香り
秋山深一×エリー


「帰るか?」

ゲーム終了後、力が抜けソファに座りこんでしまった直に、秋山が声をかける。
ロビーには、もう他のプレイヤー達は残っておらず、直と秋山の2人だけだった。

敗者復活戦での窮地を秋山に救われ、3回戦に進む事になった。
しかし秋山を巻き込んだままの状態に何ら変わりはない直の心は複雑だった。

「はい」

立ち上がろうとするが力が入らず、ふらつく直の体を秋山の手が支える。

「大丈夫か?少し休んでろ」
「いえ、大丈夫です・・・・・・帰れますから」

秋山の心配を和らげようとして、にっこりと微笑んでみせる。
その弱々しい笑顔に、秋山は細い両肩を押さえるように体をソファーに沈めた

「いや、俺も少し確認したい事がある・・・・・・1時間後にここで」

そういい残すと、秋山は背を向け軽く左手を上げてロビーを後にした。

去って行く後姿を見つめる直は、もしも秋山がいなければ・・・・・・と思い返す。
静まりかえったロビーに1人いると、次第に気持ちが沈んでゆくようだ。
部屋に戻り帰り支度をしながら秋山を待とうと、直は力を振り絞り立ち上がった。
握り締めていたハンカチが、直の手からするりと床に落ちた。
前かがみになり手を伸ばた先には、手入れの行き届いた美しい爪先。
驚き顔をあげる直に無言でハンカチを手渡したのは事務局員のエリーだった。

「ありがとうございます」

会釈をしエリーの横を通り過ぎる時、辛さの混じる甘い香りが直の鼻先を掠めた。

『このままだと貴女は敗北します。どうなさるおつもりですか?』

声をかけられた時の事が頭を過ぎり、無力さから直の気持ちは再び落ちてゆく。
ーあんな人を大人の女性っていうんだろうな・・・・・・私と違って冷静そうでー
重い足を引きずるように歩く直の後姿を、エリーが静かに見つめていた。

直が自分の部屋に戻った頃、秋山はロッカールームにいた。

「それで、確認しておきたい事とは何でしょう?」

呼び出しておきながら、訝しげな視線をよこすだけの秋山にエリーは事務的に尋ねた。

「一体どういうつもりだ?何故、俺に電話してきた」

秋山は敗者復活戦が開催されている事を知らせてきた事務局の意図を図ろうとしていた。

「私は自分の職務をまっとうしたまでの事、意味などありません」

ふん……職務ねと鼻先で笑うと、秋山はエリーに近づき顔を覗き込む。

「おかしくないか?俺はすでに3回戦進出を決めている人間だ」
「3回戦に繰り上がるプレイヤーが選ばれます。お伝えしたのは公平さを規する為」

変わらず無表情なまま同じ口調で答える女を、まるでアイスドールだと秋山は思う。

「では聞くが、何故、2回戦終了後でなく敗者復活戦開催中に知らせる必要がある?」
「何か意図があるとでも」

煙草を取り出し火をつけると、秋山は考えこむように目を伏せ、紫煙をくゆらせた。

「2回戦終了後、事務局の男から聞いた。俺がこのゲームに参加したのは偶然ではないと」
「神崎直は3回戦に進むべく敗者復活戦に参加した。が、彼女は窮地に立たされた」

エリーは無言のままの冷ややかな面持ちで秋山を見つめている。

「このままでは神崎直は敗北。アンタは俺に電話をした、俺に神崎直を救わせる為に」

秋山の声は淡々としているが、その面持ちには怒りの色が微かに滲み出ている。

「何故そう思われますか」
「神崎直を3回戦に進ませる必要があった、そう考えるのが自然だ」

女の後方、灰皿のあるテーブルまで歩き煙草の火を揉み消すと再びエリーに視線を向ける。

「何故、神崎直を巻き込む必要がある?彼女の参加も偶然ではないのか?」

鋭い猫の目のような視線がエリーの無表情な顔を捉える。静かな空気が張り詰めていた。
それまで全く表情を変えなかったエリーの口元が薄く微笑みを浮かべるように微かに緩んだ。

