添い寝
秋山深一×神崎直


ここ数日、体調が悪いという自覚があった。
秋山が起き上った瞬間、ぐらりと世界は揺れ、天井の蛍光灯が視界の端を横切っていく。
平衡感覚がおかしい、そう秋山が感じた時にすでに身体はベッドの上へと倒れこんでいた。
体温計などというものは秋山のこの部屋には置いていないけれど、高熱が有るのは間違い無さそうだ。

(――参ったな)

ひどい頭痛に襲われて考えがまとまらない。
昨晩から微熱が有るのは感じていたけれどまさかここまで悪化するとは考えていなかった。
夕食さえ抜いて早々に取った睡眠もまるで功を奏さなかったようだ。
結局起き上ることは諦め、半日横になってみたものの体調は全く改善しそうにない。
ぼんやりと冷蔵庫の中身を思い返してみても、飲み物ですらろくに無かったような気がする。

こんな時に頭に浮かぶ顔はたった一人で、皮肉なことに一番この状況を知らせたくなかったのも彼女だけれど、そうも贅沢を言っていられない状況に秋山はカンザキナオに短いメールを送った。

日も傾きかけた頃、両手いっぱいの荷物を抱えたナオが秋山の部屋を訪ねてきた。
息を上がらせているところを見ると駅からの道のりを相当急いできたらしい。

「秋山さん……!大丈夫ですか!?」
「――うん」
「全っ然大丈夫そうじゃありませんよ!」

普段頼りない風情の彼女にこんなに素早い動きが出来たのかと秋山が妙な感心をしているうちに、ナオは固く絞った熱いタオルと着替えを秋山に差し出した。

「まだジーパンのままじゃないですか。汗もかいてるし、とにかく先に着替えてください!」

秋山がのろのろと着替えを始めた時には既にナオは小さなキッチンと向かい合っていた。

「最後の御飯はいつ食べました?」
「…………昨日の昼」
「信じられません……!丸一日何も食べてないじゃないですか!」

気分が悪くて食欲がなかったなどと反論しようものなら、「そういう問題じゃありません!」とさらに怒られそうで秋山は大人しくベッドに潜り込む。
いつの間にかシーツは取り換えられ、枕の上には氷嚢が置いてある。
山ほど抱えた荷物の中身は食料品以外にも色々有ったらしい。

「どうしてこんなに具合が悪くなるまで何も言ってくれないんですか?」

秋山の額に冷たいタオルを当てながら呟いたナオの声は秋山を非難する訳では無く、ただ寂しげな声音だった。
先程まで休みなく働き続けていたナオはベッドサイドへ膝をつき、心底心配そうな表情で秋山を見つめている。
今の秋山を病床の父と重ねているのか、ナオのその不安げな顔は泣き出しそうにも見えた。

「――悪かった」
「いえ……。あっ!もうおかゆが出来ますから」

小さくかぶりを振って、ナオが立ち上がる。
キッチンへ向かう彼女の背中がいつも以上に頼りなさげで秋山は思わず抱きしめたい衝動に駆られた。
それから丸一日ぶりのまともな食事も終え、ようやく人心地がついた頃、薬が効いてきたのかいつの間にか秋山は眠っていた。


まず視界に入ったのはうっすらと差し込む街灯でぼんやりと浮かび上がる天井だった。
暗闇と静寂の中、ふと気になって耳を澄ますとかすかな寝息が聞こえる。
彼女がまだそこに居ることになんとも言えない安堵感を覚え、秋山は思わず苦笑いを浮かべた。
ベッドの縁に沿って手を滑らせると柔らかな髪に触れる。
ぽんぽんと軽く頬に触れると、ベッドサイドに頭をもたせ眠っていたナオがゆっくりと顔を上げた。

「……ん、あきやまさん?」
「そんなとこで寝てるとお前まで風邪ひくぞ」
「あ……いつの間にか私まで寝ちゃいました」

まだ眠たげな瞳をこすりつつ、ナオは秋山の顔を覗きこむ。

「気分はどうですか?」
「――おかげでだいぶ良くなった」

まだ熱で朦朧としている感じはあるものの、先ほどまでのめまいと頭痛は治まっている。

「俺はもう平気だからそろそろ帰れよ。今日は送ってやれないから」
「あの……、このまま泊っていっても良いですか?」
「風邪が移っても知らないぞ」
「大丈夫ですよ!」

