一期一会
西門総二郎×牧野つくし


いつのことだったか、牧野が急に聞いてきたことがあった。

「そういえば、西門さんって次男なんだ」
「なんだよ、急に」
「いつだったかな、前に誰かの家で写真見たことあるのよ、西門さんの兄弟の」
「お前な、普通、名前で判るだろ。俺は『総二郎』なんだから」
「ううん。そうじゃなくて、弟さんもいるなんて知らなかったから」
「ま、あんま仲良くねーけどな」
「でも、そんな感じ」
「あ?」
「西門さんって、中間子って感じがするなって」
「なんで」
「何か、西門さんって、甘えたくても甘えられない状況にあった気がする」
「…」
「あたし、長女だからなんとなく判る。本当は甘えたかった時期があったのに、弟が出来て、それが出来なくなっちゃうの。西門さんって、本当は今でも甘えられる相手を探してるんじゃないかって」
「ばか言ってんなよ、そんな訳ねーじゃん」
「はは。そうだね」

牧野はおどけて笑う。俺も少し笑った。
でも内心、驚いてた。マジ、痛いところを突かれたって感じだった。間違っても表情には出さないけど。
こいつ、意外に鋭いヤツなんだなって思った。
そんな矢先、俺のオヤジとお袋の仲が益々険悪化していった。
そして俺は益々、家に寄り付かなくなっていった。

いつもならこんな量で酔ったりしない。いつものペースで飲んでたはずなのに、今日は逆に酒に呑まれていた。
両親のゴタゴタとか、兄貴のこととか、弟のこと。全部うざったくて忘れるために飲みに来たのに。
しかも、バカ騒ぎするつもりで飲みに誘ったあいつらはみんな急に都合が悪くなって、現地に現われたのは牧野だけ。
仕方ないので牧野相手に飲み始めて。
でも結構楽しかった。最初はいつもみたいにバカ話してたのに、そのうちに愚痴っぽくなって。
カッコ悪ぃ。そう思うんだけど、言葉が止まらなかった。
牧野は相槌を打つだけで、とにかく俺の話だけを聞いていた。

「全く、どうしろってんだよ。こんな状態の家なんか継いだってどうしようもねー」

自嘲しながら笑ってみる。

「でも」

牧野が口を開く。今日初めて俺の話に口を挟んだ。

「でも、そんなお家だから、継ごうと決めたんでしょ?」
「?」
「西門さん、自分が継げば、わだかまりも無くなって、昔の仲良しだった家に戻せるって思ってる。そうでしょ?」
「…」
「それに、西門さん、口ではそう言ってても茶道を愛してる。イヤイヤやってるように見えないもん」

牧野の笑顔。こいつは意識してるんだろうか?今、俺の一番深い部分を掘ったんだぞ、お前。
いつもなら、『判ったような口を利く女』と一蹴しているところだ。
でも、そうは出来なかった。多分俺は、今の牧野の笑顔に癒されてる。

「…牧野」
「ん?」

首を傾げて聞き返す牧野の腕を掴んで、店の外に出る。

「ちょっと、何、西門さん?」

牧野には返事をしないで、右手を挙げてタクシーを停める。
有無を言わさず牧野を乗せた後に俺も乗り込んで、行き先を告げる。

「インペリアルホテルまで」
「ほ、ホテルっ?!」

牧野が仰天した表情で俺を見る。

「な、ななななにっ、どどっどど、どうして?!」
「うるさいな、黙ってろよ」
「黙ってなんかっ…」

牧野には最後まで言わせなかった。
俺が、牧野の唇を、俺の唇で塞いだから。

「んっ…っふ…っ…」

目を閉じていても判る。きっと牧野は目を見開いて俺の行動に愕然としてるはずだ。
まだ、じたばたと暴れている牧野の体を俺の腕で包む。

「んんっ〜〜っ…」

『離せ』といわんばかりにもがいている牧野。まったく、どうしようもないじゃじゃ馬だな。
そうこうするうちにホテルの前に到着した。
料金を払って、再度牧野の腕を掴んでロビーに入る。