「仮にそうだとしても」

今度は秋山がエリーの言葉を無言のまま待っている。

「電話を無視する事も出来た筈です。神崎様を救う為にこの場に来たのは貴方の意思」

ー巻き込んでいるのは俺だと言いたいのか・・・・・・ー
秋山は一瞬眩暈のような感覚を覚えながら、ふっと鼻先を掠めた女の匂いに反応した。

「カボシャール・・・・・・」

呟くやくような秋山の声にエリーは思わず視線を泳がせる。
秋山の脳裏を、かつて手段の為に抱いた女の事が過ぎっていた。
『マダム・グレの名香よ。強情っぱりって意味があるの』
記憶の中の女は誇らしげに言い放つ。強情な私を思いどうりに出来るかと挑発するように。
秋山は纏っていたTシャツを脱いだ。細身で筋肉質なしなやかな体に外気が触れる。

「昔、ある女が言った台詞だ・・・・・・肌を通して感じる事もあるとな」

脱いだTシャツを手にしたまま、女の方に歩み寄るゆっくりとした秋山の足取り。
不穏な気配を察知したエリーは微かに眉根を動かし、1歩、また1歩と後ろに下がる。
前進する秋山と同じ速度で後ろに下がるエリーの腰は、やがてテーブルに突き当たった。

「抱いた女の顔なんて覚えちゃいないが、アンタの匂いで、言葉を思い出した」

どこか不敵な笑みを浮かべる秋山に肩を摘まれ、エリーは反射的に体を仰け反らせた。
両肩に手を置いたまま、わずかな隙間を残すだけの距離まで秋山の顔が女の顔に近づく。

「アンタがどういう人間か、肌で確認するって方法もある」
「肌を合わせれば女が心を開くとでもお思いですか」

どこか軽蔑の混じったような視線でエリーは真っ直ぐに秋山を睨み返す。

「さあな・・・・・・試してみる価値はある」

後ろに仰け反るエリーの体を力強く背後のテーブルに押し倒した秋山の唇が首筋を捉えた。

「っ・・・・・・こんな事をなさっても・・・・・・」

抵抗しようとエリーの両腕は秋山の体を跳ね除けようとするが喉元を押さえこまれ及ばない。

「さっきのゲームが終了した時から3回戦は始まっている。どんな手を使おうと勝ち上がる」

押さえつけられた息苦しさから顔を歪ませながらも、エリーは秋山の顔を凝視する。

「自分に有利な情報を探る為、女を抱く。ルール上問題はないだろう?」

すばやく女の両手を持っていたTシャツで縛ると、秋山は耳元で小さく囁いた。

「ここに来たのはアンタの意思だ」

観念したような空虚な色を浮かべた女の目は、秋山の肩越しの先にある天井を映していた。
薄く冷たい笑みを浮かべると、秋山は、その縛り上げた手で女の顔を隠すように押し付けた。
緩めたジャケットの中のシャツのボタンを外すと黒のレースに覆われた胸元が浮びあがった。

ー女を抱くのは久しぶりだー
僅かな高揚を感じながら秋山はその胸元に唇を滑り落としていった。
男に組された屈辱に耐えるように、女は口元にだらしなくかかった布の端を強く噛みしめた。

直は秋山の部屋の前で座り込んでいた。
荷物を整理して少し横になろうとしたが、部屋にいても落ち着かず秋山の部屋をノックした。
反応はない。秋山を探し回る元気も残っておらず、部屋の前で座りこんで待つ事にした。
ー秋山さん、一体、どこにいっちゃったんだろう・・・・・確かめたい事があるってー
座りこんで30分以上が経過した頃、ぼんやりと宙を舞っていた視線の端に秋山の姿が映った。

