番外編
ある夏の昼下がり。 七瀬美雪は一人、うつむきがちに公園を歩いていた。 「凄いな玲香ちゃん…。 ますます女に磨きがかかってるって感じ。 …それに比べて…私は…。」 他の人とキスしたシーンをはじめに見られたくない。 だからチケットを送らない。 見られて涙する。そんな玲香の女の子らしさが美雪には羨ましかった。 実際は、美雪も羨ましがラれる存在なのだが、 美雪はそんな自分の魅力に気が付いていない。 そして、これから美雪の魅力を最大限に引き出すことになる男、 蔵沢が美雪を見つめていた…。 一は、突然いなくなった美雪を探していた。 「どこ行ったんだ〜?美雪のやつ…。」 「あれ?美雪ねーちゃん、男と話してるぜ?」 「なんだとっ!ナンパ! くそー俺の美雪に〜!!」 そう言い、美雪のもとへ行こうとした一を佐木が止めた。 「センパイ待って!!あの人はまさか…。」 「蔵沢光!天才高校生映画監督の蔵沢光だ! その人の映画のヒロインだなんて七瀬センパイすごい!!」 「―そうだね〜それに…ププッ映画監督と主演女優のみだらなカンケ〜ツバつけほーだいじゃん! 演技指導とか言ってさあベッチョリと…」 佐木とフミの言葉にはじめが心配し始めてるなか、 美雪は突然のスカウトに当惑していた。 「ぜひ君をヒロインに映画を撮りたいんだ。」 「そ…そんな事いきなり言われても…」 その時、美雪の瞳にはじめと玲香の姿が映った。 玲香ちゃんの様に綺麗になりたい 私も変わりたい… 「――わかりました! そのお話、もう少し詳しく聞かせて下さい!!」 ゛えーっ!? 美雪、なぜだ!!?美雪〜〜〜〜!!!゛ はじめはショックで蔵沢に連れられていく美雪を 見送る事しか出来なかった。 美雪と蔵沢は二人で喫茶店にいた。 「…ストーリーとか撮影予定はこれで理解してもらえたかな。 他に何か質問はあるかい?」 「あの…どうして私をスカウトしてくれたんですか? 私、そんなスカウトされる様な人じゃないと思うんですけど…」 「うーん…一言で言えば、一目惚れかな。」 「え!?」 「君の姿をみた瞬間、スクリーンの中で輝いている姿を想像出来た。 君の美しさを写したい。 そして僕の力でもっと君の美しさを引き出したい、そう思ったんだ。」 監督としての゛一目惚れ゛かとホッとすると同時に、 蔵沢の゛美しい″と言う言葉が、劣等感に押し潰されそうだった美雪の心を救っていった。 「君は美しい。 そして、もっと美しくなれる。」 「蔵沢さん…ありがとうございます。 私、頑張ります」 その後、フミの言葉通りの関係になるとは、 この時の美雪には知るよしもなかった…。 それから一週間、美雪は撮影前のレッスンとして蔵沢の家に行った。 毎日の様に通ううち、映画以外の話もするようになり、 美雪は何故映画に出ようと思ったか… つまり、金田一と玲香の関係について蔵沢に話した。 「蔵沢さんごめんなさい。 私は、玲香ちゃんの様になりたい、玲香ちゃんに勝ちたい。 そんな気持ちから始めたんです。 こんなの、真剣に映画作りしてる蔵沢さんや他の部員の方達に失礼ですよね。」 玲香ちゃんに勝てる訳なんかないのに、 という言葉を飲み込む。 口に出すと余計悲しくなる気がしたからだ。 「そんな事はないよ。」 突然おし黙ってしまった美雪に、蔵沢は優しく言った。 「言っただろう?僕は君の美しさを引き出したいって。 そして君も美しくなりたいと思っている。 この映画はストーリーが決まっている様であって、実は君自身の成長の物語になるんじゃないかと思う。」 「蔵沢さん…」 「大丈夫。君は必ずもっと綺麗になるよ。 僕が保証する。」 そう言い、蔵沢は美雪の頬に触れた。 じっと蔵沢は見つめてくる。 美雪は恥ずかしさから顔を背けた。 「あっあの、蔵沢さん!少し練習してもいいですか?」 慌てて立ち上がりそう言ったが、顔は真っ赤だった。 ―びっくりした…まだドキドキしてるよ〜!!///― 「…あぁ、いいよ」 そう言って蔵沢も立ち上がる。 「それじゃあラストのシーンをやろうか。」 ラストのシーンとは、美雪演じるヒロインが告白するシーンである。 告白し、抱き締めあう。 そこでエンドロールが入る予定だ。 「『好きです…!今までずっとずっと好きでした! 私…』」 美雪を抱き締める蔵沢。 二人は見つめあって微笑む。 そこで終わりのはずだった。 しかし蔵沢は先ほどの様に美雪の頬に触れ、キスをした。 突然の事に美雪は抵抗したが、蔵沢の力にはかなわなかった。始めは軽くついばむようなキス。 それが段々と深くなっていく。 「ん…はぁ…あ…」 僅かにあいた隙間に蔵沢の舌が侵入してくる。 抵抗していた美雪だったが、今は初めて感じる快感に、ただ酔っていた。蔵沢の背中をぎゅっと抱き締めてもいる。 長い間そうしていた。ようやく蔵沢が唇を放し、 「キスもまだ慣れてないんだな…。 これからはキスも練習しようか?」 と言った。 快感の酔いに加え、軽い酸欠状態の美雪にはその言葉が理解出来なかった。 「撮影が始まるまでもう少しある。 それまで僕の部屋に来ないか? 幸い今は夏休みだし、映画の撮影合宿だって言えば親も大丈夫だろう?」 「でも…どうして?」 すると蔵沢は美雪の耳元で囁くように言った。 「個人的な演技指導がしたいからね…。それと、僕の家にいる間に、君の事を綺麗にしてあげよう。 …勝ちたいんだろう?速水玲香に」 美雪の脳裏に、金田一と玲香の姿が浮かぶ。 「…わかりました。 蔵沢さん、私の事、綺麗にしてください!」 「わかった…。そのかわり、どんな要求も必ず飲む事。 それが約束だ。」 SS一覧に戻る メインページに戻る |