七瀬美雪受難
番外編


「はじめちゃん、急がないと遅刻するわよ!」
「もう間に合わねーよ、ゆっくり行こうぜ、美雪」
「もう、何言ってるの!今月2回も遅刻してるんだからね。今日は許しません」

美雪は、金田一の腕を掴むと強引に引っ張って走り始める。
不動高校へと続く銀杏の並木道。11月も終わりに近づき、黄色く色づいた葉も少し
ずつ落ち始めている。吹く風も少し冷たい。

「いたい、痛いってば美雪…」
「今日は早く起きるって昨日約束したでしょ!いつまでたっても子供なんだから!」
「わかった、わかった。走るから離せよ、痛いってば…」

金田一が余りの痛さに美雪の手を強引に振りほどく。

「きゃっ」

急に手を離され、バランスを崩した美雪が足をもつれさせて転倒した。

「あっ、ごめん」

とは口にしたものの、はじめの視線はつい美雪の下半身へと向けられる。転倒した勢
いで紺色のスカートが大きくめくれあがり、美雪の肉付きの良い健康的な太腿が露わに
なっているのである。黒いハイソックスと白く柔らかそうな肌の対比が妙に艶かしい。

「い、痛い…」
「大丈夫か、美雪」

そう言ってしゃがんだはじめの目が、美雪の太腿の奥を捕らえた。清楚な純白のパン
ティーである。不動高校のほぼ全ての男子生徒や男性教員が妄想したことがあるであろ
う七瀬美雪の下着。当然、金田一の目も止まった。
しかし、その一瞬の視線の動きを、美雪は見逃さなかった。

「はじめちゃん…どこ見てるの!?」
「えっ、いや、その…」

起き上がり、スカートの裾を直しながら、顔を真っ赤にさせていく美雪。恥ずかしさ
と怒りがこみ上げてくる。

「誰の為に一緒に通ってあげてると思ってるのよ!それなのに…変態!」
「だ、誰の為にって、いつ俺が頼んだんだよ。それに変態は言いすぎだろ」
「何よ、その言い方!女の子を押し倒して、スカートの中覗くのが変態でなくて何な
のよ!」

耳まで真っ赤にして美雪が叫ぶ。

「わざとじゃねーよ。っていうか、美雪のスカートの中なんて俺興味ねーし!」

売り言葉に買い言葉、金田一も大きな声で叫んでしまう。

「何よ!もうはじめちゃんなんて知らない!」

美雪は、黒髪を翻しつつ走り始めた。

文化祭が終わって半月。草太は悶々とした気持ちのまま、毎日登校していた。溜息を
つきながら下駄箱を開け、上履きを取り出す。すぐ近くには「七瀬」とラベルが貼られ
た下駄箱。草太の視線が止まる。
あれほど強く決心していたのにも係わらず、文化祭ではついに美雪に告白できなかっ
た。何度か言い出そうとしたのだが、その度に邪魔が入ったり、ついタイミングを逃し
たり…。

(こんなんじゃ駄目だ。七瀬さんへの自分の気持ちをしっかり伝えないと…)

しかし、金田一へと向けられる美雪の自然な笑顔を見る度に、その勇気が砕けてしま
う。金田一と美雪が交際していないのは知っている。が、美雪の気持ちがどこにあるか
が分からないほど草太は馬鹿ではない。

(早くしないと…もうすぐ、クリスマス…)

友人たちとの会話やテレビ番組。それらからクリスマスの話題が目や耳に入る度に、
草太は胸が熱くなるのを感じる。金田一と美雪が楽しそうにデートする姿を想い浮かべ
てしまうのである。深々と降る雪の中、ゆっくりと唇を交す二人…そして…。美雪の豊
満な胸、くびれたウェスト、暖かい肌。その肌に延びる金田一の手…。

(やっぱり駄目だ…そんなの…俺…我慢できない…)

