サーティン・イヤーズ・アゴー
鹿目タツヤ×暁美ほむら


注1:タツヤ×ほむら物 
注2:改変後世界13年後


暁美ほむらとは何者なのだろうか。

十何年と顔を合わせている鹿目タツヤにもよく分からない。
タツヤが物心ついた頃、遊び場にふらりと現れて知り合った謎の女。
いつも顔を突き合わせている訳じゃないけど、
会いたいと思った時にはいつでも会える、不思議な人だ。

美人で頭が良くて運動神経が抜群で。
勉強を教えてくれたり、自転車の特訓から逆上がりの練習まで何故か色々と世話を焼いてくれる、
姉のような存在。

しかし何処に住んでいるか分からないし、何をしているのかも不明である。
そもそも彼女は何歳なのだろうか?
タツヤの記憶では初めて会った3歳の頃から、その容姿が変化している記憶が無い。

タツヤは自分が16歳の現在、ほむらは三十路手前くらいではないかと推測しているが、
他のことはともあれ、年齢だけは絶対聞かないようにしている。
小学生の頃に無邪気な子供心のままに尋ねたら物凄い剣幕で怒られたのだ。

「―――姉さんは貴方を、女性に歳を聞くようなデリカシーの無い男に育てた覚えは無いわ」
「ぎゃあああ!!」

何処からともなく黒い弓矢を取り出したかと思うと、放たれたのはビーム兵器の雨。光のマシンガン。
とっさに避けなければ後ろにあった街路樹や看板のように蜂の巣になっていたかもしれない。
まさか、とても優しい『ほむ姉(ほむねぇ)』からあんな折檻を受けるとは思わなかった。死ぬかと思った。
女性に歳を尋ねることの愚かしさをタツヤは身をもって知ったのである…。

そんな不思議な彼女が更におかしくなったのはここ1年くらいの話だ。
余裕のある年上のお姉さんから、獲物を狙う虎のような厳しい目つきをするようになった。


「こんにちはタツヤ」

「こんにちは、ほむ姉…」

その日帰りの通学路で会ったほむ姉は何時にも増して不気味なオーラを纏っている。
絶対に何か悪いことを企んでいそうな雰囲気。
背筋に冷たいものを感じで、気付くとじりじりと後ずさっているタツヤ。

「どうしたの?姉さんの顔に何かついてる?」
「ついてないけど…!なんか今日の…って言うか、最近のほむ姉はちょっと変だ!!」
「あら失礼ね。ちょっと、我慢ができなくなってきただけなのよ」
「え―――」

邪悪な笑み。伸ばされる手。掴まれる襟首。

「ちょっ、ほむ姉―――」
「来なさいタツヤッ!!」

ぴゅー、という間抜けな擬音が似合うワンシーン。
次の瞬間には鹿目タツヤは拉致られてしまっていた。
中学生の男の子の襟首を持ったまま見滝原市内を猛スピードで疾走する黒髪の少女の姿は、
この日人々の印象に強く残っていたという。



タツヤが初めて上がらせて貰うほむらの家。
文武両道で才色兼備なほむ姉の自宅とあらば、平時ならドキドキワクワクしながら上がり込んだに違いない。
しかし今日は一切の興奮を覚える前に、タツヤは風呂場に連行され、裸にひん剥かれて隅々まで洗われた。
石鹸をつけたナイロンのタオルが、容赦なく背中のアカを落としていく。

「ちょ、ほむ姉…!!風呂くらい一人で入るって!!」
「ダメよ!せっかくなんだからお姉さんと一緒…!!昔はよく一緒に入ったでしょう!?」

身体と頭を洗われた後、共に湯船へと落ちる。
確かにタツヤの家で一緒に入るのは日常茶飯事だったし、銭湯でもよく一緒に入ったが…。

「小学校の低学年までだろ!!熱い、このお湯熱い!!もう出たい!!」
「ダメ!あと20数えてから!!」

色気も何も無いまま嵐のようなお風呂タイムは過ぎ、身体を拭き、ドライヤーで頭を乾かされて、
さっぱりしたトランクス一丁のタツヤの身体は奥の六畳間に引っ張り込まれる。

