一緒に居たい
高野誠一×雨宮蛍


「起きないとチューするぞ」

その言葉に飛び起きた蛍だが、
『いけない、起きたらチューしてもらえないじゃん』と気が付き
すぐにまた横になった。

「起きろよ、おい!起きて私の話を聞け!アホ宮!」
「あ、山口百恵引退だって!」
「いつの新聞だよ!」

1年振りに交わす、何気ない言い争いに懐かしさと嬉しさを感じて
高野も蛍も笑顔になる。

『チューは?チューしておくんなまし〜』

胸を高鳴らせて蛍は待っていたのだが、一向にその気配はなかった。
新聞の破れ目から高野を覗くと目が合った。

『ぶちょお、こんな優しい顔で笑うんだ』と小さな驚き。
『ホント、よく見るとカッコイイ人だったんだなぁ』

高野は蛍がこの家を出て行った時のことを思い出していた。

「チューくらいしておけば良かった」

と蛍は冗談交じりに言った。

「しておけば良かったな」切ない思いで、横顔を見つめるのが精一杯だった。
この言葉に隠された本心に気付いて欲しいような、気付かず新しい生活へ
向かっていって欲しいような…

「キスは、惚れている女にするものだ。ま、少なくとも私はな。」

同居を初めたばかりの頃にそう話したことを思い出してはくれないか…

今、目の前に愛しい女が横たわっている。
高野はすぐにでも抱きしめたい気持ちはあったのだが、やりたい盛りの
若者でもあるまいし同居を再開したと同時に蛍に手を出そうとは思っていなかった。
今、蛍が新聞の下で自分のキスを待ってくれているだろうことは、勿論分かっていた。
しかし一年間も募らせた想いが、キスだけでとどまらせないだろうと思い
話を逸らせた。

「私は風呂に入ってくる」

立ち上がり、風呂場に向かって歩き出すと、背後から

「えー、私も一緒に入りましょうかぁ?」

と言う声が聞こえる。

「結構だ」

口ではそういったが、『そんな、直接股間に訴えかけるようなことを言ってくれるな』と思っていた。

「ちぇっ」

立ち上がり、不満そうな顔の蛍はそのまま高野の後を追い風呂場の前に座り込む。

風呂を上がったところで、高野は着替えを持たずに風呂に来てしまったことに
気が付いた。
バスタオルを腰に巻き、風呂場の戸を開けると目の前に蛍が座っていたので驚いた。
蛍も、目の前に現れた高野の姿をみて固まってしまった。

『ぶちょお…、ホントに男の人なんだ』

改めて異性であることに気付かされたのだった。

「なんでこんなところに居るんだ。ほら、私の身体に見とれてないであっち行け」

高野は動揺を見せずにいつもの口調で毒づいた。

「見とれちゃいます。ぶちょおの顔も…カ、カラダも…」

予想外の答えに高野は目を見張った。

『頼むから、そんな可愛い顔で見上げてくれるな』心ではそう思っていても

口から出るのは

「体脂肪率100%の君とは違うからな」

と憎まれ口になってしまう。

「さあ、君も今日は疲れたろ?私ももう寝るから。」

さっと身体を翻して高野は歩き出した。

「はい、じゃあ私も。」

自室に向かう高野のすぐ後ろで聞こえる声。
振り向き、「貴様、どこで寝るつもりだ?」

「私、とりあえず着替えくらいしか持って来なかったんですよ。

私の部屋にはお布団ありませんから。」

「君は、私の部屋で寝るということがどういうことか分かっているのか?」
「あのベッド狭いんですよね〜。ぶちょお、端のほうに寄ってくださいね。」
「アホ宮!」
「…だって…ぶちょお、私、あの、一緒に居たいんです。あの、それで…」

