コンサート
明智健悟×七瀬美雪


「あーあ、とうとう降ってきたなぁ。」

学校のエントランスで雨空を見上げ、間の抜けた独り言をつぶやく。

「うーん、どうしようかなぁ。このまま濡れて帰るか、それとも…」

そのとき、はじめの視界に傘をさす見慣れた後姿が入った。

「ラッキー!!」

急いでその後姿めがけて走り出す。

「おーい!美雪!傘入れてくれよ!」

しかし言葉の最後は美雪の前に止まった車の排気音にかき消された。

(あの常にピカピカでイヤミなベンツは…)

車の中の左側のドアが開き、今まさに思い浮かべていた人物が顔を出す。
彼は車から降りると美雪の傘を受け取り、なにやら言葉を交わしていた。

(なんであのイヤミ警視が美雪を?)

祖父譲りの第六感で嫌な予感を感じつつ、車に近づく。

「おや、これは金田一くん。この雨の中傘も持たずにどうしたのですか?天気の把握は探偵にとって基本以下ですよ。」

相変わらずイヤミな口調ではじめの神経を逆なでする。

「あ、はじめちゃん」

美雪も振り返り、ようやくはじめの存在に気がついた。

「へーへー。悪かったですね。どうせ俺は…」
「あ、すみませんが今日はキミの相手をしている暇はないのです。さ、七瀬さん、行きましょうか。」

はじめの言葉を遮り美雪を助手席の方へ行くように促す。その仕草はまるで礼儀正しい欧米人のようで、はじめには絶対できそうにない。

「っと、2人でどこ行くんだよ。」

少々焦り、引き止めようと2人の前に回りこむ。

「なんですか?急いでいると言っているでしょう?」
「いや〜、俺も一緒に行きたいなー、なんて。」

2人きりにさせてはいけない、はじめの第六感が警鐘を鳴らす。

「ふぅ。」

その必死な表情を見た明智がため息をついた。そして彼の口から予想外の言葉が発せられる。

「金田一くん、私たちの邪魔をしないでいただきたいのですが。」
「へ?邪魔?」
「そう、ハッキリ言うと、キミがいると邪魔なのです。」

何かの間違いだろう、と美雪の方を見ると明智と同じように困惑の表情を浮かべている。

「美雪、お前も俺が邪魔なのか?」

おそるおそる尋ねる。

「ごめんね、はじめちゃん。」

それだけ言うと助手席に乗り込んだ。

「金田一くん、そういうことですので。」

はじめに向かって勝ち誇ったイヤミな笑みを浮かべると、運転席に乗り込む。そのまま車ははじめを残し去っていった。
残されたはじめを雨は容赦なく打ち付ける。

「美雪ぃーーー!俺を捨てないでくれぇーーー!!美雪ぃーーー!!」


「美雪ぃーーー!!!」

跳ね起きた金田一は布団の中にいた。手にはビッシリ汗が浮かんでいる。

「ゆ、夢か…」

一応安心はしたものの、悪い予感は晴れない。そして、夢ははっきり思い出せる。

「おい、はじめ!!早くでろー!」

二三がトイレのドアを叩いている。トイレの中でぼーっとしていたらいつの間にか時間が経っていたようだ。
はじめはもやもやを抱えたまま、学校へ向かった。

「なぁ金田一、七瀬さん、今日何かいいことあったのかな?すごく機嫌よくないか?」

いわれてみればそうかもしれない。いつもなら自分でやれ、と絶対見せてくれない予習のノートも今日は見せてくれたし、美雪の弁当を食べてもちょっとふくれっつらをするだけで許してくれた。

「七瀬さん、最近綺麗になったと思わないか?」
「あー?そうかぁ?」
「まさか、恋でもしてるんじゃないだろうなぁ。」

草太の言葉が朝の夢を思い出させた。はじめの顔色が変わる。

「そりゃ絶対ないって!だいたい、あいつ足ふてーしよ、乳がでけーのだけがとりえの様な女だぜ?」

はじめを見ていた草太の視線が上方へズレる。しかし、それに気づかず、自分に言い聞かせるように口が動く。

「あいつが恋なんて、される男もメーワクってもんだろ?たまにあの乳にダマされるヤツもいるかもしれねーけど、そういうヤツは可愛そうだよな。」
頭上で声がする。

「誰の取り柄が乳だけですって?」
「そりゃ決まってんだろ、美雪…ちゃん…?」

振り返り、美雪の姿を認め、固まる。いつもならここでパンチが飛んでくる。はじめは頭を抱え、固く目を閉じた。

「…!?」

パンチが飛んでこない。おそるおそる顔を上げるとふくれっつらの美雪と視線が合った。

「もう。」

そのまま美雪は立ち去った。

「おかしいな。いつもなら絶対パンチが飛んでくるぜ。」
「な、そうだろ?どうしたんだろうな。」

このときはあの夢が現実になるとは想像もしていなかった。


「おい、美雪!」

放課後、帰ろうとする美雪を呼び止める。

「今日、一緒に帰らねーか?この間美味いラーメン屋見つけたんだ。」
「へー、そりゃいいな、俺も行こうかな。」
「ごめん。今日はちょっと急いでるから。また今度行こう。じゃあね。」

はじめと草太を一瞥し、足早に廊下を駆けていった。

「ありゃ絶対何かあるな。追うぞ、草太!」
「えー?」

美雪を追って走り出すはじめに不平を漏らしつつも、草太も2人の後を追った。

「待てよ、金田一!ぶっ!」

急に止まったはじめに激突し、打った鼻を撫でながら恨めしそうな目ではじめを見るが、はじめの視線は前に釘付けとなっていた。
草太も同じ方向を見る。美雪の前にイヤミなメルセデス・ベンツが停まっていた。

