週末の予定
高野誠一×雨宮蛍


台湾に来て1ヶ月が過ぎた。こちらでの仕事も順調に進んでいるし、この街にもずいぶん
慣れたが、まだ一人きりの家には慣れない。しかし俺がこんな気持ちでいるのもどこ吹く
風、相変わらずあの干物女からは連絡らしい連絡はない。あの女に期待するだけ無駄か。
こちらから送るメールにごくごくたまに返信が来るだけでも三年前よりは成長したか。

そしてまた一人きりの週末がやって来た。今週は週の頭から豪徳寺が「たまには週末をノ
ー残業デーにしましょう」と触れ込んでいたので、全員が定時退社になった。退屈な週末
がさらに長くなることに憂鬱になりながら会社を出た。

買い物を済ませ、自宅に向かう途中携帯にメールが入った。誰だ?確認してみると…ホタルだ。
「もう仕事終わりましたか?」
たったこれだけのメールだがあいつが自分から連絡して来るなんて普通じゃない。
何かあったのか?急いで返信する。
「今、帰宅途中だ。何か急用があるなら電話して来なさい」
送信し待つこと15分。返信は…ない。ただの気まぐれでメールを送ったのか?それ
ならそれでもいいのだが、やはり不安になる。悔しいがこちらから電話することに
した。呼び出し音が鳴り続け、留守電になりかけたところで…出た。

「もしもしホタル、俺だ。何かあったのか?」
「……」
「ホタル、聞こえてるか」
「聞こえてます。あ、あのっ実は…」

自宅マンションの玄関にたどり着いた俺は、台湾に来てから一番驚くことになった。

家の玄関の前にホタルがいる。幻覚か?

「ぶちょお、お帰りなさい」
「お帰りなさいじゃないだろ。何があったんだ」
「すいません」
「とりあえず入りなさい」

自宅に入ったものの、ホタルは黙ったまま俯いている。

「怒ってるわけじゃないから。きちんと説明して」
「先週、二ツ木夫妻の家に遊びに行ったんですけど、そこでぶちょおとの話になったんで
す。いろいろ話している間に、山田姐さんに金曜と月曜は代休にするように手配するって
言われて、気がついたら、二ツ木さんが航空券の予約をしてくれてて ぶちょおの予定を
確認するために豪徳寺さんに電話もしちゃってました」
「はぁ?」
「ずっと休日返上でやってた仕事がやっと終わったんです。それで、代休たまってるんだ
から、台湾行っちゃいなさいって」
「……」

そうか、豪徳寺が週末はノー残業だとやけに言っていたのもこのせいか。

「でも今朝まで迷ってました」
「なんで?」
「……」
「君のことだから、長時間移動するのがめんどくさくなったんだろう」
「違いますよ!」
「ならば君は頑固だから、自分の意志で決めてないことは納得行かないからか」
「違います!確かにあれよあれよと決まっちゃってびっくりはしましたけど……」
「じゃあ何?」
「本当にぶちょおに会えるかわからないし」
「だったら直接私に連絡すればいいだろう」
「それは出来ません!驚かせたかったから…それに…」
「何?」
「もし会えたら帰るのが辛くなっちゃうだろうなぁって。だったら会わない方がいいか
なぁって」
「……」
「でもやっぱり会いたい来ちゃいました」
「……」
「迷惑でした?」

俺が黙っているせいか、ホタルは不安そうな顔でこちらを見つめている。

「あっ、予定があるなら私、留守番してますから大丈夫ですよ」
「ないよ」
「えっ?」
「予定はない」
「ぶちょお」
「誤解するな。今週はたまたま予定がないだけだ」

そう告げた瞬間、ホタルの表情が一気に笑顔に変わった。

「たまたまでも何でも嬉しいです。会いに来てよかったぁ」

ここで「俺も嬉しい」の一言でも言ってやればさらにホタルが喜んでくれるとは思った
が、こんな嬉しいサプライズを仕掛けられて悔しいので言わないことにした。でも、きっ
と顔に出てるんだろうな。それを察されるのもまた悔しいのでなるべく目を合わせない
ようにして話した。

「出掛けるぞ」
「えーっ。今帰って来たばかりじゃないですか。のんびりしましょうよ」
「人がせっかく貴重な週末の時間を割いて本場の台湾料理を食わせてやろうとしているの
に、貴様はその厚意を無駄にしようとする気か?」
「行きますっ、行きます。この日のために今週はダイエットしてたんです」
「食事作るのめんどくさかっただけだろう」
「えへ。バレました?」
「さっさと荷物を置いて、用意しろ!」

