露西亜人形殺人事件後(非エロ)
番外編


露西亜人形殺人事件が終わって半月になる。事件に巻き込まれた犬飼高志は真犯人の桐江想子が犯人だった事が信じられなかった。
なぜなら、犬飼自身は想子に未だに想いを寄せていたので、あれが彼女の本性だとしても言いたい事を伝えられないという後悔だけはしたくなかったのだ。
あの事件以降、金田一一とは仲が良くなり、たまに電話や手紙で話をするようになった。
はじめの計らいで今、彼女がどの刑務所にいるか電話で教えてくれたら、素直に感謝した。
心配したはじめは気を遣って犬飼に注意を促す。

「犬飼、あの人に遭ってもお前の想いを信じてくれるか解んねぇけど、後悔だけはすんなよ。」
「ありがとう金田一。それでも僕は…」

犬飼自身の勝手な思い込みかもしれないのは理解していた。ただ、想子との初体験をしてしまった事で嘘だけはつきたくなかったのだ。
だから、あの時、彼女に騙されて殺されても悔いはなかったのだ。
犬飼は自分が真っ直ぐな人間である事に誇りを持っている自分にいい聞かせて彼女に面会する。
いざ彼女に出会ってみると事件の時と比べかなり豹変している事にビックリする。
彼女の頬は痩せこけ、目も虚ろな状態で手首には切り傷の痕が残っていたのだった。それもその筈、自分の計画が失敗し、自殺も出来なかったのだ。
自暴自棄になるのも無理は無かったのも理解は出来る。何しろ彼女には身寄りがいないのだ。
想子は虫唾が走るような目をしながら、犬飼に声を荒げに文句を垂れる。

「あんた…一体あたしに何の用よ。同情のつもり?あたしの事なんか放っておいてよ!」

人生を放棄したがっている彼女の気持ちも理解できる。だけど、本当の事を知りたい犬飼は自分の思いを告げる。

「桐江さん…でも、僕は貴方が好きだったんですよ。それが本物の桐江さんでも…」

本音を聞いた想子は、本音は動揺していたが目を逸らして小馬鹿にするかのように皮肉を言う。

「馬鹿じゃないの!あたしはあんたを殺そうとした女よ!そんなあたしを好きなんてお人好しにも程があるわ!」

真剣な目で犬飼は素直に想子に質問した。

「じゃあ僕があの時に貴方と抱いた時に殺すチャンスは幾らでもあったじゃないですか?だったら何故殺さなかったんですか?僕は貴方に殺されても悔いは無かったですよ。」

動揺を隠しきれなくなった想子は頭を抱えて素直に答えを出す。

「あたしにも解らない…あんたを殺すチャンスがあったのに…」

想子自身の目から涙が溢れて来た。それは自分も犬飼の事を好きになっていたのを心の中で認めたくなかったのだ。
一体、なぜ彼を好きになってしまったのか想子自身にも理解できなかった。
想子は自問自答してみる。彼の優しさに?それは違う…彼の真面目な性格に?それも違う…彼の生き様に?それも違う。
結局、答えが出ないで悩んでいる想子に犬飼は励ましの言葉を伝える。

「僕は人生をやり直すつもりでいます。だから桐江さんもやり直しましょう!僕は貴方が戻って来るまでいつまでも待っていますから…」

そう言えば、はじめに彼も金の面で苦労している事を聞いた事があった。
今まで自分一人だけで生きていた想子に心配してくれる人間がやっと出来た事に久しぶりの愛情を身に染みる。
生き方が馬鹿正直な彼に呆れて、想子も覚悟を決める。

「あんたみたいな人間が今時いるなんてね…いいわ。あんたがその気ならあたしも愛してあげる。」

想子は犬飼が好きになった理由がやっとみつかった。貧乏ながら彼の前向きな姿勢と辛抱強さは自分には備わっていない憧れだという事に…
想子にお金では買えない物があったとようやく気付いてしまう。

ー数年後、想子は出所し、タクシードライバーとなった犬飼と付き合う事になる。
想子もファミレスでアルバイトをしている。
決して裕福で楽な生活ではないが、それでも互いに後悔はしていなかった。






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