tandem date
進藤一生×香坂たまき


■タンデム(tandem)=二人乗りの意味
■ソフテイル(FXST)=ハーレーダビットソンのバイク


休日の過ごし方をすっかり忘れてしまっていた俺は、今朝、空の色を見て思いついた即席デートプランを、いつ彼女に切り出そうかと、インスタントコーヒーを淹れながら考えていた。
なによりも、初めて過ごすふたりだけの休日だというのに、『同じ日に休み』が大前提になりすぎて、さっきまでなにも考えていなかったのだから、俺もトシを取ったな、と密かに笑うしかなかった。

そもそも、休日をどう過ごしていたのかさえ、思い出せない。いっそ、このまま彼女の好きなように一緒に時間を過ごすのも悪くない。悪くはないが、窓の外の青空をみていると胸の奥が高揚した。
それは、まるで遠足を楽しみにしていた子供頃のそれ、に似ていて気恥ずかしい気分になった。せっかくの晴れた休日だからな、と心の中で自分を励まして、たいして旨そうでもない安い香りのするコーヒーをキッチンですする。

シャワーを浴びて戻ってきた彼女が、髪を拭きながらリビングのソファーに身体を沈めるのを目で追いながら
「コーヒー、飲むか?」と、訊いた。

Tシャツとショーツ姿でソファーで小さく伸びをして、うん、とうなずき、俺の方を見て微笑んだ。

いつの間にか買い揃えられた、おそろいのカップに、彼女の分のコーヒーを淹れる。

「熱いぞ」と、ひとこと添えてコーヒーを差し出す。

俺は飲みかけのそれと共に彼女の隣りに座った。

「ありがと」

彼女は言い、片手で髪を拭きながら、差し出された入れたての安い香りを吸い込んだ。

「コーヒーメーカー、欲しいわね」

ややがっかりした口調でそう言うと、苦笑して、俺を見る。

「ああ」と、うなずくと満足そうにインスタントコーヒーをのんだ。

細く白い人差し指でカップの取っ手を握り、美味しいとも、不味いともつかない表情でで小さなため息をつく。
化粧っ気のない白い素顔が、素晴らしく晴れた日の光を浴びて、俺の知らない彼女を見せた。
綺麗だと、美しいと…思った。惚れた欲目と言われればそうかもしれないが、時々見せる子供じみた仕草も、俺だけに向けられる熱い眼差しも、甘えも、気づくたびに俺は、俺だけが、彼女に夢中になっていくようで心配になる。

そんな彼女の横顔に見惚れていると、

「なによ」と、はにかんで濡れた髪を俺の肩に乗せた。

俺は、トクンと鳴った心の中で呟いていた。

まだまだ、知らないことが、あるな…。と。
そして、彼女も俺のことをもっと、もっと、知りたいと思っているのかと…、考える。

いつからだろうか…。俺が彼女のすべてを欲しいと、俺だけのものにしたいと願うようになったのは…。
すでに自己分析もできないくらい俺は彼女に惚れていると思う。そして、どこまで本当の俺を見せていいのか、わからなくなる。彼女のすべてを知りたいくせに、俺は『俺』を演じようとしている。そう思うときがある。

彼女は、どうなのだろうか…?

尽きない想像に、ため息をついて、俺は飲みかけのコーヒーをテーブルに置いた。
体を動かすと、肩が濡れる感触がリアルに伝わった。シャンプーと香りと、彼女の体温。

たんなる朝の自然な光景に思えるこの時でさえ、幸せを感じずにはいられない。
安いコーヒーをすすりながら、俺を上目遣いで見ている彼女。そのくちびるからカップが離れて行くのを確認して、キスをした。
チュッと音がして、すぐに離れる。彼女は黙って、恥ずかしそうにふれくされた。まるで、不意打ちはダメだと叱られているようで、俺は思わず天を仰いだ。

