スペシャルセクシャルレッスン
西門総二郎×牧野つくし


「牧野、ちょっといいか?」

もうすぐ後期も終わりというある日、あたしは大学の学食で、いきなり西門さんに声をかけられた。
周りで食べていた女の子達が、一斉に振り向く。
ちょっとお、こんなトコで声かけないでよ〜。高校とは違って、こっちでは平和にやってるんだから・・。

「いいけど・・・何?」

周りを気にしながら小声で話すあたしの意図を気づいた風もなく、西門さんはあたしの前に座る。
さらり、と長い前髪から覗く瞳は、相変わらず魅惑的だ。
西門さんは、周りの女の子の心を、軽い笑顔であっさりわしづかみにした後、あたしに向き直る。

「お前、司と最近、やってないんだって?なんで?」

ぶっ!!と噴き出した水が、西門さんの顔を直撃する。

「きったねー、お前、何すんだよっ!」

ちょっと!!それはこっちのセリフよっ!こんなトコでいったい何言い出すのよっ!!!

「・・・で?それ以来、自信喪失したと・・・。」

西門さんが、ふう、と大きなため息をつく。
間違っても他人に聞かれたくない話なので、あたしは西門さんの家までついてくるハメになった。
全体は、和風のおうちなのに、西門さんの部屋は殺風景な洋室だった。
意外なほど難しそうな本がたくさんあるだけで、あとは大きなテレビとベッド。

「お前、理由も言わずにおあずけばっか食らわしてると、司浮気するぞ?
 あいつ、マジで悩んでるみてえだし。このままだと、お前らヤバいって。」

と脅されちゃあ、このままにしておくワケにもいかない・・・。
あたしは、何でこんなことをこの人に、と思いつつ、涙ながらに先日の情けない思い出を話したのだった。

「よっしゃ、分かった。俺がお前を色気あるオンナに改造しちゃる。」

・・・・え?

「か、改造って、どうやって・・?」

いぶかしむあたしの顔の前に、西門さんは、人差し指を突き出す。

「車に乗らずに、運転うまくなるか?本読んで、水泳やスキーが上手くなるか?」

そ、それってもしかして・・?

「ま、まさか、西門さん・・?」

西門さんは、何か思いついた時独特の企み顔で、あっさり言う。

「じゃーん!名づけて、総先生の、スペシャルセクシャルレッスン〜!!」

そんなの名づけるなあああ〜!!

あたしは、ぶんぶん首を振る。

「え、遠慮しとく!あ、あたし、好きじゃない人と、そんなコトできないし!」

西門さんは、これだからオンナは、とあきれたようにつぶやく。

「・・・じゃ、そのままで『好きな』司と二度とできなくていいのかよ?
 安心しろって、俺にとってお前とヤることなんて、なんの意味もねえから。
 さて、とそうと決まったらまずはシャワーだ。俺、用意あっから、ゆっくり入ってきな。」

ぽんぽんと、そう言うと、彼はバスタオルをあたしに投げて続きの部屋にあるシャワー室へとあたしをいざなった。

え、え、えええ〜〜!?

あたしは、シャワー室の中で立ちすくむ。
道明寺の親友である西門さんと・・・あ、ありえないでしょう、そんなの!

「に、西門さん、あたしやっぱり・・・。」

扉を開けると、西門さんはもう居なかった。
代わりに、お手伝いさんらしき女性二人が入ってきて、「失礼しまーす。」とさっさとあたしの服を脱がしだす。

「い、いいです!自分でやります!」

仕方なく、バスルームに入って、コックをひねる。

「何か必要な物、ございませんか?」

と、外でお手伝いさんたちが待ってる声がする。

う・・・入らないワケにはいかないみたい・・・。

いったいなんでこんなコトに!?と、とりあえずさっさと浴びて、服を着なくちゃ。

自分の服を入れたはずの籠には、仕立てのよさそうな絹のガウンだけが入っていた。・・・あたしの服は!?
仕方なくそれを身に着けて、おそるおそる扉を開ける。
キャンドルの、オレンジ色の光に浮かぶ、二つのワイングラス。

