ヤンデレのマミさんに死ぬほど愛されて(まどかが)眠れない
巴マミ×鹿目まどか


・前半でマミさんが体を売っています。
・真ん中でまどかとさやかが不特定多数の男から乱暴されます。
・後半でマミさん×まどかが入ります。
・全てのマミさん生存ネタ、マミさん黒化ネタを書いて下さった皆様に心からの賛美を捧げます。


巴マミは両親がいない。というのも彼女が魔法少女という新しい命を得る際に交わした契約内容
には、事故に遭った両親の命が含有されていなかったからである。畢竟どういうことかと言えば、
彼女は食い扶持を自分で稼がねばならなくなったということだった。そして、彼女は自分の器量が
どのようなものか――少なくとも顔を背けられる程度ではないと――承知しており、人類の起源か
ら続くと言われる職業の存在も知っていた。
平たく言えば、マミは体を売っていた。
と言っても学校ですら友達付き合いが薄いマミに暴力団などの後ろ盾が構築できる訳もなく、フ
リーの同業者に自分の縄張りを荒らされたと思った売春婦たちがヒモやマネージャーを嗾けてきた
こともあった。突然現れた、何の組織が後ろに就いている訳でもなく、また若い競争相手は、彼女
たちにとって敵意と嫉妬の的だった。しかし、彼等が放ったヒットマンはマミが所有する圧倒的な
軍事力――魔法少女の力で排除され、陰謀の立案者たちも狩り立てられ「撲滅」された。
マミに言わせれば、「自衛権の行使」に他ならなかった。かつてユーラシア大陸北方を支配下に
置いた「労働者の祖国」が擁した軍隊の教書に謳われた通りである。「時として正しい戦争と正し
くない戦争についての話が指摘される。一方的にある国が他国を侵略したならば、これは正しくな
い戦争と考えられる。ある国が他国の侵略に対し防衛を行い、敵国の奥深くまで侵攻すること――
これは正しい戦争である」……マミも同様に、「侵略に対する防衛」を行っただけなのだ。
結果としてマミの商売敵は文字通り宇宙から消滅し、稼ぎ放題になった。魔女というこの世のゴ
ミを掃除し、社会のゴミも抹殺する自分は表象ものとマミは考えていた。マミ自身も「社会のゴミ」
としての収入を頼りにしていることに関しては、両親を助けもせず流れだけで魔法少女になった自
分はどのような苦役に就かされても仕方がない立場にあるという考えだった。しかし、処刑された
「社会のゴミ」に対する同情や酌量の余裕はマミにはなかった。生憎彼女は、忙しかったのだ。
こうして、マミは食い扶持に困ることはなくなった。何せ彼女は成長期である。喰わねば成長で
きないし、生きることもできない。幸いにして実入りの良い仕事ではある。マミは魔法少女という、
死を渡り歩く職業の中で既に結論していたのだ。非常事態においては、情け無用の思想が唯一無二
の美徳となり……目的の達成に手段は重要ではない。
マミが客を相手にする舞台は色々だった。客とホテルへ赴く時もあったが、制服を着ていると客
入りが良いと理解したマミは夜の路上や公園、学校の門などで客を取った。無論、マミが昼間通っ
ている学び舎を仕事場にする危険を冒したことはなかったが、学生服姿のマミが忍び込んだ学校の
中で相手をするというシチュエーションはかなり人気のコースだった。

今晩の客は三人だった。下品な欲望を剥き出しにした笑みを浮かべた三人の中年の男。マミは戸
惑っていた。マミは一人に対して一回分の料金を要求したつもりだったのだが、彼等は一回分を三
人で出したのだから三人で性行為を行うものと宣言していた。どうせ断ったら金も踏み倒されて自
分の意思に関係なく輪姦されて終わりだろうと判断したマミは、下劣そのものの笑みを浮かべた男
たちににっこり微笑んだ。

「わかりました」

名前は何と言うのか、とマミの胸ばかり見ている男が言った。彼はマミの答えを聞く前に、マミ
のブラウスからボタンを乱雑な手つきで毟り取り、外気に晒されたマミの胸をわざとブラジャーを
外さないまま捏ねくり回して楽しんでいた。ボタンを繕い直さねばならないことへの激しい憎悪を
抱えながら、マミは彼の乱暴極まる手付きにも粛々と微笑で応じた。

「巴です」
「巴ちゃんか」

ブラジャーをずらすと、この男はマミの乳頭にむしゃぶりついて吸い始めた。彼の行為から全く
マミは官能など感じず、生理的嫌悪と怖気だけを感じたが、マミの乳首は刺激を受けて充血し、男
はそれを喜色満面に吸い立てた。一方の乳を吸い立てながら、男はマミの豊かな胸を乱雑な指で揉
みしだいてその感触を楽しんでいた。
口元を歪めた男が舌なめずりをしながら社会の窓を開き、黒々と怒張した陰茎を取り出した。彼
は無言で胸を玩弄されているマミの白い頬に、臭気を放つ熱い肉の塊を押しつける。一瞬マミは表
情に嫌悪の色を過らせたが、鈴を振るような笑声を零すと、光沢のある唇に躊躇うことなく男根を
咥えた。マミは目を細めて亀頭の隅々まで舌先を這わせ、男を悦ばせる。
咽喉の奥まで咥え込み、マミが丁寧に舌先で性器の形をなぞってやると、男は一瞬で耐えきれな
くなり、マミの前髪を掴み咽喉の奥深く陰茎を差し入れて来る。このような忌々しい所作にもマミ
は慣れたもので、器用に丸めた舌先を動かし、男が痙攣する陰茎から自分の口へ吐き出し始めた精
子が咽喉へ直撃しないように受け流した。
口の中に精液を溜めつつ、マミは口に入って来た時より少し委縮した男根を吸う。尿道に残って
いた精子を吸い出されて、男が奇妙な呻き声を発した。マミの涎と精液の残滓に濡れた陰茎がマミ
の口から姿を現した。口の中に溜まった粘液の、鼻を突くような悪臭にもマミは構わず、蕩けた表
情で唇をOの字に開けて見せる。白濁した粘液を口一杯に溜めたマミの顔を見て、先ほどまでマミ
にしゃぶらせていた男は唾を飲み込む。唇を舐めてから放出された液を嚥下するマミを前にして、
彼の股間で再び陰茎が鎌首を擡げた。
馬鹿共め、とマミは思った。全く、女日照りの男の単純さには恐れ入る……

「巴ちゃん、そろそろ……」

マミの胸をいじくっていた男が、充血した男根を取り出した。マミの答えを聞く前に、彼はスカ
ートの中に両手を差し入れて、いそいそとマミの下着を引き下ろした。マミは片方ずつ足を上げ、
下着を男の手に委ねると、男が震える手で握り締め待ちかねた様子の陰茎を太腿の内側にして腰を
降ろして行く。
マミの陰毛が薄く生えた少し下を、黒ずんだ亀頭が擦って行く。男の手がもどかしげにマミの尻
を思い切り掴む。次の瞬間、マミの中へ深々と男根が突き入っていた。一方的な挿入で走った痛み
に、マミは少しだけ眉間に皺を寄せたが、マミに挿入した男はマミの表情など気付かず心地良さそ
うな表情を浮かべていた。
マミは股間に力を入れ、自分に入っている男根を肉で締めつけてやった。刹那、マミの子宮に男
根を突き入れている男が人間とも思えぬ呻き声を上げて顔を仰け反らせた。マミの胸を好き放題に
蹂躙している内に限界まで反り返っていた陰茎は、その刺激に耐え切れず、力強い痙攣と共に、マ
ミの子宮へ精液を噴き出した。
恍惚の表情を浮かべる中年の男の顔をマミが目だけに嫌悪を浮かべて眺めていると、まだ男の陰

