愛する人
進藤一生×小島楓


「進藤先生…抱いて下さい」

突然の言葉に進藤は言葉を失った。

暫く沈黙が続き進藤はようやく口を開いた

「小島…どういう意味だ。何があったんだ」

女は切ない目で進藤をみる。

「何かあったわけではありません。ただ進藤先生の温もりが欲しいんです。」

これまで教え子である彼女に特別な感情を抱いていなかったかと言えば
嘘になるが、それは恋愛感情とは違う身内に近いものであった。

しかし進藤は彼女に伝えていなかった事があった。
海南の救急体制が整った現在まで、プライベートな話をする状況すらなかったからだ。
進藤は誰にも話していなかった事実を口にした

「…実は…再婚したんだ。」

思いがけない進藤の言葉に彼女は驚きを隠せない。

「すまない。黙っていて。」

彼女は驚きの表情から我に返ったかのように進藤に嘆かけた。

「いゃ、そんな…すまないだなんて。謝る事ではないですよ。
なんか、私こそすみません。何も知らなくて…」

彼女は身の置き場に困っているようだったが、さらに口を開く。

「いつですか?再婚されたの。東都の時は確かまだ…」

彼女の問いかけに落ち着いた表情で進藤が答える。

「東都を去ってすぐだ。地震が起きる前に一時帰国した時、
決心してたんだが、あの状況だったからな。
お前には話しておくべきだった…すまない」

彼女が慌てたように返す。

「全然、謝る必要ないですよ!…少し驚いてますけど。
奥様とはいつからのお知り合いなんですか…?」

進藤は彼女から少し視線を外し
愛しい人を思い浮かべるかのような表情となる。

「もう8年前になるな…。今の妻とは港北医大で会ったんだ。
こうなるとは自分でも思っていなかったけどな」

進藤が都立を去った後、何処で何をしていたのかは
元同僚達からの風の便りで聞いていた。
勿論、港北医大での事も親しい友人から聞いていた。
しかし進藤に関して
早紀が亡くなった事と
救命医としての活躍意外は耳にした事はなかった。
ましてや進藤に早紀以外の最愛の人が現れるとは思ってもいなかった事だ。

「港北医大で知り合ったということは、同業の方ですか?
それとも患者さんとか…」

今度は彼女に視線を向け優しい顔で進藤が応える。

「医者をしてる。暫く救命で一緒だった。
早紀が亡くなって、一生一人でいる覚悟しかなかったんだが
出会ってしまえば分からないものだ。
今の妻は俺を医者と男に戻してくれた。そういうやつなんだ」

早紀以外の女性(ひと)を想う進藤をみて、彼女は複雑な気持ちになった。
自分の知らない女性。しかも同じ女性医師。
進藤が選ぶ女性ならば魅力的に違いないだろう。
まるで片思いの相手が他の女性に奪われるような寂しさと
無意味な嫉妬心が彼女の中に沸き上がる。

「先生は、今は幸せなんですね…。」

気持ちを誤魔化すかのように、彼女は笑顔を作った。

「そうかもな。今はアイツがいるのが当たり前だからな。
小島…お前もまだこれからなんだ。」

最愛の人を亡くした者同士、その気持ちを分かり合えるのは
互いだけであっただろう。
しかし今の進藤には守るべきものがある。
四年前に比べ、医師として人として更に大きくなった背景には
彼を支える最愛の人がいたからだと彼女は気づいた。
沈黙が再び流れる。

「進藤先生!」

その時、沈黙を遮るかのようにある看護師が医局のドアを開けた。
何とも嬉しそうな表情をしている。

「どうした。…山城」

少し驚いた様子で進藤が声をかける。
いつも冷静な彼女がこんな表情を見せるのは珍しかった。

「奥様いらしてます!今、待合室にいらっしゃいます」

彼女の笑顔の理由が分かった。
港北時代を共に過ごした仲間。
互い達の事情も彼女は知っていた。
しかしこの状況で何ともなタイミングで来るもんだと
進藤は少し可笑しくなった。

