HP自慰
第七部 スティール・ボール・ラン


カンザスシティのホテルの一室にて。

前のチェックポイント以来の宿らしい宿、石鹸の匂いとベッドの感触。
すぐにでも眠りに就いて、数週間分の疲労を回復したいところだと言うのに、
余計な、思い出したくもない記憶が邪魔をした。

シャワー室からの帰り、ホット・パンツはジャイロ・ツェペリとすれ違った。
互いに好意の持ちようもない二人である、
気づいても無視するのが妥当な反応であるはずだった。が――ジャイロは彼女を見て、笑った。
歯をむき出しにする例の笑いではなく、余裕だか優越感だかを匂わす、
はっきり言ってしまえば「気に障る」笑い方だった。

(女性用から出てきたのがそんなに可笑しいか?)

とはいえ、わざわざ此方から詰め寄ることもなければ、からかいに来ることもない。
ただすれ違った、それだけだというのに、
自分を「女であると」どころか、「女として」知っているその男の、その態度が、
――4TH STAGE中盤での一件を思い出させた。

色仕掛けという手段を選んだのは自分、相手のペースに乗せられてしまったのも油断のせい。
関係を結んだことをいちいち嘆くほど女々しくもなければ、心を動かされるほど安くもない。
しかし――

その日初めて会話をした男と交わったのは初めて。
娼婦のように身を摺り寄せ挑発するなど、恋人にだってしたことがない。
まして屋外、いつ目覚めるかわからない男もいる場で、我を忘れて喘がされるなど――

ただ、彼女にとって異常でしかない状況のせいで
その日の記憶は未だ脳内に粘着質にこびり付き、からだの芯を、焦がす。


寝衣の裾に手を入れ、掌を胸元に沿わせる。自然と、男の手で触れられることを想起していた。
しかし、手の主には顔がない。一夜の関係の男だろうと、祖国にいた頃の恋人だろうと、
相手を具体的に想像することは、彼女にはあまりに卑しい妄想に思えた。
それでも、自身の内の欲求までは拒めないことを理解している。
自ら慰めることなどめったにない体の、敏感な箇所を探しながら、
この密室では羞恥など感じる必要はないのだと、彼女は自分に言い聞かせた。

ホット・パンツは上半身をはだけ、ぼんやりと自分の体を眺めた。
ここ数十日で焼けた顔とは違い、日光を避けた肌は生来のごとく白いまま。
発達した双丘は僅かに体を動かすだけで慣性に従って揺れる。
臍、下腹へとつながるラインはバランス良く皮下組織がつき、
騎乗に適した筋肉の存在を透かし引き締まっていながら、柔らかさを欠かさない。
魅力的な部類の造形であったが、本能まで男を装えない彼女にはそれを真に理解することは出来ない。
それでも、自分が雌であることを否応なしに主張する脂肪塊に
細い指が食い込み、侵食されて歪む姿は間違いなく扇情的だった。
一方の手で揉むのを続けながら、もう一方は確かな快感を求めて先端を摘む。

「ふう・・・・・・・・・っ・・・ん・・・・・・」

意図せずして甘い響きを含んだ溜息をつき、聴覚もまた昂ぶる材料になることを思い出した。
半開きだった唇をやわやわと甘噛みしながら、唾液の音、滑る感触を頼りに口付けを連想する。
舐め回すことで、吸い付く相手を欲しているのを紛らわせようとした。が、足りない。
確かめるように指先をなぞらせても、硬い骨を包んだ皮膚は不釣合いでしかなかった。
ふと、欠けた刺激を補う方法に思い当たり、首を深く屈ませる。
試したことはなかったが、乳房を持ち上げればやはり届いた。ためらわずに先端を口に含む。
赤ん坊と母、男と女、相反する二者の行為を同時に行う自分の姿を客観的に想像し、
はしたない、倒錯している、と軽蔑する心を、触覚に集中することで無理矢理覆い隠した。
先程よりも生々しい感触に熱を帯び、硬く形を変えるそれを舌で知って、
また波打つような柔肉を食む愉しみを覚えて、
心地よさとくすぐったさの間であやふやだった感覚が淫らなものであることを、彼女はようやく実感した。

ちうちうと肉を吸うのを続けながら、一方の手で体に引っ掛けたままの着衣を捨てる。
欲望に一層の膜を被せるように制止をかけていた場違いな品(ひん)が、
全裸になった途端、一緒に剥がれ落ちた気がした。
茂みの奥に指を運び隙間を割れば既に濡れて、すくうと更に潤む。
手っ取り早い昂りを欲しがって、摩擦の減った指の腹で裂け目の上の核をつぶした。
湧き出た快さが下腹全体に熱をもたらし、身じろぎする。