静かに頭を持ち上げ、俺から離れて行った。濡れた肩が冷たい。

俺には似合わない台詞だということを知りつつも、曖昧になりそうな気持ちを、確認するように言った。

「おまえ、素顔のほうが綺麗だな」

彼女は小さく微笑みをつくりながら

「らしくないわね」と、驚き。

それから「あなたが、女を褒めたりする男だとは思わなかった」と、
嬉しそうに独り言を呟いた。
俺は黙って、その表情を確認し、ほっと胸をなでおろした。

彼女は俺に笑顔を向けると、投げ出された細い足を胸に抱きかかえ、ソファーの上で「可笑しい」と、笑った。

「可笑しい、か?」

苦い微笑みを作りながら、俺は彼女に欲情していた。たまらなくなって、彼女の持ったカップを取り上げて、テーブルに置いた。
彼女は、ふふっと笑ってキスを待つ仕草で俺を誘う。

「からかうなよ」
「からかってなんかないわよ」

首を傾けて、子供を諭すような口調で俺を見つめる。

あんな事を言ったばっかりに、俺は彼女に試されている、と思った。
そして正直、驚いていた。彼女らしい彼女を久しぶりに感じて、俺の心臓はバクバクと心拍数を上げていた。

この後の予定もある…。俺は夢中にならないように『余計なこと』を考えながら、まだ何か言いたげなくちびるを塞いだ。

彼女らしさを奪ったのは俺の、あの言葉だったと思う。
この部屋に初めて来た日、切なく噎び泣く彼女を抱きしめて

「…もう、何も言うな」と、「もう待たなくていい」と、俺は言った。

俺が全部背負えばいいことだった。すべて俺のせいだし、何よりも彼女に負担だと思わせることをしたくなかった。
そう思って言った言葉だったが、本当は違った。もっと、きちんと伝えるべきことを、伝えなければいけなかった。
彼女の言いたいことも含めて、ふたりで解決しなけらばならない問題だったのに、それに気が付くまで俺は彼女の優しさに甘えていた。
結局、彼女は言いたいことも言わず、不安の中で俺を待っていた。「待つな」と、言ったのに待たせた。
不安で眠れなくなるくらいに、気持ちを押し殺していたんだと思うと切ない。
好きな男と一緒に生活し、抱き合い、愛している、と言葉を交わすだけで『幸せ』なんだと、『満足』なんだと思おうとしていたんだろう。
結論から言えば、俺の優しさは上辺だけの飾りで、言葉でうまく伝えられない分、彼女を苦しめた。
それなのに、俺は彼女が言葉を交わすときの遠慮がちな空気が、たまらなく嫌だった。
どうして良いのかわからず、短い時間を小刻みに過ごす事を選んだ。
平静を装えば装うほど、ぎくしゃくするような、そんな関係が続いていた。
いい加減、焦れて決着をつけようと今日、彼女と休みを合わせた。合わせたが、昨夜ベッドの上でなんとかその問題は『解決』したようだった。

まだバクバク鳴る俺の心臓が、彼女と向き合えた喜びを代弁しているようで恥ずかしかった。
しかも、ここまで踊らされるとは、さすがに計算違いだったわけだから、もうこのくらいで…と、舌を引き抜こうとした瞬間。
彼女の腕が俺に巻き付いて、全身を預けた。
俺は、そのままドサッとソファーに押し倒されてしまった。

深く舌を挿し込まれて、柔らかな肉片を互いの舌で感じた。呻きと吐息が絡まるのを、もう貪り付いて受け止めるしかなかった。
なかなか満足しない彼女の舌に「もうダメだ」と強く吸い上げると、弱く咽せて開放された。

熱く息づいて、俺を抱きしめる華奢で頼りない彼女の身体…。俺の肩に顔を埋めて、息を整えるように吐息を零している。

掠れた声が出た。

「…朝から大胆だな」

彼女の表情を見ようと、少しだけ顔を傾けて覗き込む。シャンプーの香りが肺を満たして、俺は大きくため息をついた。
耳の奥まで自分の鼓動が響いて、紅潮するのがわかった。
同時に下腹の奥が痺れて、もう押さえられないくらいに興奮しはじめていた。

盗み見た彼女の横顔の頬は、赤く染まっていた。

「ずーっと、このままだったらいいのに」

彼女は小さく呟いた。その告白に、俺の心臓はドクンと脈を打った。ずっと言いたかった彼女の素直な気持ちに聞こえて、身体が震えた。
分かり合えるまでの時間は、たまらなく焦れったいのに…、今なら何でもわかってやれる気がした。

