シゴト(ラバーソール×ミドラー)
第三部 スターダストクルセイダース


豪快なエンジン音とともにリンカーンが正面玄関の前へと止まった。
奇妙なことに運転席には誰も乗っていない。
スモークのかかった後部座席が開くと青いスーツをまとった
一人の美女が降り立った。
けだるく立っていた二人の護衛の周りに艶かしいオーラが立ちこめる。
細身の身体とは裏腹なスーツを盛り上げる豊かな巨乳が醸す
開いた胸元の谷間に視線を奪われる護衛を尻目に
建物の中へと進む美女。
護衛たちはその歩みに合わせて揺れる胸から
慌てて視線を引き剥がし立ち塞がった。

「お、おうおう、何だ、ねーちゃんっ…。」

護衛たちは自分達には目もくれないこの生意気な美女にカチンときて
とげとげしい態度だ。
そんな威嚇するような護衛たちの態度にも涼しい顔で言い放つ。

「聞いてないの…?ミドラーよ、今日、この時間の約束。」
「え、あ…あんたが、ミドラー、さん…?」

護衛が聞いていたのは腕利きの殺し屋、という情報だけだ。
どんなごつい男かと思ったら……

「よく来てくれた。」
「いいわ。わざわざ呼びつけるんだから、シゴト、でしょ…?」
「そうだ、仕事を依頼したい。」
「あたしに頼む、ってことは当然…」
「もちろん、スタンド使い、絡みだ」

ミドラーの形のよい眉がピクリ、と動く。

「某所に匿われてる男を拉致してきてほしい。
ちょっと頼みたいことがあってね…。」
「拉致…?コロシ、じゃなくて…?」

ミニのスーツから伸びる長く引き締まった脚を組んで
ミドラーは聞き返した。
男は思わずその美脚に目をやりそうになるのをこらえて話をつづけようとする。
何度妄想の中で高慢なこの女を屈服させ陵辱しレイプしただろう。
もちろん現実にそんなことはできない。
裏社会では知られた存在のこの男も所詮はただの人間だ。
強引にこのミドラーにそんなことをしようとすれば数秒で切り刻まれ、
肉の塊にされてしまうだろう。
ゴホン、と男はわざとらしく咳払いを挟んだ。

「殺さずにここまで連れてきて欲しい。」

ミドラーの大きな瞳に疑問の色がちらつくのを見てとって男は苦笑した。

「心配しなくていい、その男はスタンド使いじゃない。
その点は大丈夫。サーファーを名乗っているんだがね。
つまらない男、さ。
ただ、そいつが女房と一緒に犯罪をおかしてね。
そいつはつまらん男だが女房のほうは元アイドルだ、いい金づるになる…。」
「だから?」
「だから、その男に全て罪をかぶってもらう。
裁判でそう証言させる。
すると女房は無罪放免、ってわけだ。
うちの傘下の芸能プロから再デビュー、たっぷり稼いでもらう、ってわけだ。」
「ふーん。」

たっぷりと濡れた唇、そそり立つ睫。
興味なさげにしていた美貌に目の鋭さが宿ったのは次の言葉だった。

「ただその男の護衛がスタンド使いだそうだ。」

詰所の男は思わず目を疑った。
目を丸くしたまま微動だにできなかった。
夜の闇にも鮮やかな踊り子のような美女。
滑らかな線を描くバストは柔らかそうに詰所の電灯を受けて白く光る。
わずかに乳首とそのまわりを星の胸飾りで隠しただけで
乳白色の乳房の大部分を露出させている。

「ハァイっ…」

軽く手を振る、そんな仕草にも柔らかく震える胸に
男は完全に視線を奪われた。
下品な笑みを浮かべながら慌てて詰所を飛び出した男。
ミドラーの切れ長の瞳に侮蔑の表情が浮かぶ。
後頭部にフライパンが浮かび上がり無情にも振り下ろされると
薄笑いのままの表情で男は気を失った。
中の機械を操作して門を開けるとゆっくりと様子を伺うように
邸内へと入り込んだ。
秋の夜中の冷気がミドラーの肌を刺す。
いい感じの緊張感を保っているようだ。
薄暗く何も見えないが人の気配はない。
流れるように門から中庭を経て建物へと向かう。
防音クッションの入ったサンダルは彼女の足音を見事に消している。
しばらく建物の周りを歩くとサーファーの部屋へと続く渡り廊下の
上部の窓ガラスを発見する。