しかし、この不動高校で美雪に告白した男子生徒の数は少なくは無い。どう考えても
草太よりモテそうな者が、何人もふられているのである。告白することにより、同じサ
ークルの仲間としての今の仲の良い関係さえ、壊れてしまいそうな気がする。

(でも…このままじゃ…)

「おはよう、草太くん!」
「あっ、あぁ、お、おはよう、七瀬さん」

告白しようかどうかと考えていたその相手に急に声をかけられ、草太の脈拍が急激に
上昇する。

「草太くんも急がないと遅刻するよ」

美雪が急いで自分の下駄箱を開ける。走ってきたのだろうか、頬や首筋はピンク色に
上気し、紺のブレザーの下の白いブラウスには汗が滲んでいる。

(可愛い…)

美雪の横顔につい見とれてしまう草太。

「七瀬さん、今日は遅かったんだね」

と言いつつ、草太の視線は黒いリボンタイの下の美雪の豊満な胸へと滑り落ちる。不
動高校のほぼ全ての男子生徒や男性教員が妄想したことがあるであろう七瀬美雪の乳房。
ブラウスがあそこまで汗で濡れているのなら、その下のブラジャーや乳房はいったいど
ういうことになっているんだろう…?

「うん。はじめちゃんがグズグズしてたから…」

翳のある笑顔を草太へと向け、上履きを取り出す美雪。と、靴と一緒に封筒のような
ものが転がり落ちる。同時に響き渡るチャイムの音。

「あっ、草太くん、急がなきゃ!」

廊下を走り出した美雪の背を見つめながら、草太は複雑を複雑な気持ちが襲う。

(はじめちゃんが…か。あれ、これ?ラブレター??)

美雪が下駄箱から落とした封筒に気付く草太。

「七瀬さーん、落し物!」

草太の声が聞こえなかったのか、美雪は小走りのまま廊下の角を曲がる。チャイムが
鳴り終わろうとしている。

(やばい、俺も遅れちゃう…)

白い封筒を手に、草太も教室へと走り出した。

つまらない数学の授業が続く。授業が始まって15分ほどした頃、金田一が教室へ罰
が悪そうに入ってきた。草太はそっと斜め前の席に座る美雪の反応を窺ってみた。唇を
真一文字に結び、無理に金田一を無視するようにしてテキストへ目を落としている。

(喧嘩でもしたのかな…?)

しかし、今の草太にはそういった二人の関係すら羨ましい。喧嘩できるくらい仲が良
いということではないか。確かに美雪は草太に対し優しく接してくれるし、笑顔も見せ
てくれる。しかし、それは美雪の他の男子に対する態度とそう大きくは違わない…。

(はぁ。やっぱり俺も、その他大勢のひとりなんだろうか)

大きく溜息をついた草太は、先ほど拾った白い封筒をポケットから取り出した。美雪
の下駄箱に入れられていたものである。

(ラブレターなんだろうな、たぶん。でも、七瀬さんに気付かれず、俺なんかに拾われ
て、可哀想な奴だよ)

草太は美雪にラブレターを出そうとしたことは無かった。告白するなら男らしく直接、
と決めていたのである。しかし、それが出来ていない以上、このラブレターの主の方が
まだしも勇気があるのではないか。草太の心境は複雑である。

(コレ、どうしよう…。休み時間にでも渡してあげようかな。下駄箱に戻しておく方が
無難かな…。いやまて、俺が告白できないでいるときに、他の誰かの告白を手伝ってや
ることなんてねーよなぁ…)

読んでみたい。草太の心に忍び寄る誘惑の声。

(読んでしまえ。どうせコイツもふられるに決まってるんだし、俺と同じように七瀬さ
んのことが好きな奴がどういった言葉を並べているのか興味もある)

ついに誘惑に勝てず、草太は教師の目を盗んで封を切る。そして、机の下でそっと封
筒の中を覗いてみる。

(ん…?手紙と…これ何だろ?写真…?)