「…ほむ姉の部屋って畳なんだ。もっと洋風ぽいかと思ってた」
「昔はホログラムでスタイリッシュな雰囲気も演出してたんだけど、最近はこっちの方が落ち着くのよ」

いい加減歳かしらね、と呟きながら畳に布団を敷いていくほむら。
その様子を見ていると、タツヤもようやく今日のイベントが何なのかを把握できた。
敷かれた一組の布団。しかし人間は二人。具体的には男女が一組。
この年齢の男の子には過ぎる刺激。
タツヤは出そうになる鼻血を堪え、バスタオル一枚だけを巻いたほむらを凝視する。

「ほむ姉…これは…」
「そうよ。タツヤももうお年頃なら分かるでしょう」
「本気なのか。ほむ姉……」
「当たり前でしょう?」

髪をさらりと流し、ほむらの笑みは更に悪くなる。
既に獲物は籠の中。
六畳間には、ほむらの「ふふふふふふふふ」という、魔女を思わせる笑い声が響いていた。





「…なぁ、ほむ姉」
「どうしたのタツヤ」
「どうしたのも何も……なんだよ、これ」
「何って、リボンよ?動かないで、ずれてしまうわ……はぁ、はぁ…」

普段のほむらのクールさとはかけ離れた荒い息。
焦点の定まらぬ目。
そして怪しい手つきで、新品の赤リボン二本をタツヤの髪に巻こうとしている。

「ほむ姉が赤リボン好きなのは知ってるけどさぁ、なんで俺に巻くんだよ!?女もんだろ、それ!!」
「あら…、とても似合ってると思うわよ。お姉ちゃんとお揃いは嫌かしら…?」
「だからっ!!女もん付けるなって言ってるんだよ!!」
「そんな事言わないで!似合うわ…!!貴方のお姉ちゃんに、まどかにそっくり!!
ああ、この日をどれだけ待ったか!!タツヤが悪いのよ!?
そんな、そんな可愛い顔で、姉さんを誘惑するからっ!!」
「してねぇ!!俺は誘惑なんかしてねぇぞっ!!放せ、ほむ姉っ!!うわああああ!!」

布団に押し倒される身体。

ずり降ろされるトランクス。
にょきっと顔を出したペニスを、ほむらは口でしゃぶる。
ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ……。
えっちな水音が室内に響く。

(嘘……だろ、ほむ姉が、俺のチンコ、舐めて……)

タツヤの頭が白くなっていく。
信じられなかった。
そもそもタツヤにとってほむらとは姉のような存在なんであって、
男と女としての好きとか嫌いとか、そういう認識では無いはず、なのに、なのに……。
こんなに興奮するのはどうしてだろう。
軽く舐められただけで、もう下半身がビンビンだ。

「ふふっ…。感じてくれてるのね。こんなに大きくなって…」
「ほむ姉……んっ…!!」

今度はキス。
タツヤの股間をいじっていた彼女の顔がいつの間にか上がってきていて、唇を奪った。
唇を重ねる程度のあっさりとしたキスだが、タツヤには衝撃である。

「キ、キスした…!俺、ほむ姉と、キスして…!!ど、どうして…!?」
「大丈夫よ…。姉さんに任せればいいの。痛くしないから…」

ほむらはそう言うとたった一枚巻いていたバスタオルを取り払う。
子供の頃から何度も見てきたスレンダーな肢体だ。
凹凸は少ないが、とても三十路を前にしているとは思えないほどの艶やかな肌。
更にシャワーで火照った身体の演出する色気に興奮するのは、
思春期の男子としては当然と言えるだろう。
ましてこんなシチュエーションなら尚更。

