フクナガシイタケ
秋山×直×フクナガ


身震いをして秋山はベッドから起き上がった。
重たい瞼で部屋の室温を見ると、なんと0℃。
不思議に思ってエアコンのスイッチを入れたが動かない。

「畜生、壊れやがった。」

何と言うタイミングの悪さだろう。
今日はこの冬1番の寒さで外は氷点下なのだ。
そんな時、ベッドの横に置いてある秋山の携帯が振動した。
開いてみると着信はカンザキナオ。

「お♪」

秋山は一瞬胸が弾んだが、すぐにいつもの冷静で素っ気ない声で電話に出た。

「もしも〜し?こんにちは、秋山さん。今日も寒いですねぇ!」

電話の向こう側から直のテンションの高い声が聞こえる。

「…ああ。それでさ、俺の部屋のエアコン壊れちゃったみたいで。今から君の家に…」
「秋山さん聞いて下さい♪私、今日大学休みなんですよ!なので一緒にあったまりません??」

直は久しぶりの休みにハイテンションなのか、秋山の話を全く聞いていない。
でも直の口から出た言葉に、秋山は思わずニヤけてしまった。

「一緒に温まるって…俺を温めてくれるの?」
「はい!もちろん♪」

直の嬉しそうな声を聞いて、秋山はクックと喉の奥で笑いを漏らした。今日はラッキーだった。

(久しぶりだな…)

外は寒いけどすぐに暑いくらい温まる事が出来るだろう。
電話をしながら引き出しの奥にある小さなギザギザの付いた包みを手にする。
いくつくらい持っていけばいいだろう。いっその事箱ごと持っていこうか…。

「−−…で??何でこんな所で待ち合わせなんだ?」

30分後、二人は近所のスーパーの前にいた。

「何でって…。鍋ですよ!鍋!冬は鍋に限りますよ〜。早く入りましょう!」

直は子供の様にはしゃぎながら秋山の手を引っ張ってスーパーの中に入った。

「…ああ、鍋ね。でも二人だと食べ切れないだろ。」
「心配御無用ですっ!」

直はスキップをしながら、

「やっぱ温まるにはキムチ鍋ですかね〜。」

と言っている。

「ああ…そうゆう事。」

秋山は欠伸をしながら直を横目で見た。まあ、食事が終わればお楽しみが待っている。

「でも俺ニンニク臭くなるの嫌だな。」
「ええっ!?でもみんなで臭くなれば怖くない!ですよ♪」

すぐに直の返事が返って来た。

「ちょっと待て。お前みんなって…」
「はい♪大勢の方が楽しいかなって、アソウさんとエトウさんとエリーさんと
オオノさんも呼びましたよ!あと誰か忘れてる気がするんだけど、えーっと…」
「マジかよ…。俺はお前と二人きりになれると思ってたのに。」
「え…ごめんなさい。二人きりが良かったですよね。でももうみんな呼んじゃった後だし…」

そんな二人の会話を近くで聞いている者がいた。

鍋の材料を探して、二人がキノコ売り場を通りかかった時だった。
カートを押していた秋山は一瞬悪寒がして思わず身震いする。

「何かここ…寒くねぇか?」
「そうですか?私はそんなことありませんけど…?」

直はキョトンとした顔をしていたが、秋山がもう大丈夫だと言うと安心して茸を物色し始めた。
秋山の目の前には生シイタケが山積みにされている。
その中の一つがおかしいことに秋山は気付いてしまった。
網に入ったシイタケの一つは、何故かミニサイズのメガネをかけている。
そして隣でエノキを物色している直を気持ち悪いくらいの笑顔で見つめているのだ。
シイタケは秋山の怪訝な視線に気付くと、まるでベテラン芸人の様な可憐な二度見をした。
思わずシイタケと目が合ってしまう秋山。

(コイツ…フクナガにそっくりだ)

フクナガシイタケは秋山と目が合うと、露骨に嫌な顔してチッと舌打ちした。
そしてシイタケは、なんと秋山の顔を目掛けて『プッ』と唾…
…ではなく、胞子を吐いたのだ。
みるみる内に秋山の顔に、ミリ単位のフクナガ型のシイタケが生えてきた。

(や、やべぇ…)

「なぁ、直。俺の顔、何か変じゃないか?」
「?」

直は不思議そうな顔をしている。

「変じゃありませんよ?秋山さん。ただちょっと…いつもより青ヒゲが濃いだけです。」

青ヒゲに見えるのか…。ヤバイな、早く家に帰って剃らなくては。
そんな二人のやり取りを見ながら、シイタケは自らの力で網の中から脱出に成功。

ふと、直は隣にあるフクナガ型シイタケの存在に気付いたようだった。
指でシイタケをつまみ上げる直。隣で慌てる秋山。

「や、やめろ!キムチ鍋にシイタケなんて入ってないぞ!」

そんな秋山の声を無視し、直はシイタケをジーッと見詰めた。
直に見詰められたフクナガ型シイタケは目を閉じて唇を突き出して、キスの準備万端だ。

「…変なの。」

直はチッと舌打ちしてシイタケを放り投げた。ホッと一安心する秋山。

『クゥソォォオオ!!!』
キノコ売り場を後にする秋山と直の耳に、
フクナガ型シイタケのヘリウムガスを吸った様な高い声が聞こえた。






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