天然小悪魔(非エロ)
福永ユウジ×神崎直


雨の降る夕方の商店街。

普段はそれなりに活気溢れるこの場所も、今ばかりはどこか寂しげな雰囲気を漂わせていた。
…その中を、赤い傘と長靴を纏った少女がひとり。
名を、神崎直という。
彼女は目の前の水溜まりを避けることもなく、むしろわざとそこに足を突っ込み
ちゃぷちゃぷと戯れるようにして歩いていた。

「…直ちゃん?」

いきなり後ろから名前を呼ばれ、驚いた直はくるっと振り返る。
するとそこにはキノコカットの頭、そしてド派手なスカーフと衣服を纏った男がいた。

「…あ。福永さん!!」

直に福永と呼ばれたその男は、右手を小さくあげ「ヤッホ」と言った。
そして言葉を続ける。

「こーんな雨の日に何してるの?直ちゃん。…あれっもしかして買い物帰りか何か?」

チラッと彼女の持つビニール袋を見やる。
するとその視線に気付いた直は、にこにこと答えた。

「はいっ!今日は寒いんで、お鍋でも作ろうと思って!」

がさっ、と直が持ち上げたビニール袋からは白菜やしらたきが覗いていた。
そして直はハッと何かに気付いたようにこう続ける。

「あっ!福永さん!!良かったらこれから私の家で一瞬にお鍋食べませんか!?」

…突然のお誘い。
だが、福永はどうにも行く気にはなれなかった。

「……やぁーだよ。だって、どうせアッキーもいるんでしょ?」

少し怪訝そうに福永は言う。

「へ?秋山さん…ですか?いませんよ?」

――秋山が、いない?

その瞬間、福永の瞳は大きく見開かれ、身体は硬直する。

――男女が部屋に2人きり。
その上彼女を守るナイトもいない?

「……直ちゃんキミさ、自分が言ってること、ちゃんとわかってる?」
「…? はい、一緒にお鍋、食べましょう!」

……嗚呼やっぱり、わかってない。

数分後、福永は直の部屋の玄関前にいた。

――本当は、来るつもりなんか無かったのだ。
それなのに、それなのに!
彼女の笑顔は人に有無を言わせない、不思議な力がある。

…それがいけないのだ。
福永は直が部屋の鍵を開ける間、
終始自身にそう言い聞かせていた。
やがてガチャリと音を立てて部屋の鍵が開いた。

どうぞ座ってて下さい、と直に言われた福永は
言われた通り椅子に腰掛け、部屋の中をぐるりと見回した。
目に留まるのは彼女らしく可愛らしい小物や家具たち。
いかにも女の子、といった感じの部屋だった。

ふとキッチンに目をやると、
直がこれまた可愛らしい黄色のエプロンをして、料理を始めようとしているところだった。

(…直ちゃんが奥さんだったら、こんな感じなのかねえ…)

彼女の後ろ姿を見た福永はぼーっとそんなことを考える。
…が、そんな妄想は直の甲高い声によって打ち破られた。

「福永さーんっ!すみません!そこの戸棚から、お皿取ってもらえますかっ!?」

福永は思わずハッとする。

「…あ、ああうん。」

彼は一瞬心の内で(何で俺が、)と思わないでもなかったが
ご飯を作ってもらうのだから仕方がないか、と諦めた。

そして言われた通り戸棚から手頃な皿を探り出し、直のもとへ持って行く。

「ん。これで良いの?」
「はいっ!ありがとうございますっ!!」

彼女は花のような笑顔で礼を言う。

(…こんの、天然小悪魔め。)

ふいに心に芽生えたそんな気持ちを隅に追いやり、
どーいたしまして、とだけ呟いて福永はテーブルへと歩き出した。
直はくるりとキッチンの方へ向き直り、料理を再開し始める。
と、そのとき。

「きゃっ――…」
直の叫び声。
福永が反射的に振り返ると、そこには縮こまり指を押さえる直の姿があった。

「ちょっ…直ちゃん!?」

駆け寄ると、キッチンの上には包丁とまな板。
そして指を押さえしゃがみ込む直。
その姿から察するに、彼女は包丁で指を切ってしまったらしい。

「あーあー…ほら、ちょっと見して。」

福永は、さっと直の手をとる。
ふと顔を上げると、直と目が合った。
彼女の瞳はうるうると子犬のように潤んでいた。
それを間近で見た瞬間、福永は心の中で"何か"が疼くのを感じた。
…悪戯心、というには意地の悪すぎるそれは、行動となって表れた。

…福永は、ぷくりと赤く染まった直の細い指を口許に引き寄せ
ちゅ、と口付け、舐めた。
直はびくりと肩を震わせ手を引き抜こうとするが、男の力に敵うはずもない。

…福永の舌はぺろぺろと指を這い回っていく。
指先から付け根まで、啄むように丁寧に口付けては、優しく吸う。
時折ちゅ、と部屋に響く湿った音が直の羞恥心を煽る。

「…っ、ん…」

福永はどこか虚ろに、直の口から微かに甘い声が漏れるのを聞いた。
……ひとしきり口付けたあと、直の指を解放した福永は
見せつけるかのようにぺろりと自身の唇を舐めた。
唇からは微かな鉄の味と、何とも言えない甘い味がした。

「ふ、ふくながさ…っ」

なにするんですか、と言おうとしたところで、福永の声がそれを阻む。

「消毒だよ、しょーどく。」
「しょうどく、って…」

彼女の顔は真っ赤だった。

「…あれれ?どしたの?直ちゃん。もしかしてちょっと気持ち良くなっちゃった?」

ぬ、と福永は直の顔を下から覗き込む。

「そ、そんな…っ!!」

ばっと両の手のひらで顔を隠し俯く直。
その隙間から垣間見えた彼女の瞳には
今にも溢れ出しそうなほど涙が溜まっていた。

…――水溜まりみたいだ、と福永は思った。

はあ、とひとつ息をついて、彼は口を開く。

「…手にキスするくらい、外国じゃ挨拶でしょっ!ほらそれよりも!早く絆創膏貼らなきゃじゃん!」
福永がそう言うと直はハッとしたように立ち上がり、
「さ、探して来ますっ!!」
と叫んで走り出した。

…その場にいるのがいたたまれなかったのだろう。
それは福永の目から見ても明らかだった。

ぱたぱたと走り去る小さな背中。
その後ろ姿を見た福永は頬杖をつきながら
「ナオちゃんて本当に、バカだよねぇ…」
と、小さく呟いた。






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