「ほ、ほむ姉…!?」

目が行くのは彼女の股間。
ほむらの秘所から溢れるとろとろの透明な液体が、タツヤの心を燃やしていく。

「ほむ、姉……!!」
「凄く濡れているでしょ……?もう限界なのよ…。我慢できないの。
タツヤお願い。女に、恥をかかせないでね…」

そう言われればタツヤは動けない。
仰向けに寝ているタツヤのペニスに、ほむらは騎上位で秘所を宛がうと、
そのままズンと腰を落とした。

「―――――ッ!!」

ほむらの美しい顔が苦痛に歪む。
しかし弟分の前で強がりたいのか、必至で悲鳴を抑えている。

「ほむ姉ッ!?」

ペニスをぎゅうぎゅうと圧迫される快楽の中でも、
タツヤはそのことよりも自分が”姉”の処女を奪ったことに動揺している。

「ほむ姉、そんな、俺、ほむ姉の初めてを…!?なんで、どうしてだ、ほむ姉!?」
「どうしてなんて聞かないの…。貴方が欲しいと思った女に失礼、よ、んっ…!!」

上下に動くほむらの身体。
同時に動くタツヤの腰。
ほむらの中から徐々に苦痛は消え去り、膣内を犯される快楽に染まっていく。
無論快楽を感じているのはタツヤも同じで―――、
ほむらの処女マンコの強い締め付けに、ペニスには精気が漲っていた。

「はぁっ、はぁっ…!!はぁんっ!タツヤッ、タツヤァッ!!」

激しく腰を振りながら、下の口でタツヤのペニスをむしゃぶり続けるほむら。
愛液が溢れ、肌が高潮し、汗をぐっしょりと流し、だらしなく開いた口からはかわいい舌が飛び出ていて、

「ああんっ!気持ちいい、気持ちいいよぉっ!!ひはぁん!!」

とエロい喘ぎ声を上げているのだ。


(ほむ姉が…っ!ほむ姉がこんなに厭らしいなんて、ほむ姉が…!!)

益々タツヤのボルテージは上昇していく。
激しく振られる腰。
そんな中で、タツヤの下半身はもう限界に達していた。
553 :サーティン・イヤーズ・アゴー6/16:2011/05/26(木) 10:01:21.35 ID:fZfI63v5
「ほ、ほむ姉、もう我慢出来ない、ほむ姉ぇっ!!」
「ああ、あんっ!!タツヤいいよぉ、イくっ、イっちゃうからぁ!!出してっ、出してぇ!!」
「…ッ!!で、出る、ほむね―――――……!!」
「ひあああああああああああああああっ!! イクゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

達したのは同時だった。
タツヤの精液がほむらの膣内を汚し、脱力したほむらの身体はタツヤの胸へと倒れこむ。

「ほむ、姉……」
「いいわタツヤ……。でも、タツヤは厭らしいのね…。出したばっかりなのに、また大きくなってるわね…」
「こ、これはぁ……んっ……」

ちゅぱ、ちゅぱ。ディープキスの音が響く。
呆然とするタツヤを、ほむらの舌が一方的に犯しているのだが。

(ほむ姉……こんなキスするんだ…)
(タツヤ…凄くドキドキしてるのね。ふふ、可愛い……)

キスをしたままで、ほむらはささやかな胸を押し付ける。
感じる弟分の鼓動はまた激しさを増した。

「ぷはっ…、ほ、ほむ姉……」
「なぁに?タツヤ…」
「も、もっとしたいよ……、ほむ姉をもっと…」
「感じさせてくれるのね。ありがとう…」

ほむらはそう言うと、自分の秘所をタツヤの一物から引っこ抜き、タツヤの横側に寝そべった。
入れ替わるようにタツヤが腰を上げ、仰向けになったほむらの上に来る。

「じゃあタツヤ…。タツヤの好きにして頂戴」
「ほむ姉―――!!」


タツヤのそれは、若気に任せた暴走機関車のような責め。
ほとんど相手の気持ち良さなどを考えない強引な行為だ。
乱暴に胸を触り(揉めるほど無いから)、キスも一方的に蹂躙するようなワガママなもの。
しかし―――、

(そ、それがいいっ…むしろっ!!)