「西門さん・・・?」

おそるおそる呼ぶあたしを、背後から西門さんが抱きしめた。

「総、って呼べよ・・・今夜だけ。」

耳元で囁かれたのは、あたしが今まで聞いたことのない、西門さんの声だった。

「あ、あたし・・・んんっ!」

振り向こうとするあたしの唇が、ワインの香るキスで封じられる。

「・・・・・そうやって、隙がねえから色気ねえんだよ。真面目なだけなオンナなんて、可愛くねえぞ。
 ・・・絶対司にはバラさねえし・・大体司のためなんだからよ・・・。
 もっと、淫らになってみな。・・・・・素直に、キスに答えてみろよ。」

西門さんの、甘い声が耳に心地よくて、あたしは思わず身体の力を抜く。

「んん・・・。」

右から、左から・・・貪るように、深いキスを重ねる。
彼の大きな手のひらが、あたしの背中を滑り落ちる。
もう片方の手が、うなじの辺りを支えながら、何度も舌を求められた。
情熱的なキスに、あたしはくらくらと何も考えられなくなっていった・・。


俺は初めて間近で見る牧野の表情に、驚いた。
いつも、大口開けてしゃべってっから分かんなかったけど、コイツ、近くで見ると結構可愛いじゃんか。
大きな黒い瞳を縁取るまつげが、驚くほど長い。
小さな唇が、何か言いたげに動くのを、俺は長いキスで封じ込めた。
俺の、真面目なだけの・・なんてコトバにたぶらかされた牧野は、ふっと身体の力を抜いた。
耳たぶにキスを落とし、ガウンの上からやわやわとした胸を探る。
一年前までは、どう大きく見積もってやってもBカップだったのに、今は少し膨らみを増している。
司に抱かれて、オンナになったからかな。
俺は胸の奥に、ほんの少しジェラシーを感じた。

「あっ・・・。」

胸の頂きに指が至ったとき、初めて牧野が声を漏らした。
自分の声に恥らうように、目を伏せる牧野。

「・・・いいね、可愛いよ、牧野。・・積極的なだけが色っぽいんじゃねえ、そういう表情も、ぐっとくる。
 ・・・けど、お前の声、結構色っぽい。・・・もっと、聞かせてみろよ。」

緩んだ襟元を隠すようにする牧野を抱き上げて、ベッドに移す。

「あたし・・・こんなコトしちゃったら・・・道明寺に・・。」

往生際わりいなあ、俺は牧野の額にこつんと自分の額を預けて諭す。

「ブブー。十点減点。他のオトコの名前ベッドで言うなんて、マナー最低。」

牧野は、最低、と言われて、思わずといった様子で「ご、ごめんなさい」と謝る。
うん、素直なイイ子だ。オンナは素直なのが、一番だかんな。

耳の後ろ側から、首筋にキスの雨を降らせる。
その間にも、胸への愛撫を続ける。
ガウンの隙間から伸ばした指が捉えた蕾は、すっかり固くなっている。
襟元をはだけさせて、先端を口に含む。
小さな野イチゴみたいな、乳首。
舌で、揉むように刺激を与えると、牧野は俺から逃れようとするかのように、身体をよじりながら、声を堪えている。

「・・・感じるのが、悪いコトだと思ってんの?
 ・・・オトコはさ、感じてくんないと、さびしーんだぜ。・・・・もっと、力抜いて、ただ、感じろよ。」
「う、うん・・・。」

牧野は、素直に目を閉じて、大人しく俺に身体を預ける。
再度、片方の胸を手で、もう片方を舌で撫でる。

「あ、・・・ん、ん、・・・うん・・。」

少し鼻にかかったような吐息がなまめかしい。
俺は、こんな声聞いたこと知ったら、司に殺されるな、と思いながらすべらかな肌を思う存分味わった。

雪のように白い肌には、寒さのためなのか、・・それとも緊張しているのか、鳥肌が立っている。

「・・・寒い?」

両手で、寄せるように胸をたわませながら聞くと、牧野が迷うように頷く。
俺は、自分も服を脱いで、牧野をぎゅっと抱きしめた。

耳元で、「今、熱くしてやるよ・・。」と囁きながら細い腰に手を回し、もう一度深く舌を絡める。

「ん、ふ・・。」

抗議の声を閉じ込めながら、俺はガウンの紐をほどいて、牧野の下半身に手を滑り込ませる。
指がたどり着いた牧野の中心は、もう十分に潤っていた。
俺は、少し安心して中指を慎重に下へと動かす。