「あ、あきやまさんっっ!!!」

待ち人の姿を確認して、喜びに溢れた表情で立ち上がる直に、秋山が近づいてくる。

「何だ、部屋で待ってたんじゃなかったのか」

少し呆れた表情で秋山が優しく直に声をかける。

「もおぉぉぉぉ、待ちくたびれちゃいましたよ!何してたんですかあ?」
「ああ、悪かった。出る前にシャワーだけ浴びたいから、もう少し待ってくれ」

直の肩を軽くポンと叩いた秋山の左腕に、直は甘えるように少し体を寄せた。
秋山の煙草の匂いに安堵した瞬間、どこかほんのりとした甘さが直を鼻先を掠める。
反射的に体を離した直の目はドアノブを引く秋山の右肘辺りの滲んだ朱の線を捕らえていた。

会場の外に出ると、2人は待っていたタクシーに乗り込んだ。
何気なく入口に視線を向けた直の目に女の姿が一瞬映る。車は動き出し姿はかき消された。
ーあの香りは・・・・・・そうだ!あの人の香りだ・・・・・・でも何で秋山さんから?ー

「あっ秋山さん!」

すっとんきょうな声の直に腕を掴みかかられ、秋山の体は軽く座席の上でバウンドした。

「な、何だ?」
「秋山さんって、香水つける人でしったけ?」

テンション高く前傾姿勢でにじり寄ってきた直の勢いに、思わず秋山は体を引く。

「は?何だよ、急に」
「さっき秋山さんから甘い匂いがしましたよ」

飛び跳ねるように体を引いた秋山を面白がって、からかうように直はクスクスと笑う。

「ああ、さっき移ったか・・・・・・」

言いかけ、大きく目を見開いたまま固まった直を見て、秋山は自分の不用意な返事を後悔した。

「あ・・・・・・」
「うっ、移ったって、あの事務局員の女の人からって意味ですよね?」
「え?何が?」

ー普段、鈍い癖に……何でこういう時は神がかり的に鋭いんだー
舌打ちしたいような気分になりつつ即座にとぼけてみせる秋山だが、直の追求の手は緩まない。

「あの・・・・・・、右腕の肘のあたりの、それ・・・・・・口紅ですよね?」

その場所に目をやる秋山の目が、直の指摘した肘の辺りに朱の痕跡を認めた。

「ああ・・・・・・ぶつかった時だろう」
「嘘です!」
「おやおや、何でも信じる直さんが人を疑うわけ」
「そんなところにぶつかる筈がありません!」

茶化すように言いかけた秋山の言葉に被さる、いつにない直の声の迫力に秋山は思わず肯定した。

「不自然だな」
「じゃあ、やっぱり・・・・・・その」
「抱いた」

秋山の言葉に、直は静かに俯いたまま暫く無言になってしまった。

「あの、もしもし、直さん?」

秋山は、おそるおそる呼びかけてみるが返事はない。

直は考えていた。敗者復活戦への参加を知らせに来た男から知らされた秋山の悲しい過去。
人を憎み、復讐心だけで生きて行かねばならなかった悲痛な心根を思うと切ない。
その秋山が、もし、あの女性に心を動かされたのだとしたら、自分はそれを祝福すべきでないか。

そんな直の心中を知らず、秋山は何も言葉を発しない直への対処法を考えあぐねていた。
ーもしや・・・・・・泣いているのかー
直の表情を伺おうと覗き込もうとした瞬間、秋山の顎を勢い良く直の頭がヒットした。
「ってえ・・・・・・、おい!いきなり顔をあげるやつが」
顎を押さえながら直の方に目をやると、秋山の目に飛びこんだのは妙にキラキラした直の笑顔。

「すっごぉぉぉぉい!秋山さん、いつの間にあんな綺麗な人と。何か大人って感じですかあ」
「はあ?何だよ、それ」
「だって、何か、大人の恋?とかみたいな感じじゃないですかあ」

想定外の直のリアクションに、説明のつかない苛立ちにも似た気分を感じてしまう秋山だった。

ー何を考えてる、こいつは・・・・・・また何か激しく勘違いしてやがるー

「あのさ、別に、あの女と俺が、どうこうってないから」
「え?あの人の事が好きなんじゃ・・・・・・ないんですか?」
「ははは!何でそうなる?相手はこのゲームの主催者側だぞ?いわば敵だろ、テーキ」

軽快に笑い飛ばす秋山のその言葉に、ふっと直の表情が曇る。

「敵って・・・・・・敵と・・・・・・そういう事・・・・・・しちゃうんですか?」
「俺が何をしようが君には関係のない事だ」

突き放すような秋山の言葉は、直の心の奥深いところで冷たく響いた。

「それは・・・・・・そうなんですけど・・・・・・」

わからないという表情で肩をおとす直の姿に、秋山の胸に言いようのない痛みが走った。

「・・・・・・悪かった。君には刺激が強い話だな。この話は止めだ」

軽く頭に手を置かれ、叱られた子供のように直はしょんぼりしてしまった。

「悪いが、少し寝る」

秋山は直をシャットアウトするかのように、窓の方に顔を傾けて目を閉じた。

秋山の恋を祝福しよう、寂しい気持ちを押し殺し発した精一杯の言葉だった。
だが、直の言葉は虚しく放り出され、空振りに終わってしまった。

ー私、何でこんなに落ちこんでいるんだろう・・・・・・秋山さんが、あの人を抱いたから−

直の脳裏にエリーのクールな面差し、ハンカチを拾ってくれた美しい爪先が浮かぶ。
自分とは、あまりにも違う大人の女性、それがエリーに抱く直の印象だった。
その女を隣に座っている秋山が抱いた。悲しい気持ちで眠っている秋山に視線を向ける。

無造作にシートに置かれた男にしては繊細な美しい手。どんな風に女に触れたのか。
それを考えるだけで、ドロドロした黒い塊が自分を飲みこんでいくような感じがした。
そっと秋山の手に触れてみる直の指先に、少しひんやりとした感触が伝わってきた。
この手に何度励まされた事だろうと思い返す直の胸に焼けるような熱さが襲った。
ー嫌・・・・・・他の人に秋山さんが触れるのは嫌だ!!!−

直は一刻も早く1人になって泣きたかった。黙っていると今にも涙が溢れそうになる。
困らせるように秋山の前で泣く事だけは避けたかった。程なく車は直のアパートに到着した。

「おやすみなさい」

努めて直は普段通りに、車中の秋山にニッコリと微笑んだ。

「ああ、ゆっくり休め」

秋山がドアを閉めると同時に車は静かに発進した。
車の姿が見えなくなるのを確認すると、直の体は、ゆっくりとその場に崩れ落ちていった。
体を支える堅く握りしめたままの両手、その間に見える地面を直の涙が湿らせてゆく。

