呪い(いのり)
番外編


とある路地裏。日中でさえあまり陽が射さないような場所に、彼女は独りでいた。
もう深夜だというのに中学生くらいだろうか、よく見れば彼女の服は強く引っ張られた痕があり服の下には普段の生活では見えないであろう位置に多量の痣が残っていた。

彼女の眼は虚ろではあるものの先程までの『行為』ははっきりと彼女の眼に焼き付いている。むしろ自分が犯されている様をまるでそういった設定指向のアダルトビデオを観ているがごとくただただ見ていた、というべきか。

いつものこと。

学校に行かなくなったのは何時からか覚えていないし、学校に行けなくなったのも何時からだったか。「いじめを苦に自殺」なんて馬鹿馬鹿しいにも程がある、真の苦しみとは死すら赦してくれないというのに。
例えば、はじめの頃はただの無視でしかなかった。最初のうちは此方も無視していれば問題はなかったが、いつしか私はクラス全員を無視しなければならなかった。
例えば、はじめの頃は陰口を叩かれるだけだった。見過ごしていればよかったが、いつしか私は眼を閉じて過ごさなければならなくなった。
教員が助けてくれた事もあった気がする。私の名前が出席簿から消えたのは何時だっけ?
親が護ってくれたのは何時までだったか、結局両親は私の傷を見ないことにしていた。
今日は母親にぐーで殴られた。ほっぺたとかじゃなく、胸の左側を。
私が外に出れば、近所のおばさん達が野次に来る。

「ダイジョウブ」「ナンデモハナシテネ」「ワタシタチダケハアナタノミカタヨ」

私の頭を撫でた手をひたすら袖で拭う奴は味方ではないと思いたい。

そして、路地裏だ。私をゴミだと思って近寄ってきた烏達が急に飛んで行ってしまったと思ったら、今度はいけすかない男達がぞろぞろやって来た。
長身の男が私を拾い、笑いながら腹を殴り、はしゃいで私にソレをぶち込む。つまらない声しか出なくなった口にまた別の男がぶち込む。まともに水分をとってないままに此処に来たから、多分上も下も気持ち良くはないだろう。
私は、道具にすらなれない。

しばらくして飽きたのか、男達は消えていった。私は動けるようになった後、散らばっていた服を集め、着て、そしてまた先程のように寝転んだ。
まだ体のなかにある白い濁った遺伝子の塊は取り出していない。どうせ関係ないし。表面や周りの精液も寝転んだ際に身体にまとわり付くが、既に穢れた私にはお似合いだろうか。

雨が降ってきた。私の体を冷やしてゆく。しかしその水は決して私を清めてくれるモノではない。

……酸性雨の中身ってなんだっけ。硫酸とかだったらいいな、このまま皆を融かしてくれないかな。


「大変だったね」

……幻聴が聞こえた。ひとっこひとりいないこのろじうらに、しゃべるしろい人形なんているはずがない。

「……いつものことよ」
「そうなんだ、それは知らなかったなあ」

いつになく言葉が出る。出せる。性的排泄物飲んで喉が潤うとか、変態かっての。

「君は願いを叶えたくはないかい?」

………………………願い?

「それは例えば幸せを望んだり、希望を手にしたり、逆に不幸や絶望を吹き飛ばすものでもいい。復讐なんてのもあったね。まぁプラスの変化を望むなら言っておくけど」

わたしの、ねがい。

「受けた希望に等しいだけの絶望がはね還ってくるけど、それも今の君が受けている絶望からしたら些細な物だろう?」
「願い、は」
「祈りは魔法を生む。君達は魔法少女になって呪いから産み出された魔女を退治して」
「魔女にして」
「……驚いたな、自らの運命を受け入れたいのかい?僕が今までに契約した少女達は運命から逃れるのに」「魔女に、して」

私の祈りを。皆に届けて。

「解ったよ。それが君の願いだと言うのなら、」

インキュベーターは彼女の胸元に近付き、痣だらけの皮膚を突き通り、エネルギーのたっぷり溜まった魂を抜き出し、
真っ黒なソウルジェムに換えた。

すぐにソウルジェムには白い穢れが貯まって、真っ白なグリーフシードと銀色の美しい魔女が誕生すると、

魂のなくなった唇が、にやりとわらった。



Innocent
命の魔女。その性質は祈り。深い深い祈りに沈んだ彼女は、永遠に名前も知らない誰かの幸せを祈っていて、






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