今回の相手
道明寺司


 その日俺は長期の出張を終え、足早に家へと急いだ。
両手には抱えきれないほどのプレゼント。

あいつ怒るんだろうな。「またこんなに無駄遣いして」って。

でもな、普段寂しい思いさしてるんだからこれくらいはさせてくれよな。
数々の難関を乗り越えてやっと結婚した俺たちは、道明寺家とは別に新居を
構えた。と言ってもマンションだが、警備員もいるし各階ワンフロアの直通
エレベーター付きだからセキュリティ面ではバッチリだ。

牧野はもったいないとごねていたが、・・・なぁ・・・
新婚の間は誰にも邪魔されず、二人で過ごしたいじゃねぇか。
お手伝いとか、たまがいたんじゃなかなか出来ない男の欲望
ってやつもあるしよ・・・

おっと、想像したら顔がにやけちまったぜ。

結婚したからといって、あのババァが仕事量を減らしてくれるわけでもなく
嫌がらせのように出張を押し付けてきやがる。鬼だぜ、まったく。
まぁ、そんなこんなで今日帰国したんだけどよ、予定日は伝えてなかった。
突然帰って驚かしてやろうと思ったから。玄関の鍵をそーっと開け、
音を立てないように、リビングへと続く廊下を忍び足で歩く。
あいつ、どんな顔するか楽しみだぜ。きっとびっくりして、怒るんだろうな。
でも直ぐその後はあのとびっきりの笑顔で迎えてくれるに違いない。
そんな事を考えながら俺は一人ほくそえんでいた。

ドアノブに手を掛けると、牧野の声がする。やべ、もう見つかっちまったか?
いや。そうじゃないらしい・・・。

笑い声?誰か来てんのか?
そっとドアを開けて確認するが、ここからじゃ見えねぇな。

くすくすくす・・・あんっ・・もう、だめだってば・・・・
んんっ・・・くすぐったい・・・
やだっ・・・爪痕はつけないで・・・
やんっ だめっ・・・
・・・今夜、泊まっていく?
でも・・・こんな所を司に見つかったら・・・

お楽しみの所わりぃけどよ、もう見つかってるぜ・・・
この声を俺は知っている。と言うより、正確には俺しか知らない筈の
つくしの甘い声だった。
何だ?何が起こってるんだ? 突然の事に回らない頭で必死に考えた。

・・・・浮気・・・・か? まさか、あいつに限って・・・

でも、目の前で起こっている事は現実だ。
どうする?現場に乗り込むか?乗り込んでどうするんだ?
相手を突き止めて、浮気を決定的にしてそして・・・・・
俺の頭には、「離婚」の二文字が浮かんだ。あいつと別れる・・・?
冗談じゃねぇ。何があろうとあいつはおれのもんだ。
じゃぁ、どうする・・・・・
俺は、現実を知るのが怖くて、その場を逃げ出すしかなかった。

「・・・・・はぁ!?いきなり会社に乗り込んできて、何を言い出すのかと
思えば、牧野が浮気!?・・・ありえねぇだろ」
「牧野じゃねぇ!今は道明寺夫人だ。」

・・・いや、ツッコミどころはそこじゃねぇだろ、司・・・・

「で?件の道明寺夫人の浮気相手とやらは、どこの誰だかわかってんのか?」

「・・・・」

「なるほどね。確かめる前に尻尾を巻いて逃げ出してきたって訳か。」

「うっせぇよ・・・」

ソファーに腰を下ろして頭を抱え込む俺にあきらは所在無さ気だったが、
上着を手にすると

「さて、行きますか。」と俺の肩を掴んだ。

おい、あきら。失意のどん底にいる俺を置いてどこに行くつもりだ?

「司、いつまでもここで頭抱えてるつもりか?お前らしくねーじゃん。」

「あ?どういう意味だよ。」

「だからさ、浮気相手の男が司んちにいんだろ?だったら話は早いじゃ
ねーか。とっとと、カタつけちまえ。ここでウダウダしていても何も
解決しねぇぜ。」

確かに、あきらの言うとおりだ。逃げ出すなんて俺らしくもねぇ。
俺は天下の「道明寺司様」だ。正面切って、相手の男と戦ってやろうじゃ
ねぇか。覚悟しときやがれ!

ふーっふっふっふっ、はーっはっはっはっはっ!!!

大きく啖呵を切ったものの、不安な表情が出ていたのだろう。あきらが
「様子を見てくるから、ここで待ってろ。」とだけ言い残し車を降りて行った。
どれくらい待ったのだろうか・・・着信を知らせる電話の音。ディスプレイには
「あきら」の文字。



「司か?」
「おう・・・」短く返事をして、あきらの次の言葉を待つ。
「取り敢えず、上がって来い。でもな、覚悟はしといた方がいいぜ・・・
今回の相手、おまえに勝ち目はないかもな。」

それだけ言うと、電話は一方的に切れた。

「おいっ!あきらっ!!!」

勝ち目はない?覚悟?どういうことだ?
俺は牧野を失う事になるかもしれないという恐怖感を抱えたまま、部屋へと急いだ。

大きく深呼吸をし、ドアを勢いよく開ける。一番に目に飛び込んで
来たのは・・・・・






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