「分かった。…すぐ行く。
あっ…いや、ここに呼んできてくれないか」

何か思いついたように進藤が応えた。
彼女の嬉しそうな表情は変わらず、医局を出て行った。

「小島…お前には言っておくべきだったな。
もう早紀はいない。
でもまた誰かを愛する事で強くなれるんだ。
俺の妻と会って何かを感じてくれればいい」

早紀以外の女性。
会ってしまったら何かが崩れるような気がした。
しかし、進藤が愛する女性がどのような人物なのか
確かめたい気持ちにもなっていた。

その時ノックがし、医局のドアが開いた。
山城に連れられ、黒いスーツを着た女性が立っていた。
透き通るような白肌に、美しくスレンダーな容姿。
さらに凛としたオーラに引き込まれる。

「初めてまして。進藤たまきです。
小島先生ですね。山城さんから今聞いたの」

こんな綺麗な女性医師を見るのは初めてだった。
彼女はワンテンポ遅れて言葉を返す。

「あっ…こちらこそ初めまして。小島楓です。
進藤先生には都立の頃からお世話になっています。」

前にたつ美しい女性に目を奪われていた彼女であったが、
この女性が進藤の妻なんだと、ふと我に返る。
容姿の美しさだけに進藤が惚れたわけではないと
その女性の雰囲気からも伝わってくる。

「こんな可愛らしい女性が救命医だなんて驚いたわ。
私も一時救命にいたから、状況は分かります。
でも誰かさんから怒鳴られてばっかりで何ども辞めたいと思ったけど」

少し悪戯めいた表情で進藤と女性が目を合わせる。
何とも言えぬ二人の雰囲気。見てるこちらが赤面する。
誰も入っていく事のできない二人だけの世界を感じる。

「お前の態度を振り返ってみれば当然だ。
それより荷物…すまないな。この状況で着がえを取りに返る暇もなかった」

女性は穏やか表情で進藤を見ている。

「分かってるわよ。だからこうして届けに来たの。
子供の事も心配しなくていいから」

女性の言葉に驚く。進藤は口にしなかったが
既に二人のの間に子供がいることが分かった。

植物状態になる前の早紀の事はよく分からないが
この女性と早紀は全く違う雰囲気をもった女性である事は分かる。

予想していなかった状況ではあるが、
進藤の最愛の人がこの女性なら申し分ないと思った。

「お前、今日は休みだろ。
時間あるか?…頼みたい事があるんだが」

進藤には何か考えがあるようだった。

「幼稚園の迎えにはまだ時間あるから大丈夫よ。
頼みって何かしら」

小島とたまきの交互に視線を向けながら進藤が応える。

「小島と少し話をしてくれないか。
どんな事でもいい。話してみれば分かる。」

進藤の意図が分からない様子であったが、たまきは頷いた。

二人を残して、進藤は医局を後にした。

医局に残された二人。
終始沈黙が流れるが、先に口を開いたのは小島だった。

「あっ…どうぞ。ソファーに腰掛けられて下さい!
色々散らかってますけど、すみません…」

医局のテーブルやソファーには医療雑誌や
食べ掛けの焼きそばがそのままとなっていた。
その空間だけでも、ここの救命の状況が伝わってくるようだった。

「いいのよ。気は使わないで。
これ似た状況は私もよく知ってるから」

優しい表情でたまきが応える。
救命にいた頃を思いだし懐かしさが込み上げる。

「以前は救命にいらしたんですよね。今はどこで?」
「港北医大の研究室。元々心臓専門だったのよ。
それなのに急に救命に移動になって。初めは絶望感しかなかったんだけどね。
でもあの時、私の運命が変わったと思うわ。
医師としてもそうだけど、他にも…色々とね…。」