何の根拠も無く断言したナオは両手を秋山の頬に添え、自らの額を秋山のそれに押し当てる。

「なかなか熱、下がりませんね」

軽く眉をしかめ難しい表情をしたナオは次いで秋山の首筋へ手のひらで触れる。

「お前の手、冷たくて気持ちいい」
「気持ちいいですか?」
「ああ。――もっとして」
「もっと……ですか?」

「だからさ…………」

秋山はナオの手を取り、ベッドサイドから自分を覗き込む彼女を引き寄せ、耳元で囁いた。
秋山の言葉にナオは一瞬ためらったものの、頬をほんのりと染めこくり頷いた。

「ちゃんとむこう、向いてて下さいね」
「はいはい」

下着姿になったナオはするりと秋山の隣に滑り込んだ。

「これで、いいですか?」
「うん」

ふと秋山がベッドサイドに目をやると、ナオの衣服はきちんと畳まれベッドサイドに置かれている。
そんな動作の一つ一つが彼女の几帳面な性格を物語っているようで微笑ましかった。

ぴたりと身体を秋山に寄せた直はどこかぎこちない仕草で彼のシャツのボタンを外し、その胸に頬を寄せる。

「秋山さん・・・すごく熱いです・・・・・・」
「イヤ?」
「違います! 全然イヤなんかじゃないですよ・・・!」

ただ、心配なんです……そう呟いたナオは秋山のうっすらと汗ばんだ肌に浮き出た背骨を辿り、広い背中を優しくさする。
火照った体にひんやりとしたナオの肌が心地いい。
なめらかな皮膚は手の平に吸いつく様に滑らかだった。

「やっぱりお前の体、冷たくて気持ちいいな……」

秋山がナオの肩口に頬を押し当てると、そっと延ばされたナオの指が慈しむように彼の髪を撫でた。

「さっきはすごく心配しました……」
「ごめん……」

心配をかけたくなかったのと、頼りない姿は見せたくないという小さな意地のせいで連絡するのがためらわれていた。
けれど、ナオの表情を見た途端にこんな顔をさせるんじゃなかったと後悔が秋山の胸を占めた。

「秋山さんにまで何かあったら私・・・・・・」
「大丈夫だって・・・・・・」
「早く元気になって下さいね」
「ああ……」

秋山に背中に回されたナオの腕に力がこもる。
うつむいたままの彼女の額に秋山はそっと唇で触れた。

「秋山さん・・・・・・」

まだ不安げな表情のナオのまぶたから頬へと秋山は触れるだけのキスを繰り返す。
柔らかな唇の感触に顔を上げたナオの唇に秋山はそっと自分のそれを重ねた。
秋山にさらに深い口づけをねだる様にナオの唇が僅かに開き、濡れた感触が伝わる。
ちゅっと音を立て、ナオから秋山へキスを繰り返す。

「そんな事すると、本当に風邪が移るぞ」
「――それでも良いです・・・・・・」

ちろりとナオの紅い舌が秋山の唇をなぞる。

「こら・・・・・・」

たしなめようと秋山が視線を落とすと、ナオは拒まれることを恐れるようにぎゅっと秋山にしがみついた。

「ん・・・、ん」

いつもと同じように秋山へ体をすり寄せるナオの仕草も普段の無邪気な甘え方とはどこか違っていた。
目に見えない何かを怖がる様に、すがる様にナオは秋山の唇を求めている。
何かを懇願するような憂いと悲しみを含んだナオの瞳に秋山の胸が締め付けられた。
彼女の不安や悲しみの全てを払拭してやりたいと強く思う。
弱々しい彼女の様子が秋山に彼自身も不思議に思うくらいの庇護欲を抱かせた。
儚げな身体のそこかしこに口付けてナオに自分の存在を刻みこみたかった。

どうしようもないほどの欲望。
こんな時に、と考える辛うじて残った理性のかけらは全く身体を押し留めはしない。

(きっと全部熱のせいだ・・・・・・)

