どうしてもと言うなら
桑野信介×早坂夏美


「フッこのロールキャベツやっぱり塩辛い。」
「食べてくれなくても結構ですよ。」
「これじゃまだまだ結婚できないな。」
「あなたに言われたくありません。」


いつものやり取りが信介と夏美の間で繰り返される。

「来てください、どうしても。」

という信介の言葉に少なからず抱いていた夏美の期待は、いつの間にやら消えかかっていた。

「それじゃ、明日は朝から診察あるんで。」

夏美はロールキャベツを食べ終えると、信介の家を去ろうとした。

「有難うございました。」

夏美が玄関まで来たとき、送りに来た信介は、なにか言いたげに口角を上下させた。

「何か言いたいことでもあるんですか?」

夏美は信介に言った。期待を抱かず、自然に。

信介は中々喋ろうとしない。
痺れを切らした夏美が「もう行きますね。」と言いかけた時、信介が口を開いた。

「こんな遅くに女性が独りでいるのは危ないな。」

夏美は、意表を突かれた感じがした。

「じゃあ、送ってくれるんですか。」

夏美が再び訊くと信介は、先程よりも口角を動かしたのち、こう言った。

「どうしてもと言うなら、泊まっていってもいいですよ。」






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