どれ位泣いていたのか、直は依然として止まらない涙を拭う事もせず、ぼんやりと思った。
立ち上がろうとして体をふらつかせた直に、見覚えのある手が差し出された。

「ようやく泣きやんだか」
「あ、あきやまさん!帰ったんじゃなかったんですか」

驚く直の体を抱きかかえるように立ち上がらせ、スカートについた泥を払う秋山の優しい手。

「気になって途中で降りて戻ってみると、やっぱりって感じだな」

呆気に取られたような顔で見つめる直の涙堂に残った雫を、秋山の細い指先がそっと拭う。

「泣く程ショックか?」
「はい」

どこか優しい響きを持った問いかけに、直は素直に肯定した。

「悪かった・・・・・・君が潔癖症なのは良く」
「そうじゃありません。違うんです」

わかってると続けようとした秋山を遮る直の言葉に、意を読み取れぬ秋山は首をひねった。

「そうじゃないって」
「秋山さんは、何とも思っていなくても女の人を抱けるんですよね?」

まだ涙の乾かぬ面持ちの真剣な問いかけに、そうだ、と言いたくない秋山は言葉を失う。

「・・・・・・にも」
「え?」
「私にも・・・・・・あの人にしたようにして下さい」

直の言葉に秋山の顔が固まる。

「おい・・・・・・お前・・・・・・何言ってんのかわかってる?」
「私を抱いて下さい」

今度はきっぱりと言い放つ意を決した表情に、動揺を隠し切れず思わず秋山の視線は逸れた。

「私、秋山さんが他の女の人に触れた事がすっごく嫌でした」
「ああ・・・・・・」
「苦しくて、苦しくて・・・・・・凄く汚いドロドロした気持ちで一杯に・・・・・・なって・・・ひっく」

続けようとするが、再び溢れそうになる涙を堪えようと直の声は詰まってしまう。

「あの人に嫉妬したんです・・・・・・っ・・・うっ・・・・・・私の…何・・・思ってなくて・・・も」

搾り出すような途切れ途切れの言葉に、秋山は思わず直の体を引き寄せていた。

抱き寄せた想像以上に華奢な体を愛しく思う。初めて知る感情が秋山を戸惑わせていた。
「もういい」
「わた・・・・・・しは・・・・・・あき・・・・・・やまさん・・・・・・が」

シンプルな2文字の言葉は、直の口から溢れ出す前に秋山の唇で柔らかく行き場を塞がれた。
軽くそっと触れるだけの様なキス、その温かい感触に秋山は目が眩むような思いがした。
直の唇が微かに震えるのが伝わり、一旦唇を離すと、目を丸くした直の口元に触れてみる。

手放した温度を確認するような輪郭をなぞる秋山の指先に、直は痺れを感じて睫を震わせた。
その仕草に、思わず下唇を軽く押し開き、僅かな隙間を求めて秋山は舌を差し入れる。
軽く絡め取る様に柔らかく自分を支配する舌先の微かな苦さに直は体の芯に甘い疼きを感じた。
気が遠くなるような感覚に、思わず直は無意識に秋山の肩にしがみついていた。
再び離れた温かさ、唇に触れる外気の冷さを感じる直に秋山の声が“直”と耳元で優しく響いた。

思いがけない優しいキスに直は心が満たされるのを感じながら、あの人にも・・・・・・と思う。
こんな風に優しくキスをしたのだと思うと、キリキリとした痛みが直の胸を突き刺すようだった。

「あの人にも、こんな風にしたんですよね?」
「何でそんな面倒な事、好きでもない女にしなくちゃならないんだ」

悲しげに目を伏せる直の姿に、愛しさを抑えきれず秋山は本音を漏らしてしまう

「え?それって・・・・・・キスとかしないって事・・・・・・ですか」
「当然だ」
「っていうか、好きでもない女にって・・・・・・???」

今しがた交わされた甘いキスを思い返し、混乱した顔で考えこむ直に秋山の表情が緩む。

ーわかってないのか・・・・・・こいつって本当に・・・・・・ー

「まあ、お前を抱く楽しみは先に取っておく事にするから。それまでゆっくり考えてろ」

クスクス笑う秋山の優しい笑みと言葉に、直の頬は次第に赤みを帯びていく。

「本当、お子様だよな」
「えー!何ですか?それって。私じゃ子供っぽいから嫌って事ですか?」

きゃんきゃん騒ぎたてる直を、夜中に近所迷惑だろうと諭す秋山の脳裏に女の言葉が過ぎる。
ロッカールームを出て行く時に女が呟くように言い捨てた言葉。

『今度は大事なものを守り切れると』

女が言葉を終える前にロッカールームを後にした秋山の耳にはそれは最後まで届いていない。
聞く必要もない事だと秋山は思った。






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