茎を受け入れているマミの尻に大きな手が喰い込んだ。その指先はマミの臀部を左右に広げ、直後
に窄まった菫色の穴に熱を持った肉の塊を押しつけられる。
マミがそれに気付いた時には、三人目の男が三日月の形に浮かべた笑みの端から涎を垂れ零しな
がら、マミの肛門へいきり立った男根を押し込み始めたところだった。強引に括約筋を押し広げら
れる感触に、思わずマミの咽喉から声が漏れた。海老のように背筋を反らせ、三人目の男が押さえ
つけるように捕まえた両手首の先で手を握り締め、マミはその怖気に耐えた。男根はマミの淡い色
の窄まりを強引に拡張していった。
陰茎が全てマミの肛門の中に収まると、男が荒い息を吐き、マミの項を牛のように嘗めながら激
しくマミの直腸を突き上げ始めた。汚らしい匂いを放つ唾液の痕を幾つも重ねられながら、マミは
肛門を犯された。激しい動きで揺れ動く乳房を見せつけられ、陶然とマミを眺めていた、まだマミ
に挿入したままの男の陰茎が再び力を取り戻した。
マミの前の男が揺れ動くマミの上半身を抱きしめると、マミの乳首を口に含む。そして、彼も再
び下からマミの中を突き始めた。マミの直腸と膣を熱く硬い肉の塊が幾重にも摩擦した。男たちの
黒ずんだ体に挟まれて、揺れるマミの白い体はさながら人間に悪戯される白鳥の如く見えた。
二つの男の体に挟まれたマミを眺め、薄笑いをしながら陰茎を刺激している男の姿をマミは認め
た。マミは二つの陰茎に揺らされながら、白魚のような指先を伸ばすと、先程マミが舌で嘗めた陰
茎に絡みつかせ、力に緩急をつけながら動かしてやった。マミの手に包まれて、柔らかい肉の中の
充血した海綿体が更に硬度を増した。
根元から搾り上げるようにも、全体を包み込むようにも、マミは色々な動かし方をしてみせた。
マミは唇を開けて、男が喜ぶような真似の準備を始めた。尿道に白い雫が浮かび、それから陰茎全
体が動いて、再び粘液を迸らせる。飛び散った白い精子に顔のあちこちを汚されながら、マミは開
いた唇の中へ放たれた液を受け入れていった。
汗に濡れたマミの尻に指を喰い込ませ、肛門を犯していた男も絶頂に達した。マミの白い尻に爪
の痕を幾重にも刻みながら、男は歯を食い縛ってマミの直腸へ射精を始める。腹の中に熱い粘液を
撒き散らされて、マミが頤を反らせて息を吐いた。肛門を犯していた男がマミから陰茎を引き抜く
と、開いたままになった肛門から精液が糸を引いて流れ出た。
マミを下から突き上げていた男が笑みを浮かべてマミの腰に手を回し、マミの体を抱え上げる。
彼はマミを自分と繋がったまま持ち上げ、彼女の体を壁へ押しつけた。その衝撃で、陰茎がマミの
子宮の入り口まで届く。マミがその衝撃に思わず喘ぐと、引き攣った笑みを浮かべた男は動きを更
に激しくした。男が動く度、彼の背後に突き出たマミの両足が案山子のように動いた。
そして、マミの子宮を再び迸った射精が穢した。全身を官能に震わせて、マミの中へ二度目の射
精を出し終わると、男は食い縛った歯の間から息を漏らし、腰砕けに冷たい路地裏の地面へ尻餅を
ついた。その衝撃でマミは男の体から離され、開いたままのマミの下の唇から二回分の白い粘液が
垂れ流れた。
その様を見て、先程マミにしゃぶらせていた男がマミの体の上に覆い被さる。彼は白く濁った液
を流すマミの股間へ陰茎を宛がい、男の放出した液に汚されて緩んだマミの胎内へ進み入る。マミ
が乳房を乱暴に圧搾されながら、男に犯されている自分の状況を許容する。すると今度はマミの尻
を犯していた男がマミの顔の前に現れ、精液の残滓に汚れた陰茎をマミの口へ押し込んだ――

この狂った肉欲の宴は、日付が変わる辺りに漸く終わった。

マミの上下前後を堪能した男たちは充足したような、消耗しきったような笑顔を浮かべて去って
行った。たるんだ肉の間で内外を何時間も汚され続けたマミは疲労しており、男たちが分泌した汗
や精液の匂いに包まれて、しばらく路地裏に横たわっていた。マミの意志と無関係に挿入された陰
部や、好き様に弄ばれた胸、押し広げられた両足の節々などが痛かった。
粘液から液状になり、既に乾き始めた精液がマミの胸や顔、尻や臍にこびりついていた。口の中
に残っていた精子を舌で丸めて呑み下し、マミは立ち上がる。鞄の中から塵紙を取り出すと、彼女
は乱暴に自分の体を拭った。マミは手が届かない背中こそ諦めたが、一度精液をかけられた首筋は
何度も拭わなければならなかった。
行為の最中に成行きのような仕草で脱がされたスカートや下着を手に取り、マミは早々に身につ
ける。乱暴に脱がされたブラウスとブラジャーは多少の修理が必要だったが、放り出されていた金
を手にした瞬間にマミはそれらがどうでも良くなった。愛しき当面の生活費である。

「マミ、魔女だ」

白い獣が闇の中から現れ、マミに静かに告げた。微笑したマミは琥珀色の宝珠を掲げ、魔法少女
の姿へと変貌する。マミにはもう馴染み深い戦の装束だ。これがマミの日常である。これからもマ
ミは戦争を継続する。この構図には、何の問題も存在しなかった。
マミにとってこの生活は永遠に変化しないものであると思っていた。しかし、とある少女と知り
合ってから、この構図に予想外の変化が生じることになった。
マミはある時、魔女が放った使い魔から二人の少女を守った。すると彼女たちは、マミを御伽噺
の中に出て来る正義の味方であるかのように慕い、マミも何の気まぐれか二人の少女を伴って魔女
狩りへ赴いた。マミは、その一人である鹿目まどかという少女に関心を覚えるようになった。
それまで、マミは誰にも感謝を求めず戦って来た。両親も自分と一緒に新しい生命を得ることが
出来るような願いを言わなかったことは、マミに残存する拭い難い汚点となっていた。彼女は、自
分がどうなってもいいと思いながら戦っていた。魔女という暴力を振るって良い相手と、力はある
が自暴自棄と言ってもいいマミの組み合わせが背景にあった。畢竟、マミは八つ当たりに感謝など
求めていなかったのである。
だが、まどかが自分を頼もしげに見て、喜んでマミの助けになりたいと訴える様は、マミの想像
を遥かに凌駕して彼女の心を揺り動かした。まどかは、マミと一緒に魔女と戦いたいとまで言って
来た。彼女がマミの手を握り締めてそう伝えた時、マミはまどかに心を奪われた。
マミは変化した。まどかに戦いを期待してはいなかったが、マミは彼女に自分の脆弱さを吐露し
たかった。マミは、まどかに自分を許容してもらいたかった。まどかは彼女の孤独を癒し、マミが
辛さに耐え切れなくなったら抱き締めてくれるだろう。マミは、まどかを家族にしたかった。
直後の魔女との果たし合いで、マミは頭を咀嚼されそうになったが、辛くも危機を潜り抜けた。
まどかとさやかは、内心の動揺と弛緩した膀胱を常日頃の笑顔で覆い隠すマミに抱きついた。マミ
は躊躇った後、まどかの背に手を回してそっと抱き締めてみた。まどかは恥ずかしがり、さやかは
私もして欲しいと言って喜んでいるだけだったが、他人の体温を身近に感じることをマミは随分と
長く忘れていたことを確認した。
こうして、マミはまどかを未来永劫自分の傍から離したくなくなった。

