温泉パニック 続編 美作編(非エロ)
美作あきら×牧野つくし


それぞれに露天風呂を満喫した後…。
お決まりの大宴会。
それぞれが程よく酔い、それぞれが布団に入り、眠りについた頃…。
眠れないあきらは中庭で酔い覚ましをしていた。
司がNYに行った後、美作家の双子たちの家庭教師になったつくしと、あきらは一緒に過ごす時間が増えていた。
双子たちとの勉強が終わった後、ディナーを共にすることが増えたつくしを家に送る役目はあきらが担っていた。
ともに過ごす時間が増えるごとに、つくしへの想いをセーブするあきらのブレーキのオイルは減っていった。
日ごと増していくつくしへの想いを、あきらは辛うじて留めていたのだった。
時々類からは「牧野を独り占めしないでよね」と釘を刺されていたものの、一緒にいる時間は減らしたいと思えなかったあきら。
今日、司と一緒にいるつくしを見て、あきらは初めて感じる嫉妬に苦しめられていた。
酒を飲んで仲間たちと騒いでいても、その想いは止められない。
布団に入っても悶々とした気持ちがあきらを支配していた。
それを沈めようと中庭に出てきていたのだ。

「美作さん?」
「牧野?」
「寝たんじゃなかったの?」
「ああ、ちょっと眠れなくってな」
「あたしも…。みんな疲れて眠っちゃったんだけど、何だか眠れなくって」
「そっか…」

二人は同時に空を見上げる。

「ここ、あんまり空が見えないんだね」
「この先に東屋があって、そこの露天風呂から見る夜空がきれいだって女将が言ってたぜ」
「へぇ、そうなんだ」
「行ってみねーか?」
「……そうだね」

あきらの先導で二人は歩き出した。

「ぎゃっ!」

慣れない下駄を履いたつくしが、敷石に躓く。

「あぶねっ!」

転びそうになったつくしをあきらが抱きかかえる。
間近になったあきらの顔を見たつくしが、顔を真っ赤に染める。

―――――ドキッ

そんな表情のつくしにあきらはどぎまぎする。

「ほらっ、行くぞ」

あきらはつくしの手を取って東屋に向かった。
趣のある和風の建物の東屋の縁側に腰を下ろした二人は、そのまま夜空を見上げた。
そこには仄かな光を発する三日月が輝いていた。

「美作さん、覚えてる?」
「ん?」
「いつだったか、公園でこうやって三日月を見たことあったよね」
「ああ」

(忘れるわけがない)
(あのとき、俺は牧野への想いを自覚したんだ…)

「あたしね、久しぶりに道明寺に会って、何か違うって思ったんだよね」
「違うって何が?」
「だから…、よくわかんないんだ」
「わかんない?」
「うん。嬉しいんだけど、何か普通に友達が帰ってきたような感じ…かな?」
「ふ〜ん、そっか」
「うん」

つくしの中で、司への想いが変化していたのをあきらは感じ取った。
もし…。
もし、自分が側にいなくなったら…。
つくしはどう感じるんだろうか。
あきらはふと思った。

「俺さ、来週からベルリンなんだ」
「え?」
「しばらく向こうにいることになると思う」
「……そう…なんだ…」

つくしの顔が曇る。
そんなつくしの表情を見たあきらは、ブレーキが壊れそうになる。

―――――自惚れていいのか?
―――――牧野は俺が側にいなくなることを寂しいと思ってくれるのか?

「一緒に行くか?」
「え?」
「俺と一緒に、ベルリンに」
「どうして?」

理由…。
正直に言ってもいいんだろうか。
あきらは逡巡する。
二人はしばし、無言で見つめ合った。
そんな二人を三日月が照らす。

「……側に…、いてほしい」
「美作さん…」

ブレーキが利かなくなったあきらは、つくしを抱き締めた。

―――――こんなに華奢なんだ…

あきらは、自分の中でこんなにもつくしへの想いが大きくなっていることを初めて自覚した。
どうせ親に決められる未来。
それならば後腐れのない相手と恋愛ごっこをするのがいい。
そう思い続けてきたあきら。
恋愛ごっこでも傷つくことはあった。
それも経験の一つだと思っていた。
だけど、本当に愛おしいと思える女を初めて胸に抱いた今、それはすべて偽物だったんだと悟る。

「牧野、俺はおまえが好きだ」
「……」
「誰にも渡したくない」
「美作さん…」
「少しでも離れていたくない」

抱き締める腕に力がこもる。
まるで、裁きが下る瞬間のようなこのひと時でも、つくしから離れたくなかった。
そんなあきらの胸を、つくしがそっと押す。

「あたしね…」

俯きながらつくしが口を開く。

「あたし、美作さんが好きだよ。それはたぶん一人の男性として。だってね、今、ベルリンに行くって聞いて、一緒に行きたいって素直に思ったもの…」
「牧野…」
「だけどね、まだ、今、自覚したばっかりなんだ。だから…」
「だから?」
「少しだけ時間がほしい」
「何で?」
「美作さんのことが、本当に好きなのかを自分の中で確かめたいから」
「……」
「ずっと一緒にいてくれたから、わかんなかったのかもしれない。だからちゃんと自分と向き合いたい。ちゃんと素直な気持ちになれたら…」
「そうしたら?」
「すぐにベルリンに行くよ」

ニコッと笑うつくし。
あまりに愛おしくて、あきらはつくしに唇を落とす。
そっと掠めるように。

「あんま、待てねーぞ」
「たぶんね…」
「……」
「すぐ行っちゃうと思うよ」

真っ赤になって俯くつくし。
そんなつくしの顎を持ち上げ、あきらは深いキスを落とした。
ゆっくりとつくしの口内に舌を差し入れ、優しく刺激していく。
つくしの髪の毛に掌を差し入れ、甘くそして情熱的なキスをする。
溢れるほどの想いを込めて。

「じゃ、次に会うときは鉄パン卒業だな」
「なっ!何言ってんのよっ」
「優しくしてやるからよ」
「行かないかもしれないじゃないっ」
「いや、来るね」
「わかんないじゃない」
「素直じゃないね〜、体は素直なのに」
「え?」
「ほら」

あきらは浴衣越しに感じたつくしの乳首を弾く。

「あン」
「そんな声出したら、ここでしたくなるだろ」
「ここじゃ…」
「だから、一日も早くベルリンに来てくれ」
「うん」

再び唇を重ねるあきらとつくしを、三日月が優しく微笑んでいた。






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