熱と衝動に駆り立てられ秋山はナオの華奢な身体をきつく抱きしめた。

「駄目ですよ……! 大人しくしてないと風邪が治りませんよ」

秋山の口付けが耳元から鎖骨まで降りてきた辺りで、ナオが焦ったように声を上げる。

「いい子にしてただろ。――さっきまで」
「んっ……」
「それに――最初に誘ったのはお前だろ」


「……っ!」

ナオの次の言葉を待たずに秋山は彼女の唇へ自分のそれを重ねた。
グミの様に心地よい弾力を持った少女の唇はひんやりと心地よく、秋山は何度も口付けを繰り返す。
ナオが身につけていた頼りなく小さな布地は、秋山の器用な指先で簡単に取り払われる。

「あっ……だめ…」

秋山は体全体でナオを押さえつける様に抱きしめ、ナオのわずかな抵抗を封じた。


「……駄目、ですってば!」

大型の肉食獣に襲われる小動物はこんな気分なのかもしれない。
そんな事をナオは頭の隅で考えた。
鋭い牙の代わりに秋山の熱をもった唇が貪るようにナオの首筋や胸元のやわらかな皮膚をきつく吸い上げ甘噛みする。
まるで食べられているみたいだと思いながらナオは秋山の背中へ腕を回す。
細身ではあるが筋肉質な背中。
秋山のその引き締まったしなやかな体は豹を思わせた。

「――んっ!」

ナオの喉元の窪みを秋山の舌がなぞり上げ、そのまま強く吸われる。
息苦しさとこみ上げる甘やかな感覚に息が詰まる。

日頃の余裕も技巧も感じられない程に性急な秋山の愛撫。
それでも彼に触れられているというだけでナオの身体は敏感に反応する。
形よく盛り上がった双房の柔らかな肌の上、存在を主張するように薄紅色に色づいた頂点が固く尖っている。
誘われるように口づけ、軽く吸う。

「っふぁ・・・・・・」

期待以上の反応に秋山はさらにそこを吸い上げ、唇でしごく。

「んっ・・・っ」

ナオが身体を震わせる度に、豊かな乳房の上に揺れるもう片方の蕾を指先で捕らえる。

「あっ・・・あぁ!」

どこまでも敏感な彼女の反応。その声も反応も全てが愛らしく愛おしい。

「ん……あ、あっ」


「――ひゃっ…ん」
秋山はまだ僅かに透明な果蜜が滲みだしただけの蜜口に、揃えた人差し指と中指を押し込める。

「あっ・・・つ、ぅ・・・・・・」

直の体がびくりと震え、前触れも無い進入を拒むように、彼女の内壁は秋山の指を締め付けた。

「やぁっ!・・・んっ」

秋山は二本の指を挿入したまま、親指で花裂の先端から最も敏感な突起を探り出す。

小さく尖った花芯を指先で捕らえ、蜜液を馴染ませるながら強く、弱くとこねるように刺激する。
まるで微弱な電流の様な刺激が直の背筋を駆け上がった。
指の動きは止めないまま、秋山は直の下腹部に手の平を押し当て圧迫する。
僅かに角度をつけた指先が更にナオの深部に押し当てられる。

「っつ・・・ぅ・・・・・・」

「あ・・・っ、秋山さ・・・奥っ・・・くる・・・し・・・・・・」

事実、まだ十分に慣らされていない状態のナオは秋山の指を受け入れるだけで精一杯の様子だった。

「もっ…、抜い…てくださ……」
「じっとしてればいいだろ」
「だってっ・・・そん、なの・・・できなっ・・・!」

親指でじわじわと花芯を刺激され、直は自らの意志とは関係なく腰をくねらせる。
秋山の指が僅かに位置を変えるだけでずきずきとナオの身体の中心が疼く。
次第に潤み出した柔らかな襞の感触を楽しむように指先を押し当てながら滑らせる。

「ふぁっ・・・は、ぁ・・・・・・」

体中で一番敏感な箇所を捕らえられ、逃れようと身をよじるほどにかえって直の身体は甘い苦痛に苛まれる。
まるで飴と鞭を両方同時に与えられる様な秋山の愛撫に直は必死に身体を固くして耐える。
そんなナオの行動に秋山は不敵な笑みを浮かべるとぐい、と親指で薄い皮膜を持ち上げ、剥き出しになった花芯に直に指先を強く押し当てそのまま前後に動かす。
突如湧き上がった鮮烈な快感にナオの瞼の奥が真っ白になる。