(はじめちゃんの馬鹿…)

美雪は、数学の授業に集中出来ずに居た。もちろん、ほって来た金田一のことが気に
なるのである。結構な距離を走ってきた為に掻いた汗で、ブラジャーもパンティもべっ
とりと汚れている。その汗が冷え、体中が寒い。この憂鬱な気持ちと一緒に、シャワー
でも浴びて綺麗に洗い流してしまいたかった。
数学という授業も美雪を憂鬱にした。数学そのものは嫌いではないのだが、この教師
が、その蛇のような目でいつも美雪の胸や腰のあたりををジロジロといやらしく見るの
である。『アイツ絶対美雪のこと好きなんだよ』『家に帰ったら、美雪のこのおっきな
オッパイ妄想してひとりエッチしてるんじゃない』などと、女友達からからかわれるこ
ともある。

ふとした瞬間に、その数学教師が自分のことを妄想してオナニーしている姿を想い浮
かべてしまい、どうしようもなく気持ち悪くなることがあった。もちろん、高校中の何
人もの生徒や教師が、毎晩のように美雪をオカズにオナニーしていることなど、美雪は
知る由もない。胸が大きくなり始めた小学校高学年以降、周囲の男性のおびただしい量
の精液が、美雪をオカズとして搾り出されてきたことも。
と、そのとき、教室の扉が開いて金田一が姿を現した。美雪は、教室に入ってきた金
田一とは目を合わせぬよう、じっとテキストに集中した。

(はぁ…また喧嘩しちゃった…。仲良くしたいのにな…)

今年に入って喧嘩したのは何度目だろう。数日たてば自然と仲直りできるのは幼馴染
だからだろうか。
ときどき、金田一の気持ちがわからなくなることがある。もちろん、普段は優しいし、
様々な事件で体を張って美雪を守ってくれたこともある。嫌われてはいないと思う。い
や、幼馴染以上の感情を抱いてくれているとは思う。でも、ときどき投げつけられる無
神経な言葉。

(もっと素直で優しい女の子の方が好きなのかな…)

数学教師に薄ら笑いで謝りつつ、金田一が斜め前の席に座った。


(えっ…ま、まさか…)

草太を衝撃が襲った。その一枚の写真には、不動高校の制服を着たひとりの女生徒の
排尿する姿が写されていたのである。
斜め下からの絶妙のアングルで捉えられたその写真には、和式便所にまたがり、純白
のパンティーを太腿まで下ろした少女の性器、そこから迸る尿、そして顔までが鮮明に
映し出されている。
清楚な黒髪、優しそうな顔、豊かな胸、健康的な太腿、清純な下着。

(七瀬…さん!!??)

草太の心臓が一挙に高鳴る。

(うそだろ…これ…そんな…)

そう、それはまぎれも無く、不動高校二年生・七瀬美雪、十七歳の排尿盗撮写真だっ
た。それも、排泄という女性が最も他人に見られたくないその一瞬を完璧なまでに、性
器の奥深くまでを捉えている…。
草太は、裏本や裏ビデオで女性の性器そのものは見たことがある。しかし、身近な女
性のそれとなると生まれてはじめてである。しかも、それが片想いの相手であり、斜め
向いの席に今この瞬間に座っている少女の性器…。

(駄目だ…。我慢しろ…草太…!)

しかし、草太は自分のモノは強烈に膨張するのをどうすることもできない。チラチラ
と斜め前の美雪と、写真の美雪を見比べてしまう度に、今まで経験したことのないくら
い激しく勃起してしまう自分を止められなかった。

(これが…七瀬さんのおまんこ…これが…七瀬さんの…オシッコ…)

誰が、いつ、どうやってこの写真を撮ったのか。何の目的でこの写真を美雪の下駄箱
に入れたのか。興奮した草太の思考は、そこまでは及ばなかった。
今はただ、猛り狂った自分のそれを、思う存分しごきあげたかった…。

『七瀬美雪様

この写真をばらまかれたくなければ、私の命令に従って下さい。まず…』






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