とほむらは考える。

(ああ……、まどか……)

タツヤが一生懸命にほむらを求めて身体を触ったりキスをしてきたりしている。
そしてその顔つきにリボンが、今となってはヒトとして存在しない親友の姿を想わせる。

(ごめんなさい、まどか、タツヤっ…!!)

相手は弟分……しかも親友の実弟。
それに親友の面影を見て、犯されて感じるという、なんとも背徳的なプレイ。
一緒くたにしてしまって二人に失礼なことは重々承知なので心の中では謝る。
けれどほむらは止めない。
自分を止められない。

暁美ほむらは生まれてから今日まで処女だった。
いつかまどかの所へ行くまで純潔を保とうかとも思ったが、やはり無理なのだ。
性欲は食欲、睡眠欲と並ぶヒトとして当然の生理現象。
生物学上の女として、男の身体を断ち続けるというのは物理的に限界があった。
なら親友の面影を残す弟を選びたい、溜まったモノを彼に発散させて欲しいという、これはほむらのエゴ。

「ほむ姉っ、ほむ姉っ…!!」
「あっ、タツヤァ!!」

再び挿入されるペニス。
始まるストローク。
完全に痛みが消えた状態での性交、その気持ちよさにほむらの思考回路がショートしていく。

「タツヤッ、イイ、イイッ…!!イかせて、このままっ!姉さん、イかせてっ!!」
「はぁ、はぁっ…!!イくよ、ほむ姉、俺、イくっ…!!」
「タツヤ、タツヤ、タツヤァッ!!イくからっ、見てて…!!姉さんのイくところ見てぇっ…!!」
「ほむ姉…、ほむ姉…!!」
「イ、イっちゃううううううううううう…!!」

再び注がれる精液。
ほむらは弓なりになってそれを受け止め、大きく叫んだ後、ぐたりとなった。
タツヤも縮んだ自分のペニスを引き抜くが、もう力が入らずに横になる。
そして隣に倒れたタツヤを、ほむらの腕が優しく包み込む。

「ほむ姉……、俺疲れた…」

「少しお昼寝しようか。このまま……」
「うん――」

タツヤは思った。
とんでもない事をしたという意識が何処か他人事のように感じるのは疲れのせいだろうか、と。
それとも幼少時からずっと抱擁を受けてきた、この姉さんの暖かさのせいだろうか。
薄れていく意識。
完全にそれが途切れる直前、タツヤは先に寝入ってしまったほむ姉の、

「まどか……」

という寝言を聞いた。





『まさか、ほむらちゃんがタツヤを襲うなんて……こんな超展開には神様もびっくりだぁ!
というか、タツヤに赤リボンさせて私の真似させるって、凄いアブノーマルなんじゃないかな!?
ほむらちゃんは何処に行こうとしているんだろう!?
そもそもほむらちゃん、戸籍上は今年で27歳だよね!?
ループ入れたら実年齢はそれを遥かにぶっちぎってるよ!
16のタツヤを襲うって、犯罪の匂いがするんだけど!!』

すげぇ俗っぽいことを大声でのたまっているピンク色の怪奇現象が発生している。
タツヤはそいつを幼少時からなんとなく傍に感じながら生きてきた。
ピンクのフリフリの服を着て、どんな時だって見守ってくれていた。
名をまどかという怪奇現象。
ほむらが言うには、色々あって無かったことになった、タツヤの実姉だ。
今までタツヤの”姉”は「ほむ姉」一人だったはずなのに、
初めて聞かされた時でも自然と納得できてしまった。すんなり過ぎる程に事実を受け入れられた。
両親の記憶にすら存在しないが、こいつは鹿目まどかという、実の姉なのだと。
だって、彼女の存在は同じ親から生まれたとしか思えないほどに、自分と近しい雰囲気を纏っていたから。