「そうだな」
「…餓死、するわよ」

そう言って、彼女は笑った。

「朝飯を抜いたくらいじゃ、死なないだろ」

俺が笑いの隠った声でそう言うと、また小さく笑い声を上げた。

身体を持ち上げようとする彼女を抱きとめた。黙って抱きしめた。抱きしめた俺の腕の中で彼女は言った。

「もう少し、このままでいたい」と。

俺は大げさにがっかりした声を出して、
「このまま…か?」と、彼女の耳にささやく。

幸せな沈黙が流れて、密着する互いの体温を楽しみながら、俺は彼女のTシャツの裾をたくしあげた。
湿った身体から、ほのかな甘い香り。沸き上がる色欲。俺は両手を伸ばして彼女の尻を下着の上から撫で上げる。
心細いまでに軽い身体をピクンと震わせて、また強く抱きしめられた。
胸の膨らみを胸板で感じる。柔らかさと鼓動が直に伝わってめまいがしそうだった。
同じように俺の欲棒も、彼女の太ももあたりで堅さを増し、ドクドクと脈を打っている。彼女はそれをどう感じ、どう受け止めているのだろうか…。
俺と同じようにめまいがするほど、欲しいと、愛おしいと思ってくれていればどんなに幸せだろうか…。
そんな不純な想像は切望で、その切望は彼女しか知り得ない感情というカタチのないもので、…歯がゆい。
抱き合うたびに、素直に反応してくれる身体。でも心は…?心の中の細部まで知りたいと思うのは、俺の勝手な私情か…?

無力感に襲われそうになりながら、両手に力を込めた。
やんわりと揉みしだくと、彼女は抱きしめた腕を解き、片方の手で俺の手の甲を包むように握ってきた。拒まれたのかと思い、焦る。
耳元でくすっと笑う彼女を感じ、俺の手は動きを止めた。
彼女の手はすぐに離れて、しばらく迷ったように俺の身体を撫でまわった後、突然、俺の腰と彼女の太ももの間にさし込まれた。

その先には俺の……欲棒。
それを、スウェットパンツの上から撫で上げられて喉の奥で呻きが洩れた。

「うっ…、たまきっ」

耳元で、くすくすっと照れたような笑いを洩らしながら、彼女は言った。

「朝から、元気なのね」と。

それから…「させて…」と、恥じらいの隠ったトーンで、声を震わせた。
俺は全身がカッと熱くなり、下腹の痺れが痛みになったのを感じて平静さを失いかけた。

彼女の腕を掴み、声を荒げる。

「おいっ!!」

俺の焦りとは裏腹に、芯を持ったソレは彼女の手のひらの中で、その快感に跳ねた。
彼女はソレを握ったまま、身体をずらそうとする。
俺は両手に力を込めて「ダメだ…」と、説得力のまったくない声でささやいた。

「…今度は、してくれって。言ったのは、あなたじゃない?」

その艶っぽい声音には、擽ったい照れが含まれているのに、まったく迷いがなかった。

本気なのか…。

俺は駆け上がる刺激に、ただただ身震いを覚えるだけだった。

「キス、して…」

上体を持ち上げながら、彼女は言った。
濡れた髪が俺の首筋に触れ、色っぽい微笑みが横から現れて見つめられる。
彼女は口角の端を震わせて笑いを堪えた。
今にも吹き出しそう…、という表情なのに、目には明快な意志を持って、俺を誘惑する。
俺はもう目が離せなかった。熱い視線で鼓動が早くなる。言葉を探しても見当たらない。
どんな顔をして良いのかわからず、ただ黙って視線を絡め合っただけだった。
もう一度、俺との距離を縮めながら「そんな顔されたら、いじめたくなっちゃう…」と笑って俺のくちびるを奪った。