「やっぱり事前の情報どおり、そう警備は固くない…ようね。
あそこか…ふふっ。」

妖艶に笑うと目の前に鉄の梯子が出現する。
器用に登ると窓の手すりにつかまりぶら下がる。
ミドラーは身体を華奢だが身のこなしは軽く、
バネのある高い身体能力を持つ。
今まで脚をかけていた梯子は見る見ると鉄の鍵へと変化し
窓にかかっている鍵が音もなく開く。
その手馴れた仕草で物音一つたてずこなしていく。
あらためて窓から渡り廊下を見ると
明かりは付いているが人の気配はない。
窓ガラスを開け美体を中へと滑らせた。
黄色い頭布が夜の闇を切り裂くように翻る。

「ふぅ…さて、と…それにしてもスタンド使い、
の護衛はいないみたいねぇ…」

ミドラーは廊下の突き当りにある花瓶の飾られたところに立った。
大きな鏡が据えられている。
左手には木製の扉、この中にサーファーがいるはず。
シゴトの内容からしてオオゴトになってはいけない。
サーファーに騒がれたりしては面倒だ。
いざとなったら色仕掛けをつかってでも黙らせて拉致しなければならない。
鏡の中の自分を見つめた。
そこに映るのは極上の美女。
引き締まった細身の身体に、対照的に天を衝く豊かな巨乳。
ヴェールに包まれた美貌は気の強さを表しながらも整っている。
サービス精神旺盛なその服装は自分の肉体への絶対的な自信の表れだ。

「さて…いくわよッ!」

鏡の中の自分に気合を込める。
ちょっとした違和感を感じながらも身体の向きを扉のほうへと変える。
…しかし違和感はやはり拭えない。

「何か…いるッ…?」

改めて鏡を見据えると視線を落とす。

自分の白くて長い脚、そしてその奥にある暗がり…。

「何かいるッ!」

バッと向き直り暗闇を凝視する。
誰もいない…。

「バカバカしいわッ…疲れてるのかしら…
でも…確かに…鏡に…」

首を振った。
プルプルと乳が小刻みに震える。

「何を言ってるの…あたしは、鏡の中だけに人がいるわけないわッ…
ファンタジーやメルヘンじゃないんだからッ!
大体そんなこと言ってる場合じゃないッ!」

スタンドを鍵に変化させると扉を開けて勢いよく蹴って扉を開けた。

「あんたね…?自称サーファー…ッ!」

ニヤニヤとした笑みを浮かべて男はソファーに腰を沈めている。
突如現れた美女に険を含みながらも舐めまわすような視線を浴びせる。

「誰……??」
「あたしの名はミドラー。
でもあたしが誰か、なんてどうでもいいわ…
あんたはあたしと一緒に来てもらうッ…
そして裁判で証言してもらうわッ!
妻にクスリを勧めたのは自分だ、
自分が妻にクスリを無理やり飲ましたんだ、
妻は悪くない、そう証言してもらうわッ!」
「わかった。」

男があっさり立ち上がるとミドラーは思わずずっこけそうになった。

(何を考えているの…?こいつッ…)

いきなり侵入者が来て、ついて来い、裁判で不利な証言をしろ…
誰だってそんなこと言われたら逆上するか、混乱して動けなくなるか。
それなのにこの男はあっさりと自分の命令にあっさりと服従している。
まるでわけがわからない…。

(ヤクをヤリすぎて完全にイッちゃってるの?それとも…)