とは言え、流石に現実ではここまで確かにまどかを見ることは無い。
だからこれは夢だと分かる。
寝る直前、ほむらの寝言を聞いたことがトリガーとなって発生した怪奇現象。
そこで鹿目タツヤは実姉と対峙しているのだと。

「姉貴…」

ほむらと区別するために、何時しかタツヤは彼女をそう呼ぶようになっていた。
昔と同じままの「まどか」、ほむ姉に倣った「まど姉」、ノーマルに「まどか姉ちゃん」などと色々考えたが、
一番近しい人なのなら呼び方は簡潔がいいと思った。
その「姉貴」は、今日の弟の行動を両手を広げて讃えていた。

『おめでとうタツヤ、初体験だねっ!!弟と親友が仲良さそうで、お姉ちゃんはとても嬉しいぞっ!!』
「あ、そう…」
『…どうしたのタツヤ。ほむらちゃんじゃ物足りなかったの?』
「そんな事は無いけど…。いやそんな訳な無いけど…!複雑だよ、こんな夢見てるのは…そのせいだ」

タツヤは認めたくはなかった。
実姉もほむ姉も好きだから。
けれどこの感情に間違いは無い。
鹿目タツヤは間違いなく、この瞬間にも―――

「ほむ姉のことは……、俺にも分からないことだらけだ。
けど1つだけ確かに分かってることがある…。
ほむ姉が昔から俺の世話を焼いてくれているのは、俺が姉貴の弟だからだろ!?
ほむ姉は姉貴が大事だから…けど姉貴が消えたから、仕方がなく、義理っていうか、代わりにっていうか、
とにかくそういう気持ちで俺と一緒にいてくれたんじゃないか!!
俺はほむ姉にとって、姉貴の代用品に過ぎないんじゃないのか、って事!!
今日、ほむ姉が俺に姉貴の真似させたのはそういう事じゃないのかよ!!」

―――実の姉に嫉妬している。


『タツヤはほむらちゃんの事が好きなの?』
「…分からない」
『嘘ばっかり』
「姉さんとしては好きだよ!!でも、男と女してとか、そういうのは分からないっていうか!!」
『本当?』
「本当だ!!」
『本当〜〜?』
(なんなんだよこの目は………)

まどかの瞳はとても神々しい光を放っているが、その眩しさは逆に恐ろしくもある。
タツヤは実際、自分がほむらのことをどう思っていたのかということに答えは出せていなかった。
答えを出すのが怖かったのかも知れない。

11歳も年上の女性に恋愛感情を持つことをタブー視して、
「姉としては好き」という縛りを無意識の内に自分に課していた。
何時からそうしていたのかは分からない。
そんな時間があまりに長かったものだから、タツヤは自分がほむらをどう思っているのか、
自分で完全に見失ってしまっていた。

けれど今日彼女を抱いて。あの寝言を聞いて。
こうして実姉の光に晒されると、少年が心に敷いた黒のカーテンは瞬く間に消滅していく。

(あ―――)

膝をつく。
まさに神に懺悔する信者のように、少年は露になった胸の内を告白した。

「俺、ほむ姉が好きなんだ。好きだった。小学生くらいからずっと……」
『でなきゃ私に嫉妬したりなんかはしないよね、そりゃあ』
「くそっ……!!」

こうなると、余計に悔しさが込み上げてくる。
自分の考えでは――、ほむらにとって、鹿目タツヤは鹿目まどかの代用品。
まどかの弟だからとか、同じまどかを知る者同士だからとか、そういう義理で繋がっている微妙な関係。
タツヤは暁美ほむらを真剣に愛しているのに。
この擦れ違いは、少年の心を腐らせるに充分である。
しかし地面を叩くタツヤとは対照的に、目の前の姉は微笑んでいる。
泣いてる赤子をあやすかのように、16歳の少年の身体を両腕ですっぽり包み込んだ。