「か、か、帰るっ!」
「ロビーなんだから、おとなしくしてろよ」
「何考えてるのよ、西門っ!」

構わず牧野を捕まえたままで、フロントからキーを預かる。
エレベーターを最上階で停めて、目の前にあるドアにキーを差し込む。

「ど、どうしようってのよっ」

部屋に入るや否や、牧野が睨む。
俺はその表情に少し笑って、正面から牧野を抱きしめた。

「…西門さんっ…?」

俺の鼓動が聞こえるか、牧野?この完璧な俺が、今からお前にすっげー恥ずかしいことをお願いするからな。

「牧野。今日だけ。今晩だけ、お前に甘えさせてくれるか?」
「は?」
「…前にお前が言ってた言葉。あれ、あながち外れてないぜ。俺、誰かに甘えたかった」
「西門さん…」
「ダメか?」
「そ、そんなこと言われても…」
「ダメって言われても、ヤッちまうから」
「へ?」

俺の唇はまた牧野の唇を奪う。
牧野の唇は頑なに閉じられたままだったが、俺は開くように誘導していく。
そっと吸って、挟む。呼吸を押し入れるようにして、牧野の唇を味わう。

「んっ…っぅ…」

次第に開かれる唇の中に、すっと舌を差し入れて牧野の口の中へ侵入していく。
牧野の舌は、奥のほうに潜んでいた。それを俺の舌で捕らえて、小さく絡める。

「んぅっ……」

牧野の少しずつ呼吸が荒くなる。
右手で小振りな乳房を、服の上から揉んでいく。柔らかい感触。

「んっふ…」

呼吸から漏れる牧野の吐息に、我慢が効かなくなっていく。
俺は立ち膝になり、牧野の腰に腕を廻して抱きしめ、胸の谷間に頬を寄せた。
牧野の腕が俺の頭を包み込んでゆっくりと撫でて行く。

…安心する。こんな穏やかな気持ちはいつ以来だろう…。

「西門さん…もう抵抗しないから、甘えていいよ」

牧野の優しさを含んだ声音を聞いて、もっと強く牧野を抱きしめる。

「牧野…」

ベッドの上で牧野の服をすべて脱がせていく。
牧野の白い肌が露出していく度に、俺の鼓動が早まる。まるで童貞みたいじゃねーか、これじゃ。
俺自身もすべて脱いで、牧野の上に体を被せる。
両肘で自分の体を支えて、その手で牧野の髪を撫でる。
急に愛しくなるその唇にキス。深く吸って、また舌を絡める。

「んっ…っ…」

小さな乳房をゆっくりと揉む。頂上はすでに固くなっていて、摘むとピクンと牧野が跳ねる。

「あっ…西門さんっ…」

耳朶を軽くかんで、その鼓膜に囁く。

「牧野…今日だけ、『総』って呼んでくれ」

小さく頷くと、即座に俺を呼ぶ。

「…総…」

牧野は俺の名前を呼んで、腕を俺の首の後ろに廻し、さっきみたいに頭を撫でていく。
俺のことを『総』なんて呼べるオンナなんて、数えるほどしかいないんだぞ、牧野。
牧野の首筋に軽いキスをしながら、指先で腰をなぞる。
腰が弱いのか、ぴくぴくと腰を浮かせる牧野。こんな色気のある動きをされたら、堪らない。

「あっ、あっ、あっ…」
「もっと声出していいよ」
「やっ…バカ…」

牧野のこの時の声って、すげー色っぽくなるんだな。
もっと声を聞きたくて、腰への愛撫を続ける。骨盤の辺りが一番弱いらしい。

「やっ…ああっ…あっ…んんっ…」
「牧野、すげー色っぽい…ずっと見ててーよ」
「ああっ…やだ…はぁっ…んんん…」

そのまま指を下腹部へ進めると、牧野の茂みに隠れた泉はもう潤い始めていた。
茂みの中の小さな突起を指先で見つけて、重点的に攻めると同時に、乳首を口に含んで、軽く歯を立てて吸う。

