ヨコヤのパンツ
横谷ノリヒコ×神崎直


「これとこれ、どっちがいいかなぁ」

ピンクのパンプスと黄色いミュールを見比べながら首をかしげる。あたしのお気に入りの靴屋さんはまるでお花畑みたいに色とりどりのかわいい靴でいっぱいだ。

やっと二足まで厳選できたのだけれど、ここからが接戦で決着がつかない。
全部買えない靴選びはみんなが幸せになれる可能性を秘めたライアーゲームより難しいかも……なんてチラリと参加者を思い出したりもして。


「迷っちゃうな〜」

「ずいぶん迷っているみたいですねぇ。カンザキ、ナオさん」

振り返ると、そこには異彩な空気を纏った真っ白な男の人が立っていた。

「ヨコヤさん!」

「お久しぶりです。通りがかったらちょうどあなたが見えたので」

ショーウインドーの外を見てみると高級そうな車が停まっていた。真っ白でツヤツヤに光っている。なんて名前の車かはあたしは知らない。

「よかったー!ねぇヨコヤさん。ヨコヤさんはどっちがいいと思いますか?」

困った時に知っている人が現れてくれてちょうどよかった。ここは運命だと思ってヨコヤさんに決めてもらおう。あたしが二足を見せるとヨコヤさんがそれを手に取りキュッと口角を上げて笑って見せた。

そのまま二足とも持ってレジへ向かい、カードで支払おうとする。

「ヨコヤさん!あたし二足も買えません!」

「プレゼントしますよ。これくらいお安い御用だ」

いつもの店員のお姉さんは口の動きだけで「よかったわね」ってウインクして二足をラッピングしはじめる。箱に白いリボンをかけてプレゼント包装にしてくれた。
でも、あのゲーム以来会っていないヨコヤさんに甘えるなんて申し訳なさすぎる。

優しく目を細めたヨコヤさんは紙袋をあたしに手渡した。
こんな事を言ったら怒られるかもしれないけど、ヨコヤさんの笑顔はかわいいと思う。大きくって毛並みのいい白い犬みたいだ。

「そんなの悪いです」

「受け取って下さい。私には履けませんしね」

「えっと……ありがとうございます」

「あなたの恩に比べれば、ちっぽけでお返しにもなりませんが。ではまた、縁があれば」

「待ってください!」


そんな、買ってもらってハイさよならなんて出来ない。それにファイナルステージで助けてくれたのはヨコヤさんの方だ。
あたしも何かお礼がしたかった。
あたしに出来ることが何かないかヨコヤさんに尋ねると一緒に食事をしてほしいと言われた。


「たまには誰かと食べたくて。いけませんか?」

「そんな事でいいんですか」


ヨコヤさんは頷いて車へとあたしを促す。後部座席のドアを引いてエスコートしてくれた。車の中はほのかにバニラに香りがする。

そして運転手さんに告げた行き先は、ヨコヤさんの自宅。なんとなくお金持ちは外食のイメージだったから少しびっくりした。

ヨコヤさんも自炊したりするのかな。お家に板前さんとかコックさんがいたりして。



ヨコヤさんの自宅はインテリアも真っ白で、あたしの部屋とは正反対のシンプルさ。

本当に白が好きなんだな。ヨコヤさんはあたしみたいにピンクの靴か黄色かなんて悩んだりしないんだろう。

悩むのも楽しいけれど、大好きなものに一途になれる事も素敵だと思うし少し羨ましい。
迷ったりしない、ヨコヤさんの強い心を表してるみたいだ。
そんな真っ白の部屋で真っ白なソファーでふと考えた事。


