魔女の口づけ
巴マミ×鹿目まどか


・第4話放送終了時点までのネタバレあり(公式サイトで公開された設定含む)。
・マミさん×まどか。ただしマミさんゾンビ。
・エロのつもりが大半グロ。残虐描写、嫌悪感を抱く内容注意。
・大半は妄想。


見滝原町の郊外。
街に電力を供給している送電線と、それを繋ぐ鉄塔が等間隔で立ち並んでいる。どうやって登っ
たのか、その一基に少女と、図鑑に載っていない白い生物が座っていた。

「要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょう?その魔法少女」

京子という名の少女は、不敵な笑みを浮かべて平然と物騒なことを言う。
問いかけは白い異形に向けられていたが、それは是か非かの回答を求めるものでもなく、決定
したことについて、一応の通告を行っただけだった。

「ねえ、キューベー。その娘さぁ、ここに呼び出してよ」
「…………」

キュゥべえは何も語らず、無表情のまま赤い瞳を輝かせるのみ。

「先輩からルーキーに、魔法少女のゲンジツってやつを、アドバイスするだけだからさぁ」

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…………………………………

夜道を、鹿目まどかは1人で歩いていた。
仁美はいつものお稽古事。いつもいっしょに帰るさやかは、今日は急用があると言って、キュゥ
べえとどこかに行ってしまった。用事の中身は知らないが、おそらくは魔女絡みだろう。
さやかは、友人を戦闘に巻き込みたくないのだろうが、まどかは逆に不安になってしまう。

(……なんだか、ここ数日で、もう何年も経った気がする)

気晴らしをしようと、帰り道に色々な場所に寄ってみた。しかし、今まで楽しかったどんな娯楽も、
まるで砂を噛んでいるように味気無いものに変質していた。
しかし、娯楽は何も変化しておらず、実際は、まどかの価値観が壊れかけているのだ。
魔女との遭遇。
魔法少女、巴マミとの出会いと、あまりに早すぎた別れ。
そして、親友であるさやかの、突然の魔法少女化。

これまであったことを考えながら、歩いていると、くるりと世界が半回転した。

「あ………っ」

眩暈を覚えて足がよろめいたが、近くの電柱に掴まり、何とか持ちこたえる。
体調不良の原因は明白で、睡眠不足だった。
目にできた黒いクマと、荒れ気味の髪と肌、そしてどこか虚ろな瞳。辛うじて健康な位置に踏みと
どまっているとはいえ、今のまどかの状態は、既に病人に近い。
毎晩、ベッドで寝ては悪夢で飛び起き、寝ては悪夢で飛び起きを繰り返していた。眠ると夢に出
てくるのは、いつも同じ、おぞましいお菓子の魔女と、頭を食い千切られるマミの姿だった。
眠るのが怖くて怖くて、音楽を聴いたり、珈琲を飲んだりして朝を待つ。
学校の授業の大半も、朦朧とした意識ですごしていた。
今朝は両親からも病院に行くことを薦められていて、それでも何とか押し切って今日は通学した
のだが、毎日殆ど眠れない状態では、彼女の心身はともに限界だった。

(マミさん……ごめんなさい……ごめんなさい……許してください……)

何度繰り返したかも分からないのは、絶対に相手に届かない謝罪の言葉。
命を賭けるということ。戦って死ぬということ。
生きていることが、どれだけ価値のあることか。
マミの生きていた世界が、どれだけ無慈悲で救いの無い場所だったか。
そして、魔法の力に魅せられて、夢見がちにその世界に飛び込もうとしていた自分が、どれだけ
浅薄で平和に溺れていたのか、今になって理解できる。

(ウソを言ったんじゃないんです。ただ、何も理解ってなくて……それで……)

まどかの言動が、マミにどれだけの希望を与えていたか。
マミが涙を流して自分を歓迎してくれた意味も、今になって理解できる。しかし、当時のまどかの
決意に、それに応えられる覚悟は、微塵も存在してはいなかった。

(私は………貴女みたいに、強くて優しい、すごい人になりたくて……でも、貴女みたいに、死にた
くないんです……強い部分と、優しい部分と、すごい部分だけでいいって……最低……)

虚ろな目から涙を零しながら、まどかはふらふらと歩いていく。
考えるだけで、自分の醜さと弱さに吐き気がこみ上げてきた。どろどろと腐った感情が溢れてき
て、自分を内側から食い破ろうとしているようだった。

(いくら人助けができても、みんなの役に立てても……あんな死に方だけは絶対にイヤ……戦い
だって、マミさんがずっと守ってくれるって思っていたから……だから……)

濁った目で天を仰ぎながら、まどかはぶつぶつとうわ言のように唱え続ける。
星1つ無い曇天の下、しかし、視界の隅にきらりと光が増える。

(あれ?あそこは……)

遥か遠くに小さく、都市の明かりに照らされて、送電線と鉄塔群の影が見えている。
そして、鉄塔の足元で、きらり、きらり、と小さな花火のような光が生まれていた。しかし、これま
で魔女との戦いを見学してきたまどかには、それは別のものに映ってしまう。

(誰かが戦ってる?まさか、さやかちゃん……?でも……)

魔女は結界から出てこないので、まどか達の住む世界での戦闘は起きないはず。
仮に一方はさやかだとしても、相手がいないはずだった。同じ魔法少女のほむらとは仲良くない
が、せいぜい睨み合う程度で、実際に戦闘に至るほど険悪でもない。

(ああっ!)