挿し込まれた、舌の緩やかな動き。うねる欲情と困惑。
俺は彼女の素肌に手を忍ばせ、柔らかな胸の膨らみを揉み上げた。
その手から逃げるように、彼女はキスを止めた。

挿し抜かれた舌が、俺のくちびるの端を通って、顎のラインを辿り、首筋を渡った。
身体を徐々に下辺へずらしながら、くちびると舌での愛撫を続ける。シャツの上から舌を這わされ、感じたことのない細かい刺激に襲われた。
それはまるでジャブの応酬で、息つく暇もなく快感に見舞われ、止めをさされるでもなく、ひたすら彼女を感じるしか術がなかった。
その間も俺の欲棒に添えられたままの彼女の手は撫で上げる動作を忘れず、今すぐにでも追いつめられそうになりながら、俺は身を委ねた。

俺の手が彼女の胸から外れて空を泳ぐ。たまらなくなって背もたれ側の左手で彼女の髪を梳いた。
投げ出されたまま居場所を失った右手でソファーの端を掴んで、力を込め、息を殺し、目を閉じた…。
そうでもしないと荒れた呻きが止めどなく洩れそうだった。

シャツのはだけた部分まで身体を動かすと中殿筋の上方に、ちゅぅっと吸い付いて直に舐められた。
キスマークが付くほど強く吸い上げられて、俺の欲棒はあからさまにビクンと、脈を打った。
彼女はふっと小さな吐息を洩らし、交互に重なっている足を左だけ引き抜いた。俺の指からするすると彼女の髪が逃げる。
俺の足の間に座り込んで、彼女は体勢の立て直した。

喉の奥で呻きが洩れないように気を付けながら、俺は「…本気なのか…?」と、訊いた。

「…嫌じゃ、ないでしょ?」

そう言う彼女の表情を、微かに瞼を開き、うかがった。
俺の視線に気が付くと、躊躇いがちに細い指で濡れた髪を梳き上げた。

紅潮している頬、覚悟を決めたような眼差し…。その姿は、あまりにも美しく、俺を虜にした。
彼女の前で俺を繕う必要は、もう…ないのかもしれない。そう感じて、俺は静かに目を閉じた。

同時に彼女の肩に掛かったままのバスタオルを、顔の上に投げ掛けられた。
苦笑しながら「おい、それはないだろ…」と、
視界を遮る湿ったタオルに手を伸ばした。

「だめよ」

慌てた声を出して、きっぱりと拒否された。

「なぜだ」
「…恥ずかしいから…、見ないで」と、彼女は本音を吐いた。

俺も本音で応えた。

「よっぽど俺の方が、恥ずかしいだろう。こんな格好で…」と。

ふふんっと小さく笑い声を上げて彼女は

「そうね」と、言った。

視界を遮られた空間で俺は目を開けた。透ける朝日が眩しくて、羞恥心を掻き立てる。見えない不安と、期待。
俺は腕を伸ばして、彼女を探した。すっと差し出すと、彼女から指を絡めてきた。
その指を解いて彼女の手の甲を包んで、導いた。
スウェットのゴムに彼女の指がかかる。
俺は軽く膝を曲げ、腰を持ち上た。そして、彼女の手を離した。

下着ごと、腿の上部まで引きずり下ろされ、外気に触れた俺の欲棒は大きく跳ねた。
躊躇いがちに、彼女は息を呑んだようだった。
しばらく間があって、充血したソレに彼女の手の温度を感じた。つたない手つきが、彼女の緊張を伝える。

俺は大きく息を吐いて「無理するな」と、だけ言った。
頷いたのか、ぱさっと音を立てて彼女の髪が俺の腿に触る。それだけで、ぞくぞくして思わず彼女の腕をつかんだ。

「たまき」
「…大丈夫よ」
「俺が…、大丈夫じゃない…」
「もう、黙って」

そう切り捨てられて平静をたもとうとする努力さえ、彼女の一言で圧殺されてしまう。
彼女の表情を確認できないだけに、激しく動揺した。どうしようもないほどの当惑に、胸を締め付けられる。

彼女の息が、俺の欲棒に絡みつく。
それを感じて、下腹に力を入れた。
ドクドクと脈打つ、その先端に舌を這わされて、ビクンと全身が跳ねた。
ざらざらした湿っぽい肉片の感触に、理性を奪われそうになる。
大きく脈動の走る筋に沿ってくちびるの柔らかさを感じる。
とまどい気味に舌先が触れ、下から舐め上げられると、思わず呻きを洩らしてしまった。