「ヨコヤさんって下着も白いんですか?」


素朴な疑問だった。素直な気持ちでそう聞いてみたのだがヨコヤさんは顔をしかめた。

真っ白なブリーフを並べて干しているヨコヤさんを想像してしまって、吹き出してしまいそうになる。

「すいません。変な事聞いちゃって」

「構いませんよ。そうですねぇ、カンザキさんの下着の色を教えてくれたら私もお教えしましょう」

「そんなの、恥ずかしいですよ。それにヨコヤさんは絶対白だと思います」


恥ずかしいって思いながら今日はどんなパンツをはいていたんだっけと考えた。たしか、苺柄だったはず。
白のやわらかい綿にまあるいかわいい苺のプリントでお気に入りなんだ。秋山さんには色気がなさすぎる、犯罪じみてて嫌だって背中を向けられた一品だけど。


「どうでしょうねぇ。もし正解すれば壱億円差し上げましょうか」

「あはは、もうゲームはたくさんですよ。でも意外」


私が白だと言って壱億円だなんて、それなら絶対白じゃないって事だ。何色なんだろう。真逆の黒とか……もしくは右目みたいなミドリとか。


「意外ですか?」

「白じゃないんですよね?だったら黒!」

「ゲームはたくさんなんじゃないんですか?」

「壱億円の代わりにケーキにしませんか?あ、ヨコヤさんケーキは好きですか?」

「好きですよ。じゃあ黒に変えるんですね?」

「ハイ!」


もし外れてもケーキだし、それに白じゃなかったら黒かグレーくらいだろう。男の人の下着の色なんてそう豊富でもないしね。


「ヨコヤさんのパンツは黒です!」

「よろしい。では確認していただけますか?」

「確認……って、」


当たってるか外れてるか教えてくれたらいいのに。確認だなんて、できるわけない。
なんて考えていたらヨコヤさんは服を脱ぎだした。


「ちょ、ちょっと待って下さい!見せなくていいです!あたし言ってくれたら信じますから」

「私が信用できるんですか?」

「もちろんです!」


本当の事を言ってくれるはず。ケーキの為に嘘なんてつかないだろうし。

「残念ですね。答えは白です」

「嘘っ!?」

「ふふ、だから確認していいと言ってるじゃないですか」


さっきまで嘘はつかないって思ってたのに、答えが違うと急に自信がなくなった。
あたしが確認しないってわかってるから、ヨコヤさんはいくらでも嘘をつけるんだ。

それなら、見てしまおう!絶対に黒。


「ヨコヤさん。本当にいいんですね?」

「もちろん」


パンツの確認なのにシャツを脱ぎ出すヨコヤさん。なんで?


「あの、シャツは……」

「スラックスだけ脱ぐとマヌケなんですよね。わかるでしょう?」


シャツにパンツ、それに靴下という幼稚園児のスモック姿みたいなヨコヤさんを想像してまた可笑しくなる。
シャツの下の裸はたくましくて、それも意外。

カチャカチャとベルトを外し、チャックも下ろす。思わず凝視するそこは……


黒だ。


「やっぱり黒じゃないですかー!やったぁ!」

「カンザキさんには参りました。脱ぎだせば目をそらすと踏んでいたんですがねぇ」

「嬉しい!ヨコヤさんに勝てるなんて」


ライアーゲームで少しは賢くなったつもりだったけれど、まさかこんなにあっさりヨコヤさんの嘘を見破れるとは。あたし、すごいかも。


そうやって浮かれたのも束の間、いきなりヨコヤさんがあたしの腕を掴みベッドへ組み敷かれてしまった。


「きゃ!何するんですか、ヨコヤさん!」

「脱いだら、する事は決まっているじゃないですか」

「や、いやっ!ヨコヤさんっ!」


男の人の体がのしかかる。知らない香り、知らない重さ。背が高い事は最初から知っていたのに今さらその男の人らしい逞しさに圧倒された。
体の厚み、生々しい息遣い、色気を含んだ低い声。男の人なんだと当たり前の事を思い知る。

「ヨコヤさんっ!」

「私に逆らうと秋山君にコレを見せてしまいますよ」


そう言って大きなテレビ画面に映し出されたのはさっきまでのあたしとヨコヤさん。
ヨコヤさんが脱ぐのを嬉しそうに待っているあたしは……音声がないのも手伝ってまるで、これから浮気しようとしているみたいだった。