「おいおい、どういうこった…」

はじめはデジャヴを感じ、つぶやくと、車の方へ走り出す。

「あれって、あのエリート警視じゃないのか?」

後ろから投げかけられる草太の言葉を右から左に聞き流し、がむしゃらに走る。が、無残にもメルセデスはイヤミな排気音を奏で、走り去っていった。
「タクシー!」

図った様なタイミングで現れたタクシーの前に飛び出すと、タクシーは音を立てて停まった。

「いくぞ、草太!!」

タクシーに乗り込むと草太をぴっぱりこんだ。

「おい、落ち着けって、金田一。」
「前の車追ってください!早く!!」

またも草太の言葉を聞き流し、前部シートの間から顔を覗かせ、運転手を急かす。
運転手は少し迷惑そうな表情を浮かべ、アクセルを開けた。

「どこに行くんだろうな。」
「くっそー!あのイヤミ警視、俺の美雪に何を企んでやがるんだ。」
「いつからお前のものになったんだよ、七瀬さん。」

落ち着きなく手を足を小刻みに震わせるはじめを呆れ顔で見つつ、草太もまた2人がどこに行くのかを気にして後部座席から前の車を目で追う。
そうこうしているうちに、車は何かの会場の駐車場に入る。はじめたちを乗せたタクシーもそれに続いた。

「ここでいいですか?」

車を停め、運転手がぶっきらぼうに聞く。

「ああ、ここで。」

明智と美雪が車を降り、建物の方へ向かっていくのが見えると早くしろと言わんばかりに運転席のシートを軽く叩いた。

「\3,500です。」
「わりいな、草太。俺金もってねーんだ。先に行っとくからな。」
「え?」

はじめは右のドアから飛び出すと2人に向かって走って行く。

「くっそー、金田一のヤツ、最初からそのつもりで俺を連れてきたんだな。」

すでに隣にいないはじめに恨み言を言いながら、しぶしぶ運転手に代金を支払うと、はじめの後を追った。

2人が消えた建物に着くと、公演の看板が目に入る。

「サンフィッシュ室内楽団…?」

そこに書かれた文字を記憶の片隅から思い出すように口が動く。

「う〜ん。聞いたことあるような…ないような…あるような…」

考えていると後ろから恨めしそうな声が投げかけられた。

「金田一〜〜。お前、最初から俺に払わせるつもりだったんだろ〜。」
「はは、わりぃわりぃ。それより、俺たちも行こうぜ。すんませ〜ん。」

話をそらすように受付に声をかける。

「また俺が払うのかよ?」

再び草太の曇る表情。それを全く気にしていない様子で、

「2枚ください。」

と、受付に伝える。

「申し訳ございません、満席のため当日販売はしておりません。」

受付の言葉に固まる。

「そっ、そんなぁ〜!絶対入らなきゃいけないんだよ。なんとかなりませんかね?」
「そう申されましても、チケットをお持ちでない方は入場できません。」
「そこをなんとか。」

手を合わせ頭のの上にまで持ってゆき、大げさに頭を下げて見せるが、受付の女性は首を縦には振らなかった。

「なんでぇ。いいじゃねーかよ、ケチ。」

何も悪いことをしてない受付の女性を逆恨みし、拗ねていると、聞き覚えのある声が近づいてくる。

「センパーイ!金田一センパーイ!!」

振り返ると声の主が駆け寄ってくる。佐木だ。

「どうしたんですか、こんなところで。もしかして、センパイもクラシックを?」
「ま、まぁ。そんなところだ。はは。お前は何してるんだ?」

本当の理由をごまかしつつ、話の矛先を佐木に向くように持って行く。

「ボクは父さんの仕事の手伝いですよ。」

と、腕に巻いた腕章をはじめにアピールするように腕を軽く持ち上げて見せた。

「ふーん。」

と、それを興味なさそうに見ていたが、ふとはじめの頭に明暗が浮かぶ。

「これだ!」
「え?」

佐木と草太が声を揃えてはじめの顔を見る。

「ちょっと中に美雪がいるんだけどさ、俺ら入れねーし、ちょっと様子見といてくれねーか?」
「?」

意味がわからないと首をかしげる佐木に今度は草太に聞かれないよう耳打ちする。

「美雪の貞操が危ないんだよ。頼むよ。」
「え?七瀬センパイ、アブない男に捕まってるんですか?」
「そうなんだよ。もー、すっげーイヤミでアブなそうな男に騙されてるんだ、アイツは。」
「そうですか。そういうことでしたらまかしといてください!」

まるで重大な任務を受けたように感じてか、はりきって親指を立て、はじめに向けて見せる。

「頼んだぜ!」

はじめも同じポーズを佐木に向け返した。


「おい、もう帰ろうぜ。」

草太が呆れ口調で金田一を促す。それもそのはず、もう1時間も待っているのだ。コンサートだから、2,3時間はかかる。
この寒空の下、まだ1時間もその上も待たされると思うと耐えられそうにない。
美雪のことは気にはなるが、純粋にコンサートだし、明智も高校生の女の子に手を出さないだろう、そう考えての言葉だった。