「はぁっ・・・・・・あ、あぁ・・・んぁ・・・・・・」

塞いでいた口が甘い声を漏らした。肉体の反応として出るそれは自ら発していると思えないほどいやらしい。
空いた手で片方の腿を押さえ、開かされて晒すような格好になる。
包皮をめくり撫でこする箇所が火が灯ったように熱く、
偽りの炎に肉体が怯えてくねり、首を竦めれば傾いた唇の端から涎が落ちた。
内股にあった手を口腔内へ移し指で混ぜる。食欲に似た形の欲求が、頭の中で肥大し始めていた。
口唇欲を満たそうとすれば、必然的に唾液も喘ぎも垂れ流しにさせる。
まさしく理性を手放し、獣にでも成り下がった姿をもはや彼女は恥と感じない。
爪先まで至る痺れに下半身は溶け、焦がされる恐怖は知らぬ男の幻想に任せて塗り潰し、
ひどく鋭敏になった感覚のその先を追って、粘液をまぶしたそれを捏ね回した。
制御できない力で身が反りかえり、高揚をさらなる高みへ押し上げる。

「ひゃっ・・・あぁっ!ふぁ、ああ・・・あぁぁ、ぁああっ!!」

身体が、跳ねる。閉じたはずの視界が白く染まり、意識が爆ぜた。

力の抜けた四肢がシーツに沈む。人形のように横たわる体の、胸郭だけが大きく上下を続けていた。
恍惚の残り香が燻ぶるまま、唾液で濡れた方の手を見やり、名残惜しんで再び咥える。
大した慰みにならない。何を求めているのか、どうしようもないほど痛感していた。
触覚聴覚視覚は興奮を覚えても、あと2つがまだ得られていない。
濃厚な雄を匂わせる肉茎を、唇で舌で口壁で鼻腔で味わいたかった。

「肉茎」。
「肉」。

おぞましい発想が、彼女の頭の中をよぎる。

(何を・・・考えているんだっ・・・・・・)

ほんの少しの思考のせいで脳に冷静さが戻り、今し方考えついた内容を直ちに打ち消す。
己の才能の発露であり、選ばれた証であるスタンド能力を下劣な一人遊びのために使うなど
彼女には到底実行できないことだった。
中途半端に理性を取り戻してしまった精神をもう一度悦楽に浸すべく、指を1本、中心部へ潜り込ませる。
溢れるほど潤った粘膜はぬるりとそれを受け入れ、包んだ。
啜られるような露骨な音を立てて中を擦り、指を増やしより奥へねじ込み快感を引き出そうとする。
決定的に、不十分だった。体積と熱でもって抉られるのと比べてささやか過ぎる刺激では
曖昧な感覚しか得られずもどかしいだけで、一度冷めかけた意識のせいで頂点はますます遠い。
それでもこのまま情欲が収まるのを待てるほど己の衝動に鈍感ではなく、
かといって穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるような行為で満足できるほど、単純な体ではない。
必要に迫られる。先程切り捨てようとした選択肢が再度突きつけられた。
動物的な飢えではなく、人として堕落を認めた上で、力を利用することを。

――決断は意外なほど早かった。
「これ以上快楽の波が引く前に」「決心が鈍る前に」と、ベッドを降りスプレーに手を伸ばす。


立ち入ったものにスタンドを与える「悪魔の手のひら」が、本当に文字通りの意味を持っているのなら、
その悪魔はきっと、野蛮な感情に溺れた人間を眺め、ほくそ笑んでいるのだろう。
人ならぬ怪物に身を落とす者たちを。
腹を裂く殺戮に歓喜する男を。
恥を捨て欲望に身を任せる女も、また。

クリーム・スターターの中に充満した肉を、手の上に噴出する。
骨肉を破砕し一度クリーム状にした手を再形成したとおり、ホット・パンツの望むとおりに形は変えられる。
不定形のそれが意思を持ったように蠢き、固まり、形を成したのは――肉の「張型」だった。
自らの行いの浅ましさと、出来上がったものの形状にゾッとする。
「たった今誰かから切り落としてきました」と言わんばかりに精巧で、引き寄せられて口に含んだ。
そうせずにはいられなかったのを、温度と唾液を移すためだ、と後で理由付けることになる。
ただ肉を固めただけの味気ないはずの塊が、待ち望んでいた口腔にはひたすら甘美だった。
太い径の上を唇が吸い付いて這い、亀頭を舌先でくすぐる。イメージを投影した結果、
肉の造形は彼女の意識したレベルを超えて名器をかたどっており、秘所を再び熱くさせた。
「機能」など持ちはしない肉棒を搾り出すように貪り、
首を動かし頬の内側で擦っては、男に媚びる錯覚に酔う。
やがて温度差がなくなった頃に解放し、姿を現した仮の陰茎は光沢を得て、
唾液を垂らし伝わせることで増して淫靡に映えた。
いよいよ、と濡らした張型を期待に震える秘部にあてがう。
今まで性具の類など見たこともない彼女には、脚の間を見下ろした情景は恐ろしく卑猥だった。
沸き立つような淫欲を、ともに抱く恐怖心に誤魔化される前に――息を止めて、押し込んだ。