「これ……」

「あなたがあんまり熱心に見つめるから、もうこんなになってしまいました」

あたしの手を取りその部分に触れさせる。
テレビに映るあたしの、黒か白かと見つめていた目は今触れているその中身に執着しているようにも見えて……

「だめ、こんなの」
「見せられませんよねぇ」

ククっと笑うヨコヤさんの顔。こんな状況でもやっぱりこの笑顔は可愛いなんて考えてしまう自分がこわい。


「今からあなたを好きなようにします」


そう宣言したヨコヤさんはゆっくりと唇を重ねるだけのキスをした。
ひどい人なのにどこか紳士的なこの人らしいやり方だとゾッとして全身が泡立つ。


「やめて……ヨコヤさんは、こんなひどい事できる人じゃ……」

「それができてしまうんです。買い被りすぎですよ、私という人間を」

「ヨコヤさん……」


また唇を重ねて今度は軽く吸われ、離れるとあたしをじっと見つめた。
たぶん3秒くらいの短い時間だけれど、追いつめられる恐怖を感じるには充分な時間だった。

口付けて、見つめられて。
離れるたびに見つめる時間は短くなり、逆に口付けは長くなる。

唇の内側の湿った柔らかい部分であたしの口を塞いで、厚い舌が歯をこじ開けてあたしの舌をゆっくりとなぞった。

頭がクラクラするような濃密なキスに思わず瞼を閉じた。
ヨコヤさんの手が耳を覆うようにあたしの頭を掴むと、濡れた唇と舌とが絡み合う音が脳に響いてくる。

ピチャピチャとドキドキする音がいやでも頭の中で響いて、変な気持ちになって……もうすっかり“その気”になっている自分が嫌だ。こんなの絶対イヤなのに、あたしは秋山さんが好きなのに、ヨコヤさんにキスされただけで蕩けてしまいそうになってる。

「ずっとこうしたいと思っていました」


重々しい指輪で飾られた指がブラウスのボタンをひとつひとつ外していく。
薄いピンクのブラがあらわになって、思わず顔を背けた。


「やだ……」


自分でも驚くくらいか細い抵抗の声しか出なかった。


「嫌がったってやめませんよ。さぁ見せていただきましょうか」


ブラウスとあたしの背中の間に手を滑り込ませて、ブラのホックを外す。覆っていたものがなくなってしまった不安定な感じにまた怖くなって、強く目を閉じた。

でも、いくら目を閉じたって何をされているかはっきりわかる。
意味のなくなったブラを押し上げられて、そこにヨコヤさんの執拗な視線を感じた。


「乳首、勃ってますね」


多分、それは怖いからだ。鳥肌と一緒だって自分に言い聞かせた。
興奮してるんじゃない。あたしは今、怖いんだ。

ヨコヤさんの指がそっと乳首を摘まむ。はっきりとした快感が胸の先に走ってぴくんと反応してしまった。

きっとそんなあたしをヨコヤさんは笑って見てるんだ。
恥ずかしくて情けなくてたまらないのに、触れられるたびに体は反応する。

順番に色んな角度からつまんで、あたしがどの角度が一番感じるか確かめてるみたいだった。こんな小さな部分からも一番の弱点を探ろうとするヨコヤさんが怖い。
声が漏れる。聞かれたくないのに、気持ちいいって知らせる甘えたような声が勝手に唇からこぼれて、とめられない。