マミは学校の屋上で青空を見上げていた。遠くの景色まで見えそうなくらい澄んだ空。しかし目
を少し下に向ければ、雑踏と人混み、排気ガスで澱んだ町や、魔女が潜んでいるかもしれない暗闇

が見える。マミが暮らす世界は、夢を見ながら滅び急ぐ脆弱な場所なのだ。マミが静かに空を見て
いると、静かな声がマミの背にかかった。

「授業中よ」
「そうね。あなたもどうしたの?暁美ほむらさん」

ほむらが屋上の入口の暗がりに立ってマミを見つめていた。二人は授業時間を抜け出して此処に
立っていた。二人とも「気分が悪い」という使い古された言い回しを使っていた。するとマミの肩
の上から突然声が響いた。

「ほむら、僕も君にはいくつか聞きたいことがあるんだ」

キュぅべえと名乗っている白い獣が、いつの間にかマミの肩の上に乗っていた。先程まで、彼は
二年生の教室で授業を受けている鹿目まどかの膝の上に乗っていた筈である。マミはキュぅべえの
首の後ろの皮を摘まんで持ち上げた。

「キュぅべえ、町をしばらく偵察して来てくれないかしら」
「でもマミ、もしほむらと戦いになったら、僕はまどかを契約させ――」
「鹿目さんに才能があるのだかないのだか知らないけれど、雑魚の使い魔相手ならともかく、ずぶ
のど素人をいきなり魔法少女同士の戦争に突っ込んで囮以外に役立つと思う?鹿目さんが契約し
たくなったら私が契約させるから、あなたは少し手を出さないでくれる?以前から気になってい
ていたけれど、あなたはグリーフシードを喰う以外に糞の役にも立たないのね?グリーフシード
から魔女を養殖して、屑共を喰わせてグリーフシードを収穫しようっていうプランを考えたことが
ある魔法少女は、わざわざグリーフシードを食ってくれたあなたにどういった反応を見せた?こ
の間も人様のフライドポテトを喰ったりしてくれたけれど、あなた喰う以外に一体何が出来るの?
大体願いが何遍でも叶えられるってなら、さっさと魔女を片端から消して回ればいいじゃない?
あなたと鹿目さんのどっちが私にとって大事だと思う?ところであなたの毛皮って少し臭うわ、
気付いていなかった?」
「少し町を散歩して来るよ」

キュぅべえはマミの相手が面倒になって早々に消えた。
魔法少女――ジャコバン主義者にしか務まらぬ役目にとって重要な警句の一つには、昨日の友は
今日の敵、昨日の敵は今日の友といった極めてヨーロッパ的な要素も含まれている。屋上には暁美
ほむらと巴マミだけが取り残された。

「まどかは契約させないわ」

ほむらが厳しい目をして告げた。マミは柔和な微笑を崩さぬまま頷いた。

「鹿目さんが大事なのね」
「彼女に契約させずに……私はワルプルギスの夜を超える」
「物知りね」

マミも、いつだったか愚劣にもマミに対し領土の割譲を求めた魔法少女を締め上げてその言葉を
耳にしたことがあった。当然のことながらこの侵略者はマミの「防衛」に敗北し、領土を全てマミ
に献上した上、所有していたグリーフシード全てとソウルジェムを没収された。そう言えば、マミ
が彼女のソウルジェムを伴ってその魔法少女から離れて行く内に、武装解除された魔法少女の泣き
声が途中で断ち切られたように止んだ。泣き声が止んだということはあの少女が事実を受け入れた
ものとマミは判断し、その場で侵略者が持っていたソウルジェムを叩き割ってしまった。
しかし、まどかを戦いに参加させる気はないという意向はマミにも興味深いものだった。マミは

微笑すると、背後の金網に体重を預けた。

「あなたの意見には私も賛成だわ。鹿目さんは戦いに巻き込ませない」
「先刻のは方便?」

ほむらが怪訝そうに目を眇めた。マミは笑声を零した。

「ええ。あの子まで死んでしまったら、私はどうすればいいの?やっと見つけた家族を二度と手
放す気はないわ」

マミはまるで“青い空”と口にするように自然な口調で言い捨てた。“二度と手放す気はない“
――永遠を示唆する彼女の言動は、ほむらの耳に奇妙な冷たい響きを孕んで聞こえた。ほむらはマ
ミの言動を理解しかねて目を瞬いた。

「何を言っているの?」
「そろそろ時間ね」

マミが呟くと、ほむらの足元の床が突如タフィーのように蕩けた。黄色い粘液と化した床材がほ
むらの足元を粘液のように飲み込む。床材は瞬時に硬直し、ほむらを蟻地獄に囚われた獲物の如く
固定した。愕然ともがき脱出しようとするほむらに一瞬たりとも目を向けず、マミは虚空を見据え
て申し訳なさそうな口調で言い捨てた。

「私は今から魔女と戦う」

マミはソウルジェムを取り出して光を纏った。

「少し周りに被害が及ぶかもしれない……そんな役ばかりでごめんなさい」

ほむらが悔しげに呻く前で、魔法少女のマミは足元を蹴って跳躍した。

突如、教室の窓ガラスが破砕すると、飛び込んで来た何かは音を立てて炸裂し、呆然と音に驚い
ている、教室にいた生徒や教師の首筋にその破片を突き立たせた。
まどかとさやかだけが、瞬時に自分たちを除く教室の人々の首筋に浮き出て来た紋様がどのよう
な効用を持つものか理解できた。目から光を奪われた人々が海草のように揺らめきながら立ち上が
り、虚ろな歩調でまどかとさやかに近寄って来た。さやかはまどかを庇って前に進み出る。

「まどか」
「マミさんを呼ばないと」

まどかは彼女たちが既に口を介さずとも通信が出来ることを思わず忘却し、三年生の教室へ走ろ
うと引き戸に手をかけた。まどかが力を入れる前に扉は開いた。音を聞き付けた隣室の教員が駆け
付けて来たのかとまどかが廊下に目をやると、隣室の教員と生徒たちが、首筋に魔女の接吻の刻印
を光らせ突っ立っている。
退路を断たれたことを理解したまどかが呆然と後ずさった。何をしている、と言いかけて、さや
かがまどかの前方に目をやって愕然とした。まどかとさやかは今のところ何の力もない只の女学生
である。マミが来てくれることを願いながら、二人の少女はお互いに庇い合って体を抱き寄せた。
ところが、彼女たちの互いの庇護は当初、杞憂に終わった。
魔女の刻印を捺された人々は、まどかだけを狙っていたのである。虚ろな目をした生徒と教員た
ち全員がまどかの腕を掴んでさやかから奪い取った。さやかは驚愕し、狼狽えるまどかを取り囲む
生徒たちを掴み、怒声を張り上げてその背中や頭を無我夢中で殴りつけ、まどかを救出しようとし
た。
虚ろな目をした人々は無機的な視線でさやかを見た。

