自分に持っていないもの(非エロ)
福永ユウジ×神崎直


エンジン音だけが狭い車内に響き渡る。
長時間に及んだ敗者復活戦、そしてその直後に発表された、第三回戦。
敗者復活戦の疲労とこの先待つであろう恐怖で、ほとんど彼らは無言だった。
フクナガも例外ではなく、爪を噛んでただ俯いていた。


「あの・・・フクナガさん」

隣に座っていたナオが、何か決意をしたような声をあげる。
ゆっくりとナオへと視線を向けると、その奥に座っている秋山の姿が見えた。
彼もまた、無表情のまま何かを考え込んでいるようだ。

「フクナガさんは、どうして人を騙すんですか?」
「・・・ナオちゃんは、どうして人を信じるんですか?」

真剣な眼差しのナオを馬鹿にするように、口調を真似して言い返す。

「それは・・・」
「今までだって散々人から騙されてきたんじゃないの?こんなゲームにまで参加しちゃってさ。
騙しあいのゲームなのに、人を信じるだけで勝てると思ってるの?
それとも、馬鹿なフリをしていれば誰かが助けてくれると思ってるの?
甘いよ、甘すぎるよナオちゃん」

ただ信じることしかしない彼女を見ていると、すごく苛立つのだ。その感情が、余計なことを次々と喋らせる。

「誰も欲張らなければ、みんなが助かる?ゲームから抜けられる?馬鹿じゃないの?
秋山とキミを除けば、みんな一億の負債があるんだよ?
もうゲームから抜け出せないのなら、相手を騙して金を手に入れ、抜けるしかないじゃん。
その為なら、平気で嘘をつき、騙すよ?そんな連中を信じるのかい?」
「そんな・・・私は・・・」
「騙されてからでは遅いんだよ!」

この状態でもまだ理解しないナオに、思わず声を張り上げてしまう。
彼女はきょとんとしているし、声を荒げてしまったせいで何事かと他のメンバーの視線まで集めてしまった。
自分らしくない失態だ。

一度長く息を吐き、気持ちを落ち着かせる。

「・・・あのねナオちゃん、キミはこのゲームに負けたらどうなると思う?」

体をナオのほうへとググっと寄せ、耳元でゆっくりと囁く。

「その・・・莫大な負債を抱えて・・・支払いをするしか・・・」
「そう、それはこのゲームだけじゃなく、現実でも同じことだよね。
でも、その負債が払いきれない人はどうしたらいい?」

ナオはハッとして秋山のほうへと向いた。
なぜナオが秋山を見たのかはわからないが、とりあえず話を続ける。

「もう死ぬしかないんだよねー」

台詞とは裏腹に、口から出てきたのは明るい声だった。
自分が発した言葉の重みはよく知っている。
自分の身内がかつてそれを経験することになったのだから。
それを、ナオに告げる必要はない。過去のことを教えたところで、何になると言うのだ。
でも・・・何故だか言わずにはいられなかった。

「俺の父はね、会社を運営してたんだ・・・」

そして知人に騙され、妹と母を連れて無理心中をしたこと。
親戚には邪険に扱われ、助けてくれる人など誰一人いなかったこと。
自分を守るためには自分が強くならねばならなかったこと。
ナオは何も言わず、ただ自分の言葉に耳を傾けていた。

「ライアーゲーム一回戦ではね、父を騙した相手を騙して金を奪ったんだ。でもね」

父を・・・家族を奪い返すことまではできなかった。

「ナオちゃん、世の中にはね・・・
一度奪われてしまったら、二度と取り返せないことのほうが多いんだよ。
だから、俺はこれ以上何も奪わせないために、相手を騙して奪うって決めたんだ」
「・・・フクナガさん」

今にも泣きそうな、表情をしている。どうしてこの子は、すぐに人を信じるのだろうか。
他人に対して悲しむことができるのだろうか。
二回戦でも、敗者復活戦でも、自分は彼女から奪おうとした側の人間だというのに・・・。

「なーんて、まさか信じちゃった?冗談だよ、じょ・う・だ・ん♪
ナオちゃん、キミってほんっと馬鹿だーねー♪すぐに騙されるんだから」

このとき、ナオの顔を見ることはできなかった。


そうか、ようやくわかった。
ナオちゃんに苛立っていた原因は、自分に持っていないものを持っているからなんだ。
ナオちゃんと一緒にいると、懐かしい感覚に包まれる。
・・・彼女なら、信じられる。馬鹿だけど・・・馬鹿だから・・・裏表がないから、信じられる。
いつかまた、あの頃のように人を信じて、笑えるのかな。
できれば、彼女と一緒に・・・。






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