「おっと、行く前に、だッ!」
「何ッ!?」

ミドラーは警戒するが男は無邪気に
手をテーブルの上のフルーツの盛り合わせに伸ばした。
そしてチェリーを摘まみ上がる。

「これが大好物なんだ
腹がすいてしょーがねーぜッ!」

舌の上で弄ぶサーファー。
その不敵な態度にカチンと来て、ミドラーはその手をひねり上げるように捻った。

「あんたッ!舐めてんのッ!」
「別に舐めてないぜッ…へへへっ」

そのまま手をひきずるように掴んだまま出口に進もうとした刹那。
サーファーの手が伸びてミドラーのバストを撫でる。
形を生々しいほどに見せる乳房がユサっと重たく揺れる。

「じょうだん!ハハハハ!」

ミドラーの美しい眉が寄る。

「……ッ!」
「また!なにバカづらして睨んでるんだよ
ミドラー先輩!
冗談だって言ってるでしょうが!」
「あんたッ…後でぶっ殺すからね…」

殺意が湧いたが、生きて連れてくる、という依頼を思い出し
なんとか鎮める。

「なんか言ったか?」

こんなところで揉めている暇はない。

「なんでもないわ、とにかく早く来てッ!」

来た道を戻ろうと部屋のドアに手をかけた。
来るときは自分一人だったから身軽だったが、
帰りはこの男を連れて行かなければいけない。
面倒には違いない。
ミドラーは内心舌打ちをして自分が手をかけたドアに目をやる。
ドアノブ、そしてそれを覆う自分の手、ノブの周りの金具…
ミドラーはピクリと気配を感じ振り返った。
サーファーが好色に満ちた視線を送り続けている。
今もミドラーの真っ白い背中や脚を堪能していたのだろう。

(違うわ、こいつじゃないッ…)

金具に映った男はこいつじゃない。
もっと別のところ。

(上ッ!?…違う…)

見上げるが電灯と無機質なコンクリートの壁。
誰もいない。
むきだしの素肌に冷や汗が走る。

(おかしくなりそう…どういうこと?鏡の世界なんて、本当にあるの…?)

険しい顔で金具をふたたび凝視すると全身にターバンを
纏った男がゆったりとこちらに向けて近づいてきている。

「何が…起こってるのッ!?」

振り向くがそこにはそんな男はいない。
サーファーが相変わらずの視線でいるだけだ。

「ッ!?」

張り付いているような胸飾りの上から撫でるような感触。
そして一方では腰布がめくり上げられ奥へと侵入するような感触。
下半身に侵入しようとする指を拒絶するように太ももを強く閉じて金具を見ると
ターバンの男はそこに映った自分にまとわりつき
さきほど手の感触を感じた部分に手を伸ばしている。

「うわぁぁぁああッ!ハイプリエステスッ!!」

金具に取り付いたスタンドがのこぎりに変わると金具をバラバラに斬り飛ばす。
するとミドラーの身体を襲っていた不快な感触は消えた。

(ハァ…ハァー…なんかやばいわッ)

「いい、あんた!今すぐここを出るわよッ!」

サーファーの手を強く引き扉を押し開け渡り廊下へと出ようとした瞬間。
ひかれた拍子であるかのように後ろから覆いかぶさってくるサーファー。

「きゃッ!?」
「おおっと あぶない!」

突然のことでスタンドで防ぐこともできず押し倒される格好になるミドラー。
後ろ向きの格好でむき出しの背中に男の体重を感じている。

「いたたたッ…ほら、どきなッ!」
「………」
「大人しくどきなッ!」

サーファーは無言のまま真っ白い太ももに指を伸ばしてくる。
そしてこね回すような仕草で胸へと掌を伸ばす。

「やれやれだわッ!ハイプリエステス!」

男にも視認できるように金槌に具現化させると額に叩きつけた。
死にはしない。

…はずだったが……。

その打撃でサーファーの額が両側に裂けそれにあわせて頭皮も両側に裂けたのだ。

(強くやりすぎたッ?まさか、そんなッ…)