「…んっ…」

その反応に、彼女は小さなため息をついてくちびるを離した。
俺は固く目を瞑り、次の刺激に身構えることしかできなかった。

彼女の温かさを距離で感じる。
小さな吐息がかかって、彼女のくちびるが欲棒の頂点に触れた。
彼女のさらさらした唾液が、まとわりついて、腰が震えた。そえられた指が欲棒をなぞり、付け根まで下りるときつく掴まれた。
小刻みにキスするように、柔らかなくちびるを感じ、やんわりと舌を絡められ、熱く潤んだ肉壁の内に包まれる。
ぎこちなく吸い上げられて、何度も舌で弾かれると、膝がガクガク震えた。
刺激がビシビシと音を立て体中を駆け巡り、俺は奥歯を噛み込んだ。

同時に喉の奥で「ううっ…」と、呻きが洩れ、ガタンっと派手な音を立てて、俺の右足がソファーから滑り落ちた。
彼女は驚いたようで、ビクッと肢体を震わせ、ソレを離した。

俺は我に返り、ずり落ちそうになる半身を引き上げようと脹脛に力を入れて床を踏み上げようとしたが、もう力が入らなかった。
力を入れればガクガクと震えが走るだけで、これを腰抜け状態というなら俺は人生で初めて、それを経験したんだと思う。
滑り落ちた方の内股に彼女が手のひらが、いたわるように滑り込んでくる。ビクンと身体が反応して、たまらなかった。

惚れた女に主導権を握られることが、こんなにも俺を狂わすのか…?
そう思うと、猛烈に後ろめたい感情が沸き上がった。

遮られた空間は、俺の荒い息と濡れたタオルの湿気で息苦しいくらいの湿度を保ち、額から汗が噴き出る。
俺は、くぐもった声を出して懇願した。

「…たまき、ちょっと…、待て」

腕を伸ばして彼女に触れた。
ピクッと小さく身震いし、甘い声で

「大丈夫…?」と、訊いてきた。
「大丈夫じゃない、そう言っただろ…」
「…気持ち、よくない?」

その台詞は思い詰めたような、悲壮感が漂っていた。
俺は、あきれた声を作って

「…そんなわけないだろ」と、ささやいた。

「それなら…」

彼女は、また慣れない手つきで俺を掴む。
揉み上げられると欲棒の付け根に力が入る。まずい状態まできている…。
俺は、今にも襲いかかって奪いたい心情を、宥めるだけで必死になっていた。
もどかしい快感の中で、なんとか理想を取り繕う時間が欲しくて彼女の腕を掴んだ。

「たまきっ」

短く沈黙して、彼女は言った。

「…どう、されるとイイ?」

もどかしく恥ずかしげな口調で訊かれて、俺は微かに苦笑した。

彼女も俺と同じように、快感と羞恥が入り交じるたまらない感情の中で、必死なんだと納得した。
そう思うと、もっと深いところまで導いてやりたいと、全身で彼女のすべてを感じ、受け止めたいと、願わずにはいられなくなった。
もちろん、彼女がどんな表情で、俺を愛しているのかを確認したいとも…思っていた。

まずはこの状況をどう打開するか案を練りながら、顔の上のタオルを指さして言った。

「まず、これをどうにかしてくれ…」

彼女の返事は「だめっ」の一言だった。
タオルに手を掛けて

「息苦しい…」と、訴えたが、

彼女は静かに

「ダメよ、言うことをききなさい」と、微笑みの帯びた声で拒否した。

「おまえ…」
「うるさい」

ギュッと掴まれて、俺は声を失った。

そんなやり取りに、彼女に惹かれ始めた頃を思い出して、不思議な感じがした。
大人ぶったことを言いながら、俺の心の中に土足で踏み込んできた生意気な女だった。
動揺を隠すために言う強がりな台詞も、俺の想像しないようなところで、急に不機嫌になる子供っぽいところも、負けず嫌いで、意地っ張りで、どうしようもない女だと思っていたのに、
時折見せる切なげな表情や、優しさ、女っぽい仕草、それに医者としてのカンの良さには驚かされもした。すべてが俺を翻弄した。
そんな懐かしさに心が解れた。

