気休め(非エロ)
秋山深一×神崎直


「ねえ、秋山さん」

なんだよ、と直を振り返る。

「秋山さんに、守るって言ってもらえたの嬉しかった」

直の顔を見れなくて、こちらの表情が見えないように背を向ける。
あの時なんの気もなく言ったことが今になって恥ずかしい。
こっちの恥ずかしさなど気にも留めず、直は続ける。

「でも、私も秋山さんの役に立ちたかったんです…
三回戦の時みたいに苦しい思いをさせたくなくて、
その苦しみを少しでも私が肩代わりできたらいいのに」

彼女は強くなった。
最初であった時から比べたら嘘のように…いや
であった時があまりに弱かっただけだろうけれど、
苦しむ人を救いたいという思いが彼女をここまで強くした。

信と不信に揺れる世界で信を取る。
そのバカ正直さが彼女の取り柄であり弱点でもある。
弱点は自分やフクナガが補えばよい。

いまや彼女はライアーゲームに怯える小娘ではなく
自分と同じ目的を持った仲間に成長していた。
けれども、最終的に目指すことは一人の勝者が多額の負債を抱えること。
その役割はどうしても彼女に負わせる気にはなれなかった。

「君は、強くなったよ」

これからも汚れない正直さで居て欲しかった。
苦しみ続けることなんて彼女に似合わなかった。
彼女自身を好きかどうかだなんてことは置いておいても、
苦しむ彼女がぱっと明るくなるその瞬間が好きだった。

「秋山さんが居たから、私、頑張れたんです。
これからも…秋山さんが居るから頑張っていける。
秋山さんは色んなこと考えて自分のことを後回しにしてます、
だからせめて私くらいは秋山さんのことを考えちゃだめですか…?
あっ、フクナガさんも秋山さんのこと…むぐ」

「フクナガのことは言わなくていい…!」
「やっとこっち向いてくれましたねっ」

直の口を塞いでいた手を握られる。
退こうにもしっかり両手で握られていて、下がれば直も下がってくる。

「秋山さんが誰にどう思われようと、
私は秋山さんのこといい人だって、優しい人だって思ってますから」

笑顔でそう言ってから、直はふと思い出したようにささやいた。

「フクナガさんのこと苦手なんですか?さっきも二人で話してたのに」
「いや…その、普通ニューハーフに興味なんて持たないだろ…?」

近くにフクナガが居るわけでもないのに思わず小声になった。

「中身は乙女ですよ?」
「いあそれは置いといてやっぱりほら…」
「うーん、フクナガさんなら応援しちゃうのに」
「…お前自分で言ってることわかってるか?」

きょとんとする彼女の額に自分の額をゴツとぶつける。

「きゃ、痛いじゃないですかっ」

にやりと笑って、至近距離で彼女の目を見つめたまま目をそらさずにおく。

「目の前に女とニューハーフが居たら女がいいって普通は言う」

直の色白い肌が面白いくらいに赤くなったのを確認して顔を離した。
しばらくおろおろと困っている様子を楽しんでいると、
秋山さんはやっぱりずるいとか上目遣いに睨んでくる。

「ずるいもなにも一般常識だぞ」
「わ、私の気を知らないで…」
「なんでそんなにお前は俺とフクナガをくっつけたいのか…」
「乙女心は複雑なんですっ」
「ああそう…」

聖母のような余裕をかましたかと思えばいたずらにちょっかいを出す。
いたずら仕返せば真っ赤になっておどおどし、
不思議がれば乙女心がどうので流してしまう。
素直にころころと感情を見せるのが面白くて、
次はどうからかってやろうかと考えたくなってくる。

「で、その複雑な乙女心がなんで俺とフクナガをくっつけたいわけ」
「えっ、それは、お世話になってる二人だから幸せになってほし」
「ふーん」

この直のことだ、フクナガの恋心を応援しようとか思っているのだろう。
それにしては矛盾だらけだ。

「それでフクナガが幸せでも俺が幸せじゃなかったらどうすんの?」
「…それは、えっと…困りますね…」
「だろ、だから気を使わなくていいって」

俯いたまま、直が言う。

「私…秋山さんには幸せになってほしくて」
「フクナガとお前なら、お前と居る方が気休めになるけどね」

何気なく吐いた言葉に、直ががばっと顔を上げた。

「ほんとですかっ」
「嘘じゃねえよ…!」

嬉しそうな顔を見ているとなんだかまずいことを言ってしまった気がしなくもなくて
今自分が何を言ったか思い出してみる。

(俺は気休めになるとしか言ってないぞ…!)

「じゃ私これからも秋山さんの気が安らぐように頑張りますから〜!
秋山さんに頼られる人になります!」
「あ…ああ、そう…」

妙に嬉しそうな直が自分の腕を掴んで手を引く。

「お夕飯食べに行きましょう!」
「もうそんな時間か」

歩き出して手が少しずれると、こちらの指を掠めて直の手が宙に浮かんだ。
その瞬間、反射的に離れた手を引き寄せて指を絡ませる。
自分のしたことに気付いて、一瞬どきっとするが、
直が振り返らず何も言わずそのまま歩き続けるので、
手を繋いだまま二人で夕暮れの街へと繰り出して行った。






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