猥談(非エロ)
番外編


外科医ほど、裸を見慣れてしまう職業はない。


深夜の救命センター・医局。
女性医師は2名しかいないので、必然的に夜勤は男だけになることが多い。
そうするとやっぱり、自然にその手の話に移行することもたまにある。

「はぁ〜、さっきの患者は女の先生の方が良かっただろうな」
「そうですね…。便秘が酷くてトイレで失神ですからね」
「こっちは仕事だから気にしないけど、彼女はいたたまれねぇだろうなぁ」

馬場が肩を揉みながら言う。

「医者は人の裸見ても恥ずかしいところ見ても、何も感じねぇもんな〜」
「半年もポリクリやったら、もう見慣れちゃいましたもんね」
「はぁ〜、僕医者になっての誤算ってそれかも知んない」
「女の乳首は可愛いピンク色〜なんて信じてた自分が懐かしいよ」
「あっれ〜馬場先生、ピンクの乳首見たことないんですか?」

城島がからかうようににやけて言う。

「えっ!おまっ…援交か!?」
「何でそうなるんですか!馬場先生、童貞喪失したのいつなんですか?」
「なっ…うっせーなっ!」
「やっぱりピンク色なんですか?若い女の子って?」

矢部が食い入るように訊いてくる。

「うーん…そんな鮮明に覚えてはないけど…やっぱり大人の女に比べたら色が薄かったと思うな」

ふー――ん、と、納得したように矢部が何度も頷く。

「あ、あと、すっごい美人でスタイルいい女の人の下着がデカぱんだったりすると、ショックじゃありません!?」
「ばーか。お前なぁ、女がいつも勝負パンツみたいなスゴイのはいてるなんて幻想なんだよ」
「いやそうだけどさぁ、矢部の気持ちも分かるぜ。男はいつだって幻想を抱いていたいもんじゃねぇか」

話はどんどんエグくなってゆく。

「なぁ、そう言えばさ、誰かアレって見たことある?」

馬場が顔をニヤつかせて訊いてくる。

「アレって?」
「だからぁ、アレだよアレ!要するに…合体したまま運ばれてくるヤツ」
「あぁ〜。膣痙攣が酷すぎて抜けなくなった…ってヤツですね」
「俺救命来てから日が浅いし見たことねぇんだよ」
「俺もないなぁ…。そうそうあるもんじゃないんじゃないんですか?」
「僕も研修医だし…。経験長い人ならあるかも」
「………」

皆の視線が自然と進藤のほうへ。

進藤もその気配を感じていた。

「進藤先生は、ありますか?」

馬場が恭しく訊く。
皆が興味津々だった。

「………」

こういう猥談は得意ではない。
以前なら、無視して出ていっていただろう。
しかし、桜井に言われた言葉が効いていた。
誤解されやすい自分を何とかするためにも、皆に溶け込む努力をしなければ。

「ありますよ」

笑顔を作って答える。

「え〜〜〜!まじっすか!!」

一気にその場が盛り上がる。
進藤が猥談に加わってくれたという新鮮さもあいまって。

「どんな感じでした?」
「やっぱり、男女とも素っ裸で運ばれてくるんすか?」
「どういう処置をしたんですか〜?」

皆が興奮しながら訊いてくる。
当たり障りなく答えていった。

「でもそれって、ちょっと興奮したりしませんでした?進藤先生」

城島が突っ込んで訊いてくる。

「………仕事ですから」

曖昧に笑顔で答えた。

えーっ、と、面白く無さそうな態度を皆がとる。

「まぁ、心の中はどうあれ、態度には出せないよな」
「そうですよね。周りにはナースとかもいるし」
「幻滅〜とか言われたくないもんな〜」

皆の興味が自分から離れてくれて、進藤はホッとした。

「まぁでも、オペや初療中はスタッフも男女入り乱れてるわけだしな」
「みんなで患者さんのおっぱい見たり、陰部見たりしてますもんね」
「あ〜俺、仕事仲間をオンナとして見れないかもな〜」
「えー、僕はそんなことないけどなぁ」

矢部が呟く。

「おいお前さぁ、香坂先生はやめとけって」
「え、なんでですか?」
「だってお前、冷めないか?男の裸見ても顔色一つ変えずに治療するんだぜ?」
「そうそう。それに一緒に患者の裸見てる男を恋愛対象にはしないよ、彼女みたいなオンナは」
「えぇ…そうなのかなぁ…」

矢部が凹む。

「いくら美人でも俺はゴメンだね、あのオンナは」

馬場がきっぱりと言う。

「馬場先生の好みは聞いてませんよ!」

矢部が怒る。

「香坂先生だって、プライベートではきっと可愛いんですよ…」

矢部がうっとりとした顔をする。

「そうかぁ?男にも命令したりしてそうだぜ」

馬場が矢部の想像を邪魔する。

「あれは絶対Sだね。ほら、黒い網タイツとガーターベルトつけて、ムチ振るってる姿が想像できないか?」

馬場が悪乗りして興奮している。

「や、止めてくださいよ!」

矢部が怒る。
が、ちょっと想像してしまう…。

「解ってないなぁ馬場先生。ああいうひとほど、プライベートではMなんですよ」

城島がニヤけて口を挟む。

「お帰りなさい、とかって玄関まで出てきたら、裸にエプロン姿だったりしてね」

城島もかなり悪乗りしてはしゃいでいる。

「は、裸にエプロン…」

さっきよりも激しく想像してしまい、矢部の顔がどんどんニヤけてゆく。

「ギャップって萌えますよね〜」

これ異常ないほど盛り上がる医局。


がたっ。

「………」

無言で進藤が出ていってしまった。


「あれ〜、進藤先生なんか怒ってた?」
「やっぱりこういう話嫌いだったかな?」
「ちょっと調子に乗りすちゃったかな?」

残された男たちが顔を見合わせる。


ICUの様子を見に行った進藤の顔は、極まりなく不機嫌そうだった。






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