たまきは救命にいた頃を懐かしむような語る。
小島は頷きながら、その"色々"が何をさすのかは、すぐに理解できた。

「そこで進藤先生と出会われたんですね…。
こんな綺麗な女性が現れたら進藤先生もびっくりしますよね。」

「そんな事ないわよ。
異動したばかりの時は本当最悪の人だった。
医者としての腕前は認めてたけど、口は悪いし傲慢だし。
怒鳴られていつも言いあってたわ。」

小島は思わず吹き出してしまった。
自分にもよく似た経験があり、指導医だった進藤の姿が思い浮かべる。

「すみません、つい。
昔の進藤先生の事を思い出してしまって。
私も"最悪の人"から入ったので。よく分かります。
でも医師としては本当に凄い人だったから、ついていくのに必死でした」

「確か…小島先生の指導医はあの人だったのよね。
私が出会った頃より色々な葛藤があった時期なのよね。
本人から直接聞いた事はないんだけど、
前の奥さんの事は知ってたわ…でも色々無神経な事を言ったのは覚えてる」

たまきの表情が寂しげなものに変わる。

出会ったばかりの小島とたまきであったが
共通の人物を通して二人の心が打ち解けていく。

「正直に言うと、進藤先生の再婚に驚いたんです。
私の知ってた頃の先生は今とは違う人でしたから。
でも4年前に再会した時、先生の何かが変わってたのは分かりました。
歳を重ねたからではなく、私の知らない数年間に様々な出来事があったんだって。
4年前は私も辛い事があって先生自信の事は何も知らないままでしたから。
でも今日その理由がはっきり分かりました。」

たまきに優しげな視線を向けながら、進藤について語る。

「あの人とは離れていた時間も長かったのよ。大事な居場所があったから。
でも離れていても医療という同じ土俵に立っていると思えば十分に身近に感じれたの。
それで、いつの間にお互いなくてはならない存在になっていった…そんな感じね。
あの人とは早紀さんについて話した事はほとんどないの。
でも、それにこだわる必要はないのよ。
早紀さんっていう大事な女性がいた事実を知ってるだけで十分なの。
今を生きてるあの人に私が過去を持ち出しても何の意味もない。
それよりあの人とこれからの幸せを築いていくほうが大事だもの」

"あの人"と語るたまきの話を聞きながら、
進藤がこの女性の夫である事を実感させられる。
また二人の間に信頼だけでは言い表せない絆を感じた。

小島は進藤に言ってしまった言葉を振り返り無性に恥ずかしくなった。
たまきの存在を知らなかったとはいえ、申し訳ない気持ちになった。

たぶん進藤に対して、淡い恋心を抱いてたのかもしれない。
しかし"この女性"を目の前にし、その気持ちは無意味なものだと感じた。
入り込む余地もない。
勿論そのような気は更々ないが進藤への気持ちの整理をつけようとしていた。

小島はたまきに4年前の苦しんだ出来事を話した。

進藤にさえも亡くなった恋人の事を深く話した事はなかった。
違う立場の者であるが、たまきに話す事で何かが変われるような気がした。




小島とたまきは進藤が何故二人に話をさせたのか、
その意図が理解できた。

またそこに友人でもない同僚でもない、不思議な信頼関係がうまれていた。

時計が19時を周り少し仕事が落ち着いた頃、
進藤は医局で一人、束の間の休息をとっていた。
栄養に配慮して届けられた弁当と珈琲を味わう。
他のスタッフに見られたら、からかわれるだろうと思いながらも、
久々の家庭の味に進藤の顔がほころんでいた。

そこへICUへ様子を診に行っていた小島が医局へ戻ってきた。
進藤の机に置かれた弁当に一瞬目を向け微笑むと、ソファに腰掛けた。
背を向けた状態の進藤をしばらく見つめ、後ろから話しかける。

