仮眠室
矢部淳平×太田川奈津


まったく…また2日泊り込んでるし。

山のようにあったオペ伝票整理をやっと終えた深夜の医局で
奈津はおおきなため息をついた。
少し寝たくとも、仮眠室のベッドで同期の研修医・矢部が寝ている
研修医が二人して仮眠など怒られるに決まってる。

1時間ほど前に運ばれて来た急患も落ち着いたらしく
医局の外も束の間の静けさ。
奈津は椅子から立つと仮眠室のカーテンの中へと入る。
ベッドに大の字になり寝てる矢部を軽く揺すって

「ねぇ矢部くん…起きてよ。矢部先生っ」

声を潜めて言うと半分寝てる矢部がぼそぼそっと虚ろな口調で言った

「―――香坂センセ…?」

「残念ながら太田川ですけど?」

冷静に寝言のような矢部の問いかけに答える。矢部はやっと少し目を開き
奈津の顔を見ると「なんだよ〜」と言いながら伸びをする。

「仮に今、香坂先生が矢部くんを起こすとしたらこんな呼びかけじゃなくて
 “研修医がいつまで仮眠してるのよ!”って仁王立ちだよ」

真似をしているのか、奈津も仁王立ちをしてみて想像をして笑う。

「―いいんだよ、別に。仁王立ちだろうがなんだろうが…」

鬱陶しい、という感じで矢部が答えると今更呼び間違えた事を恥じたのか
ふて腐るような顔でごろんと寝返りをうつ。奈津はそれを見て呆れたように

「矢部くんが、香坂先生好きなのはなんとな〜くわかってたけど
 年下の男、しかも医局の後輩に恋愛感情持つタイプじゃないと思うなあ〜」

残念残念とからかうように奈津が言うと矢部は背中を向けたまま無視をしている。
その背中を見ながら奈津が聞き取れるかどうかってトーンで呟いた

「――矢部くん、サミシイの?」

その問いかけをかろうじて聞き取った矢部は背中を向けたままで答える。

「サミシイって訳じゃねえよ…無理って思うと余計に、って所かな」

同志として同期としての会話ではない内容を奈津はどこか他人事のように思えてきた。
それでもその背中をなんとかしてあげたいという感情が自分の中にあるのに気付かず
言葉だけがフライングするように唇から出てしまう

「私、じゃ…駄目なんだよね…?」

うわあ、何言ってんだろう!と一瞬で目が覚めてあわてて口を押さえる。
一気に心拍数と体温上昇…言い訳をしたいところが矢部が驚いた顔で見つめてるもんだから
奈津は金縛りにでもあってる状態になってしまう。そして矢部は驚いた顔のまま

「太田川…?今のって…」

金縛りがやっと解けた、と同時に言い訳がマシンガンのように出てきた

「いい今のは〜、告白とかそういうのじゃなくって、何て言ったらええんやろ…
 あの〜…絶対叶わない片想いがなんか切なくてかわいそうで…矢部くん、ええ人やし…」

何も考えず出てきた言い訳は体にしみついてる京言葉が混ざっていた。
矢部は体を起こすと奈津を見つめてため息をつく

「あのなあ、絶対叶わないっていうのは余計だろ。万が一っていうのもあるし。」

いつもの無邪気な矢部の笑顔を見ると、奈津はいてもたってもいられなくなる
2日トータルで3時間くらいしか寝てないせいかな…どこかでそう思いながら
気付けば座っている矢部の頭をそっと抱きしめていた

無言のままで二人はしばらく動かない。動けない、が正しい…
優しく矢部の髪を撫でて片方の手はそのまま矢部の頬に触れる。

「矢部くん…いつも、香坂先生のことばかり見てるんだもん…」

「太田川…?どうしたんだよ、急に…」

矢部が動揺しているのを感じ取ると、少し面白く感じたのは事実。
奈津は矢部の顔を上に向けると、そっと唇を重ねた
ピクンと矢部は一瞬驚きが身体に出たが、心地よさに身を任せたらしい…
そのまま啄ばむように唇を何度も合わせ矢部はゆっくり後ろに倒れこんだ
奈津が馬乗りになるような体勢で、スローモーションのようで濃厚なキスを続ける
子供っぽいと思っていた奈津が今は急に女らしく感じられる―矢部は包まれたいと思えた。
いつもより甘ったるい声で奈津が呟く