余裕の見えてきた心の中で、俺は彼女とのやり取りをもう少し楽しもうと、折れかかった男のプライドを心の中で全力で励ました。
俺が我が儘を通せば、どう反応するか知りたいと、そんないたずら心さえ沸いた。
本格的に機嫌を損ねるかもしれない…。
そうなれば、機嫌を取るのが大変だろうが、それならそれで全力で機嫌を取るまでだ。

その厄介な性格も、『香坂たまき』その女(ひと)そのもので、いつの間にか、絆されていた。
どこに惹かれたのか?と、訊かれても答えられない、答えられるはずはない。
俺は『香坂たまき』という人間に心底、惚れている。確かなことは、ただひとつ、それだけだ。

そう自分を勇気づけて

「限界だ」と、タオルを掴んで、放った。

眩しすぎて一瞬、彼女を見失う。

「…な、なにするのよっ!」

動揺した声を上げ、羞恥の表情で俺を見ていた。
紅潮した頬。くちびるを尖らせて、拗ねる。恥ずかしげに目を逸らして、うつむいた。
うつむいた先に、俺の欲棒を見て、さらに緊張し、おずおずと言葉を発した。

「もう、してあげない」と。

俺は、俺のソレを離そうとする彼女の手を、優しく包んだ。

「こんなになってるのに…、ひどい女だな」

そう言って俺が笑うと、さらに身体を硬直させる。

腕をソファーの背もたれにひっ掛けて、上体をひき起こす。
向かい合って視線を求めると、じっとしたまま目を伏せ、嫌がられた。
俺はわざと大きめのため息をついて、彼女の肩を抱く。

「怒ったか?」
「…嫌っ」
「恥ずかしい、か?」

コクンと小さくうなずいて、

「立ち直れないくらい、恥ずかしいわよ…」と、恨みのこもった不満気な声が返ってきた。

プライドの高い彼女には、たかが、と思うことでさえ陵辱に感じるのかもしれない…。
俺は少し反省しながら

「俺も立ち直れないくらい、恥ずかしかったんだ」と、彼女の肩を撫でながら、ささやいた。

それから「悪かったな」と。

彼女はゆっくり顔を上げて、虚ろな眼差しで俺を見て、小さく笑った。

「本当に、恥ずかしいんだから」

そう言うと、 また目を伏せて、可愛い告白を聞き取れないくらいのボリュームで付け足した

「こんなことするの、初めてだから…」 と。

その告白があまりにも嬉しくて…、俺の下腹の奥はズキンっと反応し、萎えかかった欲棒が彼女と俺の手の中でおおげざに跳ね上がった。
彼女はその変化に、苦笑しながら、握った手に力を込めた。

「そんな顔して、誘うなよ…」

俺が言うと、力の入らない目で睨まれ、またギュッと絞り上げられた。

「うっ…」と、情けない呻きが洩れ、俺は顔を歪めた。

「あなたも、物欲しそうな顔しないで…」

「今日は、もう終わりにするか?」

苦笑しながら、そう言うと

「かわいそうね…」と、俺のソレをさらにギュッと掴んで、さすり上げながら、笑った。

「おい、扱いが雑だろ。握りつぶす気か…」

負けずに悪態をついたつもりだったが、声に力が入らなかった。
開き直ったようにクスクス笑われて、本当に立ち直れなくなりそうだった。

「…かわいそう、だから…」と、きまりの悪そうな声を出したかと思うと、俺の腕からするっと抜け出して身体を沈めた。

「…たまきっ」

彼女のくちびるが、先端に触れて、一気に熱い潤いが襲った。俺は握っていた手を離し、快感に震えた。
斜めに持ち上げられ、舐め上げられるのかと期待し身構えたら、彼女は動きを止めて、どうしていいかわからないといった表情で、俺を見上げてきた。
その恥ずかし気な表情に、ゾクッとした。

「このままでいいの?」

俺はその問いの意味が理解できずに

「どういうことだ?」と訊いた。

彼女は怒ったような顔を見せ黙ってしまった。
焦りを悟られないように答えを探す。
彼女の妖しい視線に気が付く。照れくさそうに含み笑いをして「早く」と目で訴えた。
俺はその意味を瞬時に理解し、彼女に告げる言葉を探した。