まどかが何かを叫ぼうとした瞬間、鉄塔はみるみる傾き始めた。
魔法少女の攻撃の余波でも、普通の構造物では耐えられないのだろう。そして、鉄塔が倒れると
いうことは、送電線が切れて、街に供給される電力が途切れるということで、

「…………!」

街は一瞬で、暗闇に塗り潰された。

……………………………………………………………………
…………………………………

上条が入院している病院などは予備電源もあるだろうが、まどかの周囲に光は無い。足元も見
えず、数メートル先も分からない。携帯のライトも、電池の充電を忘れてしまい、使えない。

「……いっ、いやっ……停電って、ウソでしょ……」

動けなくなってしまったまどかに、背後から声がかけられる。
その声を聴いた瞬間、背筋が粟立ち、悲鳴を上げてしまっていた。

「そんなに怯えられると、ちょっと傷つくわね。まあ、無理もないけれど」

振り返ったまどかは、表情を喪失し、持っていたカバンをどさりと落とした。
暗闇の中、淡い光に照らされた制服姿の巴マミが、白い椅子に座って紅茶を飲んでいる。生前と
同じ優美な仕草で、柔らかな笑みを顔に貼り付けたまま、こくこくとカップに口をつけている。
ただし、切断された首は刺繍糸で乱暴に縫い合わされていて、赤黒い血がどろどろと胸元に流
れ落ちており、彼女が飲んでいる紅茶も、縫合の隙間から漏れて制服を濡らしていた。

「鹿目さん、魔法少女になってくれるって、言ったわよね?」
「ま、マミさん……そんな、ウソ………いっ、いやっ……やあ……」

カチカチと歯の鳴る音を聞きながら、まどかは一歩、また一歩と後退していく。
柔和な笑みを浮かべて、マミはゆっくりと立ち上がった。
立ち上がると、漏れていた小水や汚物がビチャビチャと道路に落下した。破れた腹から溢れた
長い腸や子宮が、スカートから吐き出されたようにヒザまで垂れている。顔が近づいてくるが、彼女
の笑みが浮かんでいる、肌の白さと目の濁りは、明らかに生者のものではない。

「マミさん……お願いです……!こっちに来ないで!」
「だって、私みたいになりたいって、言ってくれたじゃない?」

まどかは涙を流しながら、走って逃げようとした。
しかし、足は石になったかのように動かず、その場に縫い付けられてしまう。

「違う!違うんです!言ったけど、ごめんなさい!それは違うんです!」
「私、とっても嬉しかったの。もう、私は独りじゃないんだって」

まどかが瞬きをするたびに、マミの姿は少しずつ近づいてきた。
ずるずると水音を立てながら、不自然に曲がった肢体がぎこちなく動いて、美しい黄色の髪を生
やした頭皮が、まるで果実の皮のように、ずるずると頭から剥がれ落ちていく。
あのとき、テーブルに落ちてきた残骸に近づいていくように。

「ああ、こんな幸せな気持ちは初めて」

マミの胸から腹がブチブチと裂けて、魔女に咀嚼されて挽き潰された内臓と骨が、噴水のように
飛んだ。内臓と骨を砕いたミンチと血液が混ざり、腐敗臭と鉄の匂いが一気に広がる。

「いやああっ!いやああああああああああっ!」

生臭い化粧を顔中に施されて、理性が音を立てて崩れ始める。
噴水を浴びたまどかは、マミの胃袋や肋骨の破片を顔に貼り付け、目を剥いて絶叫した。喉が
張り裂けて声が枯れんばかりに、恐怖を声に変えて吐き出し続けた。

「そんなはずない!だって、あなたは!死んで!食べられて!でも、違うんです!私は魔法
少女になりなくて!だって、マミさんが!無理!なれない!でも、カッコいいなって!私に
は無理です!だからダメ!でも許して!来ないで!ごめんなさい!許してえええ!」

半狂乱で泣き叫ぶまどかに、冷たい気配が纏わり付いていく。
そして目を見開いたとき、マミの死顔は息がかかるほどに接近していて、どろどろに溶けて骨が
露出した手が、まどかの頭を万力のように掴んでいた。