「じゃあ、お前先に帰れよ。」

人にタクシー代払わせといて、と腹が立ったが、もう付き合っていられない。

「じゃあ帰るからな。帰れなくなってもしらねーぞ。」
「ああ。」
「本当に帰るからな。いいんだな。」
「しつこいな。帰ればいいだろ。」

途中で振り返って確認する草太に、めんどくさそうに叫ぶと、草太は帰っていった。

「あれ?ちょっと停めて!!」

窓越しに特徴的なちょんまげを見つけると速水玲香は運転手に車を停めるように言った。車を降り、金田一に背後から近づくと名前を呼ぶと同時に背中を軽くつつく。

「金田一くん!」

こんなところで誰かに話しかけられると思ってなかったはじめは、ビクッと小さく飛び上がり、振り向く。
そこには帽子を目深にかぶった小柄な少女が立っていて、かのじょが帽子のつばを指で持ち上げて見せると大きな瞳が覗いた。

「え?玲香ちゃん?ビックリしたぁ〜。何してんの?こんなところで。」

玲香はふふ、と屈託のない笑顔で、

「だって、金田一くん見つけたんだもん。ずっと会いたいな、って思ったし、迷惑だった?」

最後の言葉で少し悲しそうな表情を浮かべ、上目遣いではじめを見る。はじめは玲香の言葉を否定するように、首を思いっきり横に振った。

「そんなわけないじゃん。俺も久しぶりに玲香ちゃんに会えて嬉しいよ。」

先ほどまでは美雪が気になって仕方なかったはじめだが、玲香を見るや、態度が180°変わる。

「え?ホント?嬉しい!」

玲香に抱きつかれ、はじめの表情がデレッと緩む。回りを見渡す。幸い近くに誰もいない。
彼女のようなスターと一緒にいるときは回りの目を気にせざるを得ないので大変だ。

「金田一くんは何してたの?コンサートみたいだけど中にも入らないで。」

はじめから体を離し、上目遣いで見上げる。男はこういう表情に弱いもので、ついついニヤけてしまう。

「いや〜、別に何をってわけでもない…」
「センパーイ!!」

最悪のタイミングではじめの言葉を遮る叫び声。額に手を乗せ、おそるおそる声のする方向を見ると佐木が手を振りながら猛スピードで近寄ってきた。
「センパーイ!!はぁ…はぁ…ご依頼の映像、バッチリ収めましたよ!!」

息を切らしながら得意気にビデオを高々と掲げた。まだ玲香には気づいていない。

「え?いや、その…」

はじめがうろたえていると、はじめの肩の後ろから玲香がピョッコリ顔を出す。

「何を依頼してたの?金田一くん。」

佐木ははじめて玲香の存在を認めた。

「あ!センパイ、もしかして…その…彼女ですか?」
「うふふ、そう見える?」

玲香は金田一の腕を両腕で抱きしめて見せる。

「もしかして、ボク、おジャマでした?」
「えーと、いや、その…」

言葉につまるはじめに2人の不可解な視線が寄せられる。

「美雪には内緒な」

玲香には聞こえないように佐木に耳打ちすると、佐木は秘密を知って納得したのか、何度か頷いた。

「わかってますって。そんなことは言いませんよ。じゃ、ボクはこれで。まだ片付けが残ってるんで。あ、これは確かに渡しましたよ。」

言って、ビデオカメラの中を抜き金田一に渡すと佐木は走って会場へと戻っていった。

「金田一くん、何捕ってもらったの?それ。」
「これは、その〜…」

(くそ〜!佐木2号のヤツ、なんでこんなにタイミングが悪いんだ?)

「今のコンサート?」
「あ、そうそう!そうなんだよ。ははは。」
「ウソ。」

あきらかにダレにでもわかるようなはじめのウソは玲香にあっさりと見破られてしまう。

「気になるなぁ。」

悪戯っぽい視線がビデオを持つはじめの手にじっとりと注がれる。

「大したもんじゃないからさ。」

口ではそういうものの、何が映っているかわからないので、はじめも内心気になって仕方ない。しかし、はじめの家のビデオカメラでは8ミリは再生できないので見る術はない。

「しかも、俺8ミリ再生できる機械もってないからさ、どうせ見れないんだよ。」
「家に帰ればあるんだけどな。あ、そうだ!金田一くん家にこない?」
「え?」

あらゆる意味で予想だにしないビッグチャンス。はじめはその誘惑につられそうになる。しかし、何が映っているかわからないような危険なビデオを玲香に見せるわけにはいかない。

「でも、そんなホラ、やっぱマズいでしょ、玲香ちゃんちに男が行くのはさ。」
「大丈夫!プライバシー完全保護だから。うちのマンション。」
「でもさぁ…」

2の足を踏むはじめに玲香の悲しそうな視線がはじめにまっすぐに注がれる。

「金田一くん、イヤ?」

トップアイドルにそこまで言われてノーと言える男はまずいないだろう。はじめも例には漏れず、力強く首を横に振った。

「そんなわけないじゃん。」
「じゃ、決定!」

はじめの腕をとり、車の方へひっぱって行った。


明智と美雪はサンフィッシュ室内楽団の打ち上げの中にいた。
打ち上げのため、楽団員の友人の経営するバーは貸し切りになっていて、そのカウンターに二人は並んで座っていた。

「いいんですか?明智さん。わたしまで来てしまって…」
「大丈夫ですよ。私の恋人と言ってありますから。」
「え…?」

驚き目を丸くする美雪のリアクションに、明智は満足そうな表情を浮かべる。

「フッ。冗談ですよ。キミは何でも本気に受け取ってくれるからからかい甲斐がありますね。」
「もう…」

そんな仲の良さそうな二人に早くも酔っ払った劇団員が絡んできた。

「明智〜!飲んでるか?」
「はい。いただいていますよ。」
「ん?こちら、彼女?」
「ご想像にお任せしますよ。」
「なんだよ、水臭いな。みんなに紹介しろよ。それにしても若いなぁ。ま、飲んで飲んで。」