「…いい…奥さんですね…
あまりにも綺麗な方で驚きましたけど」

明るい口調で語る小島の話を無言で聞く進藤。

「…先生。ありがとうございました。
奥さんに会えて良かったです」

「そうか…」

少し振り返るように一言だけ進藤が応えた。

「今日、話をしてみて気持ちが軽くなりました。
色々吹っ切れた感じがします…。先生は…本当に愛されてますね…」

今度はきちんと小島の方に体勢を向けて進藤が照れたように微笑む。

「小島…。俺はお前の抱えていた問題は分かっていたつもりだ。
でも、お前も俺も同じ苦しみを知っているだけで、
そこから前進しなければ意味がないんだ。
俺も今日のような状況になると思っていなかったが、
あいつと話した事で何かを感じてくれたんならそれでいい。
あとはお前次第なんだ…」

「…はい。今日が前進するきっかけになりましたから。
本当、感謝してます。
…ところで…先生は奥さんのどんなところに惹かれたんですか?
それが聞けたらスッキリしますから!
あっ!医局長命令ですよ!」

企みを含んだ笑みで進藤に尋ねる。
そんな事を聞かなくても、小島にはたまきの魅力が十分に分かっていた。
ずっと一緒にいる進藤にはさらに魅力的な女性に写っているのだろう。
だがやはり進藤の口から聞きたくなったのだ。

「元指導医をからかうもんじゃない」

照れた表情で再び小島に背を向ける。

「じゃあ、先生が奥様の愛妻弁当を食べてる事・・
皆にバラしちゃいますよ!」

「小島…お前…。俺はな…」

プルルルルルル

進藤が何か言おうとした時、ホットラインが鳴り響いた。
安堵の表情を浮かべ、小島と共に救命センターに向かった。

たまきが救命を訪れてから2日後、進藤はようやく我が家に
帰宅した。
医局長である小島のはからいで休みをもらったのだ。
仕事を終えて家に着く頃には22時を周っていた。

「おかえりなさい。久しぶりの我が家ね」

笑顔でたまきが出迎える。

「ただいま…。中々帰れなくて悪かったな。
あいつはもう寝たのか。」

3歳になる愛息子の寝顔を見に寝室に訪れる。
父親の帰宅を待っていたのか、はしゃいでそのまま寝た様子である。

「明日、あなたと出かけるって喜んでたのよ。
休みがとれてよかったわ。小島先生に感謝ね。
食事温めるから、先にお風呂入ってきたら?」

進藤は入浴を済ませ、遅い夕食を摂る。
弁当とはまた違う温かい家庭の味に進藤の疲れも癒される。

「この前は、ありがとな。
お前と話せた事で、小島も気が楽になったみたいだ。」

テーブルの向かいに座るたまきに礼の言葉を言う。

「いいのよ。大した事はしてないわ。
でも彼女なような人ならきっと、幸せになれる。
さすが、あなたの教え子ね。医者としても凄く尊敬できる人だもの。」

しばらく進藤とたまきはリビングでくつろぐ。
息子の幼稚園での出来事等、普段ゆっくり話すことができない為、
二人は貴重な時間を過ごす。

たまきも入浴を終え、場所を寝室に移す。
赤く染まった肌と風呂上りの香りを漂わせベットに入る。

何度も見ている姿なのに、進藤は変わらず美しい彼女に見とれてしまう。
小島から”抱いて欲しい”と言われた時、男として正直動揺を隠せなかった。
しかし、たまきを目の前にすると自分が心から体から欲しいと思うのは
彼女だけだと改め思う。
艶やかな姿に理性を失ってしまう。