『落ち着いてタツヤ』
「落ち着いていられるかよ!!」
『大丈夫だから、お姉ちゃんの話を聞こう。ね』

そう言ってまどかがタツヤの背中をさすると、瞬く間にタツヤの興奮は収まっていく。
あの眼光、この声。
見る者聞く者の気の高ぶりを完全に消し去ってしまう程の、この圧倒的安心感は何なのだろう。
自分だけでなく、全ての人間はコイツを前にすると和みきってしまうのではないかとすら、タツヤには思えてきた。

『落ち着いた?』
「…話くらいは聞く」
『オーケー。私が言いたいのはね、それほど気にすることじゃ無いってことだよ』
「どういう事だ」
『だって考えてもみなよ。私って、もうこの世界にはいないんだよ。

いくら好きだって、存在しないモノと恋とか結婚とか出来ると思う?
人は人、神は神だよ。住んでいる場所が違う私を嫉妬の対象にすることがそもそもズレてる。
例えばだけど、アニメのキャラに嫉妬しても意味が無いでしょ』
「けど、ほむ姉の一番は姉貴なんだろ!?」


…若いせいかやっぱりよく分かっていないな、とまどかは思った。
まどかとほむらの交わした約束。その友情。それは疑いようが無い。
ほむらはまどかの護りたかったこの世界の為に、命が尽きるその日まで戦い続けるだろう。
その面でのまどかとほむらの絆は絶対で、他人の入り込む余地は無い。

しかし人は戦いだけに生きてはいけない。
もっと言うなら、戦いも、食べることや、寝ることや、遊ぶことや恋することやSEXすることと同じ、
昔から続いてい来た極々あたりまえの「人の営み」の一部なのであって。
その「人の営み」を続けるには、結局神ならぬ人の支えが必要になる。
超越者では無い…同じ土を踏み染めた同胞無くして、人は前になんか進めやしないのだ。
人より強い力を持った魔法少女だってそれは同じ。
だって心は人間なんだから。
だから、ほむらがこれから新しい友人を作ろうと男を見つけようとまどかは微笑ましく見守る。
そういった休みを挟みながら、ほむらはまどかとの約束を完遂する為に世界の終わりまで闘っていくだろう。

『まぁつまり、やりようによっては、タツヤの努力次第では、
タツヤにもちゃんとほむらちゃんと結ばれる可能性があるってことだよ』

物分りの悪い弟にそこまで伝えるにはそうとうの時間がかかってしまったが、
質疑応答を挟みながらも、姉弟の会話はとうとうゴールに行き着いたのだった。

「本当なのか!?」
『けど、ほむらちゃんの人生は他の人よりは長いからね。
仮にタツヤが一生を全部ほむらちゃんとの時間に使っても、
ほむらちゃんにとっては長い長い人生の中の一瞬に過ぎない。
ほむらちゃんの全てを独占するのはきっと、っていうか絶対に無理だよ?』
「俺が死んだ後のことなんかどうでもいい!!
俺が、俺が生きてる間に、ほむ姉と一緒にいたいんだから!!」
『よし。それだけ分かってれば、もう私が相談に乗ることは無いよね。後はタツヤの問題だよ』

この時、タツヤの視界が歪む。
眠気が消える、身体が起きようとしている。
この姉弟の会談もぼちぼちお開きになるだろう。

「…なあ姉貴。最後に聞きたいんだけど」
『何?』
「姉貴ってずっと俺のこと見ててくれたと思うんだけど……今日はこうして夢の中にまで出てきてくれたけどさ。
ほむ姉からそういう話って聞かないんだよな。ほむ姉には会いに行かないのか?」
『ルールだから無理だよ?ほむらちゃんも分かってることだけど』

魔法少女がまどかに会えるのは死の間際だけ、というのがまどかの作ったルールの肝。
ここが崩れると世界のバランスが崩れる。
だからまどかはほむらの前には出て行かない。