美雪のグラスにワインのボトルを近づける。

「え…わたしは…」
「彼女、まだ未成年ですから。」

上手く対応できない美雪に代わって明智がワインを注ごうとする城の手を遮る。

「ひゃあ!高校生か。若すぎじゃないか?」

じっくりを美雪を見つめる視線に圧倒され、思わず後ずさりする。

「ふうん。確かに顔は幼い感じだけど、体は高校生とは思えないよなぁ。」
「あ・あの〜…」

困惑の表情を浮かべ、身を隠そうとする美雪に明智がすばやく助け舟を出した。

「セクハラですよ。怖がってるじゃありませんか。」
「悪い悪い。冗談のつもりだったんだけどな。ま、ゆっくりして行ってくれ。彼女もね。」

城が去った後も、ひっきりなしに楽団員が二人を冷やかしに来る。
さすがに疲れてしまった美雪を気遣って、楽団員にあいさつをして外に出た。

「すみませんね。打ち上げにまで付き合わせてしまって。」
「いえ、楽しかったです。みなさんのお話、とても面白いし、勉強になりましたから。」
「そうですか。だったらいいのですが。」

左腕にはめた腕時計に目を落とし、現在の時刻を確認する。

「今日はどうされますか?」
「え?どうするって、何をですか?」

本気で明智の問いの真意がわからずに首をひねる。

「今夜は一緒に過ごすつもりでしたので、近くにホテルを取っているのですがね。」
「え?」
「この間のこともあるし、1人ではお帰ししたくありませんからね。帰るのならタクシーででも送っていきますが…」

高遠のことを思い出すととてもじゃないが1人で帰る気にはなれない。かと言って、ホテルまで取っている明智に、それもタクシーで家まで送れとは言えない。完全に明智の策にはめられる。

「じゃあ、せっかくですから…」
「本当にいいのですか?」

心の中ではもう美雪が判断を変えることはないとわかっていながら、確認する。美雪が小さく頷くと、エスコートするように美雪の手を取った。


その頃、はじめは玲香の部屋にいた。美雪のことをきにしつつも、明智もさすがに高校生には手を出さないだろうと鷹をくくっていて、ホテルに2人きりになっているとは夢にも思っていない。

「はい、金田一くん。」

コーヒーとケーキがテーブルに置かれる。

「トップアイドルの玲香ちゃんにコーヒー煎れてもらえるなんて、俺幸せものだな〜。ははは。」
「金田一くんだから、特別よ。普段自分でコーヒーなんて煎れないもん。」
「いやぁ。ははは。なんかVIPになった気分だな〜。」
「それより、例のアレ。見ないの?」

(コレか−)

腰の横に置いていたビデオテープに手を伸ばす。中身が気になるが、何が映っているかわからないシロモノを玲香の前で観るのはかなり抵抗がある。

「ところで、何なの?それ。ちょっと貸してよ!」

はじめの手からビデオを奪おうとして手を伸ばすが、はじめは取らせまいとその手を反対方向へ持ってゆく。結果、2人はソファに縺れ込むように倒れてしまった。
身近で見る玲香の瞳はあまりにも綺麗で、はじめの視線はそれに釘付けになってしまう。
しばらくそのまま時間が止まったように見つめあっていたが、玲香がクスリと笑うとはじめは我に返った。

「あ、そうだ!コレ早く見ようぜ!!」

気恥ずかしくなり話を逸らし、玲香の下から抜け出す。玲香少し残念に思ったが、ビデオも気になっていたのではじめの提案に従う。
しかし、咄嗟に話を逸らすためとめいえ、その矛先をビデオに向けてしまったことを後悔することになろうとはこのときのはじめは知る由もなかった。
玲香がビデオカメラをテレビに接続し、ビデオをカメラにセットする。はじめはすでに後悔しはじめていたが、今更やめようとは言い出せない。あきらめてコーヒーを口に運びながらビデオが再生されるのを待つ。
画面が薄明かりを浮かべると、すぐに明智と美雪の姿を映し出した。まだ演奏は始まっていない。会場の暗さからして演奏の始まる直前と思われる。

「あれ?美雪ちゃんと、明智警視?」

一瞬、戸惑っているように見えたが、すぐにはじめの方に顔を向け、

「ふうん。2人でデートなんだ。金田一くん、気になる?」

と、予想通りのリアクションを返す。

「いやまぁ、その…幼馴染としてだな、ちょっとカントクを、ね。」
「ムリしなくていいのに。」

しどろもどろに誤魔化すはじめに玲香はクスッと笑って見せた。彼女の表情につられ、はじめのそれも自然と緩む。
一斉に流れ出す弦楽器の音が2人の注目を画面に誘う。依然として画面は明智と美雪の姿を映し出していた。画面の中の2人の視線はずっとステージ上に注がれていた。
ただ、2人は純粋に同じ趣味を同じ時間に共有していただけか、とはじめに安堵表情が浮かぶ。