「ああっ…だめっ…んんんんっ…総っっ…」
「ダメじゃないじゃん、どんどん溢れてくる…」
「ぁんっ……んっ…」

牧野の乳首を吸い続けて、更に泉を溢れさせていくと、程なく湿り気を帯びた水音が聞こえてきた。
いつもオンナを抱くときは、もっと入念に愛撫するけど、今日の俺は性急だった。
顔を上気させて俺を呼ぶ今まで見たことのない牧野の中に、早く入りたかった。
体を起こし、牧野の足を少し広げて、足と足の間に膝をつく。
敢えて牧野に何も言わずに、俺自身を牧野の泉に沈めていく。

「あっ…あっ…あああっ…」

うわ言のように喘ぐ牧野。その声に背中を押されながらもっと奥まで突き入れる。

「あああっ…んんんっ……総っっ…」

牧野の中は暖かかった。優しく包み込まれているように感じる。
根元まで差し入れて、少しずつ動いていく。

「あんっ…ぅぅんっ……はぁっ…はぁっ…」

牧野の小刻みな喘ぎと呼吸が、俺を突き動かしていく。

「あぁ…牧野…」

俺の吐息も次第に荒くなる。

「ああっ…総っ……ぅぅんんっ…」

牧野が腕を俺に向かって広げる。誘われるようにして、俺は前かがみになって牧野の肩に顔を埋める。
頭を抱きしめられて、髪をクシャっと掻き回される。と思えば、手櫛するみたいに指で髪を梳いていく。
俺と、牧野の腰の動きは止まらない。やべ、すっげえいい…。
頭を起こして牧野の唇にキスをする。

「んっ…んっ…んっ…」

激しく舌を絡ませて、牧野の唾液を吸い取る。互いに呼吸困難になりながらも、唇を離さない。
腰は更に動きを増して牧野の腰に打ち付ける。

「あっ…あっ…あっ…あっ…」

唇を離すと、腰の動きと同じリズムで牧野が喘ぐ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

俺も呼吸が苦しくなり始めた。限界が近づいてる。

「ああっ…総っ…っ……あたしっ……っ…」
「牧野っ…イキたかったら、イッて、いいぞ…」
「あぁぁっ…ああんっ…はぁっ……っ…ダメっ!!……っ…!!」
「俺もっ……」
「…………ああああんんっっっっっ!!」

牧野の体が弛緩するのとは逆に、中はヒクヒクと締め付けてくる。その動きの良さに、俺も堪え切れない。

「………くっっ……!!」

中に出すのはまずい。最後の理性が働き、俺は速攻で抜いて、牧野の腹の上で果てた。

気がついたとき、俺は横向きで牧野の腕の中にいた。
同じく横向きの牧野に頭を抱きしめられて、腕枕されながら横たわっているなんて、プレイボーイの名が廃る。
でも甘えたいと言ったのは俺の方だし、実際、こうされているのはとても心地よかった。
もぞもぞと頭を動かして牧野を上目使いで見る。

「あ、起きた?」
「…あ、ああ…」

目が合って、なんだか気恥ずかしくなる。酔っていたとはいえ、こんな一面を牧野に見せてしまった。

「西門さん、頭、重い。痺れちゃったよ」

牧野の呼び方が、いつものそれに戻っている。
そうか。多分、こいつはわかってる。さっきの行為は、今日この時だけに許された、愛し合う時間だったことを。
ふっと口元を緩めて笑う。

「…一期一会、か…」
「なに?それ」
「いいや、なんでもないよ。ありがとな、牧野」

お互い、まだ裸だ。けど、唇を合わせることはしない。
そう、さっきまでの時間が、俺と牧野の一期一会だったんんだから。






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