「どうされるのが好きですか?こう?それともこうですか?」


摘ままれてクリクリとひねられて、胸の中に押し込むみたいに潰されて、硬くなった乳首を弾かれて……

我慢できなくて、声がどんどん溢れてくる。
ヨコヤさんの指先ひとつでこんなに翻弄されて流されてしまうなんて。


「何されたって感じてしまうんですね。いやらしい人だ」

「あ……っ、違う、そんなんじゃ……」

「どう違いますか?好きでもない男に弄ばれて、簡単に声を上げる淫乱なんですよ、あなたは」

「ちが……んんっ!」

指とは違う感触がして思わず自分の胸を見た。
ヨコヤさんが上目遣いにあたしの表情を見ながら乳首を舐める。舌で転がして唇ではさんで、歯を当てる。あたしの乳首とヨコヤさんの体のどの部分の硬さが相性いいのか確かめるように。

そして、舌のざらつきも湿った唇の柔らかさも歯の硬い鋭い感触も全部気持ちよくてたまらなかった。色んな事をするヨコヤさんの丁寧さが、どうしようもなくあたしを高めていく。


「ヨ、コヤ、さ……ぁん」

「可愛いですね」

ヨコヤさんの手が太ももを伝ってスカートの中に入ってくる。きっとあたしの下着の中はびしょびしょなんだと思う……それを知られるのが恥ずかしくて、ヨコヤさんの手を掴んだ。


「ダメです……、ダメ、お願いです……」

「途中でやめられるくらいなら最初からこんな事していません」


捲りあげられて腰のあたりでくしゃくしゃになるスカートとお気に入りの苺のパンツ。
秋山さんがロリコン趣味はないって眉をひそめたあたしのお気に入り。まさかヨコヤさんに脱がされる事になるなんて。

あたしの脚を持ち上げて、赤ちゃんのオムツ換えみたいに恥ずかしい格好で脱がされる。下着と一番大事な部分が糸を引いたのが見えた。


「見ないで……、ヨコヤさん、見ないで……くださ……」


必死で隠そうとする手をヨコヤさんに掴まれ、ベッドへと押し付けられる。


「言ったでしょう?私の好きなようにすると」

ヨコヤさんは一度あたしを解放して、紙袋に手を伸ばした。ヨコヤさんが買ってくれたあたしの靴が入った袋だ。
その箱にかかっている白いサテンのリボンをほどくと、再びあたしの手を頭の上で束ねる。

手首にリボンが巻き付けられて、縛られるのを見ていたら自然と視界が滲んだ。
目尻から温かい涙が伝ってこぼれていく。

靴を買ってくれたのも、一緒にゴハンが食べたいって言ったのも、全部この為なんですか?
最初からあたしにこんな事をするために声をかけたんですか?

頭の中でぐるぐると聞きたい事は渦巻いているのに言葉にはできなかった。

「ひどい……」

代わりに彼を非難する言葉が出る。


「あなたにはわからないでしょうね。どんな手を使ってでも手に入れたい恋なんて」


そう言いながらあたしの涙を指で拭う。
恋?これが恋だって言うの?
あたしにはわからない。あたしだったら、好きな人にこんな事しない。

ヨコヤさんがあたしを好きなんて、そんなの……


「どうしても欲しかった……どうしても私のものにしたかったんです」

耳元で熱っぽくあたしへの愛を囁きながら、脚を開かせる。
太ももの内側を撫でて、一番恥ずかしい所に触れた。

ヌルリと指が滑るのがわかって、恥ずかしさに顔が熱くなる。
ぎゅっと体に力が入ってあそこからお尻のほうに蜜が伝って流れていくのを感じた。


「こんなになって……シーツまで濡れてますよ」


脚の付け根の、一番性器に近い所を掴んで左右に開きながら話すヨコヤさんの声は吐息混じりで……
興奮してるんだ、ヨコヤさん。あたしのびしょびしょになったあそこを見て、興奮してるんだ。

乳首にしたみたいに、きっとヨコヤさんはあたしの小さな粒からも一番一番弱い所を探そうとするに違いない。見つけた弱点をあたしが泣くまで責めて、また笑うんだ。

頭の中にゲームの時の高笑いが響いてくる。

ヨコヤさんの左手は粒を隠してる皮を釣り上げて、反対の手でツンとつつく。息がかかりそうなくらい、あたしのそこに顔を近づけて小さな芽を弄んだ。
指先でタップするだけのもどかしい愛撫。もっとしてって思わず言ってしまいそうな、じれったくって物足りなくて……

