かあさん(秋山×福永)
秋山深一×福永ユウジ


部屋に入った秋山はベッドに倒れこんだ。
潰したと思っていたマルチがまだ生きていた事がショックだった。
ヨコヤの他にもまだたくさんいるだろう。
今に新しいマルチを作るだろう。
いや、俺が服役してる間にもう動き出してるかもしてない。

「かあさん・・・」

ゲーム中に堪えていた涙が溢れ出す。

「かあさんゴメン。必ず、必ずもう一度奴らを叩き潰す。どんな手を使っても・・」

そのまま毛布にきつくくるまり、声を殺して泣き続けた。

コンコン
泣き顔を隠す為に前髪をおろしドアを開ける。

「ねぇねぇ今暇?私秋山君の事好きになっちゃった!一緒にお祝いしようよ。
ビールいっぱい買ってきたんだ。実は私彼氏に振られちゃったばっかでぇ〜〜。」

一方的にハイテンションでまくしたてるアソウがいた。

「悪い今日は疲れてる。」
「そっかぁ〜。今日秋山君大活躍だったもんね!ねね秋山くんって・・」

なおもしゃべり続けるアソウを無視しドアを閉める。

イライラする。
かあさん・・・
かあさんだったらこんな時なんて言うだろうか・・・

「深一。お友達と仲良くするんだよ。」

優しかったかあさんの顔が浮かぶ。
涙が止まらない。
ひとしきり泣いた後またノックの音がした。

コンコン
同じくうつむいて少しだけドアを開ける。

「いや〜秋山くん。これから俺秋山くんの事、アキヤマサマって呼ぶ事にしたよ
アキヤマサマすごいな〜だって・・・」

無言でドアを閉める。

冷蔵庫からビールを取り出し、一口飲む。

「おいしい」

呟いたとたん、また涙が出てきた。
かあさんがいなくなってから、未だに消えない絶望感。恐怖心。
かあさんの事が頭から離れない。
一人になるとむしょうに寂しくなる。心細くなる。
缶ビールを2本程開けた頃またノックが。

うんざりとしてドアを開ける

「秋山さん。あの、私不安で・・・」

あいつだ。

「大丈夫。約束したろ、2人で必ず勝ってこのゲームから抜けるって。」
「はい!」いつもの笑顔が見えた。
「だから安心しておやすみ。」「はい!秋山さん。」

軽い足取りで自分の部屋へ戻るあいつを見届けドアを閉める。

大きなため息をつき、次のビールを開ける。
ゴクゴクとビールを飲み干す。

この涙はなんなのか。
マルチ組織への憎しみ。優しかったかあさんの笑顔。
いつもならこんな時、かあさんの墓前へ花を持って行く。
夕焼けを見ながら、かあさんのお墓にもたれて眠る事もよくあった。
俺だって・・・また涙があふれ出す。どうにも止められない。
俺だって誰かに頼りたい時もある・・・。

時計は深夜3時を回った。
どんなに飲んでも酔えない。眠れない。
コンコンと遠慮がちな小さなノックが聞こえた。
今度は誰だ?涙を隠し、ほんの少しドアを開ける。

「やっぱり起きてたんだ。」

そいつは強引にドアの隙間から俺を押しのけ部屋の中へ入って来た。
キノコだった。頭をかかえる。

「オメーまで俺を頼ろうってのか。おい。」

引っ掴んで外へ放り出してやろうと威嚇しながら近づく。
次の瞬間、俺は笑顔のキノコに正面から抱きしめられていた。
すごい力だ。

「よくがんばったな」

意外な行動と言葉に怒りが頂点になる。

「偉そうに。なにをがんばっただと?あ?」

腕を払いのけ、キノコの顔へ自分の顔を近づけて言った。

「一人で飯食って、一人で寝て、一人で大学卒業して、一人でマルチと戦って、
一人で服役して、一人で出所して、全部一人で考えて・・・
お前は誰にも頼る事をしない。よくがんばった。」

そう言ってキノコはニカッと笑った。
何を言ってるんだこいつは??
予想外な言葉に足の力が抜けた。
キノコが手を伸ばし受け止め、もう一度抱きしめる。

「一人で泣いてないで、ここで泣きなよ秋山君。」

倒れ込むように、キノコの背中に手を回した。
今まで抱いた女とは違う大きな背中。不思議な事になぜか安らぎを感じた。
俺はキノコの胸で声を出して泣いた。
子供の様に泣いた。

どれくらい泣いただろう。
暖かい腕と暖かい胸に落ち着きを取り戻した頃、声がした。

「俺の宝物貸してやるよ」

キノコは俺の背中の手を解き、俺の手になにか四角いものを握らせた。
「俺の家族も騙されたんだ。明日食うものも無い生活だったんだぜ?」
キノコは俺の涙で濡れた前髪をいじくりながら続ける。

「ある日かあちゃんがデパートに連れて行ってくれたんだ。
レストランで好きなものいっぱい注文してお腹いっぱい食べた。
その後『なんでも好きなもの買ってやるよ』って言うんだ。かあちゃん」

明るく話すキノコの顔を見つめる。
キノコは再び強く俺を抱きしめた。抱きしめていないと続きが話せないかの様に。

おかしいと思ったらその夜・・・。」

俺もキノコを強く抱きしめる。


「じゃぁな。貸すのは1日だけだぞ。それと、酒飲む時は誘ってくれ秋山」

何か返事をしないと、と考える俺の頭をポンポンとたたき、キノコは帰って行った。
テーブルの上の空き缶の数に、我ながらびっくりする。
きのこが握らせた宝物の入った左手をゆっくり開けてみようとした時、またドアが開いた。

「言っておくが、俺は女が好きだ。そっちの趣味は無い。変な気起こすなよ。」

小声で言ってドアが閉まった。
閉まったドアを見つめ、思わず笑ってしまった。

握った手を開けると、古ぼけた電子ゲームだった。
電源を入れると楽しげな音楽と共にゲームが始まった。
俺はまた泣いた。電子ゲームに涙が落ちないように気をつけて泣いた。

そして思った。
かあさん・・・それとキノコのかあちゃん・・・あなた達の息子は強く生きています。
心配しないで下さい。と。






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