しかし、こんな時にどんな言葉を使えば良いのか…、戸惑う。卑猥に聞こえる単語は避けたい雰囲気だった。
彼女の手を取って、男が一番感じる部分に細い指を導いた。
まるで、医学生か研修医にでも教えるような口調で、

「…この筋が縫状線、これが包皮小帯だ。ここに性感が集中している」

そう言うと、彼女はぷっと吹き出した。

「そんな顔して…、言うセリフ?」

自分の言わせた俺の恥ずかしい台詞に満足したような素振りで身体を震わせて、彼女はまた笑う。
俺も可笑しくなって、苦い笑いを込めて

「うるさいな」と、つぶやいた。

「ここを…」

彼女が言い終わる前に、俺の手は振り解かれ、欲棒に舌が這う感覚に身悶えした。
唾液を絡めるように、弾かれる。ぎこちない動きが、さらに興奮を掻き立てて、たまらなかった。
俺が深く目を瞑って、ソファーに身を沈めると、深々とくわえ込まれた。俺はうわずった声をあげて、

「たまきっ、優しく…だ。歯を立てないように、気を付けろよ…」と、最後の強がりを吐いた。

それを聞くと、ふふっと笑って「命令しないで」と言わんばかりに、くちびるで締め上げられる。

「う…ぁ」

色気のない喘ぎがもれて、俺は腹筋に力を入れ、続きそうになる声を必死で殺した。

慣れないながらも、狂おしい程の彼女の愛撫が、嬉しかった。心が震えるような感動があった。

愛してる…。

言葉にならない感情が、熱い身体と、荒い息で伝わるようだった。
俺は、思考能力が落ちてくるのを感じながら、うち寄せる悦楽の波に身を委ねた。

どのぐらい、そうしていただろうか…。
俺はヤバイ痺れを下腹の奥に感じて、理性を取り戻した。
ヒリヒリするぐらいに、付け根の筋肉が痙攣しかかっている。
俺は、慌てて彼女に手を伸ばして、濡れた髪を梳き上げた。
彼女は集中している振りをして、俺への愛撫をやめない。

「たまきっ!」

焦った声を上げて、彼女の肩を押さえた。

「もう、終わりだ…」

ゆっくりと俺を解放し、ゆるゆると顔を上げる彼女を確認して、彼女が恥ずかしいと思うであろうシーンは一切見ないように、最新の注意を払いながら、俺は上体を持ち上げた。強引に抱きしめる。
しっとりと汗をかいて、熱く潤った吐息を洩らしていた。

「サンキュ」

耳元でささやいて、首筋にキスした。
俺の耳にも、甘い吐息が絡んで

「…もう、少しだったんじゃ…ないの?」と、情感のこもった声音が響いた。

俺は抱きしめた腕に、ギュッと力を入れ直し、苦笑した。

「高校生のガキじゃないんだぞ…。日に何度も無駄打ちできるか」

彼女の身体はピクンと反応し、その言葉の意味を理解した。

着ている彼女のTシャツの裾を持ち上げ、一気に引き上げた。
胸の膨らみが、柔らかに俺の胸板で揺れる。
左手で彼女の身体を支えながら、右手の親指で濡れた彼女のくちびるを拭って、キスをした。
情熱的に舌で貪って、同時に胸の膨らみを揉み上げる。
時間をかける余裕もなく、荒々しく愛撫して、彼女の性感を一秒でも早く引き上げるように、貪欲に愛した。

「…んっ」

短い呻きを洩らし始めた彼女の身体を、押し倒した。
大きくはないソファーの上は、俺たちでいっぱいになってギシギシと軋む。ピッタリと重なっていないと落ちそうで、もどかしい。

俺は胸への愛撫を続けながら、くちびるから舌を引き抜き、首筋に舌を這わせた。
開放されたくちびるから、彼女の小さな喘ぎが零れる。

「…うん、っ…ぁ」

ゆっくりと舌を移動させ、左の膨らみの先端を弾き、右は指の腹で撫で上げる。

「…あっ、あんっ、ああ!んっ」

甲高い声をあげ、彼女は身体をよじった。早急に掻き立てられた快感に、身体と思考が付いてこないと言わんばかりの乱れぶりが、俺を追い込んだ。

俺は上体を起こして、彼女のショーツをはぎ取り、指で彼女の中心を探った。
もう我慢ができなかった。本当ならば、さっき彼女がしてくれたように、愛してやりたかったが、彼女の乱れぶりに欲情が負けた。

