不安
熊谷一哉×萩原未央


この2、3日、一哉が電話に出てくれない。当然向こうからの連絡もない。
どうしたんだろう。まさか、嫌われた?

同居してる可児くんは、ちょうど旅行に出掛けていて一哉がどうしているか全くわからない。

泣きそうになるのをこらえて仕事をこなし、一哉のマンションへ向かった。
怖い気持ちもあったが、頑張って部屋の前まで来て、恐る恐るインターホンを押す。
夜中のマンションは、しーんと静まり返っていた。
前に、鍵がかかってなかった事があったのを思い出してドアノブを回してみるとドアが開いた。
あぁ、やっぱり不用心だな一哉は。

部屋に上がってみると床の上で倒れている一哉を見つけた。

「一哉!!」

寝言で、あたしを呼んでいる。
抱き起こして何度も呼びかけると、一哉が目を覚ました。

「あれぇ?どうした?」
「どうしたじゃないわよ〜。連絡取れないから心配で来たの。大丈夫?」
「あぁ、脚本作って酒飲んだら寝ちまってたぁ〜。」
「もぅ、電話出てくれないから嫌われたのかと思って…そんな終わり方やだって思って…」

涙が溢れて、しゃべれなくなってきた。

一哉は指で拭いながら「ごめんな。終わりになんてなんないよ。」と抱きしめてくれた。

「あたし、脚本に負けたのね。」
「そうじゃないよ。」
「しょうがないよね一哉は。久々に力入ってるね。」
「いいの出来そう。」
「楽しみにしてる。」
「なぁ、喉渇いた。水持ってきてくんない?」
「うん」

抱き合っていた身体を離れ、一哉の手を握ってから惜しむように離れた。
キッチンでたくさん氷を入れた冷たい水を用意して部屋に戻ると、一哉はベッドに横になっていた。

「はい」

と水を差し出す。

「動けない。飲まして。」
「え?どうやって?」
「口うつし。」
「え〜!?」
「俺、死んじゃいそう。」
「もぅ、しょうがないわね。」

ベッドに腰かけ、水を口に含み一哉の唇の隙間から水を流しこんだ。コク、コクと一哉の喉が鳴る。

「うまい。」とにっこり笑い「氷も、欲しい。」とせがむ。

一哉の言うとおり、氷を口に含み口移しで氷をあげた。

「つめてぇ〜」
「ごはん、ちゃんと食べてる?」
「ん〜未央が食べたい。」

と一哉は上半身を起こして、あたしを引き寄せ抱きしめた。

「うそつき。動けるんじゃない。」

一哉はにやりと笑い、酔いが残っている為か、ぼーっとしながらあたしの唇をめがけて迫ってきた。
一哉の顔が近づき、唇が触れると口の中には冷たいものが入ってきた。

さっき口移してあげた氷だ。一哉は、口内の氷を追い回しながら舌を絡めてくる。

「ん〜っ……ちゅく、ちゅく」

2人の熱で氷は溶かされ、口元からは溶けた液体と唾液が混ざったものが流れていた。

「…はぁ…溶けちゃた。」

一哉は濡れた口元を親指で拭い、溢れた液体を舐めとるように首筋を舐めていく。

一哉の舌は、お酒のせいもあって熱かった。ざらついた感じや、目を閉じても艶めかしく動く様子が目に浮かぶ。

あたしの中からはじゅわっとあついものが溢れていく感覚がした。

一哉は、だんだん唇だけ首筋に這わせ、そのまま胸に降りて顔をうずめている。


あれ?


「スー スー…」

寝息?うそ〜っ、こんな事しといて寝ちゃうなんて〜!!

しかし寝ながらも一哉は、しっかり腰に手をまわしぴったりくっついていた。

「あたしの事必要なんだよね?まぁ、いっか〜このままで。」

あたしは、一哉のあたまを撫で背中に手をまわした。
ここに来た時の不安は消え、一哉の体温を感じるだけで幸せな気分に浸っていた。






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