「ねぇ…矢部くん…。香坂先生のこと…10分だけでもいいから、忘れて」

その言葉で矢部は目の前の彼女を強く抱きしめた。力強く―その腕の力に奈津が微笑む。
10分…というタイムリミットは今の二人に相当具体的だった
医局に誰か戻ってくるかもしれないタイムリミット…
ゲームに近い、その行為がスタートすると二人は貪るようなキスを始める
お互いの息遣いで余計に感情が高揚していくようで…
矢部が奈津のケーシーのズボンのファスナーを下ろすとそのまま下着に手を入れる
本来なら…隅々まで、と思うがタイムリミットのあるゲームには無理な状態だった。
奈津もそれは理解している。矢部のベルトをキスをしながら外すと同じようにファスナーを下げる。
くるっと体勢が入れ替わって、矢部が上になると裾から手を滑り込ませ少し乱暴に奈津の胸を揉む…

「痛っ…」

力加減ができなかったらしく奈津がすぐに言うと、矢部はあわてて手の力に少し意識を流す。
切ない表情で自分を下から見る奈津に、矢部は質問をしながら首筋へと舌を這わせる

「本当にいいのかよ…」
「知らないわよ…そんなの…」

こういう事にはウトい、と思っていた彼女が鼻先から甘い短い声を漏らす姿に
普通に身体が欲情していく。矢部はもっと「鳴かせ」たいと思うと下着の中で
くすぐるように愛撫していた指を1本…彼女の中へと入れていく。
すると声を必死で殺しながら表情を歪める奈津…
変な所で真面目クンだから、女の扱いには無頓着と思っていた彼の指1本で
身体が操られていくと奈津はどんどん快楽が欲しくなってしまっていた

「も…いくぞ…」

矢部の短い合図と共に奈津のズボンと下着を脱がされる。
M字に脚を開かされて、入り口に宛がうと矢部は奈津の顔を見つめながら
ゆっくりと挿入していく

「う…っすげ…」

キツいくらいの感覚に思わず矢部が感想を言ってしまう
そんな言葉すら聞こえないくらいに奈津は必死で声を殺していた。
身体が小刻みに震えて、毛布を掴み、呼吸が止まるくらいに我慢している
そんな少し力んだ身体に対して、矢部は動き始める――

「…んぅっ…やべ…く…」

単純にキモチイイ…気付くと激しく打ち付けるように動かされて
子宮を突かれているような感覚。脳を直接刺激されてるような甘美な刺激に
奈津はもう理性が完全に飛んでしまった。

「矢部くんっ…あっ、あ…」

普通に会話するくらいの声が奈津の口から出ると矢部はキスでその口を塞ぐ。
お互い激しくなった呼吸と、肌と肌がぶつかる湿った音と、鼻から漏れる奈津の吐息―
次の瞬間、涙目の奈津の全身が硬直したままガクガクと震えだす
同時に一気に締め付けられてしまいなんのキッカケもなく矢部も達してしまう
キスで口を塞いだままで舌を絡ませ、そのまま一番奥で放出――

…しばらく、息切れのせいでお互い何もいえないでいる。
息切れのせいもあるが…タイムリミット内に終わったゲームのこともある
どうして…とお互いが思っているが、お互いそれを口に出さない。
挿入したまま奈津の上に倒れ込んでた矢部がやっと身体を起こし
ティッシュを取り、それを宛がいながら引き抜く。
そこでやっと沈黙を破った

「ゴメン…いきなり…だったから、外で出すつもりが間に合わなくて…」

やっと落ち着いてきた呼吸の合間に奈津が返す

「いい…別に…すっごい短い時間だったけど、すっごい変になってた…」

やっと奈津も身体を起こすとまだぼんやりとした頭のまま身なりを整える。
お互いがちゃんと身なりが整った所でなんとなく向き合って立つと
今度は奈津から切り出した

「ちゃんと…私のこと、見てたね。最中は。名前も間違えなかったし」

そこで医局に誰かが入ってきた気配―
ビクン!と二人は飛び上がりそうになるが、目配せをした奈津がそのまま仮眠室から出て行く

「お疲れ様です」
「おーオツカレ。あの高いお茶くれないかな〜」

奈津の指導医・神林の声だった。仮眠室の外ではいつものような会話が始まる。
仮眠室の中で矢部はまたベッドに寝転がると
さっきまでのゲームが、夢だったのかと錯覚しながら眠りに再び落ちていく






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