充分に粘度を保った潤いを指先に感じて、俺は膝を立てて、彼女の腰を持ち上げた。

「入れるぞ」そう言い放って、彼女の反応を見るが、すでに快感の波に飲まれてしまったようだった。

彼女の中心に俺の欲棒を添え、浅く挿し入れる。

「あ…っ」

甘い嬌声が上がったのを確認して、深く貫いた。
彼女のイイ角度を保つために、折った右足を床に伸ばして、床を踏み込んだ。
ずり落ちそうになる彼女の左足を肩に抱え上げ、俺は腰を突き入れた。

眉間に皺を寄せ、切なげに吐息を洩らす彼女が一瞬、理性を取り戻し、微かに瞼を開き俺を見た。

「あっ、いっせ…」

絡まる視線に腰の動きを早め、俺は静かにささやいた。

「たまき、愛してる」

その言葉に彼女の中がキュッと狭くひくついた。
熱い肉壁が俺を満たし、今にも自制心を奪われそうだった。

激しく腰を打ち付け、彼女の喘ぎを聞きながら絶頂の兆しを待った。
その時はあっと言う間に来て、俺は彼女と同時に昇る為の快感の制御に没頭した。

俺たちの荒い喘ぎと、息使いがシンクロし始めたのを感じて、俺は息を詰め、さらに深く欲棒を埋めた。

「…たまき…、イクぞっ」

それを合図に、彼女が小さく痙攣し甲高い嬌声を上げた。

「…あっ、あぁっん!!!」

締め付けられて、脈動がドクンと音を立て、俺たちは二人同時に果てた…。
ビクンビクンと全身を痙攣させ、甘い喘ぎを零しながら彼女は意識を失った。
俺は抱え上げた彼女の脚にしがみついて、力の抜ける身体を支え、荒れた呼吸を整えるのに集中した。

息が整うと、足りなかった前戯の罪滅ぼしに意識のない彼女を抱きしめて、耳、首筋、鎖骨、胸、腕…指の一本一本まで、くちびると舌で愛撫を繰り返した。
少しずつ意識を取り戻し始める彼女が、吐息のような喘ぎを洩らす。
覚醒が確実なものになっていくと、触れるたびにピクンと小さく反応する。
そんな、敏感な彼女の身体がたまらく愛おしかった。
朦朧としながら、細い腕が俺を抱きしめようと持ち上がるのを感じて、そっと腕を取って肩に導いていてやった。
キュっと抱き寄せられて、彼女は重そうな瞼を少し開いて、キスをせがんだ。
俺は微笑みを作って、触れるだけのキスを何度も繰り返した。
キスの合間に1度だけ彼女は言った。

「愛してる」と、声にならない声で。



彼女が今日2度目のシャワーを浴びに、バスルームへ立った後、俺は即席デートプランを実行するべく奔走した。

通勤途中に見つけたレンタルバイクショップへ電話をし、今日借りられるバイクがあるかの確認を取った。
電話先の男はしぶい声を出して

「今日…ですかぁ?当日予約はねぇ…」と言って、しばらく沈黙したが、

「ああ」と間抜けな声を出して

「お客さん、ツイてるね」と独り言の声を弾ませた。

「今朝ソフテイルにキャンセルが出てるよ、どうです?」

それは…確かにツイてる。
俺は思わず喉を鳴らし、口元が緩んだ。

「それでいい」と、引きずられて弾んだ声を出し、

横目で時計を確認して14時から2時間の予約をした。

電話を切った後、俺は顔が緩むのを感じて、ふふんと鼻を鳴らして苦笑した。
窓の外の空の色を見上げる。
すっかり陽気な男に成り下がった俺を、快晴の空が笑っているようだった。
俺は大きく伸びをして、小さな独り言をつぶやいた。

「後はタンデムデートに誘うだけだ」と。






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