本当はいつも週末に予定なんてない。ホタルのいない一人の時間を持て余していた。でも
今週は楽しい週末になりそうだ。


久々に2人で食事をとり、たわいもない会話をしながら帰ってきた。

「お腹いっぱいで苦しいですー」
「食・べ・過・ぎ」
「だって、どれもおいしくて我慢出来ませんでした」
「帰ったらまたダイエットに励む日々が待ってるな」
「……」
「ホタル?」
「そっか。私は一人で帰らなくちゃいけないんですね」
「そう決めたのは君だぞ」
「そうだけど…」
「会いに来たこと、もう後悔してる?」
「そんなことないですよ。ぶちょおに会えてすっごく嬉しいです。来て良かったーって
思ってます」
「じゃあ暗い顔するんじゃない。俺にまで陰気がうつる」
「そうですねっ」

笑顔が戻ってホッとする。

「いつ帰る?」
「月曜の朝です」
「3日あるな」
「3日ありますね」
「まさか3日間ここでのんびり過ごそうとか考えてないだろうな?」
「えっ?そうじゃないんですか?」
「異国の地でその国の文化や歴史や人々に触れ、自分をさらに豊かにし高めようという
気持ちは君にはないのか?」
「そういうのめんどくしゃいです」
「…がっくし。まぁ君には全く期待していない。プランは俺が考えておくから。先にお風呂
入って来なさい」
「なんか」
「何?」
「今さりげなーく酷いこと言いましたよね?」
「そう?」
「ま、いっか。お風呂お借りしま〜す」

再び離れる時間を思うと胸が痛むのは俺だって同じだ。でも、だからこそ一緒にいる今
が愛しく、一秒だって無駄にしたくない。そんなことをぼんやり考えながら、ホタルを
待っていた。

「ぶちょお〜〜〜見て見て、似合うかちらん。可愛いかちらん」

ホタルがパジャマ?!しかもピンク?!

「ぶちょお?」
「……」
「すごくかわいいホタルさんだからって見とれないで下さいよ。照れますー」
「かわいいよ。すごくかわいい」
「なんですか!その棒読み!」
「ジャージ止めたのか?」
「今日は特別です」
「やっぱり」
「世の中の素敵女子は普段からこんなのを着てるんですね」
「無理しなくていいよ」
「いえ、せっかくのプレゼントなのでもう少し」
「プレゼントか…」
「はい。会社の女の子にもらいました」
「でも君が俺を喜ばせようとしてくれた努力は認める」
「遠く離れた婚約者の喜ぶ顔を想像しながら荷造りしていた健気なホタルさんですから」
「プレゼントなのに威張るな」
「ブーッだ」
「もし着替えたいなら」
「はい?」
「俺が後で脱がせてあげるよ」
「何言ってるんですかっ!ぶちょおも早くお風呂!」
「はいはい」

風呂からあがると、疲れたのかホタルはソファで寝ていた。二ツ木や山田に背中を押され
たとはいえ、俺を喜ばせようと一生懸命だったんだろうな。ホタルに真っ直ぐで純粋な気
持ちをぶつけられると、時々苦しくなる。俺はちゃんとホタルを受け止められているのだ
ろうか?

「ごめんな、ホタル」

よく眠っているようなので、そのままベッドに運んだ。しばらく持ち帰った仕事の整理
をしているとベッドの上がもぞもぞ動いた。ホタルが起きたようだ。

「私、寝ちゃったんですね。すいません」
「慣れない長距離移動で疲れただろ」
「ぶちょおは?まだ寝ないんですか?」
「月曜までに仕上げなきゃいけない仕事があるんだ」
「ごめんなさい」
「何が?」
「私が急に来たりしたから…仕事の予定、狂っちゃいましたよね?」
「明日と明後日を有効に使うために今、仕事してるんだよ」
「ぶちょお」
「君と違って、きちんと先の見通しを立てないと気が済まないからね」
「どうせ私はいつも行き当たりばったりですよーっ!」
「でも、今は君の行き当たりばったりに感謝してるよ」
「……」
「来てくれてありがとう」
「ぶちょおぉ〜」
「何?!」
「この部屋暑いですねっ。目から汗が出て来ました。顔洗ってきやす」

泣かせてしまったな、胸の奥がチクリと痛む。

「仕事たくさんあるんですか?」
「先寝てていいぞ」
「待ってます」
「無理しなくていいよ」
「だって」
「ん?」
「3日しかないから…」

また泣きそうな暗い顔になった。

「あと30分だけ待てる?」
「はい!」
「これ」

本棚にあった台湾のガイドブックをホタルに渡す。

「どこ行きたいかは決められなくても、何食べたいかくらいは決められるだろ?」
「はい!どれもこれもおいしそうです」
「急いで終わらせるから」
「これも食べたーい。こっちもおいしそう。これじゃいくつお腹があっても足りませんね」

また笑顔に戻った。よかった。

ホタルがゴロゴロしながら本を読んでる間に俺は仕事を終え、同じベッドに横になる。
なんとなく沈黙が続いたが、それを破ったのはホタルだった。

「ぶちょお?」
「ん?」
「くっついてもいい?」
「いいよ」

ピタッと抱きつかれたぬくもりが心地いい。

「あの」
「ん?」
「チューしてもいい?」
「チューだけ?」
「なっ、そんなっ」
「(笑)慌てすぎ」
「すいません」
「そっちから誘っておいて慌て…」

会話の途中でホタルの顔が近付き、唇に生温かいものが触れた。刹那、俺の中の理性の
壁が一気に崩れ、ホタルに覆い被さると、今度は俺から唇に触れた。始めは軽く、その
後どんどん深く。息苦しくなったのか、彼女の喉元から甘い吐息が漏れる。

「ん、んんっ」
「苦しい?」
「苦しくはないですけど」
「けど?」
「恥ずかしくて、緊張しまくりです」
「そう?」

再び唇に触れた後、離れていた時間を埋めるように、これから離れる時間も寂しくない
ように身体中にキスの雨を降らせる。

「誠一さん、くすぐったい」
「名前…」
「おかしい?」
「嬉しいよ」
「普段は恥ずかしくて呼べませんから」

些細なことが嬉しくて、貪るようにキスを続けると、始めはくすぐったがるだけだった
ホタルから徐々に甘い声が漏れ出した。

「んっ…はぁ」
「もっと声、聞きたい」
「そん…な…恥ず…かしい」

豊かな膨らみを掌で包み、その先端に唇で触れると耐えきれず声をあげた。

「あ、あっ…やぁ…」
「体は正直だな。かわいいよ」
「意地…悪」

たまらず一番敏感な部分に手を滑らせると、もうそこは十分に潤っていた。

「ホタル、感じてくれてるんだ」
「はっ…ああっ…恥ずかしい…こと言わ…ないで…下さい」
「嬉しいよ」
「いやっ…そこは…はぁ…ダメ…あぁっ」

先ほどからの刺激ですっかり敏感になった芽を撫で、潤った部分に指を滑らせ、動かして
やるとさらに艶やかな声をあげた。

「あっあっ…やあぁ…ん…あっ」
「気持ちいい?」

言葉を発する余裕もなく、ただただ首を縦に振る。悦ばせたい一心でさらに刺激を続けた。

「やっ…んっ…もぅ…ダ…メ………ッ」

キュッと指を締め付けた後、ホタルの身体から力が抜けた。そっと額にキスをすると恥
ずかしいのか布団にもぐり、枕に顔をうずめてしまった。

「恥ずかしくて死にそうです」
「かわいかったよ」
「私…こんなの初めてで」
「そう?」
「なんか悔しいです」
「この状況で悔しがるなよ。色気のない」
「色気のない私に夢中なのは、どこの誰ですかっ」
「そんな偉そうなことを言うのはどの口だ?」

半ば強引に枕から顔を引き離し、仰向けにさせ、唇をふさぐ。そしてもう一度丹念に身体
中にキスをした。

「んっ…」
「ホタル?」
「はい」
「そろそろ、いい?」

こくんとうなずくと少し怖いのか緊張してるのかホタルは目を閉じた。

「いくよ」

入口からゆっくりと進み、ようやく一つになった。

「…痛っ…」

経験が浅いせいかそこは狭く、無理に進もうとすると押し返される。

「痛い?」
「少し痛いけど…すごく嬉しいです」
「しばらくこのままでいるよ」
「あの」
「ん?」
「誠一さんは?」
「俺もすごく嬉しいよ」
「よかった」
「愛してるよ」
「愛してます」

しばらくして、ゆっくり動くと始めこそは痛がっていたが徐々に快感に支配されて
来たようだ。

「あっ…やあっ…ふっ…んっ…」
「もう…痛くない?」
「気持…ちいい…です」

少しずつ動きを速めると、ホタルの身体に力が入り始めた。

「はっ…あっ…はっ…」
「ホタル…」
「私…もう…ダメ」
「俺も…もう限界……いく…よ」
「………………っ!」

二人で昇りつめた後、軽くキスをかわして、そのまま眠った。

翌朝、隣には口を開けアホ面のホタルが寝ていた。昨夜の艶やかなホタルはもういない。

「おはようございます」
「おはよう」
「そんなに見られると照れます」
「君のアホ面は変わらないな」
「かわいい婚約者になんてことを言うんですかっ!」
「さぁ、かわいい婚約者さん、着替えて出掛けるぞ」
「そのとってつけたような言い方なんなんですか」
「ぐだぐだ言ってると何にも食わせないぞ」
「そ、それは勘弁しておくんなまし。起きます。着替えますー」

二人で迎える朝、この朝は3回で終わり。だからこそ今はこの時間が愛しくてたまらない。

ホタル、来てくれて本当にありがとう。






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