「――っ!」

思いがけない強い刺激に直が大きく体を震わせた分だけ、二本の指は更に深部を圧迫した。

「う・・・あ・・・」

自らを追いつめるようにナオの腰が動き、快楽を享受する。
直はぎゅっと目を閉じ何とか動きを押し留めようと試みるものの、秋山の指がくちゅりと淫らな水音をたて微かに花芯を掠めるだけで彼の手に再び腰を押し当ててしまう。

「あ、あ・・・ふぁ・・・・・・」

いかにも清純でまだあどけなさを色濃く残す仕草や容貌とは裏腹に、ナオのその身体は一度腕に抱けばどこまでも感じやすい。
決して秋山以外の誰にも見せることはない熱を帯びて潤んだナオの瞳は彼に堪えきれないほどの支配欲を抱かせた。

「……ごめん、もう入れる」
「――っ!!」

ナオがその言葉の意味を理解するよりも先に、彼女の背中の下から腕を回し肩を押さえ込む。
逃げ場のない体勢で秋山が張りつめた自身を強引に最奥まで押し込めると、ナオは背中を弓なりに反らせ小さく悲鳴を上げた。

「……っふ…」

指先よりも更に熱を持ったそのその存在。
蜜奥を一杯に満たし押し広げるその質量に、トクリと溢れた蜜液がナオの脚を伝う。

「あのさ、手加減できるほど余裕がない……」

・・・・・・今気づいたんだけど。
小さく囁いた言葉通り、半ば強引に挿入したそれを全く手加減なしに引き抜き、再び突き上げる。
強すぎるその刺激にナオの頭が真っ白になる。

「あっ・・・は、・・・っ」

苦しいくらいに抱きしめられ、荒々しく突き入れられる。
乱暴さともまた違う激しさをナオはただ必死に受け入れる。
身体の中心からこみ上げてくる何かを快感だと判別する余裕さえ与えられず、ナオの体は秋山自身でシーツに繋ぎ止められた。
まだ完全に受け入れることの出来る状態ではなかったそこは次第にその熱に蕩かされる様に綻び、柔らかな内壁が秋山へ絡みつく。

「んっ・・・! んっ・・・」

抱かれることは初めてではないが、今までの優しく穏やかなそれとは全く異質な交わりにナオの体は翻弄される。

(や、だっ、やっ・・・も、だめっ・・・・・・!)

「ひ、・・・あっ・・・・・・!」

ひたすらに最奥を突き上げられ、高ぶっている自覚さえないままにナオの体は唐突に絶頂に達する。

びくびくとナオの体が震えてもなお、秋山の動きが緩められる事は無い。
敏感になった体により鮮明に秋山の熱が焼き付けられる。

「っ・・・、あきやまさん・・・・・・」

ナオの涙で潤んだ視界に映る秋山は微かに眉をしかめ、熱っぽい眼差しで真っ直ぐに彼女を見つめていた。
荒い息遣いとせわしなく柔らかな肌の上を探る指先。
取り繕う余裕は欠片もなく、秋山はただひたすらにナオを求める。

「あきやまさん・・・あきやまさん・・・っ」
「まだ駄目だって・・・・・・。――もっと欲しい・・・」

体中が熱い。
その熱は秋山からもたらされる物なのか、ナオ自身の身体の奥から湧き出たものなのかも分からなかった。
背中から腰までナオの身体の中心は甘く痺れ、全く力が入らない。
一突きごとに快感が喉元までこみ上げる。
この感覚だけにナオの全てが支配される。

「あっ! やぁっ……!」

微熱を伴う甘い感覚がすでに臨界点まで満ち溢れ、ほんの少しの刺激でもナオは容易に達してしまう。

(や……また、いっちゃう……)
(だめ…っ、だめ……)

断続的な軽い絶頂感にナオの爪先はまるで意志を持ったかの様に跳ね上がり、シーツへ次々と新たな陰影を刻み込む。
身体は逃れられない様に押さえつけられ、奪う様な口付けに制止の声を上げることも出来ない。

(も、おかしくなっちゃう……)

快楽をひたすら受け入れる事しか出来ない状態を、ただ甘い声を上げることだけで耐える。


激しい行為のせいで薄紅色に染まりつつもまだひんやりと冷たいナオの素肌は、いつまでも秋山の体温と馴染むこと無く腕の中で彼女の存在を引き立たせる。
それを感じるだけで、秋山の胸に何かが満ち溢れる。
熱で思考はまとまらない思考を差し置き、唐突に秋山の感情が理解する。