「ああっ・・・やあ・・。」

人差し指と中指で、芽を挟んで震わせると、牧野がぎゅっと膝を閉じようとする。
俺は自分の足を牧野の両足に挟みこんで、ぐっと股を開かせる。

クレバスを、ゆっくりと上下しながら、泉の周りをぐるりと愛撫する。
俺はわざと指で、泉を波立たせて、大きな水音を立てる。

「やあ、や、ああっ・・・んんっ・・・!」

浮いた腰を押さえつけて、一気に指を挿入した。

「あ・・・っ!やあっ、あ、あ、あ、・・・んんん・・やあ、ああっ!!」

左右に振りながら、奥へ、奥へと何度も入れると、牧野の声が、だんだん高まってきた。
おっと、こんなトコでいってもらっちゃあ、困るんだな。
俺は、すばやく指を引き抜くと、牧野の間に身体を割り込ませる。
身体を、ずり下げて泉に顔を近づける俺を見て、牧野が慌てて膝を閉じる。

「だ、だめ!そんなの絶対だめっ!
 あ、あたし、そんな恥ずかしいこと、したことないし!!」

真っ赤になる牧野が可愛くて、俺はまたからかう。

「あー・・・それだわ、きっと、お前に色気ねえ理由。・・・・そういう、セックスは恥ずかしいとか汚いっていう思い込みが、
 いけねえんだよなあ・・・。」

うんうんと頷く俺に、「・・・そうなの?」と牧野が泣きそうな目で訴える。

くくく、かわいすぎ、こいつ。
こいつに断られて、クンニもできてねえ司も可愛いけど。

ようやく大人しくなった牧野の茂みを、そっと舌で濡らす。
もっとも、必要ないくらい潤っていたけれど。
ぬめりのある液の絡まる扉を、そっと開く。
ひくひくと蠢く、芽を尖らせた舌で舐め上げる。

「きゃっ!・・・ご、ごめんなさ・・・あっ!」

思わず高い声を上げた牧野は、両手で口を押さえる。
俺がされるんじゃなくて、こんなんするなんて、激レアなんだかんな。
ま、牧野にこんなんできんのもレアだから、おあいこか。
余程耐えられないのか、腰をよじりながら膝を締めてくるから、息苦しい。
ま、もういいか。もう、すんげえコトになってるし、俺もそろそろ中、入りたいし。
俺は、ごろんと横になると、牧野の細い腰をつかんで、よっと自分にまたがらせた。

「え、・・・え?」

牧野の瞳が、とまどいながら俺に訊く。まさか?と。そそ、そのまさかです。

「あのなあ、これで俺が上から入れちゃったらいつものと変わんないでしょ?
 これはあくまでもレッスンなんだからよ、お前がなにがしかのワザ身に着けなきゃ。」

俺の分かったような分かんねーような理屈に、しぶしぶ頷く牧野。

「・・・さ、自分にあてがってみな。・・・どこか分かる?」

牧野は泣きそうな顔をして、自分の扉を指で開くと、恐る恐る腰を落とす。

う・・わ・・こいつん中、狭!