しどろもどろで言葉を捜しながら話す蛍が愛おしかった。
高野はそのまま蛍を抱きしめた。
唇と唇が触れ合う。舌と舌が触れ合う。そこからどんどん熱を帯びてきて、
身体中が熱い。
一番近くに居たのにお互い知ることのなかった感触を、一年の歳月を経て
初めて知った。

「来なさい。」

蛍の手を引いて、高野は自室へと向かった。

部屋に入り、ベッドに倒れこむとどちらともなく唇を重ね合った。
口付けているだけなのに、言葉よりも雄弁に相手の想いが伝わってくる気がした。

「ぶちょお」
「何?」
「…好きです…」
「分かってるから」

もう一度、深く口付けを交わす。

「あぁ…んっ」

高野の手がTシャツの中に入り、蛍のわき腹あたりを掠めた。
蛍の吐息と小さな鳴き声は、高野の耳から全身を駆け巡った。
Tシャツをたくしあげて脱がせると、蛍のちょんまげを作っていた髪留めも
はずれてしまった。

オフィスでは見慣れた髪型でも、この状況で見ると干物女を感じさせない
年齢相応の可愛いらしさで、高野は鼓動が早くなるのを感じた。
蛍のジャージも下着も、そして自分の腰にあったバスタオルも外し
お互いの体温を直に感じた。
高野は蛍の白い肌の上に指を滑らせていた。
唇、頬、首筋、胸
豊かな丸みを手のひらで包む。壊れ物のようにやさしく触れる。
果実のような頂を口に含む。

「…や…ぁ」

高野に触れられるたびに、身体は反応した。
蛍の身体を滑りながら、高野の手は秘所にたどり着いていた。
蛍は高野の指を、自分の中に感じた。

「…っ!」

声にならない悲鳴だった。

高野は、そんな蛍の反応の一つ一つを愛おしく感じていた。

「雨宮」

名前を呼ばれて蛍は目をうっすらと開いた。

「もし、何か不都合なことがあったらすぐに言いなさい。
そこで、とどまれる自信はないが…」

コクンとうなづいたのを見届けて、高野は蛍の中へ進んでいった。

その瞬間だった。
蛍の瞳から涙がこぼれてきた。
自分でも理由がよく分からないのに、涙があふれてきた。

「どうした?嫌か?辛いか?」
「なんか、すごく…好きなんです。ぶちょおが
今、ものすごく分かっちゃったんです。心だけじゃなくて身体の奥まで
ぶちょおのことが好きなんです。」

高野とひとつになったことで、蛍の中の漠然とした高野への想いが
はっきりと認識できるかたちになったということだろうか。
高野は背筋がぞくっとするような感動を覚えた。

「私も同じだから。これからもっと好きになるから。」

高野は自分の高まる想いを込めて、蛍の奥へ奥へと突き進んでいった。
蛍は、高野の背中に手を回した。少しでも多く触れていたいから。
高野は動きを止めぬまま、蛍にキスを落とした。

そして、二人は高みへと登りつめて行った。

気を失っているのか、眠っているのか。
瞳を閉じた蛍は幸せそうな顔をしていた。

「結局、同居再開初日から抱いてしまったな」

一回りも年下の蛍に対して、もっと余裕を持って接したかった気もするが…

『ん?待てよ…』

布団、あったよな?
酔って手嶋を連れて帰ってきたときに、手嶋を寝かせた布団は…?
しかも、敷いたのは蛍だったはず。忘れているのか?

「客用の布団、あったよな」

高野がつぶやくと

「ありますけどぉ、敷くのが面倒くさかったんですよねー」

パッチリと目を開けた蛍が高野を見上げていたずらっぽく笑う。

「貴様ー!」
「だって、一緒に居たかったんですもん!きゃっ!」

そう言われてしまえば返す言葉もない高野は、また、蛍に覆い被さった。

「ぶちょお?もう朝ですよ?ご飯にしましょ?」
「嫌だ。もう一回抱きたいもん。」
「えー、ぶちょおっ!」






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