「安心したんでしょう。」
「べ、別にはじめから何かあるとか思ってないよ。ははは。」
「ふうん。じゃあなんでビデオなんか撮らせたの?」

納得できないといった玲香の視線がじっとりとはじめに注がれる。

「だからホラ、幼馴染としてだな…」
「でも、うらやましいな。金田一くんにそこまで心配してもらえる美雪ちゃんって。」

玲香の表情が曇る。

「わたしのまわりには沢山人がいて、いつも忙しくてあんまり気づかないけど、ふとした時に1人ぼっちなんだな、って感じるの。あの事件でお父さんも、一瞬だけ再会したお兄ちゃんもいなくなって…
あれ以来、なんか心にぽっかり穴が空いたような、そんな気持ちになるときがあるの。」

寂しそうに自分の本音を語る玲香に、お母さんがいる、と伝えたくなるが彼女の母−三田村の気持ちを考えると、玲香に彼女が母親ということは伝えられない。

「だから幼馴染とか、心を許せる相手って本当にうらやましいの。」
「玲香ちゃん…」
「お願い、金田一くん。今日だけでいいから一緒にいてくれない?」

普段、芸能界に飲み込まれないようにと虚勢を張っているが、やはり普通に戻ればただの女の子、いろいろと心細いことがあるのだろう。

「金田一くんといると飾らないでいられるから居心地がいいから…」
「俺でよければ、なんでもはけ口になるよ。」

はじめの言葉を聞き、玲香の顔に明るい色が浮かぶ。

「本当?うれしい!」

素直に自分の気持ちを表現できない美雪に対し、玲香はストレートにはじめを想う気持ちをぶつける。
美雪を好きだという気持ちがあるが、自分を本当に必要としてくれているのは玲香でないかという思いが頭をかすめる。

(でも、俺は−)

流れっぱなしになっているビデオの中の美雪に視線を移した。

「!!」

一瞬、息を呑んだ。なんと、明智の手が美雪の肩に回されてゆく。美雪もまんざらではなさそうに明智の肩に頭を預けた。

(美雪…お前、やっぱり明智さんの方がいいのか…)

自分よりも明智を選んだと思われる美雪、自分に絶対の信頼を置き必要としてくれる玲香。2人の間で揺れ動く心。しかし今は玲香を放っておくことはできない。

「玲香ちゃん、今夜は俺が付き合うよ。グチでもなんでもストレス発散しなよ。」
「ありがとう、金田一くん。」

はじめの優しさに触れ、玲香の目から大粒の涙が零れ落ちていった。


「わぁ、すごーい!!」

初めて入るスイートルームは一瞬にして美雪の心を奪った。
居間は豪勢なシャンデリアが木彫の応接セットのテーブルの上の1本のワインと2脚のグラスを照らし上げる。
壁に掛けられた絵の中でモナ・リザが暖かい笑みを浮かべ、窓の向こうには、都会のネオンと車のヘッドライトが作る光の芸術。
寝室にするには広すぎる部屋に、クィーンサイズのベッドが2つ、その存在をアピールするかのように陣取っていた。

「気に入っていただけましたか?このホテルは中世ヨーロッパの建造物をイメージして作られていましてね。その筋では有名な人の設計なのですが…」
夢中で部屋を見てまわる美雪に明智の講釈が延々と続けられる。
はじめがこの場にいたらまたも自慢話と罵られるだろうが、美雪は興味を持って聞いてくれるので明智にも説明のしがいがある。

「まぁ、とりあえず飲みなおしましょう。」

冷蔵庫からビンを持ってくると、ソファに座る美雪にワイングラスを差し出した。ワイングラスに赤紫色の液体が注がれる。

「あの…」
「大丈夫。これはグレープジュースです。さすがに職業上、キミにアルコールを飲ませるわけにはいきませんからね。」

自分のグラスにはワインを注ごうとボトルに手を伸ばすと先に美雪がボトルを持った。

「これはどうも。では。」
「おつかれさまでした。」

軽くグラスを合わせる。ワインを傾ける明智の横顔。それは知的かつ端麗で美雪の視線を釘付けにするには十分だ。
思わず見惚れているとその視線に気づいた明智の視線が向けられ、慌てて逸らす。

「私の顔に何かついていますか?」

美雪に向けられる満面の笑み。おそらく、明智のこういう表情を知っているのは自分だけだということを彼女は知らない。
アルコールによって少し赤みがかった明智の表情はセクシーで、美雪は見つめられるだけで鼓動が高まって行くのを感じていた。

「あ、あたし、ちょっと…」

気恥ずかしさを隠すように立ち上がる。が、次の瞬間、身体は明智の腕に包まれた。

「あ…明智さん…?」

美雪が振り向こうと顔を横に向けると、すかさず唇が奪われる。そのまま明智の舌は美雪の中で激しく侵してゆく。

「ちょ、ちょっと待ってください。」

なんとか明智を引き離し、呼吸を整える。

「その…いきなりこういうのは…その…」
「嫌ですか?」

あまりにもさらりと返すのでたじろいでいる自分の方が悪いことをしているような気がしてくる。

「そういう意味じゃないんですけど…いつもと違うっていうか。今日のコンサートのときも…」

前に明智と美雪がいい関係となった切っ掛けのとき以来、2人で会っても明智は以前と変わらないような接し方をしていた。
一緒に歩いていても手すら繋ぐわけでもなく、もちろん、恋人らしい雰囲気になるわけでもない。
美雪からすれば気持ちの整理が確実についていたわけではなかったので、明智の対応に安心しつつも、あの夜の明智の言葉も行動も突発的な感情だけだったのだろうかという不安すら抱いていた。
しかし今日の今までのことを覆すような行動は美雪にとってどうしても理解できない。
なぜ、いきなり変わったのか、その疑問の答えをどうしても明らかにしたかったのだ。