牧野が、少し身体を倒して、ベッドに手をつきながら、ゆっくりと動かす。

げ、すんげえ、いいんだけど。
・・・い、いかん、天下の西門様がすぐイッたなんつー不名誉な噂が広まるのだけは我慢できねえ。

俺は、頭の中でお袋の顔を思い浮かべながら、原子の組成表を順に思い出す。

「う・・ん、ん、ん、・・。」

やりにくそうに動く牧野の両手と、手をつなぐ。

・・・だめだ、もう我慢できん。

俺は、当初の目的なぞ頭から追い出しつつ、牧野の奥へと突きはじめた。

「いやあ、あん、あ、あ、あ、ああっ、あ・・うん・・・!」

俺の律動に合わせて、牧野の声も高まる。

わ、もう、マジやべ。

揺れる牧野の胸に、俺はますます昂ぶる。
俺は初めて自分が完敗したことを悔しく思いながら、牧野の中に、快楽を解き放った・・・・。

シャワーから戻って来た西門さんを、あたしはワイングラスを持ったまま見上げる。

「・・・どした、牧野。」

西門さんは、ごしごしと髪を拭きながら、自分もグラスにワインを注ぐ。

「・・・西門さん、あたし少しは色っぽくなったかなあ・・・?」

さっきから、襲い掛かってきている後悔に少しでも救いが欲しくてあたしは尋ねた。

「大丈夫だって。大体、司のあのセリフ、お前の誤解なんだから。」

あたしは、西門さんの言葉の意味が理解できない。

・・・どういうコト?

「だからあ、そん時あいつが色っぽいっつったのは、オンナじゃなくて、乗ってた車なんだとよ。
 さっき、電話であいつに聞いたんだから間違えないって。」

にっこりと笑う西門さん・・・いや、西門のヤロー!

「電話で・・・って、あたしがシャワー浴びてる時に!?」

問い詰めるあたしに、ヤツはあっさりとそうそう、と頷く。

「え、えええっ!?じゃ、じゃあ、こんなレッスン、意味なかったんじゃない!!」

がしゃん、とあたしが落としたグラスを、心配そうに光に透かす。

「お前、これバカラだぞ?」

今、そんな話してる場合じゃないでしょ!?

「・・・意味なら、あるって。お前、色っぽいオンナの条件、何か分かるか?」

あたしは、さっきのヤツのセリフを思い出す。

「・・・隙があるコト・・?」

ヤツは、そそ、覚えてた?と微笑む。

「あと、秘密があるオンナ。何もかもガラス張りのオンナなんて、はっきり言って、面白くねえな。
 で、牧野はこれで晴れて司に秘密持てたじゃん?
 さっきよか、格段に色っぽくなったぜ。
 ・・・・あ、言っとくけど、隙があるっつーのと、ヤりまくりっつーのは別だかんな。
 本命と対張れるくれえ、イイオトコと寝たときだけだかんな、色気上がるの。
 クズみてえなオトコと寝たら、オンナさがるばっかだかんな、以上、総先生の授業お終い!」

とくとくと語る西門のバカに、思いっきりパンチを食らわす。

「いってえ!お前、色っぽくなりてえオンナが、グーでパンチするか、普通?」

ごちゃごちゃ言う西門を置いて、あたしは部屋を出る。
いつの間にか部屋の前に畳んであった服をつかんで、もう一度シャワールームに戻ると、今度は念入りに身体を洗った。

・・・・秘密・・・秘密で色っぽくって・・・ああ、そんなバカな理由で西門なんかと・・・。

あたしは、目の前が真っ暗になる。

・・・その上、くやしいけど気持ちよかった・・・。

あたしは、今日のことはなかったことにしよう、と思いつつ、西門にもがっちり口止めしなきゃ、と勢い込んで部屋に戻った。
部屋にはもう、彼の姿は無く、テーブルの上に、メッセージが残っていた。

「これ以上殴られんのたまんねーから逃げます。
 司との電話切ったあと、抱くの止めようと思ってたんだけど、シャワー浴びたお前が色っぽかったから、つい。
 牧野、お前マジで良かったから、自信持っていいぞ。
 また、いつかしようぜ。   総」

あたしは、ぐちゃっと紙を握り締めて叫んだ。
また、なんかあるもんか、このスケコマシヤロー!!
あたしは、今度道明寺に会うとき、自分が平気な顔を出来るか不安に思いながら、残ったワインを一気に飲み干したのだった・・。






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