悔しいけどヨコヤさんがあたしを気持ちよくしてくれる事を待ち望んでる。
どうせならもうおかしくして欲しい。もっと乱暴にして、あたしを壊してしまって。そうならない一歩手前で、じわじわと少しずつあたしを支配していく。

すっかり膨らんで硬くなったあたしの粒。
ゆっくり円を描くようにヨコヤさんの指が動く。


「あっ、だめ……」

「駄目なんじゃなくてイイんでしょう?バカ正直のナオさんはどうしたんです?さぁ、気持ちいいですって言いなさい!もっと弄って感じさせて下さいと!」

「や、いや……ヨコヤさんっ!」


ヨコヤさんの指が早くなる。一番弱いとこ。粒の左側の皮との境目の……おかしくなる。だめ、イッちゃう、こんなの嘘、嘘……っ!


「ほら、イッて。見ていてあげますから何度だってイッていいんですよ」

「あ、あ、おねが……だめ、だめ、助けて……っ、あ、ああっ!いや……ぁっ……」


頭の中の真っ暗闇が白い光でいっぱいになる。体が浮く感じと沈んでいく感じと、バラバラになってしまいそうな感じ。
それが怖くて怖くて、思わず縛られたままの手を伸ばした。ヨコヤさんの方へ。


「イッてしまいましたね」


あたしの手にキスをして、そう笑う。あたしを征服できて嬉しいって顔。
ぐったりと力なくわずかに頷いたのがヨコヤさんにはわかったかな。

脈を打つみたいに痙攣するあたしの入り口に少しだけ指を入れて掻き回される。きっと第一関節くらいで、浅い入口だけをくちゅくちゅと音を立てている。またお尻の方に蜜が垂れていくのを感じた。

その指を捕まえようとするみたいにあたしのそこは勝手に蠢いて、腰が浮く。

「もっと下さいって言うんです」

「や……、言えません……」

「そうですか」

あっさり指を抜いたかと思うと、イッたばかりの粒を強く吸われた。

「きゃ、だめ、だめーーーっ!」

また快感が押し寄せてくる。苦しいくらい強い快感に飲み込まれてしまいそうでまた怖くなる。
充血したそこがヨコヤさんの唇に吸い込まれて、ざらつく舌で責めてきた。
びくびくと背中を反らせて叫ぶあたしを容赦なく堕としにかかってきたんだ。

またいく……すごい、すごいよ……
あたし、どうなっちゃうんだろ……ああ……

簡単に二度も達してしまって、髪が頬に貼り付くほど汗ばんでいる。

「私が欲しいですか?」

あたしの髪を撫でながら言う。ぼーっとした頭で頷くと手の平でそれを感じたみたいだった。
黒のボクサーパンツを脱いで、あたしの脚の間に入る。

大きくて、グロテスクで、彼の紳士的な雰囲気を否定するみたいに淫靡で卑猥なヨコヤさんのペニス……

自分でも中が疼いてしょうがないのがわかるくらいだ。ヨコヤさんから見たあたしの入り口はきっとすごく下品に動いてるんだと思う。

もう見ていないで、早く入れて欲しかった。

「下さい……ヨコヤさんの……」

「いい子ですね」

あたしの中に容赦なく突きたてる。入れられた瞬間の、あの奥がゾクゾクしてたまらない感覚が体中に広がって、大きな声が出た。アソコがいっぱいに押し広げられる感じ、息が詰まる快感。

「あっ、あぁっ、いく、いっちゃう……」

「まだ動いてませんよ?入れられただけで気を遣ってしまうなんて、とんだチンポ狂いだ」

アハハと笑うヨコヤさんの下であたしは快楽に身をまかせた。いつかララブホテルで秋山さんと見たAVの中の女の人と同じ声が溢れてくる。
あんなの演技だって、秋山さんもわざとらしいのは嫌いだって言ってた声が自分から出てくる。