「七瀬さん、気づきませんでしたか?」

明智の意外な言葉に美雪の思考が遮られる。

「何をですか?」
「コンサートの時、ずっと私たちに向いていたビデオカメラがあったのです。」
「え?」

何がなんだかわからないままに明智の説明が続けられる。

「金田一くんの後輩のビデオカメラですよ。面白半分に撮っていたのか、もしくは−」

にやり、と一笑し美雪の表情を伺う。

「誰かが依頼したか−」

佐木に頼んでそんなことをするのははじめしかありえない。明智もそれをわかっていてあのような行動に出たのは間違いない。

「まさか…」
「真意はわかりませんが、もうコソコソしたくないと思いましてね。それに…」

明智の表情が変わってゆく。

「これ以上の我慢は体に良くないと思いましてね。」

一気に色んなことを聞かされ少なからず動揺してしまう。その動揺を見透かしたように明智の攻撃が続く。

「それとも、浮気でもした方がよろしいですか?」
「それはイヤ!」

目の前の顔に勝ち誇った満足そうな笑みが浮かぶ。無意識に叫んでしまったことを後悔するが、後の祭り。
自分に選択肢があるように思えるのだが、気がつくといつも明智のペースにのせられてしまっている。
しかし、こういう言葉が自然に出てくると言うことは明智のことが好きなのか、と認識させられる。

「困りましたね。ではどうすれば?」

全く困った様子などないような、むしろ嬉しそうな表情。それは間違いなく美雪の口から言葉が出るのを待っている。

「だって、いきなりそんなことされたら心の準備が…」
「では心の準備ができればよろしいのですね。」

しまった!またしても口を滑らせてしまった、とさらに明智のペースに飲み込まれていくのを苦々しく思う。

「私の気持ちは以前伝えたとおりです。その上で、私の“浮気”を認めないというのは、あなたも私のことを想ってくれていると解釈してよろしいですか?」

これではまるで誘導尋問だ。しかし、否定できない。小さく頷くと、明智は笑って、

「冗談ですよ。そんな相手いないですしね。」
「ウソ。明智さんすっごくモテるじゃないですか。獄門塾でもみんなカッコいいって言ってましたし。」
「勝手に寄ってくるだけですよ。残念ながら私がその気になるような女性はいないものでね。キミぐらいですよ、私が本気で愛せると思った女性は。」
世の中の男が聞いたら怒り狂いそうな言葉をさらりと口にすると、美雪が疑わしげな視線がじっとりと注がれる。

「いつもそんなこと言って女の子口説いてるんじゃないですか?」
「そんな風に見られているとは悲しいですね。言っておきますが、好きでもなんでもない女性に時間を割けるほど私は暇ではありませんよ。」

言われてみれば確かにそうだ。今までの行動も美雪のことを尊重してのことだったのだろう。明智からすれば会う度に口車に乗せて美雪を抱くことは簡単だったように思える。
しかしそれをしないで、会う回数を重ねても一向にそういう気配を今までは見せなかった。
健全なデート−いや、デートとも呼べないようなそんな雰囲気。明智も忙しいはずなのに、わざわざ時間を割いて見返りも何もない自分と合う時間を何度となく作ってくれていたのだ。
明智は本当に自分のことを本気で想っていてくれているのか−美雪の中でずっとあやふやだった疑問が確信へと変わる。
同時に明智に対する想いが胸の奥から込み上げてくる。

(あたしも明智さんのこと好き…なのかな…)

「すぐに私のことを見て欲しいとは言いませんが−」

美雪の自問を遮り、ゆっくりと美雪の頬に添えられる手は大きく暖かみを帯びていて、美雪の気持ちを昂ぶらせてゆく。

「私の気持ちを理解し、少しでもそれに応えてくれる気持ちがあるのなら私はいつまでも待つつもりです。」

優しく口付けると美雪の頬を一筋の涙が伝った。

「なぜ、泣くのです?」

言われて、まさか、と、自分の頬に手を当てる。そこは確かに湿っていた。
なぜ自分は泣いている?美雪は自問をするが答えは見つからない。
その答えは自分を抱きしめているこの秀麗な男性が知っているのだろうか。それとも―

「キミの涙は少々やっかいですね。」

美雪の頬を濡らす涙を指先でふき取ると、直線的な視線を投げかける。アルコールが入りすぎたのか。自重せよ、と言い聞かせるが体は言うことを聞いてくれない。
ついさっき、待つと言ったばかりなのに、本当にそう思っていたのに、体はなおも美雪を求めて疼く。
再び唇を重ね、美雪の中をねっとりと嘗め回すように深く、深く貪る。

「明智さん、もしかして酔ってるんですか?」

唇が開放されると美雪は遠慮がちに問った。

「私だって人間です。お酒に酔うことだってありますよ。それに―」

美雪の頬に暖かい手が触れる。

「私を酔わせたのはお酒だけではないようだ。」
「え?」

訳がわからないといった美雪のきょとんとした顔が明智を少々苛立たせた。

「キミはどこまで鈍感なのです?」
「あ、あたしが・・・・?」
「キミのそういう態度が私を酔わせているということに何故気づかないのですか?」

ねっとりとした視線が美雪に絡みつく。美雪は初めて身の危険を感じた。
だが、その危険の中になぜか心地よさも感じてしまう。

「冗談…ですよね?そんなあたしなんて…」

上目遣いの潤んだ瞳が明智を捉えると、さらに彼の欲望は油を注がれたように燃え上がってゆく。ふ、と溜息を漏らした。

「どうもキミは自分のことがよく分かっていないようですね。」

美雪の顎に手をあて、上を向かせる。不安と疑問が入り混じった色の瞳でまっすぐに自分を見つめてくる。

「その目で見つめられるたびに、私は自分を抑えることだけで精一杯になってしまうのです。
その目がどんなに私にとって魅力的かキミはわかっていない。そして、それを抑えるのがとても困難だということも―
実は、今日キミをここに連れてきたことを少し後悔しているのです。」
「え…」
「私の欲望だけでキミに触れることはできませんからね。先程、そういったばかりですし。」