「・・・・・・っっっ!!・・・んっっ、うぁ、あ・・・・・・・・・」

圧倒的な質量が膣内を抉じ開ける。横隔膜の運動ですら圧迫感が増幅され、
まず呼吸を整えることを強いられた。動かそうにも動かせないそれは、脚を広げ楽な姿勢になろうとするだけで
先の口唇愛撫によるリアルな質感を押し付け胎内を滲ませる。
膝を折った下肢を持ち上げ抱えた状態で、ようやく侵略に耐えられそうになった蜜壷を、硬い肉で突いた。

「ぅああぁっ!・・・あぁっああ!は、ぁあっあぅ・・・・・・」

細指とは比べ物にならない快感が、内部から彼女を襲った。
出入りさせれば張り出した雁首が粘膜を掻き、掬い出された液が下へと伝う。
膣壁に埋もれる快感の源を探り当てて攻め、嬌声と水音とを部屋中に響かせた。

「あっ・・・んっあぁっ!!、はぁっああぁあっ!!」

押し迫る絶頂感に身を捩り、髪が胸が揺れ、瞳は淫蕩に潤む。
男装時の凛々しい表情しか知らない者なら、雌性を晒す今の顔を見ても同一人物と気づかないだろう。
身悶えをねじ伏せるように奥へ進め、子宮口に先端を打ち付けた。
押せば全身へと響くその場所を乱暴に抉られ、溶けた身体と思考は外力なしに激しく揺さぶられる。
投げ出した両脚が不安定に震え、脊髄を走る電撃を最後に、彼女の知覚は一度、途切れた。

数分後、身なりを整えて彼女は部屋を出た。
潤った肉体が先の痴態の名残を残し、男らしく見えているかどうかが不安だったが、
汗と一緒に欲が未だ肌に染み付いているようで洗い流したくて仕方がない。

参加者の中には久々の都会での夜を色街に出るなり商売女を呼ぶなりする者も少なくないだろう。
だが女はそのような手段を持たない、必要ないからだと考えている彼女には、
密かな愉悦に耽溺するなど卑しい行為でしかない。
知られたくない、と彼女は思う。
女であることを隠し通さなければ、その性に見合わない貪欲さまでも見透かされる気がしてならなかった。


話は変わるが、SBRレースの数多くのスポンサーの中にはコース上のホテル群も含まれている。
しかし各チェックポイントでは、同時期に大量の参加者が押しかけるために
大部分の参加者は簡素な選手村として設営されたテントに泊まることを余儀なくされる。
すなわち、充実した街での休息を有名ホテルで取ることは、上位選手にだけ許された特権であった。
「彼」もまたその特権を手にした選ばれし者であり、野宿の続く日々からの暫しの脱却を
優雅な部屋で過ごす気マンマンで部屋のキーを手にしたのだが・・・・・・

「クッソ〜〜・・・・・・レースの成績は上々っつーのに・・・なんで部屋だけハズレだってんだぁ?」

彼はここに来て見舞われた不幸に肩を落とす。
高級ホテルといえど日照や湿度の条件によって環境の悪い部屋は生まれる。
彼にあてがわれたのがまさにそれで、野宿並みとはいかないまでも
建物の角に当たる天井には雨漏りのシミがあり、立て付けの悪い窓からはすきま風が吹く。
一流の部屋を期待したというのにかなり残念な一室を押し付けられてしまった。
・・・・・・というのが、初見の感想だった。

(おいおいおいおいマジかよ・・・・・・

ボロいと思ったこの部屋!まさか!!

(壁板が腐ったのか?)こんな絶好のポジションに「覗き穴」が開くなんてよぉ〜〜〜)

「んっ・・・・・・はぁっ・・・あぁ、あ・・・・・・」

(おおおおおおお!!)

「騎手の99%が男のこのレースで『たまたま』隣の部屋が女で、
『偶然にも』壁に小さな穴があき、『ツイてることに』その女がベッドの上で夢中になっている」

(オマケに照明が暗いせいで、その正体が「男だと信じて疑わない競争相手の一人」であると彼には分からない)

・・・程度の幸運、この「50億人に1人のラッキーガイ」にとっては、
ありえない奇跡という程でもなかった。



ホット・パンツ――このあと「問題なく」シャワーを浴びに行く
ポコロコ――隣のエロい女の顔を拝んどこーとして・・・・・・スタンドも月まで吹っ飛ぶ衝撃
ホット・パンツの秘密を知ってしまう

←to be continued...






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