正しい判断(非エロ)
秋山深一×神崎直


セミファイナルステージがようやく終わり、メンバーは個々に会場を後にする。

神崎直も、その内の一人だったが会場の入口で、ただ立ち止まっていた。
切なげに見詰める視線の先には秋山深一。
そして彼とは一定の距離を保って葛城リョウがいる。
二人とも視線を交わすことはあまりないが、何やら親密に話し込んでいるのは
少し離れた距離にいる神崎直にも簡単に理解できた。
秋山と葛城の間には、他の人間は近付けない様なオーラが漂っている。
でも、二人は今までのような忌み嫌う同士ではなくなっていて、口を開く合間に秋山は微笑みさえ浮かべていた。

(秋山さんのあんな表情、初めて見た…。)

結局、葛城と秋山の間に何があったのか直には知るよしもないが
秋山は今までとは打って変わって楽しそうな表情を浮かべていて
それが秋山と葛城の二人の歴史の深さを感じさせた。

葛城を救済したのは、本当に正しい判断だったのだろうか…?

直は、ふと湧き出た自分の中の黒い感情に戸惑った。
葛城を助けなければ、"ライアーゲームの参加者を誰も不幸にさせない"という自分のポリシーに反することになる。

でも…

今、葛城の隣で微笑んでいる秋山の顔を見ると、直の心は揺れた。

「ふぅん…なるほどねぇ…。」

秋山と葛城の様子を遠くから見ていた直の耳元で、聞き覚えのある高めの声がして
直は思わずギョッとして振り向く。

「フクナガさん…!」

不意に現れた福永に、直は動揺した。
でもキノコヘアーのメガネは悪びれる様子も無く、言葉を続ける。

「直ちゃんさぁ、前から思ってたんだけど、君には欲ってものがないわけ?」
「よ…欲…ですか?」
「大体君の望みは、なぁに?」
「望みって…そりゃあ、参加者の皆さんが誰も不幸にならずに安全にゲームを抜けて、それで…」

福永は途中まで話を聞くと、いいから、という様に直を制した。

「俺は直ちゃんが、とぉ〜っても良い子で人徳もある人だっていうのは良く知ってるよぉ?
この薄汚いライアーゲームの中に突如現れた…まるで女神様みたいだ。」

「…何が言いたいんですか?」

福永のトゲのある言い方に、直も少しムッとした。

「俺が言いたいのはね、欲の無い人間は不自然だってこと。」
「不自然…??」
「俺はさ、ずっと金が欲しかったの。金こそ俺の欲。生きる源。君にもあるんじゃないの?
欲がさ。それが無かったら…」
「フクナガさんの言ってることよく解りません!それが無かったら、何だって言うんですか?」
そう直に言われて、福永は意地悪く笑った。
「欲が無い人間なんてさ、死人と一緒だよ。」

「…!え…!?」

福永の言葉にショックを受け、直はうなだれた。

「直ちゃんにもあるんじゃないの?欲が。欲しいんじゃないの?秋山のこと。」

私が?秋山さんを欲しい??どういうことだろう。

「そんな!!秋山さんを、まるでモノみたいに言わないで下さい!!」

福永は食ってかかる直を相手にせずに、ファイナルステージが終わったら連絡するから。
と言い残して去って行った。

サラサラのオカッパ頭で去って行く彼の後ろ姿は…まるで毒キノコだ。

もう、帰ろう。
フクナガさんの言ってることにムキになって言い返したのは、きっと…
彼の言っていることが図星だったからだろう。

「何だか私、どんどん嫌な女になっていくみたいだ…。」

自己嫌悪の塊になった直が、トボトボと家路に着こうとしたその時、彼女の腕が何者かに掴まれた。

振り向くと、いつものポーカーフェイスで秋山が、いつの間にかそこに立っている。

「俺に一言もナシに帰るだなんて随分じゃないか、カンザキナオ。」
「秋山さん…」

怒ってるのかな…?
でも、秋山さんだって葛城さんと話し込んでたし、こうするしかなかったとも思う。

「なあ、お前に来て欲しい所がある。」

秋山は直の腕を掴んだまま、ただ黙って直の家とは反対方向に歩き始めた。

途中、何回も どこへ行くんですか?と尋ねても

「来れば解る。」

と短く答えるだけで、直は彼についていくしかなかった。

しばらく歩くと、一件の安アパートが見えてきた。
秋山は、そのアパートの階段を上がり鍵を開けて、直に中に入るように促した。

「あの〜…ここってもしかして、秋山さんの家ですか?」

直が落ち着かない様子で聞くと、

「鈍感なヤツだな…」

と呆れて秋山はさっさと部屋に入る。
どうぞ、とソファに腰掛ける様に言われて直はぎこちなく座った。
秋山はキッチンに向かうと、手際よく二人分の紅茶をいれている。

待っている間、直は部屋中を見渡す。
…物がない。ワンルームにしては広いが、あるのはセンスの良いデザインのテーブルとソファだけ。
テレビどころか、ベッドすらない。

「お待たせ。」

秋山はアンティークらしいティーカップを直の目の前に置くと、自らはテーブルを挟んだソファに座る。

「何で…私を部屋に入れて下さったんですか?」

直が問い掛けると、秋山は

「君と、ちゃんと話してみたかったから。」

と優雅に紅茶をすすっている。

「何も…部屋に呼ぶのは私じゃなくても良かったじゃないですか。その…葛城さんでも…。」
「葛城…??」

直の回答に秋山は明らかに驚いている。

「私、秋山さんと葛城さんが和解できた事は本当に良かったって思ってます。でも…」
「でも…?」
「か、葛城さんは私の知らない秋山さんをたくさん知っていて…
それで私は…私は…」

しまった、と思った。
さっき福永に変なことを言われたせいもあって、直は完全に自分の気持ちに混乱していたのだ。

「私…嫉妬…した…。」

しばらく沈黙した後、直は消え入るような小さな声で言う。

「嫉妬って…」

秋山も何やら神妙な表情で下を向く。

「なあ…カンザキナオ。俺は…」

秋山が重苦しく口を開くと、直はその先が聞きたくなくて

「良いんです!」と制した。
「私は秋山さんにどう思われてても良いんです。さっき、フクナガさんに言われたんです。
君の欲しいものは何か?って。」

秋山は顔を上げると、今まで見たこともない様な真剣な表情で直を真っ直ぐに見つめた。

「私…考えなくても、すぐに答えは出ました。」

「欲しいのは、秋山さん。あなたです。」






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