自分の顔面目掛けて振り下ろされる拳をさやかは呆然と見た。顔を抑えて崩れ落ちたさやかの脛
を容赦のない蹴りが打ちのめす。続けて躊躇のない殴打が、崩れ落ちた少女の華奢な全身を叩いた。
無慈悲に続けられる打撃にさやかの唇は切れ、的確に叩かれる節々が悲鳴を上げ、鼻血が流れ落ち
て口腔に入った。
全身が痛みで弛緩したさやかは、突き倒されたまどかが蟻に囚われた獲物のように手足を押さえ
つけられ、ブラウスが乱暴に引き千切られ、差し入れられたカッターや鋏で下着が切断されていく
様を呆然と見ていた。やめろ、と口にして足に力を込めようとすると、息を吸おうとしたさやかの
腹腔に志筑仁美が蹴りを入れ、さやかは蟇蛙のような声を漏らして床の上に倒れ込む。
蒼褪めた顔のまどかは、誤作動を起こした機械のように震えながら上ずった声を漏らしている。
「助けてさやかちゃん、助けてキュぅべえ、助けてマミさん」
男の体が服を乱暴に剥ぎ取られたまどかの上に覆い被さって、露出した下腹部をまどかの押し広
げた股間に押しつけた。
まどかはさやかが耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げた。続けて男子生徒が背筋を仰け反らせ、
まどかの胎内に挿入された陰茎が脈打ちながら射精し始める。泣き叫んでいたまどかは、その動き
を感じると、喘ぎを漏らして全身を引き攣らせる。男子生徒が無機的な動作でピストン運動を開始
すると、彼女はもう声を上げるのを止めた。
さやかは目を瞑りたかったが、涎を垂らした名前も知らない男子生徒が機械的にまどかの上で腰
を振っている様を呆然と見ることしかできなかった。
それから二人、三人とまどかに体を重ねて行く内に、まどかはただ虚ろに開いた目から涙を流し
て凌辱を受けるだけになっていった。教師がまどかの前髪を掴んで彼女の顔面を床目掛けて執拗に
叩きつけると、Оの字の形に開いた血まみれの唇に黒々とした男根が突っ込まれる。だらりと伸び
るまどかの足を誰かが抱え上げ、陰茎を突っ込まれている穴の少し後ろに宛がう。彼は歯を食い縛
りながらまどかの肛門へ性器をねじ込んでいく。
凌辱を受けるまどかは、男たちの体の合間で揺り動かされる人形のようにさやかの眼に映った。
さやかが、もうまどかの体に取りついた男の数を数えることを諦めてからかなりの時間が経ち、男
たちはまどかの体から離れた。
揺れ動く影の間から現れた親友の姿に、幾度も殴り伏せられたさやかは力なく呟いた。

「まどか」

襤褸切れのようになった制服が申し訳程度にまどかの体の周囲に散らばっていた。調理された海
老のように剥き出しになった白い胴体には、真っ赤なキスマークや歯型が幾重にも施され、更に白
濁した粘液がその上に何度も吐き出されていた。破瓜の血と溢れ出した男の液で汚れた太腿の奥は、
目を逸らしたさやかには見えなかった。乱れた前髪でまどかの顔は見えなかった。
仁美や他の級友たちに押さえつけられたまま、さやかは泣いた。
突然の蹴りがさやかを跳ね飛ばした。さやかは芋虫のように転がって呻く。その上に見知らぬ男
子生徒が腰を下ろし、さやかの胸倉を掴んで、ブラウスを乱暴に破る。千切れ飛んだボタンが床を
叩く音が耳朶に妙に鋭く突き刺さり、さやかは泣き喚いて眼前の男を殴打した。
その腕を仁美たちが捕縛し、まどかがされたように、男たちがさやかの上に乗った。
一学年は優に超える量の男たちに犯されたまどかと違って、さやかは二クラス分程度の男に輪姦
される程度で済んだ。しかし、括約筋が裂けた肛門と無理矢理挿入された陰部を何度も抉られて血
を流しながら、さやかは唐突に理解した。

悲劇という分野は、数よりも内容が重視されると。
これは小市民や議会制民主主義者にとって時として共有できる思想だが、魔法少女というジャコ
バン主義者に相応しい役目を務めるものには、全く以って合致しない警句である。

「鹿目さん……鹿目さん……」

自分を呼ぶ声に、まどかは目を覚ました。悪い夢を見た後のように気分が悪かったし、その悪い
夢は現実だという事実がこれまた彼女にとって枷になっていた。自分が誰かの腕に包まれているこ
とに気付くと、彼女は悲鳴を上げて、自分を抱き止めている腕を振り払おうとした。上手く力が入
らない腕を振るって、まどかは自分を抱き止めている何者かの頭を何度も叩いた。

「離して!離して!誰か!」
「ごめんなさい、鹿目さん……ごめんなさい」

まどかの予想とは異なり、不思議なことに、その人物はまどかに大人しく殴られながら、悲しげ
な謝罪の言葉を口にした。まどかが手を止め、改めて背後を確認してみると、魔法少女の姿のマミ
が目に涙を溜めて自分を抱き締めていた。
まどかは周囲を見回してみる。
教員も生徒も服に乱れはなかったが、今は全員が意識を失って床に倒れている。マミに抱き止め
られているまどかは、頭陀袋のようになった制服を剥き出しになった胴体に被せられていた。壁に
背中を預けて気絶しているさやかもまどか同様に、破られて原形を留めていない制服を申し訳程度
に掛けられている。

「大丈夫よ、鹿目さん……私の魔法で、体の傷は治したわ」

震えながら自分の肩を抱き締めるまどかを、マミは強い力で抱擁した。しかし、マミの声は激情
を抑えきれず震えていた。

「ごめんなさい。まさか、あなたたちが狙われるなんて、想像もつかなかったの……止められなかっ
たのは全部私のせいだわ。あなたと美樹さんがこんな目に……私が遅かったから」

まどかを胸元に抱きしめるマミの眼から、何度も涙の滴が落ちてまどかの顔を叩いた。まどかに
は、マミが自分の無力を心の底から嘆き、まどかに必死に許しを乞おうとしているように思えた。
悲鳴を張り上げたせいで掠れた咽喉から、彼女はマミに声をかけた。

「マミさんのせいじゃありません……悪いのは魔女で」
「ごめんね、鹿目さん……」

マミはただ、泣きながらまどかを抱きしめていた。まどか、彼女を抱いて涕泣するマミ、気絶し
ているさやかの三人を、拘束を解かれたほむらが教室の入り口に立って呆然と眺めていた。
事実、マミはまどかに自分の無力さを何度謝っても許してもらえないと思っていた。彼女はまど
かの傷付く姿など見たくなかった。しかし、自分が傷付いたまどかを慰めることが出来るというの
なら、マミにとって話が別だった。

ほむらを拘束して排除した後、変身したマミは時計塔の上から学校全体を見下ろしていた。
学校の中では、誰もが退屈な授業に閉じ込められ、虚ろに人生を送っていた。その生命が簡単に
刈り取ることが出来るものだと思うと、マミは自分の使命の重要さを再確認し、今この人生が退屈
で堪らないと思っている輩を片端から自分の手で殲滅したいという衝動に駆られた。
今から魔女が来ることを、マミは知っていた。その魔女を、自分は倒すことが出来るだろうか、