『けどタツヤは魔法少女じゃないし……それに、私にとっては生涯でたった一人の弟だもん。
生前はあんまりお姉ちゃんらしいことしてあげられなかったから、この位の世話焼きくらいはしようかなと。
この問題ばっかりは他に相談に乗ってくれそうな人がいなさそうだしね』

タツヤは知る由も無いだろう。
当時小学生5年生の鹿目まどかが、初めて弟が出来ると聞かされた時、どれだけ喜びまくったか。
図書館から育児の本を借りて読みふけり、どれだけ「良いお姉ちゃん」になるための勉強に心血を注いだか。
鹿目タツヤは、鹿目まどかが一番最初に、産まれたことを祝福した愛しい存在。
抱っこして、お風呂に入れて、ベビーカーを押して……愛を注いだことさえ、今となっては誰も知らない過去。
ほむらとの思い出はほむらの中にもあるが、弟との思い出はまどかの中にしかない。

この世界ではタツヤが3歳からの13年、ほむらがタツヤの姉をしてくれている。
それはまどかにとってとても嬉しいことで誇らしいことだが、まったく気にならないといえば嘘になる。
タツヤがまどかに嫉妬しているのと同じように、まどかはほむらに嫉妬していた。
そこは神の沽券に関わる…とかはどうでもいいけど、お姉ちゃんとして弱みを見せたくないから言わない。

『まあそんな訳だから。頑張りなよ』
「分かったよ。じゃ、またな姉貴」
『ばいばい〜』

適当に手を振って解散する。
姉と弟の別れ方なんかこんなもんでいい。
タツヤがどうしても困った時か、神の気まぐれが働いた時には、こんな座はまたあるだろう。




タツヤが目を覚ますと、もう部屋は暗かった。
寝たのは夕方5時くらいで……4時間くらい眠っていたらしい。

布団にほむらの姿は無かった。
台所の電気がついていて、包丁のトントントンという小気味の良い音が響いている。

タツヤは布団から這い出ると台所を覗いた。
髪を纏めたほむらが夕食の支度をしている。

「おはよう、ほむ姉…」
「おはよう、タツヤ。もうすぐご飯できるから、お布団を押入れに片付けてテーブル出して頂戴。
シーツは汚れてるから洗濯機に入れて。洗濯機、場所分かる?」
「ああ、風呂場にあったな…。そうだ、こんなに遅くなってるなら家に連絡…」
「おじさまとおばさまには、今日はうちでご飯食べるって電話しておいたわよ」

流石はほむ姉は手回しがいいと関心しながら、言われた作業を終わらせて、ついでに配膳も手伝ってご飯を食べた。

「…」
「…」

しかし会話は無い。まったく無い。
丸い卓袱台を挟んで、姉弟二人黙々とご飯を食べる。
それぞれが気まずい雰囲気を感じてしまっているせいだ。
沈黙を破ったのはほむらが先。
箸を置き、頭を下げた。

「ごめんなさい……ッ!!」
「ほむ姉!?」
「本当に我慢できなくてっ…!!男の身体が欲しくなって、やってしまったの、ごめんなさい…!!」

初めて見るほむらの顔だった。
こんなにも涙を滲ませて人に謝っている彼女の姿をタツヤは知らない。
けど起こったことの重大さに比べて、タツヤは落ち着いていた。
先ほど見た夢のせいだろう。
実姉に軽く聞いたほむらの置かれた状況を鑑みれば、仕方が無いことだと思った。

「いいよ別に…。ほむ姉だって女なんだし仕方が無いって…。色々頑張ってるんだろ、謝られても俺が困るし…」

目を逸らしそんなことを口走ったタツヤに、ほむらは強い違和感を覚える。
タツヤが3歳の頃から、姉としてずっと見守ってきたほむらだ。
その成長の過程は現在まで記憶しているが、この坊やはまだこんな思考をするような子では無かった。
誰か入れ知恵した人間がいると、ほむらの直感が働く。
そして寝ていた僅か数時間の間にそんなことが出来る、あるいはしそうな奴は一人しかいない。