「たまき…もう少しこっちに来い」

たまきの肩を抱きかかえ、進藤の胸元に引き寄せる。
細い体は進藤のからだにすっぽりとはまる。
長い口付けを交わし見つめ合う。

「こうしてゆっくりできるの一ヶ月くらいね。私の事恋しかったんじゃない?」

悪戯めいた表情で上目遣いにたまきが聞いてくる。

「・・・かもな・・・。お前はどうなんだ」

照れた表情で進藤が返す。

「分かってるくせに・・・」

再び口付けを交わし徐々に互いの服が乱れていく。

「今日は・・優しくできないかもしれないぞ」

「二人目ができたら、どうしようかしら」

「大歓迎だ」

すべての服がはぎ取られ、たまきの美しい体があらわになる。
久々の彼女の体を進藤は眺める。
唇から徐々に愛撫の場所を移し柔らかな膨らみに辿りつく。

「っあ・・ん・・・」

たまきの体が一瞬のけぞる。
ピンク色の先端を中心に責めあげる。
部屋にはその愛撫の音と、たまきの微かな喘ぎ声が響きわたる。

進藤はたまきの体の全てを愛撫するかのように次々に場所を移す。
そして最も敏感な場所に辿りついた。
温かい艶やかな蜜が溢れ出していた。
愛撫と同時に徐々に指を増やしながら、そこを刺激する。

「あっ!・・ぃヤ・・あぁん!」

その刺激に耐え切れず、体を反らせこれまでにない声を出す。
蜜は止まることを知らず、とめどなく溢れだしてくる。
温かな中を掻き回し、少し上の膨らみを激しく愛撫する。
たまきは声を押し殺そうと必死だったが、耐える事はできない。

「・・我慢しなくていい・・」

進藤はたまきに視線を向け反応を伺う。

「あっ!・・んん・・・あん・・ダメ、もうっ・・!!」

たまきは限界を超え頂点に達した。意識がうすれ
敏感な部分が痙攣しているのが分かる。
進藤は指を抜き、しばらくたまきを抱きしめる。
進藤も限界がきていた。進藤自身の膨らみも頂点に達していた。

たまきの呼吸が安定するを確認し唇を重ねる。

「たまき・・・いいか?」

頷いくたまきを確認し、もう一度唇を重ねた後
彼女の腰を持ち上げた。
そしてたまきの部分を一気に貫いた。

たまきの中で、大きく硬くなった進藤自身が締め付けられる。
反応を見ながら、動きを変えていく。

「っあ・・!んん・・あん!」

たまきの声で更に進藤の理性が失われ、興奮へと変わっていく。

今度はたまき手をベットに付けさせ後ろに回る。
そして再び後ろから突いていく。
グチュグチュとはっきりした水の音が聞える。
たまきの背部から腰のラインを眺めながらスピードを速めていく。

「あぁ!もう!・・・ダメ・・・いっ・・」

再びたまきに限界が訪れる。そして進藤もまた限界に近づいていた。

「・・あっ・・いくぞ」

たまきが頂点に達すると同時に、進藤も彼女の中に熱い液体をそのまま注ぎ込んだ。



「大丈夫か」

横たわるたまきを引き寄せ声をかける。

「ええ・・。久々だったから。
でも毎日こんなのだったら体がもたないわね」

たまきは微笑みながら応える。

「そうだな・・。俺も仕事に行けなくなるな」

最後に口付けを交わし、抱き合ったままの二人は眠りについた。


後日談

小島にとって久々の休日。ある人物と会う約束をしていた。
数ヶ月前に再会し、時々連絡を取りあっている。
喫茶店に入り、その人物を待つ。

「小島先生!すみません。道が込んでて。」

息を切らしたように、小島の前に現れる女性。

「いいのよ。私こそ急にごめんね。それより座ってゆきちゃん」

桜井ゆき。
都立にいた頃、共に新人と入職してからお互い励まし合い
公私共に親しくしていた。職場が別々となってから会う機会が減っていた。

「進藤先生はお元気ですか?それにしても3度も職場が一緒になるなんて
すごい縁ですよね。私も久々に会いたいなぁ。4年くらい会ってないですから。」

進藤の事を嬉しそうに語る桜井。

「進藤先生には本当助けられてばかり。うちの救命センターも色々あって
十分な休みを取らせてあげられない事が申し訳なくて。
・・・それよりゆきちゃんに聞きたい事があるの・・・」