明智がここまで自分を求めて来てくれていることは正直嬉しかった。しかし、はっきりと明智の想いを受け止めることが自分にはできるのだろうか、その決心がつかないままに、再び明智に抱かれることはできない。
明智もまた、それがわかっているからこそ、美雪を無理やり抱こうとは思っていなかった。が、アルコールの後押しもあり、体は限界を感じる。
やはり、まだ早かったのだ…そう思い、美雪の方を向くと彼女もまた、苦しげな表情でまたも涙を浮かべていた。

「明智さん…」

名前を呼ばれると同時に明智は理性が音をたてて崩れてゆくのを感じた。もはや、自制は効かなかった。

「キミの涙はやっかいだ、と言ったはずだが…」

美雪の体を強く抱きしめ、耳元で囁く。

「おかげでせっかくここまで抑えてきたものが爆発しそうですよ。」

苦笑し、腕の中の少女の耳元に吐息を吹きかけると、彼女の体がビクリと反応する。

「キミの気持ちに整理がつくまで待つつもりだったんですけどね。困った武器を持っているものだ。」

美雪の鼓動が密着した明智の胸に伝わる。彼女が嫌がっていないことは明智にもよくわかっているのだが、できることなら求められるまでは自分から求めることはしたくなかった。彼女の気持ちを何よりも尊重したかった。
しかし、それを待っていたのではいつまでたっても進展はないだろう。いっそ、ここで強引に出るのも一つの手段ではないか、思考は自分の都合のいいように切り替わってゆく。
首筋に舌を這わせると、予想通り、美雪は困惑の言葉を投げかけてきた。

「あの…なんでこんなこと…」
「キミがあまりに私を酔わせるので気が変わりました。」

完全に責任転嫁だが、美雪は自分の行動が明智を突き動かしたのか、と受け取ってしまう。
頬に、額に、首筋に、鎖骨に落とされる明智の口付けは、美雪の思考を容易く押さえ込み、思わず声を漏らさせる。

「あ…ん…」
「どうしたのですか?もしかして、私を感じてくれているのですか?」

明智の問いに答えず、ただただ美雪は沈黙を守る。

「私の前で恥ずかしがることはありません。むしろ、キミが感じてくれた方が嬉しいのですがね。」

美雪の欲望を引き出そうと、執拗にあらゆる場所に口付けてゆく。

「キミの可愛い声を聞かせてください。」

口付けながら、左手が美雪の胸を捉え優しく撫でまわし、右手はブラウスのボタンを器用に素早く外してゆく。

「久しぶりに見ますが、相変わらずキレイですよ。」

下着までも剥ぎ取り、その下から現れた柔らかい白に明智は瞳を奪われ、呟くと美雪の頬が朱に染まる。
その先端が既に硬くなっているのを明智が見逃すはずもなく、身を屈め、舌先で弄ぶ。
言いようのない快感に襲われ、思わず吐息を漏らすと明智の攻撃はどんどん激しくなってゆく。
転がしたり、軽く歯をたててみたり、その味をじっくり味わうようにねっとりとなめ回す。

「ぅん…」

声が漏れると明智は満足そうに、

「我慢しなくてもいいと言っているのですがね。」

と、意地悪く耳元で囁いた。
我慢するというのは、何のことなのか。なぜ、こうして触られているだけで体が熱くなるのか。これが快楽というものだろうか、美雪は快感の意味がわからないでいた。
しかし、その感覚は治まるどころか膨らんでゆく一方で、自分でもどうしていいかわからない。考えることすら出来なくなる。
この体の疼きを鎮めて欲しい。どうすればいいのかわからない。しかし、明智ならばそれができるということだけはわかる。

「ベッドへ行きましょうか。」

明智の言葉に、美雪は視線を逸らし小さく頷いた。

2台並んだクィーンサイズのベッドのひとつに美雪を横たえると、スーツとワイシャツを脱ぎ捨てた。
美雪のスカートに手を掛けゆっくりと降ろし、続いて下着も剥ぎ取る。
両膝をもって脚を開かせるとその中心からはすでに蜜であふれていた。

「ふ…もう、こんなになっているのですね。」

羞恥に顔を赤らめ足を閉じようとするが、明智の手がそれをさせない。

「そんなに恥じることはないでしょう?これはキミが私を感じてくれたという証。私にとっては嬉しい限りですが。」
「でも…あたし、なんかヘンなんです…その…」
「何もおかしなことはありませんよ。キミの体が感じている、それは正常なことです。ただ、キミがそれがどういったものかを知らないだけ。私が教えて差し上げましょう。」

美雪の上に覆い被さると、唇を重ねる。美雪の口内に舌を侵入させながら、自分の猛りを下着越しに美雪の秘所に擦り付け、手は胸の膨らみを揉みしだく。
どうしていいかわからず、美雪はただ込み上げてくる声を漏らさないように押し殺すことしか出来ないでいた。
ふいに明智が動きを止めると、美雪の体は名残惜しそうに震えた。

