千秋真一×野田恵
![]() くそっ! このオレ様に敗北感を味わわせやがって!! そーやって余裕かましてんのも今のうちだ。ぜってー負かしてやる。 「S−1グランプリ【REVENGE】」 はぐはぐと呑気な顔して目の前のパスタを片付けていくのだめ。 オレはその様子をワイン片手に眺めながら、頭の中で作戦を練っていた。 「先輩はもう食べないんですカ?」 もぐもぐとパスタを口に入れたまま話すのだめに「飲み込んでから話せ!」と つっこんで、溜息をつく。 それじゃーコレいただきますヨとオレの皿からピッツァを一片奪い取り ムッキャーおいしいデスーと奇声を上げる目の前の女を見て。 やっぱこいつは色気より食い気か……。 頭を抱えた。 どうやらオレの手持ちのカードは、こいつに通用しそうにない。 なんでオレこんな奴とつきあってんのかな、と今さら不思議に思いつつ、 そんな彼女相手にイケナイ妄想をして頬を染める、千秋真一23歳であった。 「ぷふー。お腹いっぱいデス」 アパルトマンの階段を、お腹を擦りながら満足そうに上るのだめに そりゃあれだけ食えばな、と一人呟く。 何か言いましタカ? いや別に、と他愛も無い会話を交わしつつ。 部屋の前まで辿り着いた。 「それじゃー先輩ごチソウサマでしたオヤスミナサイ♪」 え!? と振り向くとそこには自分の部屋に帰ろうとするのだめの姿。 あわてて「ピアノ弾いてかないのか?」と呼び止めるとじぃ、とこっちを見つめる。 「な、なんだよ」 「……なんだかのだめ、身の危険を感じるんデスよね」 ギクリとするも、オレはなんとか平静さを装うことに成功した。 「なんだそれ? 人がせっかくコーヒーでも入れてやろうかと思ったのに」 それでもなお疑いの眼差しを向けるのだめに目を逸らしながら 「……しかも、デザートつき」 はう〜でざーと! 飛び上がってオレの腕にしがみつくのだめに。 オレはこっそりガッツポーズを作ってニヤリと笑った。 Round1 褒める キッチンでコーヒーを入れてリビングのサイド・テーブルに置き。 ソファに腰掛ける。 のだめは待ってる間ずっとピアノを弾いていて。 呼びかけると嬉しそうにオレの隣に座った。 「あれ? 先輩デザートは〜?」 テーブルの上にコーヒーカップしか置かれていないことに気付き、のだめは不満そうな 声を上げる。 「うるさい。デザートは後だ!」 それよりも、とオレはのだめの肩を抱き寄せて耳元で囁くように言った。 「……今日のおまえ、なんか可愛いな」 ものすごく恥ずかしい台詞だが、これも勝負のためだと必死に耐える。 ちょっと驚いたような顔をしているのだめに、いけるか!? と思った瞬間――。 「……ぶっぎゃはははハハハハ―――ッッッ!!!」 ひーおかしすぎデス先輩似合わないぃ〜と腹を抱えて転がるのだめ。 せっかく彼女を褒めたのに、その本人から大爆笑される男、千秋真一23歳。 「笑うな――っ!!!」 と顔を真っ赤にして叫ぶ姿があった。 Round2 餌付け プルプルと怒りに身を震わせていたが、これではいけないと気を取り直し。 いまだ笑い転げているのだめを無視して再びキッチンへと向かう。 冷凍庫の中からジェラートを取り出してオレは作り笑いを浮かべた。 「ほら、これ前からおまえ食いたがってたヤツ」 オレの声に反応したのだめは、途端に目をキラキラとさせた。 「おおぅ! それはラ・グラッサの!!」 以前街を二人でぶらついていたときに、のだめが「おいしそーデス」と見つめていた ジェラート屋『ラ・グラッサ』。そのときは焼き栗食べたあとだったし寒かったので 却下したが、この間思い出してオレはこっそり買っておいたのだった。 それがこんなときに役に立つとは……! 「チョコとラムレーズンどっちがいい?」 チョコレート〜♪ と叫ぶのだめにカップを渡しながら、やはりこいつは 食べ物で釣るのが正解だなとほくそえむ。 はう〜んシアワセとあれだけ食ったにもかかわらずパクつくのだめの顔を 内心呆れて見つめていると。 口元にチョコレートが付いている。 きれいに食えよと思ったオレの頭に突如ひらめくアイデア。 「おい、チョコついてるぞ」 へ? ドコですかと間抜け面するのだめの顎をひょいと持ち上げ。 ぺろり、と舐め上げた。 途端に赤くなるのだめに、これはいけると踏んだ瞬間――。 わざと口のまわりにチョコレートを付け、目を瞑って唇を突き出すのだめの顔が 目の前に。 のだめが変態であることをこのところすっかり忘れていた千秋真一23歳。 ふざけんな――っ!! とウェットティッシュを彼女の顔にぐりぐり押し付ける 彼の姿がそこにあった。 Final Round 最後の手段 「そ、それじゃデザートも満喫したしのだめそろそろ帰りマス」 オレの怒りにおびえた様子でそろりそろりと帰り支度をするのだめ。 ここで帰したら完っ璧にオレ様の負けになる! そうはいくかとその腕を掴み、とっさに言った。 「帰るなよ、今夜」 しばらく続いた沈黙を破ったのはのだめだった。 「……それ、前に他の女の人に言いませんでしタカ?」 な、なんでわかるんだ!? と図星を差されて動揺しまくる男、千秋真一23歳。 のだめは冷たい視線を彼に送りつつ、玄関のドアに手を掛けた。 こーなったらもう最後の手段だ! オレは出て行こうとするのだめを抱き上げ、後ろ手で鍵をかけ。 そのまま寝室に直行した。 「ちょ、ちょっとなにするんですか降ろしてくだサイ!」 腕の中で暴れるのだめをベッドに放り投げ、上に覆いかぶさる。 「お前が悪い」 オレの言葉に何か言おうとするのだめの唇を自分のそれで塞ぎ。 ワンピースを剥ぎ取ってその肌に手を這わせた。 やがて漏れ出す「……あっ、ん」という甘い声に勝利を確信するも……。 次の日の朝――。 「の、のだめ、足ガクガクで動けまセン」 「……オレも、腰いて」 ベッドの上に裸のまま倒れる二人の姿があった。 千秋 VS のだめ 結果 引き分け、か? ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |