本性を見せて頂きましょう 続き
秋山深一×神崎直


前編:本性を見せて頂きましょう(葛城×直)

セミファイナルステージが終わってから一週間、秋山は結果を受け止めきれないままでいた。
数日前、電話で話した直は気持ちの整理がついているのか明るい様子だった。

「残念ですけど、後悔はありません。」

そう言い切った彼女に返す言葉が見つからず、心がチリチリとした。
いつもなら沈黙など気にしなかったが、心の中を探られるような気がして適当な言葉を探した。

「悪かったな。守ってやれなくて。」

この場に相応しい適当な言葉。

「いいんです。私、秋山さんに沢山助けて貰って、守って頂きましたよ。お返しができないのは残念ですけど…」

予想と変わらない彼女の応えに適当に相槌を打ち電話を切った。

秋山も結果は結果と認識できるのだが、感情として割り切れないものを消化仕切れずにいるのだ。

「秋山さんに全てを託します。」

頭の中で直の言葉が響く。
信頼の証ととれるその言葉が気分を重くさせる。

直がファイナルに進まなくとも自分は進む

以前からそう考えていた。
そして彼女は負債を抱えずに離脱できたのだ。
何の問題もない。
そう…自分と彼女は離れたとしても問題などありはしないのだ。

「まぁ考えてもどうにもならない。」

わざと口に出し考えを断ち切ろうとした時、不意に電話が鳴った。

ピロリロ…

(メールか?)

画面を見てみる

『不在着信1件』

誰からなのか確認操作をしようとすると再度電話が鳴った。

ピロリロピロリ
『着信中 神崎直』

認識とほぼ同時に音が鳴り止む。
無意識に眉間にシワが寄る。

ピロリロピロ…

今は直からの電話に出る気分ではなかったが、3回連続の着信に不信を覚え反射的に応答ボタンを押した。
が、切れてしまった後だった。

(なんなんだ一体。)

腹が立ち電話をベッドへ投げ捨てる。

今は彼女とは話したくない

秋山は本心からそう思っていた。
故に、さっきの電話は繋がらなくてよかった…気分を変えれば落ち着くはず…なのに苛立ちが消えない。
フゥーーー…と少し深めの溜息を吐き目を閉じる。

(どうして彼女の事になると簡単に振り回されるんだ。)

自嘲気味に自問し、気分を沈めていく。
答えはわかっているが頭の中身を空にし、ほんの数秒間だが自分自身すら感じないような時を過ごす。
そして目を開けた。
視界に電話が映る。

「はぁーーーっ」

声と言える程の明るめの溜息をわざと尽きながら電話を取り、彼女にcallする。

(駄目だな俺は。)

心配性な兄のような役処を自分に演出しながら応答を待つ。
が、6回程のcallで留守番電話に切り替わる。
無理に引き寄せた明るい空気が散っていく。

(………本当に駄目だな俺は。)

今度は心底そう思いながら財布とキーを取り玄関へ向かった。

彼女の家に行ってみよう

決断してしまえば秋山の行動は早かった。
30分程で直の家付近に来ていた。

駅からの道のりを急いで進み彼女の家が見えてくると自然と気が緩む。
余裕が生まれ景色を見遣る。

(!?……)

不意に視線を感じ、周囲に視線の主を探す。

(誰もいないか…)

気のせいと思い直し彼女のアパートに入る。
直の部屋の前に到着し、呼び鈴を鳴らす。

ピンポーン

内装のイメージとは違い彼女の部屋の呼び鈴はクラシカルな音がする。
インターフォンではないので扉が開くのを待つ。
暫く待つも扉が開く気配がなく秋山はガックリとする。

(駄目というよりも馬鹿だな俺は。)

携帯からの着信だったのだから家にいたとは限らない。
しかも今日は休日だ。
出先からだった可能性は大いに有り得るというのに、何故考えが至らなかったのか。

(……………)

盛大な溜息をつきたいところだったが場所を考え押し殺す。
しかしどうしたものか…先程の電話はやはり気になるため、このまま帰る気にはなれない。
安否の確認だけでいいのだ。
だが、住民でもない者が他人の住居前にずっと居るわけにはいかない。

(取り敢えず離れるか。)

扉に背を向け電話を取り出す。
アパート出口に向かいながら直にもう一度callしてみる。

♪天国じゃなくても〜♪

背後から軽快な音楽が流れる。

(!!)

聞き覚えがあった。

「古めの曲ですけど、大好きなんです。秋山さんからの着信コレにしてるんですよ!」

以前、直がお気に入りだと聴かせてくれた曲に似ていた。
歌詞のサビの部分が自分達に合っている気がして…などと話しは続き、苦笑いをしながらも直には合ってる気がすると思い聴いていた。

♪あなたに会えた幸せ…♪

(間違いない。)

後ろを振り返ると音の発信源は予想通り直の部屋である。
耳を近付けると、音楽が止んだ。
手元の電話からは留守電アナウンスが流れており、秋山は電話を切った。
40分程前に自分に着信があった事は確かだ。
その後に携帯を忘れ外出したのか…可能性はある。
が、無償に安否が気になった。
知った仲とはいえ無断で入る事は流石に抵抗があり、再び呼び鈴を押して中の気配を探る。
助けを呼ぶような声はないが微かな気配を感じた…ような気がした。
何故か嫌な感じがして、堪らずドアノブを回してみる。

ガチャリ

鍵が掛かっていない。
いくら無防備な彼女でも外出時に鍵を掛けないわけがない。
漠然と沸いた嫌な感じが確信めいた胸騒ぎに変わり扉を開けた。

バンッ

視界の中で白いモノが動いた。
皺の寄ったオレンジ色のベッドカバーの上に細く白い足がある。
頼りなげに重なる二本の足首には細い紐が幾重にも巻かれている。
それぞれの足首に緩く巻かれたそれには拘束力はないと思われたが、1番華奢な付近には痛々しい鬱血痕がある。
靴を脱ぎ捨てながら声を掛ける。

「なおっ!?」

「こないでくださいっ!!」

強い声音に足が止まる。
が、秋山は既に部屋に上がっていた。
一歩奥に上がっただけだったが、障害物であった壁の先が目に入ってきていた。

(―――――――)

一瞬で頭の中が白くなる。
スカートは下腹部から大腿を覆っていたが一見して不自然であり、すぐに裂かれた跡に気付かされる。
インナーも捲くり上げられており彼女の柔らかそうな白い肌には鬱血痕が点々と散らばっていた。散らばる痕に目を配ると、胸の膨らみの一部が視界に入る。
明らかに誰かに乱暴されたと思わせる光景だ。

「ぁきやまさんっ」

搾り出すような直の声で我に返る。
返事はできない。
彼女に近づき着ていた服を胸元から腹に架けて被せてやる。
だが掛けた上着に視線を落とし再び動けなくなる。
しなければいけない事は沢山あるはずだった。
しかし思考がまともに働かない。

思い切ったような声が直の口から出た。

「あのっ、手を、解いて貰えますか?」

掛けられた声になんとか反応し彼女の腕を探す。

(手を解く…?)

思考が鈍いまま肩から、その先に延びる手を確認する。
紐が幾重にも巻かれていた。
足首のそれとは違い、今見ているそれは現在進行形で拘束力を発揮している。

流石に頭より先に身体が動いた。
痛々しい手首、不自然に上がる肩を庇うように曲げられた肘…とにかく一秒でも早く解放してやりたい。
左右に視線を配り近くにハサミを発見する。
金属製ボールの中にいくつかの器具と一緒に収まっていた。
色々と引っ掛かる事はあるがハサミを取り上げ彼女の側へ戻る。
拘束を逃れようとした結果なのか、白い肌に紐が食い込んでいる。
傷付けないように手を添えると、彼女の肌はとても冷え切っていた。
急いで、でもなるべく丁寧に刃を入れ拘束を解く。

拘束を解かれた彼女は、慌てて上半身を起こし自分の身を庇うように上着を掴んだ。

「っっつ。」

ビクッと肩を上げ小さな悲鳴を漏らした彼女は、上着を離し顔を歪ませた。
長時間無理な体勢でいたせいか逆姿勢に痛みが走ったのだ。

咄嗟にインナーに手を掛けて腹まで降ろしてやる。
思考が動きだし『いったい何があったのか』
問い質したい衝動が沸く。
しかし先ずは彼女の身体を労るのが先だと思い改めバスルームへと足を向ける。
知らない領域であったがバスタブに詮をして湯を落とし始めた。
温度確認をしながら先程の光景を思い出す。

直の無防備さが招いた事かもしれなかった。
彼女のそういった部分には、何度も苛立った経験がある。
だが実際こうなると彼女に対して怒りは向かわない。
見えない相手への怒りが暴走しそうになるが何度も深く息を吐き気分を落ち着かす。

(今は絶対に感情的になっては駄目だ。)

バスルームから戻ると彼女はベッドカバーに身を包んでいた。

「なお」

なるべく優しく声を掛け、反応を見ながらゆっくりと近くに寄る。
斜め前に位置を取ってしゃがんでから彼女の顔を見つめた。
俯いていた彼女は少しだけ顔を上げ視線に応えてくれた。

「肩は大丈夫か?他に痛む処や怪我はないか?」

コクンと健気に頷く彼女。
すぐにでも抱きしめてやりたくなる。
しかし今はそんな事をするわけにはいかない。
彼女が怖がらないように、安心できるように一定の距離を保ったまま再び声を掛ける。

「風呂入れそうか?」

「はい…。」

今度は声に出した返事が返ってきた。
バスルームから遠い椅子に腰を掛け彼女を見守る。
着替えを取りバスルームへ消えて行く姿を見送ると、間もなくしてシャワー音が聞こえてきた。
取り敢えず安心したが、すぐさま部屋全体の確認に入る。
二人掛けのダイニングテーブルにカップを2つ発見する。
近付き中身を覗くと、残留している中身からは甘い香がしてココアだとわかった。
だが分離現象が起きていた…恐らく薬でも混入しているのだろう。
顔見知りが相手だろうと思われ、余計に彼女が不憫になる。
カップを持つ手が震え、身体が熱くなるのを感じるが、心を沈めるために目を閉じる。

10分程前、バスルームで湯を張りながら秋山は心の整理をした。

ここ数日、確かに秋山は苛立っていた。
セミファイナル後の状況変化をきっかけに、直への特別な思いから色々な感情が生まれコントロールしきれない状態だった。
直との関係に不満が生まれ、同時に勝手な理想を抱き…またそれを否定し自己嫌悪に堕ちる。
子供っぽい怒りを直にぶつけたい衝動に秋山は振り回されていた。
しかし、状況はそれどころではなくなった。

心配性の兄のような役処でも構わないと自然に思えた。
側で今の直を助けてやれるなら…むしろ都合が良いポジションである。
彼女が離れるかではなく、自分が彼女を守りたいのだ。
もちろんライアーゲームなど関係ない。

秋山は気持ちを切り替えバスルームを出てきたのだ。


(怒りで思考を鈍らせている時ではない。)

カップを置きながら再び自分に念を押し、彼女のこれからについて思考を巡らせてゆく。
状況を考えると異性が立ち入るのは好ましくないと思われたが、見過ごして救われる事態ではない。
床に落ちていた紐や下着や服の残骸を全てビニールに詰めながらセカンドレイプという言葉が浮かんでくる。
被害を訴える事は正しい姿だと思うが、見返り以上に精神的苦痛が伴うだろう。
彼女はどう考えるだろうか。
カップや調理器具を適宜な位置に片付けながら、妊娠の可能性も考えた。
予定日でなくとも非常事態に排卵〜望まぬ妊娠という話しは聞いた事がある。
とにかくアフターピルの処方は受けた方がいい…時間制限がある中でどう切り出そうか…

カチャリ

考えがまとまらないうちに彼女が戻ってきた。
時計を見ると20分程経過している。

(案外早いな。少しは落ち着いたのだろうか。)

彼女を観察する。
表情は強張っているが顔色はだいぶ良くなっていた。

「秋山さん」

先に声を掛けてきたのは彼女だった。

「ありがとうございました。それと心配を掛けてすみません。だけどもう大丈夫です。」

彼女は一気に言葉を連ねた。
バスルームで言葉を考えて来たのだろう。
言い終えた彼女が自分の反応を待って身構えているのがわかる。
取り敢えず落ち着かせようと近くの椅子を薦めてみると、彼女は素直に従った。
少し時間をおいてから、なるべく静かに話し掛ける。

「辛いだろうが率直に言う。婦人科に行くべきじゃないか。」

彼女が俯く。
返事がないので、言葉を続ける。

「頼れる女性がいなければ、俺がついて行く。警察なんかは別にしても、身体は大事にしないと…な?」

語尾を上げて彼女の返事を促す。
暫く沈黙が続いたが、彼女の言葉を待っていると

「身体は大丈夫です。」

とだけ返ってきた。
しょうがないので覚悟を決めて話しを続けた。

妊娠の可能性やアフターピルの話に性病の話しも付け加えた。
もしも思い当たるなら、怪我がなくとも病院に行くべきだと。

これ以上は繰り返しになると思い、彼女の返事を再び待つ。
ずっと黙っていた彼女が俯いたまま話し始めた。

「妊娠はないです。」

いきなり言い切る彼女に、『だってされたんだろ?』と思わず問い質したくなったのを堪える。

(油断をすると、俺という奴はすぐにこうだ…)

自分に注意を促し黙っていると、予想外の言葉が続いた。

「相手は男性じゃないんです。」

話しが予想外に向き彼女の顔を確かめずにはいれなかった。
遠慮を忘れ視線を向けると、彼女は焦ったように話しを続けた。

まとめると、『高校時代の同級生が悪戯をしてきた』という内容だった。
『昔も少しいじめを受けていた』だとか、『変わった人だから』だとか…色々言っているが、内容からも様子からも到底信じ難かった。
繰り返し尋ねても同じような話しでかわされてしまうため作戦を変え、彼女の真意を探る。

「仮に本当だとしても、拘束されたんだろう。悪戯で済む話しではないんじゃないか?」

彼女は『拘束』という言葉に動揺を見せたが、『少し変わったタイプの人だけど根は優しいはず…』などと言い出した。
半ば呆れ気味に語気を強めて問い質す。

「じゃぁ君は、久し振りに訪ねてきた元同級生の女に犯されかけたって言うのか?」

ストレートな言葉に直の顔が見る見る赤くなる。

(しまった)

誰が相手でもレイプ被害に遭ったのは事実なのだ。
こんな言い方はするもんじゃなかったと大失態に焦る。
と、直が口を開いた。

「もうこの話しはしたくありません!秋山さんに心配されなくても妊娠なんかしていないし、相手を教える気はありませんからっ!」

「それに、助けて欲しいなんてお願いしてません!!」

「それに……………」

顔を真っ赤にした直の言葉は続く…頭の中がグラグラした。
何やら先程の説明を支離滅裂に繰り返している。
『よけいなお世話』と言わんばかりの言い様と、度々出る『相手』と言う言葉使いが特にグラグラくる。

(相手って……同意だったのか?いや馬鹿な…消えた状態で放置されてたじゃないか…)
(助けはいらない?なんだよそれは…庇ってるのか…レイプだろ?)
(乱暴されても庇いたい相手だって事か??)
(身勝手に暴力を振るわれたんだろ?…そんな奴許せるわけがないだろう…好きだからなのか??………ちょっと………)

「ちょっと待て!!」

立ち上がり大きな声で彼女の言葉を遮る。
彼女の視線はまだ何かを言いた気だったが無視をして背中を向けた。
セミファイナルからずっと疲れていた。
感情の起伏に限界を感じた。

「もういい。」

一言漏らすと、後は勝手に続いた。

「お前との面倒事は懲り懲りだ。冗談じゃないっ。茶番は仕舞いだ。もう二度と…」

ドンッ

最後の言葉が出掛けた時、背中に重みを感じた。

「ごめんなさいっ。でも、本当にこれ以上話したくないんです。秋山さんが好きだから、こんな状況に堪えられなくて…だから、それであんな酷い言い方しちゃってごめんなさい!!」

胸の辺りに回り込んできた手が震えている。

「怒らないでください。秋山さんに嫌われたくありませんっ。」

(あぁ…俺って奴は…)

情けなくて振り返る事ができなかった。
震え続ける手に手を重ね、やっとの思いで口を開く。

「なお。悪かった。大切にしたいのに上手くいかない。慎重に大事に労ってやりたかったのに…」

そこまで言うと背中で涙を感じた。
身体を一度離して振り返り、抱きしめ、ずっと言えなかった言葉を口にする。

「君が好きだ。」

普段は言葉選びに余念ないというのに、そう言うのが精一杯だった。

暫く抱き合っていると彼女が顔を上げこちらを向いた。

「私も…秋山さんが大好きです。」

もう一度抱きしめてから彼女をベッドの上に誘導し、二人で腰を掛けた。
それから、言う必要はないと思ったが、ここ数日の彼女への気持ちを正直に話した。
子供っぽい感情を持った事や、それに振り回されて過ごしていた事など。
柄ではないが、一度きちんと話しておきたかった。
彼女は驚いたように、謝ったりはにかんだりしながらも嬉しそうに聞いてくれた。
そのうち彼女が、『いつから好きだった』とか『どこが好きだ』とか甘ったるい話しを始めた。
嬉しくはあったが、甘さに耐えられなくなり顔が歪んでしまう。

「照れ屋ですね。」

こういう雰囲気は苦手で肩を竦めると、彼女が更に調子に乗り始めマシンガントークが続く。
やられっぱなしは流石にないと思いジッと見つめてやると、今度は彼女が肩を竦めたが、またすぐに口が開く。
だが、その唇に唇を重ね止めてやる。
一度離して

「そんなに話してると喉が渇くぞ。」

そう言ってから再び重ね、少しだけ舌を絡ませる。
反応を確かめるが抵抗する様子はなかった。
もう一度離れ姿勢と角度を変えて、今度は深く味わう。
彼女の手が膝に乗りキュッとズボンを掴んできた。
身体の芯が熱くなる。
すぐに離れると不自然なので少ししてから唇を離し、頭をポンポンと叩いてやる。
彼女のトロンとした表情に夕暮れの色が刺ささっていた。
その姿にまた身体の芯が温度を上げる。
どうにかなってしまう前に口を開いた。

「そろそろ帰るな。」

彼女が何か言う前にと立ち上がり玄関に向かう。

すると玄関横の下駄箱台の上に直の携帯を見つけ、忘れ掛けていた昼間の出来事を思い出す。

「なお」
…昼間の電話

続けようとして、躊躇した。
アノ話に戻ってしまうだろう…これ以上は話したくないとハッキリと言われていた。
少なくとも帰り際にする話ではない。
何か別の言葉を掛けようと思い彼女を見ると、先に声を掛けられた。

「秋山さん…泊まっていきませんか?」

激しく動揺してしまう。
感情の起伏の激しかったここ数日でも、今が1番動揺しているかもしれない。
悟られただろう。
仕方ないので開き直って無視をした。
先程気にした下駄箱上の電話も無視して靴を履くと彼女が近付いてきた。

「今夜、ちゃんと恋人にしてくれませんか。」

思いきって言ったのがわかる。
そんな彼女を無視するわけにいかず、身体を向き直し応える。

「今日はタイミングが悪い。君が嫌なら昼間の話しはしたくない。だが、納得できたわけではないんだ。」

彼女の目が潤むのを見て本音を付け加える。

「君を大事にしたいけど、今夜そうなったら大切に扱えそうにないから…」

もう少し何かを続けようとしたが、彼女が真剣な表情で手を掴できた。

「靴、抜いでください。」

掴んできた手に力が篭る。

「大切に扱わなくていいですから。今夜恋人にしてくださいっ!!」

最後の部分をかなり大きな声で言いきって抱き着いてくる彼女に、愛しさが込み上げ肩を抱いた。

またベッドへ戻って来ていた。
彼女を座らせると掴んでいた手を優しく外し、膝の上に乗せてやる。

「ちょっと待ってな。」

と声を掛けてから部屋中のカーテンを閉じて回った。
優しい時間にしたいと思っているが、身体が熱くなりきってしまえば、自信がない。
滑稽だと思ったが、なるべく今のうちにできる事をしておく。
エアコンの温度設定を高めに設定し、リモコンを持ったままキッチンへ向かう。
勝手に冷蔵庫からミネラルウォーターを拝借した。

(ゴムないな…)