小島は本題に入ろうとしていた。先日進藤から聞かされた真実。
進藤への気持ちの整理はつけていたが、やはり港北での経緯を詳しく
知りたいと思ったのだ。医師としての活躍だけでなく、彼の気持ちの
変化がどうようなものであったのか知りたかった。

「何でしょう?・・相談事とか」

「私の事ではないんだけどね。進藤先生・・・再婚してたのね。
全然知らなかった・・・。ゆきちゃんは知ってたんでしょ」

寂しげな表情で小島が尋ねる。

「う・・ん。はい。知ってました・・・。
ごめんなさい!本当の事を言うと小島先生に言いずらくて・・・。
その・・・先生の恋人の事を聞いてたから・・・。すみません
それに私の口から話すべきか迷ってたんです。」

少し困った表情で桜井が応える。

「全然謝るはないのよ。ただ驚いたの。
ゆきちゃんは進藤先生の奥さんの事知ってるのよね?
しばらく救命で一緒だったのは聞いたわ。実はこの前奥さんに会ったの。」

「そうなんですか!?
香坂先生・・あっ奥さんとは一緒に仕事してました。
当時は進藤先生と同じくらい取っ付きにくい人でしたね。
それにあの容姿だから周囲も一目置いてたお思います。
救命で一緒だったのは短い期間でしたけど、医師としても優秀で
徐々に魅力が分かってくるような人でした。
でもそれは進藤先生の影響が一番あるんじゃないかと思いますけど」

桜井はたまきの当時の姿を思いだしていた。

「そうだったのね・・・。
この前会った時、凄く素敵な人だと思った。逆に進藤先生が変わったのも
奥さん影響があるじゃないかと思うの。
二人の関係はどんな感じだったの?当時からお付き合いは・・・」

二人の顔を思い浮かべながら小島がさらに尋ねてくる。

「一緒に働いてた頃はお付き合いはなかったと思います。
初めの頃は何かとぶつかり合ってましたし。
でもお互いに認め合っている感じがしてましたけどね。
進藤先生って、都立の頃もそうでしたけど、誰も立ち入れない
雰囲気があったんですよね。何でも一人で解決して、強いっていうか。
時々孤独っていうか。・・・でも今の奥さんはそこをすべて理解してる
ようでした。恋人でもないけど、二人の間に独特の空気が流れてましたから。」

たまきと初めて会った日、二人が並んだ姿を見て、
小島も二人に誰も入っていけない空気を感じた。桜井の言う”二人の空気”がよく分かる。

「小島先生・・・。実を言うと私、進藤先生に惹かれてたんです。
でも思いをはっきり伝える前に折れちゃいましたけど。
あの二人を見てたら、確信はないけど何かがある予感がして。
この人には敵わないって思ったんです。
二人の詳しい経緯はこれだけしか知らないんですが、一緒になられたのは
今思うと、自然な事だったと思います」

桜井はあの屋上で二人きりの姿を一度見たことがあった。
あの光景がずっと残っている。
また冬の寒い冷たい海の中、進藤が必死でたまきを助ける姿。
あの頃にはお互いの気持ちはとっくに通じ合っていたのかもしれない。
真実は分からないが、ずっと進藤を見てきた桜井は彼のたまきを見る目が
他と違うことは、はっきりと分かっていた。

「私が想像してたより、ずっと二人の絆は強いのね・・・。
早紀さんと進藤先生の事を見てきたからこそ、今の先生の気持ちの
重さを感じるの。凄く奥さんを愛しているのが分かる。
よかった!。ゆきちゃんから話が聞けて。」

「いえ、私も全てを知ってるわけではないですから。
でも、二人のような夫婦になるのが私の目標なんです。
だから頑張ります!!」

結婚を控え、女性としての魅力が増した桜井を微笑ましく思いながら、
小島自身もいつか愛する人と巡り会うのを願わずにはいられなかった。






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