しかも驚くべきことにそんな状態の男は平然としている。

「痛ぇッ!痛ぇえええッ!
冗談が通じねぇのか!」
「バカなッ!」

ねじるような格好で見上げていたミドラーは唖然としながらも
スタンドをボーリング玉に変え男の即頭部に叩きつけた。

「ぐぇえええ!」

情けない悲鳴上げて吹っ飛ぶ男。
態勢を変えてしゃがみこむような格好まで持ち直し
吹っ飛んだ先に倒れるサーファーを確認する。

「ふんッ。
!?う ううっ うー…!?」

すると、突如首に拘束を感じる。
そして真っ白い首に、そして背中に這う生暖かい気味の悪い感触。

「きゃッ!?」

さすがにミドラーを耐えられず悲鳴をあげながら
鳥肌を立たせた。
あわてて背中に手を伸ばすがそこには何もない。

(鏡の男、だわッ!)

そして自分の身体に誰かが密着する感覚。
そして肩と太ももとに指が這い、そしてさらに…奥へと進む。
思わぬ敵襲にミドラーの吐息は荒い。

(ハッ!)

渡り廊下にある鏡、一番最初にこの男の存在を確認したその鏡。
視線を送ると案の定ターバンがしゃがみこんだ自分に抱きつき
自分が感じている部分に手を這わせている。

「くらいなぁッ!!」

ガシャーーーン

鏡に銛を打ち込むと粉々に砕け散った。
気味の悪い感触はひとまず消えた。
しかしこれではあのスタンドを倒したことにはなっていない。

(クククク…)

不気味な笑い声が聞こえたような気がした。
一方では倒れこんだサーファーが起き上がった。
額から上が裂け側頭部には衝撃を受けて大きく顔が歪んでいる。
そしてそのサーファーの変わり果てた顔が飛び散った。
そしてその中にあるもう一つの顔。

「これがオレの本体のハンサム顔だッ!」
「何がハンサム顔よッ!」

ミドラーは素早く立ち上がり、そして間髪いれずに襲いかかるハイプリエステス。
男の首を掻っ切ろうとした瞬間にそこを黄色いゴムのようなものが覆い
攻撃が弾かれた。

「俺のスタンド、『イエローテンパランス』に弱点はない!」

(くっ…まずいわッ)

床の砕け散った鏡を見る。
この中のどこかにあいつはいる…。
全身に虫酸が走るような思いがする。
二対一、その上相手は両方とも凄腕。

(ここはひとまず…)

自分が開けて入ってきた窓へと近づく。

「どうする気だ…へへへ、可愛がってやるからこっちこいよ、オラっ」
「ハイプリエステス!」

スタンドがそのままテンパランスへと襲いかかる。

「弱点はないといっとるだろーがーッ!」

肉の前に弾かれるとその衝撃をこらえることはせず
そのまま反動を利用してミドラーは窓から身体を躍らせた。
華奢な美体が宙を舞う様はダンスのように美しい。

「む…やるな…」

なんとか空中で態勢を立て直し邸外へと出ると舌打ちを一つ挟んでから
裏門へと向かった。
夜の闇の中でも目立つあまりに白すぎる肌の女が走り去る様を見下ろしながら
テンパランスは呟いた。

「逃がしたか!…いや…」

裏門をハイプリエステスの鍵で開けるとそこは細い路地だった。
夜気の寒さが肌を刺す。
ミドラーは鏡の男の襲撃に備えてスタンドを常時周囲に旋回させる。
スタンドで車を作ると攻撃や防御にスタンドが使えないため
タクシーを拾おうとしていると、一台が通りかかった。
呼び止めて乗り込み、ホテルの名を告げる。
すると、ふとミドラーは妙なことに気付いた。
それは車のハンドルに据えられた手。
右手はお馴染みの通り左から親指、人差し指、中指、薬指、小指。
しかしその手の左にある手も同じ並びなのだ。
ミドラーの視線に気付いたのか、男は口を開いた。

「気にしないでくだせぇ、お嬢さん。
若いころにちょっと色々ありましてね…」
「ふーん、まぁいいわ、それより、飛ばして!」
「へい…」

車はゆっくりと動き始めた…。






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