「あなたには騙されましたよ。純情そうな顔をして、こんなに淫乱だったとはねぇ」

笑いながら腰を振ってあたしを揺さぶった。その動きに合わせてあたしはAVみたいな声を上げる。

ヨコヤさんがあたしをこうしたのに。

男の人がこんなに快楽をくれるなんてあたし知らない。


「あっ、あっ、おねが……い」

「何です?」

「言って……も、一回……」

「何をですか?」


聞きたい。さっき言ってくれた言葉。これは恋だって、あたしが欲しかったんだって。


「どうしても……手に、入れたかった、って……」


ヨコヤさんが目を見開くのが見えた。緑色の綺麗な右目。
あたしが言って欲しかったさっきのセリフの代わりに、ヨコヤさんは耳元で「愛してます」と言ってくれた。

愛してるのに、支配する事でしか手に入れられないヨコヤさんがかわいそうだと思った。


「ヨコヤさん……」


手首を括られた腕をヨコヤさんの頭に通して彼を抱きしめた。
あたしの名前を呼んで貫くヨコヤさんは、もがいて苦しんでいるみたいに見えた。

目が覚めたのは真夜中だった。
白い部屋は闇に染まって、隣で寝息を立てるヨコヤさんがいる。

ベッドサイドのスタンドライトを点けると、チェストにはミネラルウォーターとビデオカメラが置いてあった。
カラカラの喉を潤して、ビデオを手に取ってみる。ご丁寧に取扱い説明書も一緒で、どうぞ消して下さいって事なんだろう。

ヨコヤさんの寝顔を見るとわずかに涙の跡がある。なんでヨコヤさんが泣いたんだろう……

そっと拭うと、んんと少しうなって寝返りを打った。掛けていたお布団からヨコヤさんの体が半分はみ出て下着が見えた。

そのパンツは白。子どもみたいな白いブリーフだけはいて眠ってる。ヨコヤさんの子どもの頃…… 子どもの頃のヨコヤさんはなんて呼ばれていたのかな。

ヨコヤさんが目覚めたら聞いてみよう。そして子どもの頃のあだ名で呼んでみるんだ。
約束のケーキを一緒に食べながら、思い出話で笑い合えたら……何か変わるかもしれない。

「ノリヒコくん、かな」

一人言を言いながらヨコヤさんにお布団を掛け直して、あたしもまた眠った。


【ヨコヤside】

あの子のお気に入りの店くらいは把握していた。入ったばかりの給料の一部を財布に忍ばせてその店にやってくるのを待つ。
偶然を装って声をかけた私の心臓が煩く高鳴っているのも知らずに、無邪気で無防備な笑顔を見せるかわいい人。

いつもの白い服と白い靴だが、下着だけはいつもと違う黒を履いた。
以前関係した女にコレを履けと渡された物だった。いつものはダサい、ありえないと噴出されたっけ。あの時追い出した女の名前すら思い出せないが、物だけは残っていた。

一般的な女がこういうのを好むならと、今日は黒を履いたんだ。

一度だけでよかった。
この腕の中で喘がせてみたい。抱き締めて、キスをして、一緒に眠りたい。そう願った。

その全てを叶えた筈なのになぜだか涙が込み上げてくる。こんなに虚しいセックスに意味があったのだろうか。

いや、今までだって虚しくなかった事などなかったじゃないか。何を今さら。

ナオが目を覚ます。
慌てて寝たふりをした。

水を飲み干す音、ビデオカメラをいじる音。
そして私の涙を拭って、私の名前を口にした。

下の名で、しかもクン付けで年下の女の子に呼ばれるなんて……

妙に懐かしい、子供の頃を思い出す。
白いブリーフを笑われなかった、嘘を吐くと怒ってくれる友達がいた、幼い日々の思い出だった。






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