と思ったが、昼間の件を思いだして今日に限り中で出すと決めた。

(万一ガキができたら俺のに決まってる。)

ようやく彼女の隣に戻り、ペットボトルとリモコンを床に置き髪を撫でる。
彼女に緊張が走るのを感じた。
空気を緩めたくて咄嗟に思いついた意地悪を言う。

「よかったのか?さっき…あんな大胆な事玄関前で叫んでさ。」

言葉の意図が通じなかったのか、彼女が目を丸くしてこちらを見る。
『ご近所さんに…』と補足してやろうと思ったら急に察したのか顔を赤く染めて玄関を見る彼女に思わず笑いが零れた。

クックック

からかわれたと気付いた彼女が半分怒った表情で抗議をしてくる。
お陰でこちらの緊張も解けた。

適当な言葉で抗議をなだめながら、ゆっくりとキスをする。
軽く離れて彼女の唇を近くに感じたまま最終確認をした。

「いいんだな。」

返事はわかっていたが、コクリと頷かれると身体がほてった。
身を任せてきた彼女のカーディガンを脱がせてやると、髪の毛が少し乱れた。

そのままベッドに彼女を倒しキスをする。
唇を重ねながら髪を指で梳いてやる。
何度もそうしてから、胸元に手を掛けると彼女が少し身をよじる。
一度身体を離し、ブラウスのボタンを丁寧に外していく。
白いカップ付きのキャミソールが現れる。
今度はキャミソールの裾へ手を掛け、やはり乱暴にならないよう気を付けながら上に捲る。
薄暗くしておいたが、鬱血の痕が容赦なく存在を主張してきてチクリと胸に刺さる。
沸き上がる感情を追いやりながらカップの部分も捲り上げると小さめだが形の良い胸があらわになった。
吸い寄せられるように触れ、下から持ち上げるように感触を確かめてみると、予想とは違いかなりの弾力性があった。
嬉しい誤算に一瞬和む。

(男って馬鹿だよな。)

が、やはり例の痕はココでも主張をしている。
彼女をもっと味わいたくて、その痕を消してしまいたくて、髪を耳に掛けながら肩を落とし覆いかぶさろうとした。
すると彼女が急に両腕を滑り込ませ、胸を隠した。

「あの…秋山さんは脱がないんですか?」

遠慮がちに可愛い事を言われ、予定外に熱が増す。
ここは少し落ち着こうと身体を離し彼女を見下ろす。

「じゃぁさ、脱がせてよ。」

彼女の顔が予想通りに焦りを見せ、また体温が上がる。
上半身を起こしてやり、手をシャツに誘導する。
ひとつずつボタンを外し始めた素直な彼女が可愛いくて髪に手を掛けまた撫でてやる。
脱がされきっていない上半身が可愛いらしさに反してやけに淫らで色っぽい。
熱っぽさをごまかすために、またからかいたくなってしまった。
彼女の胸元をジッと見てから目を逸らし、切なげに言ってやる。

「その痕、気になるな…。」

ボタンに掛かっていた手を戻し、すぐに腕で身体を隠す彼女。

「ごめんなさい…。」

悲しそうにする。

(おいおい…ごめんやり過ぎた。性格悪いんだ反省するよ。)

慌てて彼女の顔を覗き込んでフォローする。

「あんまり可愛いから困らせたくなった。ごめんな。」

なっ?と付け加えると、彼女は俯きボソリと言った。

「でも、気になるのは本当ですよね?」

(そりゃぁ本音はね…)

と思いながらも、本気で反省する。

(デリカシーなさ過ぎた…困った。)

すると彼女が胸の前を開けて、まだ身体に残っていたブラウスとキャミソールを脱ぎ始めた。
そして勇気ある驚愕な反撃を口にする。

「デリカシーないと思いますけど、秋山さんが上書きしてくださいっ!」

キャミソールを手に握り顔はそっぽを向いている。

(−−−−−−−)

一瞬ポカンとしてしまった。
重苦しい雰囲気が晴れてゆく。

(確かに、それもデリカシーないよな。)

苦笑いしつつも救われたと思った。
耳元でもう一度ゴメンナと呟いてから自分もシャツを脱ぎ捨てた。






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