ピーマンの怨みは怖い(非エロ)
番外編


「はい、これ」そう手渡された四角い箱。
「なんだ?」
「お弁当」
「弁当…?」

若干悩んだが笑顔で俺を見つめる彼女を見ていると無下に突っ返すことはできずに、そのままサンキュとキスをして玄関を出てきてしまった。おかげで、その日、俺は大変な辱めを受けることになるというのに…。その時はまったく気がついていなかった。

一段落して、医局でデスクワークをしていると、花輪が「みなさんそろそろ食べときますか?」と一言放った。

…ヤバイ…俺はその時まで完全に弁当の存在を忘れていた。一体どんな顔して食えばいいんだ…。

「進藤先生、何にします?」

俺に向けられた、花輪の問いに冷や汗が出る。

「いや、今日は…」
「…食べないんですか?ダメですよ、救命は体力勝負なんですから」

その時だった、ひょいっと脇のデスクから顔を出した小島が、四角いアレを見付けてしまった。

「…あれ、進藤先生…もしかして、それお弁当ですか…?」
「いや…」

小島…余計なことを…。医局内がざわめく。…マズイ…。

「え!進藤先生が弁当?マジ?」丹原が駆け寄る。ウザイ…。
もう開き直るしかなかった。

「ええ、まあ…」
「そーなんだー、進藤先生って結婚してたんですね」野口がニヤついた顔で近寄って来る。
「いや、結婚は…」
「あれ?ってことは…彼女ぉ?」

野口め、いやらしい顔しやがって…。

「…まぁ、そんなところですかね…」無理に笑顔を作る。逃げ出したい…。ホットライン鳴らねぇかな…。

「見せて下さいよ、愛妻弁当!!」丹原の興味津々な笑顔が憎い。
「いや、それは…」
「まあ、良いじゃないですか、ねっ!」そう万遍の笑顔で小島が言う。言ったかと思えばひゅっと手を伸ばして四角いソレを掴んだ。
「こ、小島!」あいつ、この間のピーマンの件から隙あらば、なんだかんだと突っ込んできやがる。なんなんだ…。
「ジャジャーン」机の向こうで小島のなんとも嬉しそうな声が聞こえる。

俺は頭を抱えた。
一瞬どよめき、失笑が漏れる。
たまき…、お前いったいどんな弁当作ったんだよ…。まさか…ハートとかじゃないだろうな…。
花輪が怪訝な顔をして「進藤先生、彼女とケンカでもしたの?」と言う。
予想を大きく外した、意外な問いに俺は間抜けな声を出す。「はぁ?」

「これ、ピーマン入ってるよ」ニヤっと笑う花輪。

嘘だろっ…マジかよ…

「愛されてるぅ!」丹原マジ、ウザイ…。

その時、医局の扉が開いた。

「あら、みなさん楽しそう。何かあったんですか?」山城だ。小島が嬉しそうに彼女に声をかける。
「山城さん、これ見て、進藤先生の彼女の手づくり弁当」
「進藤先生の…?あら、おいしそっ」
「でもねぇ、彼女とケンカしちゃったみたいなんだよね」花輪の楽しそうな声。
「どうして?」
「進藤先生ピーマン嫌いなのに…」とさらに嬉しそうに小島。
「入っちゃってるもんね」ともっと楽しげに野口が続いた。
「これは食べなきゃダメでしょ」と丹原が最後のダメ押し。もう勘弁してくれ…

「…このピーマンの肉詰め…、縫合されてる…」

山城のつぶやきが聞こえた…。

「え?」

一同絶句。

…たまき…、お前ってやつは…

「…進藤先生の彼女って同業者なんですか?」小島が笑いをこらえながらそう聞いて来た。明らかにからかっているのがわかる…。…最悪だ…。

「いやぁ、この縫合の素晴らしさは外科医で間違いないですよ。小島先生」

野口のツッコミがさらに状況を悪化させている気がする…。

「ホントだ、まるでバチスタ手術ですね」

花輪の鋭い洞察力が恐い…。ニヤニヤしながら、携帯で写真を撮る。
ピーマンと俺に向けられる、興味津々な視線が痛い…。

「で、ひょっとして心臓外科医ですか?進藤先生??」

…ドキッ。別に隠す事じゃない。ないが、なんだかしばらくネタにされそうで嫌だ。

「ね?進藤先生の彼女って何科医なんです?」いかにもそう言う話題が好きそうな丹原がしつこい…。

もう、完全に針の筵だった。

「私も知りた〜い」くそっ!小島っ!!黙ってろ!
「私も…」山城まで…っ。

畜生!ホットライン鳴れよ!!

「…外科医ですよ…」俺はふーっと大きなため息をつきながらそう答えた。
「やっぱり!外科医!ですよね〜〜。で、専門は?」嬉しそうな野口。かなり、ムカつく!!
「…心臓……」
「おお!当たり!スゲー、花輪先生!!」丹原の口を縫合してやりたい…。俺はマジでそう思った。
「なんかエロいですよね〜。心臓外科医の彼女〜〜」と野口。細い目をもっと細くして喜んでやがる…!
「エロい〜〜、エロい!!」同調する男ども。まぁ、たまきがエロいのは事実だけどな…。

「…いやらしい…」

小島の一言で、静まりかえる医局内。

山城がツカツカ寄ってきて、俺にカルテを渡し
「じゃ、私はこれで…」と、意味深な笑顔で去ろうとした。

そして何かを思い出したように、もう一度振り向き、俺の耳元で「ひょっとして…香坂先生?」と耳打ちした。
一瞬固まった。何も言えなかった。否定も肯定もできなかった。
当然、その俺を見て山城は悟っただろう。

ピーマンの肉詰めをバチスタ手術した『俺の彼女』が『香坂先生』であることを…。

山城は、ふふっと微笑んで「あんまり、進藤先生をいじめちゃだめですよ」と、言い残し医局を後にした。
さっきの俺たちの光景を見ていた丹原が「…あれ、山城さん、進藤先生の彼女知ってるの?」と、
山城の後を追っていくのが見えた。俺はめまいがした…。

絶対変な噂が立つ…。丹原は男のくせに口が軽い。その上俺の弱点を掴んで喜んでる…。
しかも、ピーマンの肉詰めをバチスタ手術した女が彼女だぞ…。何言われるかわかったもんじゃない…。
このネタでしばらく、いじられるのは間違いない…。
ピーマンの次はこれかよ…最悪だ…。いやっ、これもピーマン絡みじゃないかっ!

小島がニタっと笑う。

「進藤先生、今日はピーマン食べてもらいますよっ」

…ピーマン…その怨みは、最高に恐ろしい…。






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