「もう、何も怖くない」

そして、マミはまどかに唇を重ねた。
冷たい死肉の感触が、まどかの唇を侵食していく。

「うぶっ……うむ……う……んう……うう……!」

まどかは目を見開いて逃げようとするが、マミは恐ろしい怪力でびくともしない。こじ開けられた口
内に舌が侵入してくるが、まるで生きたナマコを口に捻じ込まれたように冷たくて生臭く、普通の人
間のものでないことは明白だった。生理的な嫌悪感が背筋を駆け上がる。

「うううっ!うーっ!うう!うんんっ!うううー!うむうううっ!んんっ!」

身体を引き剥がそうと、両手でマミの身体を押すまどかだが、彼女の腕は大きな胸にずぶずぶと
呑み込まれ、そのままマミの背中を突き破って動かせなくなってしまう。
まるで石膏で固められたように、指先すら動かすことができない。

(手が……足が動かない……!お願い!動いて!動いてええ!)

マミの両腕はまどかの背中に回され、輪のように繋がって獲物を逃がさない。
裂けた肉体から溢れ出した内臓と骨の残骸は、まどかの制服の首や袖から侵入し、スカートから
垂れた腸は蛇のようにまどかの足に巻きついてきた。髪の毛はズルズルと皮ごと彼女の頭から離
れ始め、まどかのピンクの髪の毛に絡み付いて、鎖のように結ばれていく。
冷たい唾液を喉に流し込まれ、嘔吐感が胸元に広がり始めた。制服はみるみるマミの残骸を
吸って黒く染まり、両足に巻きついた腸は破れて汚物が漏れ出して、白いニーソックスと革靴を茶
色く変色させた。異臭を放つ汚物は、そのままスカートの中に這い上がってくる。

(助けて……誰か、助けて……!さやかちゃん……!)

心の中で悲鳴を上げた瞬間、まどかの唇は死肉の感触から解放された。

「ぷはっ!」

粘液と血液塗れになった唇で呼吸を行い、マミの様子を見た瞬間、
顔面が空洞になったのかと思うほどに大きく開かれたマミの口から、あのおぞましいお菓子の魔
女の丸い目と大きな口がずるずると這い出してきて大きく顎を開き、まどかの頭部をずっぽりと口
内に覆い隠して、分厚い舌でべちゃりとまどかの顔の味を確認してきた。

「魔女の唾液って甘いんだ。シロップみたい」

マミも同じことに驚いたのだろうと思いながら、まどかは笑い始めた。
どんなことでも良い、マミと同じになれたことが嬉しかった。
半笑いのまどかの鼻と後頭部に鋭い牙が食い込んだ。魔女はごりごりと飴玉を噛み砕くように彼
女の頭部を牙の隙間で転がし、溢れ出した血を舌で舐めとり、頭蓋骨を噛み砕いていく。
しかし、頭の半分が潰れるほどの歯型を刻まれながら、まどかは嬉しい気持ちになっていた。

「そうだ、首が離れれば!マミさんといっしょだ!これなら許してもらえる!」

……………………………………………………………………
…………………………………

「鹿目まどか!何をしているの!」

暗闇の中、魔法少女になって走ってくるほむらの姿を見たまどかは、とても楽しそうに笑いながら
首を傾げ、そしてマミと同じになるために探してきたノコギリを握り締めて、粗い刃の部分を自分の
首筋にあてた。首を切れば、マミと同じになれる。彼女はそう考えていた。

「これで、マミさんになれるんだよ!私は許してもらえるんだよ!」

満面の笑みを浮かべながらノコギリを首にあて、一直線に挽こうとした瞬間、バキン!と鈍い音
を残して、まどかはテレポートしてきたほむらに殴り飛ばされていた。
ほむらも余裕が無く、手加減ができなかったのだろう。まどかの手から離れたノコギリは耳障りな
音を立てて闇に消え、まどかは唇から血を流して意識を失っていた。
脱力した彼女の首筋には奇妙な紋様……魔女の口づけがはっきりと残されている。

「……っ!」

表情を歪めながら、ほむらは自分で殴ってしまった少女を優しく起こし、両腕で胸に抱いて立ち
上がった。その姿は皮肉にも、姫を抱いて立ち上がる御伽噺の王子様のよう。
彼女が見据えるのは、闇の更に奥に潜んだ、特別に濃い暗黒の気配。
夜を凝集したような暗黒色のカーテンが開いて、更に濃い暗闇が現れ、それもカーテンになって
開かれ、更に濃い暗闇が溢れ出してくる。闇に隠れていた魔女の結界が、開いていく。


(どうして邪魔をするの!)
(もう少しで、自分の首をノコギリでギコギコしていたのに!)
(邪魔するなんて酷いよ!酷すぎるよ!)


闇に住む凶悪な魔女は、獲物を奪われて、怒りに狂う。
獲物を奪い返すべく、自分の世界に閉じ込めようと、手を伸ばしていく。

ほむらはまどかを魔女に渡す気は無いようで、敵意を露にして闇を睨み付ける。
そして次の瞬間、闇に塗り潰されるようにして、2人の少女は消えた。






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