そんな考えが一瞬マミの脳裏を過ぎった。結論から言えば、倒すことが出来るだろうか、と考えて
いるマミは一瞬で消えた。マミはその魔女に勝つ気など最初から殆どなかった。
巨大な魔女が、マミの頭上に突然現れる。魔女が大きく口を開けると、マミを頭から咀嚼し、彼
女の思考を全て吟味し、砕かれた頭を余さず嚥下する。神経の中枢を唐突に失い、統制を失って虚
空に投げ出された無力な体を、魔女が喜色満面に貪り食らった。否、この魔女は未だ自分のことを
成熟した女と思ってはいないのだから、魔法少女と呼称すべきか――
こうして巴マミが消滅し、魔法少女マミ・マギカが現れた。これから彼女の瞳の中で、破壊や殺
戮が手軽な手段となり、悲劇や惨劇は身近な結果となる。目的の為に手段は重要ではない――小市
民や議会制民主主義の支持者には合致しないこの思想を、この魔女は唯一絶対の美徳であると考え
ていた。
床を蹴って跳躍すると、マミは胸元から白銀の猟銃を幾重にも顕現させる。次々と自分の周囲に
突き立った猟銃を手に取ると、マミは激しいステップを踏む踊り手のように舞った。マミが旋風の
如く踊ると、マミの手元の白銀の兇器が次々と咆哮する。
魔力によって織られた弾丸が、銃口炎を纏って唸った。彼等は正確無比に全ての教室の窓ガラス
を突き破って突入し、続けて拡散、砕けたガラスに呆然としている人々の首筋に突き刺さる。弾頭
の中に仕込んであったウィルスは、瞬く間に教室にいた人々の精神を侵蝕した。そして、マミが下
した命令を理解する。
鹿目まどかの尊厳を暴力で破壊すること。
無力なまどかが蹂躙される様を、マミは込み上げる嗚咽を抑え、澎湃と涙を流して見ていた。
マミは、彼女の許に駆け寄りたかった。だが、打ち砕かれた彼女を永遠に自分に依存させる為に
は、まどかの精神に思いつく限りの打撃を加えておかねばならない。強姦は手軽な手段の一つとマ
ミは考えていた。マミは他の手段を思いつかず、傷付けられたまどかを癒したいという彼女自身の
激しい渇望に耐えられなかった。
マミは無力な自分を嘆いた。
もし自分が先日の魔女との戦いで死んだり、あの美樹さやかとかいう少女が他者の為に自分を擲っ
たりしていたら、まどかは恐らく鍛え上げられた強靭な精神を持つことになるだろう。しかし、そ
んなまどかが、永遠に彼女を所有したいというマミの意向に沿う存在とも思えなかった。まどかを
今の内に叩きのめす以外に道を見つけられず、マミは自分の無為無策を心から恨んだ。
まどかとさやかが通常の性行為とは異なる量の男に強引に姦淫されて、朦朧とした二人の少女の
意識が途切れるのを確認すると、マミの使い魔となった教員と生徒たちは身繕いをし、各々の教室
や居場所へ戻って行く。元の位置に戻ると、彼等は一斉に糸を切られた操り人形の如く床の上に倒
れた。倒れた人々の体にぶつかって、机や椅子が音を立てて転がる。
こうして、マミが脚本、演出、進行、配役などを担当した陰惨な人形劇は終わった。

この事件は、ガス爆発ということで決着がついた。突然ガラスが割れ、生徒と教員のほぼ全員が
意識を失っていたということになれば、そんな事態を引き起こすものは限られて来る。仁美が集団
幻覚に囚われたと考えられた事件も起こったばかりで、公的機関は事故と事件の両方を捜査してい
た。
まどか、さやか、ほむら、そしてマミだけが魔力が行使された事件であると知っていた。マミは
陽気さを失ったまどかとさやかを必死に慰めた。

ほむらはマミから離れ、独自に大量の魔女を狩っているようだった。事件の後、マミは彼女にま
どかに何が起こったのかを話し、自分がほむらを拘束したことは償いきれない失態だったと言って
謝罪した。

「あなたを責めて、何が変わるというの」

ほむらはそれだけ言い捨ててマミから離れた。マミは彼女の背中に、これからは二人で共闘しよ
うと呼び掛けた。ほむらは振り返って冷たい目でマミを見た。

「あなたにあんな態度を取らせた私に全く責任がない訳じゃないわ。それに、結局頼れるのは私一
人だということを、改めて理解出来て感謝しているくらい。もう誰かに協力を頼んだりしない」
「そう……でも、私は待っているわ、暁美さん。きっと鹿目さんも」

ほむらは消えた。しかし彼女は、マミの“私は待っている”、“きっと鹿目さんも”という言葉
は、“鹿目さんも私もお前を待っていない”という意味で口にされたものだったとは、最後まで気
付かなかったのである。
ほむらは、彼女の世界でこのマミとまどかに必要以上に近付くことはなくなる。マミが望んだ通
りだ。
こうして、マミは暁美ほむらを永遠に忘却した。

さやかはマミやまどかと団体行動をすることがなくなった。まどかは彼女の親友が自分たちでは
なく、誰か別の人物に別の救いを求めていることを理解していたので、さやかに何か言うことはな
かった。最近は、魔法少女のこともどうやら二人は忘却したようで、マミは二人の様子を観察しな
がら微笑した。
幽鬼のような表情で虚ろに食事を口に運び、陽炎のように力なく生活を送るまどかを、周囲の全
員が心配した。彼女の笑顔をマミだけでなく皆が愛していた。
しかし、まどかは、マミやさやか、彼女の家族以外と話す時はいつも怯え、動向を窺うようになっ
ていた。学校で彼女は、咎なく牢に閉じ込められた囚われ人のように日々を過ごした。何故ならま
どかを気遣う級友たちは、彼女を暴力で穢したことなど覚えていないし、また彼等に非がある訳で
はないのである。
マミは一人で家へ帰ろうとするまどかを自室へ誘った。

「いえ、マミさん、折角ですが今日は……」
「駄目よ、鹿目さん。今のあなたを放っておくことなんかできないわ」

マミは断ろうとするまどかの手を取ると強引に歩き始めた。まどかは抵抗しなかった。マミはそ
れをいいことに自室へ連れ込み、紅茶を振舞った。芳醇な馨とお茶受けのスコーンを吟味しながら、
マミはまどかに微笑んだ。

「明日は日曜日ね。鹿目さん、今日は泊まっていかない?」
「マミさん、そんな……そこまでマミさんに迷惑をかける訳には」
「私に迷惑をかけることなんて、全く気にする必要はないの。それに先輩命令よ、鹿目さん」

マミは微笑した。マミは、黙って紅茶に口も付けず俯いているまどかの側に回ると、まどかの両
頬に手を添え、膝立ちになって彼女の瞳を覗き込んだ。

「私が、あなたにどれだけ感謝しているか、あなたに伝えられないのが残念ね。私はこれまで誰に
も感謝されなかったし、感謝なんか求めていなかった。私なんか死んでもいいと思いながら戦って
いたの。でも、あなたは私を初めて認めてくれたのよ。そう言ってくれた時、私がどれだけ嬉しかっ
たか……言葉で教えられたら」

マミはまどかの体を抱きしめた。まどかはマミの豊かな胸に抱かれながら、赤子のように揺られ
ていた。彼女は虚ろな目を虚空に向けながら呆然と呟いた。

「マミさん、私は何の価値もない人間なんです」
「私にとっては、あなたがとても大切よ。あなたはずっとそのままでいてくれていいの」
「無力で、泣き虫で、嘘吐きで、卑怯者で……」
「鹿目さん……いえ、まどかちゃん、今から私がすることが嫌だったら、すぐに嫌だって言ってね」

マミはまどかの頬に顔を寄せて、まどかの瞳を至近距離から覗き込んだ。力なく自分を見上げる
まどかに、マミは安心させるように微笑した。そして、彼女は思う様時間をかけて、ゆっくりとま
どかの唇に自分の唇を重ねた。名残惜しげに唇を離すと、マミはまどかをまた強く抱きしめた。
まどかにとっても、マミにとっても、これは無理矢理奪われた唇よりも遥かに美しい味がした。

「もう夜ね」

窓外で黄昏の中に落ちて行く太陽を尻目に、マミはまどかを胸へ抱き寄せながら周囲に広がり始
めた暗闇を眺め、楽しそうに言った。マミの胸元であやされながら、まどかもゆっくりとマミの体
に腕を回し、力なく震える腕でマミを抱き返した。
マミは暗がりを見つめながら、堪え難い歓喜に全身を震えさせた。マミはまどかの髪を撫でなが
らまどかの耳元に囁いた。

「お夕飯の準備をするね。先にお風呂へどうぞ」

力のない歩調で風呂場へ向かっていくまどかの背後を見つめながら、マミは立ち上がらず、夜の
闇が部屋に満ちて行く様を眺めて微笑していた。闇が広がって行く様は、マミにはこの上なく美し
く見えた。マミの存在が、彼女の新しい家族の深くまで浸透していく様を、マミの目に見える形で
示されたようだった。

熱い湯に打たれながら、まどかは今後を考えていた。
自分が魔女によって痛めつけられ、今後長い間他人の手を恐れ続けることになるだろうことは、
まどかにとってあまり意味がなかった。魔女の犠牲者を恨む気はまどかには更々なかった。まどか
に近寄る手を恐れるまどかの姿を見て、仁美や、父や、弟や、母や、沢山の人々が心を痛めていた。
そして、悲しそうにまどかから一歩引く友人たちの姿が、まどかを苦しめていた。
しかし、マミは、まどかが怯えていると、近寄って来て、彼女を抱きしめた。彼女は特別だとま
どかは思った。そして、まどかがずっと欲しかった、自分は誰かの役に立っているという言葉をマ
ミは初めて口にしてくれたのである。
まどかはマミのことを考えていた。
すると、窓の外に人影が立ち、着衣を脱ぎ棄てる衣擦れの音を立てながらまどかに声をかけた。

「まどかちゃん、私も入るわね」
「え!?ま、マミさん……」

シャワーに打たれていたまどかは慌てて浴槽の中に飛び込む。ガラス戸がゆっくりと開き、裸身
のマミが湯気の中へ姿を現した。まどかが浴槽の中に隠れている様子を見ると、マミは楽しそうに、
鈴を振るような笑声を零した。マミは常日頃から浮かべている優美な微笑を崩さぬまま、まどかが
身を沈めている浴槽から湯を取って自分の体に注ぐ。
まどかは自分の体を寂しげに抱きしめながら、マミが自分の体を洗浄する様子を眺めていた。マ

ミの体は、同性から見ても肌理の細かさが理解できて、まどかは自分がこの上なく美しいものと一
緒に放置された壊れかけの失敗作であるような気分になった。
マミは自然な所作でまどかの背後に入って来た。彼女もまどかに倣って身を湯の中に沈めると、
浴槽の湯が溢れて流れる。マミは腕を伸ばしてまどかを後ろから抱きしめた。

「あなたは本当に可愛いわ、まどかちゃん」
「マミさん、そんなことはないんです。私はもう……」
「良いか悪いかという基準は、移り変わる概念なのよ」

マミは後ろからまどかの耳たぶにキスした。続けてまどかの首筋に唇が落ちる。背後に顔を向け
たまどかの目が、様々に入り混じった情念を湛えているのを見ると、彼女の気持ちを読み取りたく
なったマミはもう一度まどかの唇を奪った。唇を離す時、マミはまどかの唇を嘗めた。
まどかが唇から切なげに声を漏らした。マミの白魚のような指先がまどかの胸元を撫でていた。
薄く脂肪の乗った胸、そして隆起して震えている小さな乳頭。マミの指がまどかの胸の先端を撫で
ると、まどかは背筋全体が震えて思考が断ち切られた。まどかの肩に、腕に、項に、マミは優しく
接吻の雨を降らせた。まどかを腕の中に抱きしめながら、マミは心から優しさと愛情を込めて囁い
た。

「まどかちゃん、私はあなたを二度と傷付けないし、傷付けさせないわ」

マミの膝の上に崩れ落ちたまどかの胸に、微笑むマミは唇を落とした。マミは安心させるように
まどかの頭を豊かな胸元に抱き寄せながら、睦言を伝え続ける。まどかを引き裂いて誰にも渡せな
い肉片にしたい衝動を抑えながら、マミはまどかの愛撫を続けた。

「可哀想なまどかちゃん……私がずっと優しくしてあげるね」

いつの間にか、まどかはマミに組み敷かれていた。マミはまどかの片方の乳首を吸い、もう片方
の充血した乳首を指で転がす。空いた方の手先は、恥ずかしげに閉じ、小刻みに擦り合せているま
どかの股間に潜り込み、熱を持った陰部を玩弄している。マミは指先でまどかの陰唇をなぞり、充
血した陰核を執拗に愛撫した。
まどかはマミの動きに合わせて喘ぎを漏らし続けた。

「まどかちゃん」

マミがまどかを見下ろし、震える声で彼女の名を読んだ。マミの乳白色の豊かな乳房で、真紅の
乳首が強烈な自己主張をしている様を認めると、まどかもおずおずとマミの体に手を伸ばした。マ
ミの乳房にまどかが触れると、まどかの先輩は龍が噴き出す火のように熱い息を吐いた。まどかは
マミの胸元に口を寄せ、マミが先程したようにマミの乳首を口に含み、舌先で転がした。
マミの吐息の熱と芳香に、まどかは鼻腔を焼かれ、思考回路までも焼き払われた。まどかはマミ
の豊満な肉体に抱き付いた。マミはまどかの抱擁を受け容れた。まどかはマミがしているように、
自分の手を伸ばしてマミの股間で発熱している小さな突起を撫でる。
まどかの先輩は、まどかのぎごちない動きに、この上ない歓喜に満ちた法悦の喘ぎを漏らした。
マミが自分の行動で喜んでいることを知ったまどかは、熱心にそれに励んだ。マミに導かれて、ま
どかはマミを悦ばせる作業に終始した。
マミが、まどかと互いの舌先を絡めながら、まどかの陰を弄る指先を加速させていく。まどかも
マミの乳首を舌先で舐めながら、マミの股間で指先を蠢かせた。そうして、マミとまどかは互いの
体温を間近に感じながら快楽の頂点に達した。
マミがまどかの体の上で、法悦に全身を震わせるのを見た。マミの股間にあったまどかの指先が

熱いものに包まれるのを感じて、まどかは味わったことのない幸福感を感じた。マミがまどかの体
にゆっくりともたれかかる。そして、まどかの頭を何度もしたように胸元へ抱き寄せた。
マミはまどかの頭を撫で続けた。
これから、マミはこの家族を二度と失うつもりはない。これから彼女をまどかから引き離そうと
する者に対しては、マミの軍事力が交渉相手になる。社会倫理も、男たちの都合も、マミには関係
がない。マミにとっては、何よりも大切な人物が自分と同性だっただけのことだ。もしマミの前に、
漫画やアニメから暴力描写や性描写を一切根絶すべきだとか、百合を断固排斥すべきなどと主張し
て、まどかとマミを引き離そうとする、性的な少数派を一切認めようとしない、黴の生えた古臭い
全体主義的思想を支持する輩が現れたならば、彼等は自分の命でマミに賠償金を払うことになる。
魔法少女――ジャコバン主義者であるマミから家族を引き離すには、彼女のような魔法少女より
強い力を持っていなければならないだろう。

学校では、まどかはマミが来た時だけ笑顔を見せるようになった。休み時間に、マミは欠かさず
まどかの教室に通うようにしている。まどかは、マミが来ると、マミが彼女の唯一の救いであるか
のように抱きついた。
長い黒髪が特徴的な一人の女子生徒が悲しげにその様子を見ていたが、ある時、彼女はマミにま
どかを頼むと言いにきた。マミは神妙な表情で彼女の言を聞き、彼女が噴出しそうになる激情を必
死に堪えながらマミに懇願する頼みごとの一つ一つに律義に頷いた。しかし、マミは既に彼女の名
を忘れ去っていた。
ある日、まどかの家に招待されたマミは、まどかの部屋の絨毯の上に座っていた。マミが周囲を
見回すと、本棚には、まどからしくファンタジーやSFが多かったが、本棚の真ん中に、奇妙に分
厚い三巻本があった。マミが興味深げにそれを見ていると、まどかが恥ずかしげに言った。

「その『タイムマシン』って本を書いた人が、レーニンって人にインタビューをしたことがあるん
です。その人つながりで買ってみたんですけど……とても難しくって、私はまだ全部読めてないん
です」
「大丈夫よ、まどかちゃん」

マミは微笑し、俯くまどかを抱きしめた。

「あなたは、今に何でも出来るようになるんだから……私の自慢の後輩よ」

まどかは暫時マミの胸に顔を埋めて体を弛緩させていたが、やがて力なく立ち上がると、お茶を
淹れてきます、と言って部屋を出て行った。
待つ時間は退屈だ。
マミは立ち上がって周囲を見回すと、件の三巻本を何の気なしに取ってみた。かつて欧州を席巻
した、タイプが異なる二人の独裁者を扱った本だった。マミは頁を適当に捲った。開いた頁には、
全人類の平等という偉大な夢想に献身的かつ暴力的に仕えた革命家の言が書かれていた。

『独裁政治は――しっかりと銘記されたい――法律ではなく力に基づく無制限の暴力を意味する。
プロレタリアート独裁の名において容認される暴力は革命の正義である』

マミは続けて頁を捲った。しばらくすると、この革命家が作った国を引き継いだ男の言が書かれ
ていた。表題にも名を見せている独裁者である。

『恐らく、反対派の同志諸君にはわかっていないのだろうが、我々ボリシェヴィキにとって形式と
しての民主主義はどうでもよいのであって、党の真の利害こそすべてなのだ……我々は議論に気を
取られてはならない』

マミは首を捻った。何故この本は、これらの言をまるで糾弾するかのような口調で取り上げてい
るのだ?マミには、至極当然のことを言っていると思えた。まどかがマミの近くにいるのは彼女
の行いが存分に効果を発揮したからではないか。世界を動かすのは力であり、世界を支配するのは
その力を行使する者に他ならない。
かつて、鉤十字を掲げた黒い騎士団が欧州大陸を席巻した。彼等に対抗する西側の民主主義諸国
は団結し、ノルマンディー沿岸に強襲揚陸を仕掛け、騎士団に対する橋頭保を確保することに成功
した。ところが、騎士団の本拠地に彼等は辿り着けなかった。騎士団の心臓部に軍旗を突き立てた
のは、人命を湯水の如く使い捨て、飽くまでも即物的に戦争を遂行する、小市民的な躊躇や議会制
民主主義とは無縁の国だったではないか!その軍事力を背景としてこそ、かの国は制圧された敵
国を衛星国化し、多くの発展途上地域に忠実な同盟国を獲得することを可能としたのではなかった
か……
その国が確立した地域にかつて成立した、小市民と議会制民主主義者たちの政府はどうだっただ
ろうか?情勢の変化を読み取れず皇帝が退位すると、果たして彼から国家を与えられた民主主義
者たちは、国民の感情を読み取ることが出来なかった。是正されぬ食糧難、崩壊する戦線、進撃を
継続する敵軍に動揺するばかりで、この政府は信用を失っていった。無意味で果てしない諍いと口
論の中で、この政府は短命にも瓦解し、いとも容易く政権を手放した。そして革命家たちが、彼等
に代わる新しい政府を作った。その統治機構が持つ力――暴力を背景として。
単純極まる世界の法則だ。非常事態において、議論に気を取られてはならない。ジャコバン主義
者や現実主義者……特に魔法少女は。
マミは本を本棚に戻した。
退屈な本だ。まどかには向かないだろう。

最近は、マミの肥大化した魔力は奇妙な従僕たちを創造するようになっていた。自分の魔力から
生じた、この奇怪な姿の従者たちを、マミは嘲笑を込めて“使い魔”と称した。機械仕掛けの人形
のように意識を持たない彼等は、マミの意志に従って見滝町の隅々に散らばり、マミの許へ彼女が
殲滅すべき魔女や粛清すべき魔法少女の情報を伝え続けている。
例えば、ある病室では、ある時期から一層病室の少年を訪ねるようになった少女の姿が見えた。
一層訪問するようになったとはいえ、彼女の口調は断ち切られたように少なくなっている。ある時、
もう彼が彼の愛する音楽に触れられないと知らされ、自暴自棄になったこの少年は最早楽器を奏で
ることのない腕をディスクに叩きつけて傷付けたことがあった。

「やめて、やめてよ……」

恥も外聞もなく泣き叫んで自分の終焉を嘆き悲しむ彼に、あまり喋らなくなった彼女は縋り付い
て泣いた。

「もうやめてよ、恭介ってば!そんなら……そんならもう音楽なんて持って来ないから!私が
馬鹿な事をして恭介を悲しませたなら、謝るから……そんな風に自分を傷付けるのはやめてよ!」

久々に彼女の声を聞いた気がする、と少年はその少女がかける声を聞きながら思った。魔法少女
云々のことなど忘却している彼女は、少年よりも顔を涙に濡らせて囁いた。

「どうして……どうしてそんなに自分を粗末にするの?どうして自分から自分を傷付けたりする
の?恭介が傷付いたら悲しむ人がいるのも、わかってくれないの?私、恭介が生きていてくれ
ただけで嬉しいのに。恭介が死なないでくれたことが、すごく嬉しかったのに」

呆然とする少年の前で、彼女は、顔を覆って泣き続けた。果たして、その姿を見ている内に、寝
台の少年は自分の中の何かが変化するのを感じた。何故か、自分が彼女をひどく傷付けたことを今
更になって彼は理解した。彼女は、少年が謝罪すると、私こそごめん、と言って、看護師たちが少
年の腕に包帯を巻きつける様を尻目に去って行った。
それから数日経って、寝台に体を預けた少年は、外の風景を見ながら少女に向かって呟いた。

「ありがとう、さやか」
「……え?」

俯いていた少女が、幻聴でも耳にしたかのように顔を上げた。少年は顔を逸らしたまま続けた。

「君はずっと昔から、いつも僕のことを考えてくれる。僕はもう自分一人じゃ何も出来ない、出来
損ないだ。音楽だけしか取り柄がなかったけど、それもなくなった」
「そんなことないよ、恭介」
「本当だよ。でも、生きてるだけで良いって言ってくれた」

彼は夕日から目を離さなかった。

「さやか、最近わかったことなんだけど、僕には好きな女の子がいるんだ」

紅蓮の落日に染まった病室の中で、少年は静かに話し始める。

「その女の子は、僕が子供の頃から、ずっと変わらないで傍にいてくれて、僕がもう仕方のないこ
とで泣き喚いていた時も、そんなことは気にしなくていいって言ってくれる、とても優しい子なん
だ。ようやく気付いたけど……その子が近くにいると、何だかとても安心する。ねえ、さやか」

少年は、突然椅子が倒れた音を聞いて、少女の方に目を向けた。
立ち上がった彼女は蒼褪めて、少年の顔を凝視している。その内、彼女は見開いた目に涙を溜め
て、少年の方を見ながら部屋の扉に後ずさって行く。彼女の尋常ならぬ様子に、少年は予想してい
たどの事態とも異なっていることに動転する。

「さやか、待って。聞いて欲しいんだ」

少女の震える手がドアのノブに触れた。

「僕は君が――」
「恭介……私、その先を聞けない」

驚いて目を瞬く少年の前で、この少女は幾重にも大粒の涙の滴を床の上に落とし始めた。彼女は
嗚咽を噛み殺して踵を返す。

「さやか、どうしたの?さやか……待って!」

少年の方は驚愕して彼女の名を呼ぶが、顔を抑えて涕泣する少女はいくら名前を呼ばれても病室
に戻らなかった。何故この少女は少年の声に振り返りもしなかったのか?彼女は、この少年から
熱意を込めて名前を呼ばれることを渇望していたのに?マミは唖然としながらこの少女の動向を
観察した。
果たして、彼女は泣き顔も隠さずマンションの自宅に駆け戻り、乱暴に机の上に放り出したメモ
にペンを走らせた。書き終わると、彼女は即刻マンションの屋上へ駆け上り、躊躇うことなく柵を
乗り越えて身を投げた。
美樹さやかの魂は路面に叩きつけられた体ごと粉砕し四散した。
マミの使い魔は、メモに書かれていた文章をマミに逐一残さず報告した。鹿目まどか宛、と遺書
は書き始められていた。

『これじゃ、恭介を他の子に取られちゃう……でも、こんな体で抱き締めてなんて言えない、キス
してなんて言えない――』

その後には、鹿目まどかなら自分の気持ちをわかってくれるはず、上條恭介に感謝と謝罪を伝え
て欲しい、などと続いていた。
マミには、さやかの行動が理解出来なかった。まどかがどんな体になろうが、マミに彼女を手放
す気はなかった。マミは、まどかが半身を失おうが視力を失おうが……否、肉や骨の破片一つになっ
ても愛すことができる。まどかが死んでいようが生きていようが、彼女に向けられるマミの愛情に
何の変化もない。一体、さやかは何を苦悩していたのか!?散々考えた末、あの美樹さやかは愛
情がどういったものか理解していなかったのだとマミは結論した。
全く愚劣な理論だ……自分が処女であろうが処女でなかろうが、自分を抱いて欲しいと相手に迫
ることの何が美樹さやかにとって不明瞭だったのだろうか?まあ、彼女が性病持ちだったという
のなら多少は事情がわからなくもないものの……いずれにせよ、マミには理解し難い話だった。
例えばマミは、小説家を志望してゲームのシナリオライターになり、今では小説も手掛けるよう
になったある作家の作品を好んでいる。その作家の世界では、暗殺者や、吸血鬼との混血児や、生
身の人間の魂魄を転写されたガイノイドや、植物性の旧支配者や、輪姦された妖精や、体内に聖杯
を抱えた人造人間や、宇宙の果てで戦う女ガンマンなど、幅広いヒロインが登場した。最近では、
白い獣に騙されて魂を抜き取られた少女たちの戦いというものがあったが……彼女たちの絶望的な
身上に、処女か非処女かなどという疑念をマミは挟んだことがない。
しばらく経ってから、マミはあの哀れな少年も原因が不明瞭な少女の自殺を知った後に首を吊っ
たと聞いた。周囲は、あの少年は病室を訪ねる幼馴染の少女と心を通わせることで辛うじて才能の
断絶という不幸を堪えていたのであり、あまりにも唐突な恋人の死が重なったことで精神が決壊し
たのだと噂した。若い二人の心中を疑うものもいた。
マミは、これらの無意味な御伽噺を聞いて失笑を抑えきれなかった。マミは連続して行われた上
條恭介と美樹さやかの葬式で、大声を上げて泣きじゃくるまどかを抱擁し慰めた。まどかは、自分
を硬く抱きしめるマミが涙目で震えている様子を見て、マミもさやかと恭介の死を深く悲嘆してい
るのだと考えた。実際のところ、マミはこの滑稽極まる話のために腹の底から沸き上がる笑いを堪
えていただけだった。勿論、まどかが泣く姿だけはマミにとっても心が引き裂かれるほど悲嘆すべ
きものだったが。
ええ、そうね……まどかちゃん、きっと来世で二人は幸せになることでしょうね。生憎私は冥福
なんて信じていないけど。
こうして、マミは美樹さやかと上條恭介を永遠に忘却した。

夜の闇に世界が抱かれて眠る頃、マミは傍らで眠るまどかの寝顔を見下ろして微笑していた。全
身のいたるところをマミに愛撫され、法悦に満たされて眠りに就いたまどかの裸身を、彼女の存在
に何処までも飽き足らないマミは崇め讃え続けていた。

「魔法少女はいずれ魔女になるんだよ」

すると、白い獣が現れ、まどかの上に体を傾けているマミの背中にそう言った。彼の存在は現在
ではマミにとって至極無意味に近いものとなっており、マミは微笑を浮かべただけだった。

「言いたいことはそれだけ?」

微笑を崩さず、マミはまどかの体に唇を落とし続けながら言った。今のマミにとって重要なのは、

まどかを愛することと、自分の邪魔をする敵――無論、民間人を狙う魔女や、民間人の命を何とも
思わない魔法少女も含有する――を殺すことだ。自分が魔女だろうが魔法少女だろうが、その目的
を遂行することに何の支障があるというのか。少なくとも意識があるようには思えない魔女とは違
い、マミは自らの意志を明確に保持している。
もしくは、ソウルジェムが実は抜き取られた魂だとでも言いたいのか?契約の儀式を経た魔法
少女が、その可能性を一度たりとも考えなかったとでもキュぅべえは思っているのだろうか?ど
うでも良いことだ……今のところマミは生きているし、マミが何物にも代えがたい宝と思っている
少女はマミの手の中にあり、彼女はマミを慕っている。やがて、マミが彼女を誰よりも愛している
ように、彼女もマミを誰よりも愛するようになるだろう。
全てが完璧だ。
ところで、ソウルジェムの状態をマミは最近あまり確認しない。ソウルジェムの色が濁ろうが濁っ
ていなかろうが、戦争に支障がないとマミは理解したからだ。よくよく考えてみれば、これまた無
意味な話だった。大体、兵器がどういう色をしているかなど、誰が気にする?迷彩模様だろうが、
鮮やかな白や赤や青に塗られていようが、敵を殺せるかどうかが問題だ。爆弾がどのような色で塗
られていようが、落とした側も落とされた側も気に留めるはずがない。
キュぅべえは何処とも知れぬ方角に顔を向けて、静かに呟いた。

「うん、僕は……マミが立派な魔女になってくれたと思うよ」

マミは軽い嘲笑を漏らした。これもまた、マミにとって言われる義理のない科白だった。マミは
イヤホンを取り出し、聴覚を音楽に集中させた。

『子供の頃夢に見てた、古の魔法のように闇さえ砕く力で、微笑む君に会いたい』

マミが大好きなこの歌が謳っている通り、マミが所有する軍事力は、彼女を不快にさせる存在全
てを撃滅し、まどかの咲き誇る笑顔を未来永劫マミ一人が眺める為に行使される。自分の立場を再
確認すると、マミはキュぅべえの声を無視してまどかの礼賛を続けた。
夜の闇が益々暗さを深める中、キュぅべえはその内消え、マミも彼のことを忘却した。
今のマミはますます忙しくなっていた。彼女は今、魔女狩りのことを除けば、鹿目まどかのこと
だけを考えている。マミはこれまで何の見返りも求めず、名前も知らない人々の幸福に仕え、同年
代の少女たちと同じような幸せを放棄するまでに魔女の殲滅に生涯を捧げて来たのだ。その自分が、
鹿目まどか一人を永遠に所有するだけで満足することを、誰が贅沢と非難できる?
そんなことを言ってマミを非難する連中は、何一つ理解できていないのだ。命は容易く死ぬとい
うことを。この世が歪み壊れ行く脆弱な場所であることを。結局のところ、暴力だけが有効な手段
であることを。死に追い詰められ、あらゆる道を奪われた者の前に、希望がどのような形で姿を現
すのかということを。

朝日を顔に感じて、まどかは瞼を開けた。
寝室に、鼻腔を焼き、食欲を刺激する匂いが台所の方から漂って来ている。食器をマミが並べる
音が心地良く響く。もしかしたら、マミは鼻歌交じりに皿を並べているかもしれない。まどかがそ
のようなことを考えていると、まどかが愛する先輩が私服姿にエプロンをつけて現れ、まどかの顔
を見ると嬉しさが滲み出るような笑顔を浮かべた。
彼女は、まどかの寝ているベッドに楽しそうに近寄って来ると、誰よりも優しくまどかに朝の挨

拶のキスをした。

「おはよう、まどかちゃん。一緒に朝御飯を食べましょう」

MAMI TOMOE
銃火器の魔女。その性質は独占。欲しいものは優しい家族。名前も知らない人々を含めた不特定
多数の幸福に献身的かつ暴力的に仕え、その崇高な使命の邪魔者を抹殺する。家族になってくれそ
うな人を伴っていれば隙を見つけることが出来るだろう。

『ヤンデレのマミさんに死ぬほど愛されて(まどかが)眠れない』完






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