「七瀬さん…」

美雪の潤んだ黒目勝ちの大きな瞳をまっすぐに見据える。

「恥ずかしがらなくてもいい。キミも感じたままに。その方が私も嬉しいのです。」

もう一度唇を重ね、舌を割り入れる。今度は美雪からもおずおずと明智を求めてきた。明智の舌に美雪のそれが絡まると、明智はさらに激しく舌を絡めた。ぴちゃぴちゃという音が2人の欲望を高めてゆく。
首筋に舌を這わせると、美雪の口から声が漏れる。もう、押し殺すようなことはなかった。

「あっ…あんっ…」
「いい声ですね。もっと聞かせてください。」

口付けをどんどん下降させてゆく。秘所に辿りつくと突起を舌でつついた。

「ん…ああ…あっ…」

執拗に舐め回され、美雪の熱はどんどん昂ぶってゆく。さらに明智は美雪の中に舌を入れ、突起は指で優しく刺激する。

「もう…だめ…」

美雪は絶頂を迎えかけていた。それを素早く感じ取った明智は自分の行動を止めた。

「え…」

絶頂近くでやめられたことに、美雪は明らかに困惑の声を漏らした。

「七瀬さん…どうしますか?」

意地悪く言って見せると美雪は口篭もる。

「体を鎮めたいのでしょう?どうすればいいか、キミにはもうわかるはずです。」

沈黙を守る美雪にさらに追い討ちをかける。

「そうですか。それならやむを得ませんね。やめましょうか。」
「まってください…」

反射的に消え入りそうな声が明智の耳を掠めた。口角がつりあがるのを必死で抑える。

「では?」

先を促すと先ほどよりさらに消え入りそうな声で独り言のようにつぶやいた。

「明智さん…あなたが…欲しい…」
「いいでしょう。」

口角を吊り上げ、その言葉を待っていたかのように明智は腰を進めた。快楽が美雪の体を駆け上がる。
明智がゆっくり腰をひき、もう一度奥まで入れるとそれに同調するように動く。

「あっ…あんっ…」

美雪の口から声が漏れると明智は耳元で満足そうにささやいた。

「気持ちいいのですか?」

その言葉に小さく頷きながら自分の腕の中で小刻みに動く美雪を、さらに快楽の高みに押し上げるように巧みに腰を動かす。
絶妙な明智の攻撃に美雪の理性はどんどん破壊されてゆく。

「い、いいです…あっ…あけ…ち…さん…」

そんな美雪を明智は満足そうに見下ろしながら、

「七瀬さん…キミがこんなに乱れるとはね。私だからこんなに感じてくれているのですか?それとも、誰が相手でもいいのですか?」

わざと意地悪な質問をする。明智からすればひっかかる存在といえば、はじめしかいないのだが、やはり自分をはじめより特別に見てほしいという思いがあった。

「そんな…こと…聞かなくてもっ…わかっているんじゃ…」

美雪の言葉が明智の動きを止める。

「わからないから聞いているのです。」
「言わないと…いけませんか?」
「言いたくなければ言わなくてもかまいませんが…」

美雪の中から己を引き抜こうとすると、美雪はその感触を嫌い、

「言います…だから…」

続けてください、と自分でも聞き取れないような声でつぶやいた。

「ほう。では教えてください。」

勝ち誇った顔の明智が美雪をまっすぐに見つめる。明智としても、そんな風にいうつもりはないはずだが、アルコールのせいか、はたまた己の中に眠るサディスト的要素が現れてか、美雪を追い詰めることにえも言われぬ快感を覚えていた。

「明智さんだから…明智さんが好き…です…」

ついに美雪から自分を好きという言葉を引き出した明智は最高の気分で美雪を突き上げた。

「明智さん…あっ…いい…!」

一度箍が外れてしまうと、もう美雪は明智から与えられる快感を抑えることができなくなっていた。

「七瀬さん。キミが乱れる姿は最高です。もっと乱れて私を酔わせてください。」

明智は美雪の弱いところを何度も何度も擦りあげる。理性が飛んでしまった美雪は与えられる快感に素直に反応する。

「あっ…明智さん…いい…です…」

自分の腕の中で乱れる美雪は高校生とは思えないほど妖艶で明智の欲望を高めてゆく。

「ああ、最高だ、キミの中も、乱れる姿も。もう…限界です」
「あたしも…もっと…明智さん…あ・・・あん・・・」

美雪を思いっきり突き上げると彼女の中が明智をあらゆる方向からこれ以上ないというような圧力で締め付けてきた。
瞬間、美雪の体がビクビクっと小刻みに震えたと思うとガクンと力が抜けてゆく。同時に明智はその欲望を美雪の中に注ぎ込んだ。

「あの…」

繋がったまま、美雪が問いかける。

「なんですか?」

軽く唇を重ねて明智が聞き返す。

「あ、あたし…こんなのはじめてで…その…明智さん、迷惑でしたよね?」

美雪のの言葉があまりに可愛すぎて明智は思わずぎゅっと抱きしめる。

「そんなわけありません。私は大満足ですよ。」

にこりと微笑んで見せると美雪はバカ、と呟き明智の胸に顔を埋め、表情を見られないように隠した。
その行動が明智の欲望を刺激したらしく、彼自身が再び体積を増してゆく。

「あ、あの…」

それを感じた美雪が縋るような視線を明智に向けると、

「キミのその目はやっかいだと言っているでしょう。」

と苦笑した。

「断っておきますが、私はこう見えて嫉妬心が強くてね。そんな目で他の男を見るのだけはやめてください。」

そう付け加え、もう一度深い口付けを落とした。






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