぶときはほとんど、グループだったから、二人で会うのは部活の後少しだけだったこと。 会って話す話題は、もっぱら食べ物の話だったこと。 「…意外だな」 「何でデスか?」 「なんか、結構普通だなと思って」 「失礼デスね〜…」 「変態なのは…まあ、人それぞれ好みがあるとしても…それ以前にお前、風呂とかあんまり入らないし。服とか3日くらい平気で着るし。。オレも最初はかなり引いたぞ」 「実家だと結構お風呂入ってたんデスよ。ガスも止まらないし〜。それに、高校生だったら、毎日制服じゃないデスか〜☆」 …それもそうか。 昔の恋を楽しそうに話すのだめ。 恋人に進んでこんな話をする奴もあんまりいないけど…。 一つずつ、ゆっくりとお互いのことを知っていく事が。 今まで見たことのなかった、のだめの宝箱の中身をまた一つ見せてもらったような不思議な優越感。 「お前も…結構いい恋愛してたんだな」 「そう言われるとはじゅかしいデスけど…」 「こないだも言ったけど…今まで…過ごしてきた時間は、ムダだったことなんて一つもないはずだから。オレもお前も」 「ふぉぉ〜そうデスよね!!」 あの彼女の事も、彼女の音も。 日本で飛び立てなくて閉じこもっていた俺も。 あの時があったから、今の自分がある。 「…先輩も素敵な恋愛してきたんデショ?」 「…うん…まあな」 「ふーん。。」 「あんまり聞かないんだな…」 もっと怒涛のように質問されると思ったのに…。 「真一くんの大事な思い出を聞くのは、のだめがもうちょっと大人になってからにシマス!」 「なんで?」 「いまはーまだムキー!!ってなっちゃうと思うから」 「ぶっ」 のだめのめずらしく大人ぶった発言にちょっと驚いた。 オレは「ムキー!!」ってなってしまったけどな。 これって…のだめ以下? ――――まだまだオレも成長しないとダメってことか。 「でも…お前がそうやって、誰かを真剣に好きになったことがあったって話してくれたことが、…オレもなんか嬉しいし」 「さっきはヤキモチ焼いて怒ってたじゃないデスか…」 「あれは…!…そのお前が…部室で…その…やったとか…言うから」 「エ!?のだめそんな…やったなんて一言も言ってまセンよ!」 ―――え? 「…ただ、部室で『最初で最後の女になってほしい』って言われたことを思い出して…」 「はぁ?…そこまで言われて…」 「キッスは…その…したんですケド。そのあとの、のだめの雰囲気が怖かったみたいで…」 「雰囲気…?」 「なんか…すごく鼻息荒くて、モンモンしてたのが…良くなかったみたいデス。のだめも若かったからー」 「―――お前…やっぱり変態…」 「結局、最初にも最後にもなれまセンでした」 って…なってねーのかよ!! ちょっとまて。 オレの勘違いだったってことか? なんなんだ…いったい。 なんか…激しく頭痛が…。 「ん?…ちょっと待て。『最後にもなれなかった』って…どういう意味だ?」 「エト…その後、高野先輩、お姉さんになっちゃいましたカラ」 「はぁ!?」 「そのー、自覚症状がなかったみたいなんデスけど。のだめとの一件で、なんかわかっちゃったみたいで…」 「わかったって…何が」 「今は、福岡でニューハーフのお店でホステスやってマス!今でもメールで恋愛相談に乗ってくれてますヨ!」 ―――――頭が…混乱してきた。 …相手も普通の男じゃなかったし…。 のだめにとってはそれってショックじゃないのか? つーか、一番今、ショックを受けたのは…このオレだ。 やっぱり…こいつ… 変態。 「のだめは真一君の最後の人になりマス!」 「…もういい、お前。部屋に帰れ」 「え〜何でデスかー!今度一緒に高野先輩のお店に行きま」 「ふざけんな」 のだめが言い終わるか終わらないうちに オレはのだめを部屋からドンッと追い出した。 ―――はっきり言って…今日はもう疲れた…。 のだめの過去の事は…もう二度と聞かない。 オレは寝不足と頭痛を抱えながら 深い眠りに落ちていった―――。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |