あっためてあげます
西門総二郎×松岡優紀


「俺がリードするよ」

そういったものの内心はこの上なく緊張していた。
バージンである優紀ちゃんに俺がうまいかどうか見定められるはずもないのに、あの時はそんなこと少しも考えられなかった。
この爆発しそうな心をどうにかして彼女に悟られないようにするのに必死だった。

以前二人で行ったあのホテルを選んだのは、もう一度あの時からやり直したかったから。

緊張する・・・・そう言っていたわりに彼女は妙に落ち着いて見えた。
クローゼットからハンガーを取り出して自分のジャケットをしまう余裕さえあるようだ。そんな彼女の仕草をじっと見ていると

「西門さん・・・」

彼女が手を差し伸べる。

「あ、ああ・・・」

思わずその手を握り返してしまった俺に対して、くすっと小さく笑うと

「そうじゃなくて・・・コート」

彼女がそう言った。
はっと我に帰る俺。
これじゃ遊び人の名が泣くぞ。

「いいよ。自分でするから」

高ぶる気持ちを悟られないように俺はコートを脱いだ。

「シャワー浴びてくる」

一言そう言い残し、俺はシャワールームに向かった。
ドアノブに手をかけながらできるだけさり気ない様子で彼女に声をかけた。

「優紀ちゃん、もし気が変わったら、俺がシャワー浴びてる間に帰っていいから」

少しぬるめのシャワーを浴びながら、俺は今自分の口から出てきた言葉を思い切り後悔していた。

帰ってなんて欲しくない。
でもこれほどまでに緊張している俺の姿を見せたくはない。
だけど・・・・こうしている間にも彼女は俺の言葉どおり部屋を出て行ってしまうかもしれない。
こうしてる場合か・・・・?

濡れている身体をほとんど拭きもせず、腰にバスタオルを巻きつけただけの姿でバスルームから飛び出した。

「きゃっ、いきなり・・・・どうしたんですか?」

髪から体中から、しずくをぽたぽたたらしながら出てきた俺を見て、優紀ちゃんは目を丸くする。どうやら帰るつもりはなかったようで俺は胸をそっとなでおろす。

「優紀ちゃん・・・・」

遊び人のプライドとか沽券だとかそんなこともうどうでもよくなっていた。
そんなこと考える余裕なんてなかった。
ただ黙って・・・彼女の身体を抱きしめていた。

「に、西門さん・・・・」

俺に抱きしめられながら、優紀ちゃんがほとんど聞き取れないほどの小さな声でつぶやいた。

「あ、あの・・・・あたしもシャワーを・・・・」
「そうさせてあげたいけど、でも、だめだよ」

そういいながら彼女をほとんど抱きかかえるような格好でベッドに連れて行く。

「え、でもそれじゃあ・・・」
「いいんだ、優紀ちゃんの気が変わらないうちに」

何やってんだ、俺。その辺の高校生じゃあるまいし、これじゃ盛りのついた犬だよ。
彼女の目にもきっとぶざまな男に映ってる。
そう思いながらも、湧き上がる感情を抑えられず、俺はなかば強引に彼女をベッドに寝かせ、上へとのしかかる。

「あの・・・西門さん・・・何かいつもと違ってません?」

俺の身体の下で少し微笑みさえ浮かべながら優紀ちゃんが言った。

くそ・・・見抜かれてる

「少し・・・ね」

軽く触れるだけのキス。
そのまま何度もキスを繰り返すと俺の中で少しだけ余裕が生まれてきた。
反対に彼女の顔には余裕がなくなってきているようで、肩が顔がこわばっているのがありありとわかる。
正直ってバージンは苦手だった。
今までに何度か頂く機会はあるにはあったが、後で必ずと言っていいほど尾を引くことになる。まぁ、それも俺のテクニックのなせるワザなのだが。
「チャランポラン」それをモットーに生きてきた俺にとっては、手編みのマフラーとかと同類でちょっと重過ぎる。できれば遠慮したい相手だった。

だけど、今は違っていた。
優紀ちゃんの初めての男が俺であること、その事実がこの上なくうれしい。

もしかしてこれが恋なのか・・・?

突如頭に浮かんだそんな考えが頭の中を離れないでいる。
慣れというものは恐ろしいもので、頭の中がそんな状態であっても手はまったく別の動きをすることができるものだ。
これまでの経験のレコードを更新させるような驚異的なスピードで俺は優紀ちゃんの服をすべて取り去ってしまった。
頬を上気させ所在無い様子で目をそらしている、そんな彼女の姿を見ていると、俺は早く彼女を、自分の、自分だけのものへとしてしまいたい、そんな思いで一杯になってきた。
唇を重ねたままで、手をうなじから鎖骨へと滑らせる。

「あっ・・・」

途端にびくっと身体を震わせる。肩が今まで以上にこわばったのがわかった。
彼女の緊張を取るために、重ねた唇からゆっくりと舌を差し入れる。
彼女の舌を絡め取るようにその奥を何度もなぞった。
貪るような激しいキス。
驚いて離れようとする彼女の上唇を軽く噛み、両方の頬を俺の両手で挟み込んで逃げられないようにとつかまえる。
最初はこわごわ応えていた彼女の舌が次第に俺の舌に応えてくれる。
たどたどしい優紀ちゃんの舌の動きに、背中がぞくぞくするほどの快感を感じながら
早く彼女のすべてを奪ってしまいたい、そんな衝動を押さえるのに必死だった。

あたしって外見はおとなしそうに見えるらしいんだけど、中身はいたってふつーの高校生だと思う。学校の友達から散々いろんな経験談なるものを聞かされて、知識だけは十分だった。いわゆる耳年増。
普段はあんなに活発なつくしのほうがよっぽど純情で、そういう点では奥手だといつも思っていた。
そんなわけで「あっためてあげます」なんて大胆な台詞が口から飛び出したのも、自分で驚いたけど、いつかはロストバージンしなきゃいけないんだし、
それなら西門さんのような経験豊富な人なら申し分ないだろうっていつも思っていたから、こういうことになったのも、ま、いいかって感じ。
緊張してたのは事実だけど、前の時のようにあまり震えていたらまた途中で終わっちゃうかもしれない、そう思って私は、出来るだけ平静を装っていた。
でも、西門さんって・・・すごい・・・・そう思った。
想像通りというのか、いや想像以上というべきか、とにかく西門さんって・・・・
だってあたし自分で自分の服をいつ脱いだのか、よく覚えてないくらい。

気がつくと、西門さんの愛撫を受けて感じまくって喘いでいる自分がいた。

「気持ち、いいんだ・・・?」

あたしの顔を覗き込みながらイタズラっぽく微笑むその顔を正視できなくて、思わず目をそらした。

「いいよ。優紀ちゃんが答えなくても、ちゃんとわかってるから」

そういいながら、あたしの1番感じている部分へと手を伸ばす。

「え・・・?や、やだっ」

自分でもわかっていた。きっとすごいことになってる。

「すごい・・・・」

西門さんちょっとあきれてるかもしれない。

「もう、やだっていったのに・・・・」

恥ずかしがって真っ赤になるあたしの顔を自分へと向け、西門さんは目をじっと見つめる。

「なんで?俺に感じてくれたんだろ?」

ドキッとするほどの深い視線にあたしの胸が早鐘を打ちつづける。
これ以上見つめ合っていると心がどうにかなりそうで、あたしはぎゅっと目をつぶった。
すぐに感じる温かい唇の感触。そしてその奥から入り込んでくる舌は再びあたしの奥のそれを求める。

深いキスを交わしたまま、西門さんはあたしの感じる部分を確実に追い詰めてきた。
襞を何度か往復し、そのままゆっくりと侵入する。

「や、あぁっ・・・」

いつもあたしが1人でしてるときに、触れる場所。1番感じる場所。
なんでこの人、こんなに簡単に見つけちゃうんだろ・・・。
もう、そろそろ・・・きてる、

「や、だ・・めっ・・・」

制止しようとしたけど、間に合わなかった。頭の中白くなっちゃって、しばらく西門さんの顔が見れなかった。
どうしよう、初めてなのに目の前でいってしまった。ひたすら恥ずかしい・・・

「優紀ちゃん・・・て初めて・・なんだよね?」

ちょっと驚いたような西門さんの声。ああ、やっぱりそう来ると思った。

「そう、なんですけど・・・・」

もう、これ以上何をいえばいいんですかっ!あたしのこときっと思いっきり淫乱な女だと思ってるに違いない。そりゃぁそうかもしれないけど。でもでもっ、誓って男の人にこんな風にされるのは初めてなんだから。

「あ、気にしなくていいよ。俺がうますぎるからって」

は?なんておっしゃいました?
おもわず、吹き出すあたしの様子に西門さんはポーカーフェイスの表情を心なしか緩めた。

「それくらい、リラックスしてるならもう大丈夫かな」

素早くあたしの膝を割って、身体を入り込ませてくる。

「いっしょにいこうよ」

どこか出かけたい意味でそう言ってるんじゃないのはすぐにわかった。にっこりと、さり気なく、結構アブないことを言ってくる。
そう、この微笑みをあたしは好きになったんだ。どんなにつれなくされても、相手にしないって言われても、忘れようとしても、ダメだった。
「がんばれ」ってつくしの背中を押しながら、ほんとはあたし、自分の背中を自分で押してた。
こんな風に飛び込める勇気が欲しくって。

押し広げるようにぐぐっと西門さんのものが入ってくる感触、その予想していた以上の痛みに思わず体中がこわばる。

「だいじょうぶ・・・だから・・・力・・・抜いて?」

西門さんの指がやさしく頬をなぞる。西門さんの唇がもっとやさしくあたしの顔のあちこちに触れる。
あたしの身体の全部で西門さんに触れている。こんなに近くで西門さんを感じる。

「いたい?」

あたしの中に自分をすべておさめると西門さんはふうっと大きな息をついた。

「うん、思ったより・・・平気」
「そりゃ、よかった」

そういうと唇はすうっと鎖骨の辺りへと移動する。

「あっ・・・」

体中が西門さんで一杯って感じなのに、そんなことされたら・・・・

「やばい・・・」

え?それあたしの台詞なんですけど。

「やば・・・・そんなふうに動かれると俺、もたないかもよ」

え?あたし、何もしてないんですけど。

「ほら、自覚ないみたいだけど、身体が俺を困らせてる」

そっか・・・・あたしがどきどきするたびに、伝わるんだ。
意識すると余計に身体が反応するみたいで、西門さんは何ともいえない困った表情をしてみせる。

「この状態、かなりつらい。動くよ?」

そういうなり腰がゆっくりと動き出す。

「んんっ・・・・」

ちょっぴり痛いけど、その中に感じる寒気のような、背中をかけ上がるこそばゆい感じ。
こんなに、感じるものなの?初めてなのに?
次第になくなって行く痛みと引き換えに、再び、呼び起こされるさっきと同じ感情。
こんな風に何度もあたしの気持ちはあなたに連れ戻されてしまうのかしら・・・?
そう思ったのは一緒にイク瞬間だった。

「あたたかい・・・・」

優紀ちゃんを腕に抱きしめたまま、俺はつぶやいた。

「良かった。お役に立てて」

静かに微笑むと彼女は、すっとベッドを抜け出し、服を身につけ始める。

「え?行くの?」

予想外の彼女の行動に俺はたじろく。

「ええ、学校もあるし」

マジ?

「今夜も俺、心が寒くなるかもよ」

彼女はどう答えるだろうか。平然としてる彼女への精一杯の意地悪だった。

「そしたら、また呼んで下さい、」

あっさりとそういうと彼女は立ち上がった。
そのまま振り返りもせずに部屋を出て行こうとする。

「ちょ・・っと、優紀ちゃん!」

マジでいっちまうつもりなのか?思わず大声を上げていた。

「俺のこと、あっためてくれるっていったよな?」

優紀ちゃんはドアの手前で少し立ち止まったあと、ゆっくりこちらを振り返ったあと静かに部屋を出て行った。

「待てよ・・・っ」


まだ・・・心はさみーんだよ






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