――自分は彼女を愛してる。
そんな事を口にした事は無かったけれど。

苛めたいのも独占したいのも守りたいのも。
隣で幸せそうに笑っていてほしいのも。
ああ、そうか。だからなのかと今更ながら納得する。
今はそれを言葉にして伝えるよりも、ただこの感情そのまま自分の胸に抱いていたかった。

秋山はナオの手を取り指を絡めて手を繋ぐ。
心臓がどくどくと早鐘を打つのを感じた。

「・・・・・・も、イキそう・・・」

耳朶にかかる熱い秋山の吐息にナオは僅かに顔を上げた。

「あき・・・やま、さ・・・だいすき、です」

「・・・っ、・・・・・・ーっ!!」

息もつけない程に最奥を貫かれ、堰を切った感覚の奔流にナオの背中が大きくしなる。

「・・・・・・なお」

掠れた声で秋山は愛しい彼女の名を呼ぶ。

「……」

ナオはこくこくと必死に頷き、秋山の背中へしがみついた。
ひくりと震える花奥に欲望を吐き出すリズムと共鳴する様に、秋山の腕が二度、三度と力を込めナオの華奢な体を強く抱きしめた。

(こういうのも悪くないのかも……)

いつもは見上げている秋山の顔がすぐそこにある。
薄く唇を開き眠っている秋山の表情は普段からは想像もできないほどあどけない。

我ながら現金だとは思いながらも、ナオの頬には思わず笑みが浮かんでしまう。
いつもは頼りっぱなしの自分が秋山の支えになれる事が嬉しかった。
枕元から拾い上げたタオルで秋山の額にうっすらと滲んでいる汗をそっと拭き取る。
ふいに秋山の目がぱちりと開いた。

「寝ないんですか?」
「……うん」
「駄目ですよ、早く寝ないと」
「――お前が先に寝るまで待ってる」
「え?」
「俺が先に寝たら、お前が怖い夢見た時困るだろ……」

秋山は幾分か舌足らずな様子で淡々と続ける。

「心配事が有る時、よく怖い夢を見るって言ってったから」
「……はい」
「大丈夫……ちゃんと守ってやるよ」

蕩けそうな程に優しい笑みを浮かべ、秋山はナオの頬に触れた。

「いつでも守ってやるから――」

「私は大丈夫です。――秋山さんが傍にいてくれたらそれだけで安心できます」
「――そうか……」

秋山はナオの髪を優しく数度撫でると再び瞳を閉じた。
好き過ぎて胸が苦しい。どうしてこんなにもこの人は優しいんだろう。
――ああ。胸を締め付ける切ない痛みにナオは小さく呟いた。
ナオが顔を上げた時には秋山はすでに静かに寝息をたてていた。
体調の悪い時にあれだけ動けば疲れてしまうに決まってる。
整った顔にかかる前髪を除けナオは秋山の額にキスをすると、もう一度畳み直したタオルをそっと当てた。


「ーーっ!」

翌朝起きあがろうとしたナオは声にならない声を上げた。
上体をわずかに動かすだけで、身体の奥から何とも言えない疼痛が湧き上がる。
何よりも腰が抜けてしまった様で思うように体が動かない。

「・・・・・・っ、秋山さんーっ!」

一晩明けて、ずいぶんと顔色の良くなった秋山の瞳は明らかにナオの状況を面白がっている。

「――怒ってる?」
「・・・・・・怒ってません、けど・・・・・・」
「けど?」
「怒ってませんけど、もう秋山さんが風邪の時は絶っ対添い寝はしません・・・・・・!」

ぷい、と顔を背けたナオの恨みがましい声にも秋山は全く動じる気配がない。

「悪かったって、ごめんごめん」
「・・・・・・ちっとも悪いと思って無さそうです」

もう一度起きあがろうとして挫折した、微妙な体勢のナオを秋山は胸の中へ抱き寄せた。

「今日一日、ここで一緒に大人しくしてればいいだろ」
「・・・・・・」
「いい子にするって約束するよ」

精一杯むくれた表情を作ってみても、その魅力的な提案に抗えない。

窓から差し込む柔らかな光と眠気に後押しされ、ナオは秋山に体を預けた。






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