ふと脳裏にツインテールのピンクが浮かび上がる。

「…ッ!!」

ほむらは動揺する。
更に何故そんな現象が起こったのかにまで思いを巡らす。
そしてほむらはほぼ正確に答えを見出した。
複雑な色模様が心の中を蠢き、何と言ってよいのか言葉に詰まったが、
やはり今するべきは謝罪なのだとほむらは思った。

「ごめんなさい」
「だから謝らなくてもいいって」
「そっちじゃないわ…。多分貴方の思った通りよ。私が性欲の捌け口に貴方を選びたかったのは、
貴方が鹿目タツヤだからではなく、まどかの弟だから。嘘じゃないわ」
「そう―――…か」
「ついでに血も繋がらない私が貴方のお姉さんみたいになったのは、貴方がまどかの弟だから。
ついでに私の他に唯一まどかを知っていたから。他に理由なんて無かった」

分かってはいたことだがタツヤは辛くなってきた。
多分次のほむらの一言がなければ、タツヤは泣いていた。

「でもね」
「えっ…」

ほむらは立ち上がり、卓袱台を回ってタツヤの元へ歩み寄ると、しゃがんで弟を抱擁した。

「ほむ姉…?」
「きっかけは確かにそれだけだったけど…。あれからもう10年以上もこうしてるのよ。
今の私がタツヤに何の情も持ってないと思われてるのは、少し心外だわ。
私はまどかにはなれないけど…。私なりに頑張って、お姉さんしてきたつもりなんだけどな」

そういう意味でもまどかには適わないのか、というのはほむらのコンプレックスの1つ。
恐らくタツヤは夢の中でまどかに会って、心の靄を払ってもらった。
この世界ではまともに話すらしたことすら無いはずの、幻にも等しい存在にも関わらず、
まどかは姉として弟の心を救っている。
まどかが姉としてほむらに嫉妬しているように、その逆もここで起こっているのだ。

「何をしてもまどかには敵わないのかな、私は…」

そんな本音すらぽろりと零れる。

それにはタツヤは全力で反論した。

「そんな事無い!!姉貴は言ってた、人を支えるのは結局人だって…!!
ほむ姉がいなきゃ、俺は自転車に乗ることも逆上がりも出来なかったんだぞ!!
俺はほむ姉を頼りにしてるし、好きだ!弟としても、男としても―――!!」

さり気なく告白を込めたそんな一言に、ほむらは少しキョトンとした後、

「…ぷっ。くくくくくく……ははははははは………」

と思わず腹を抱えて笑い出す。
タツヤが自分のことを小学生くらいから意識していたのは、実はほむらには分かっていた。
けどほむら的にはあくまで弟であって、真剣にそういう事を言われると、
ときめくより先に可愛さに和んで笑ってしまう。まだほむらにとってタツヤは子供なのだ。
こうなると恥ずかしいのはタツヤの方で、顔を真っ赤にして後ろを向いてしまった。

「タツヤ〜、怒らないでよ」
「もう知らないっ、ほむ姉なんか大嫌いだ」
「確かに、今の私はタツヤのことをそういう目では見てないけど…。タツヤ若いでしょ。
もう少し歳を取って、いろいろな事を知って、かっこよくなったら考えてもいいよ」
「本当かよ」
「まどかもそう言ってなかった?」

タツヤは答えなかったが何かを思い出したらしい顔色からほむらは答えを知って、穏やかに微笑んだ。

「さぁこの話は終わり。ご飯食べようご飯」
「そうだな…」

座布団に座り直し、再開される夕食。
これからの長い暁美ほむらの人生の中で、鹿目タツヤと過ごす時間がどのようなものになるのかは、
神のみが知る事である。






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