ふたりだけのヒミツ 類視点
花沢類×牧野つくし


夢の中では何度も牧野を抱いてきた。
それでもそれを現実にしようと考えたことはなかった。
牧野には司がいたから。
司を本気で愛している牧野を理解しているつもりだったから。



もう何度目だろう。
後継者だから早く身を固めた方がいいと言われ、次々と持ち込まれる見合い話。
その場だけしなを作り、俺のブランド力に群がる女たち。
もちろん彼女たちだってそれなりのブランドだから、ぜいたくは言えないが、
それでも俺はやはり、牧野を求めていた。


その娘は意志の強そうな瞳をしていた。
真っ直ぐで意志の強そうな…そんな瞳。
今までイヤというほど女性に会ってきたけれど、この瞳には初めて出会った。
いや、正確に言うと二度目。
牧野つくしと同じ瞳を持った女…。
意志の強さと、たくましさと、そして満ち溢れる優しさをたたえた瞳…。
それが今度の見合い相手だった。


そもそも俺は自分自身を信じてないんじゃないかと思う。
牧野以外の女性を幸せにしたいという気持ちが持続することに、
どうしても自信が持てないのだ。
こいつとなら、お互いの関係を育てていけるかもしれないと思える女性に出会うことなんて、
もう不可能かもしれないとさえ思っていたというわけだ。


司と牧野が結婚した後、とりあえず、適当につきあってみた女性はいなくもない。
でもみんな、俺の心に本気で寄り添って来ようとはしなかった。
総二郎に言わせれば、女なんて、テクニックでどうでもなる…らしいが、
いくらそんなのを磨いたからって、思い通りになるものでもない。
結局、入りこんでほしくないところまで勘違い顔で入って来られるから、
俺にとってはテクニックなんて、迷惑以外の何者でもない。
そんなことまでが、はっきりとわかってきてしまった。

「牧野に似た瞳」を持つ女…。

ただそれだけで、なんとなく断りづらくて、俺は見合い相手とデートの予定を入れてしまう。
いや、入れられてしまうというのが正しいのだろう。
俺は見合い相手とのデートでさえ、情けないことに自分の意志では決めてない。
最近では結婚の日取りの話までが飛び出す始末だ。

断らない=結婚の意志
そういうふうにとられても仕方がない。

結局、初めて彼女と会ってから、既に三ヶ月が経過してしまった。
いくらなんでも、ずるずるひっぱりすぎだなと、我ながら思う。
それでも、彼女を捨てきれない。
きっと瞳が牧野に似ているから。

牧野が困っていたら、今でも力になってあげたい。
司がいるけれど、司のこともよくわかっている俺としては、
司がいたらない部分で、牧野を助けてあげたい。
それは男女の愛とかじゃなくて、もう肉親に近い感覚なのかもしれない。

…いや、それはきれい事だなって、ふと自嘲気味に思ったりもする。
牧野を抱きたいいう衝動を感じたことなんて、一度や二度じゃない。
牧野の前では、そんなそぶりは見せなくても、
何度夢の中で牧野を犯したかわからない。

俺が手出しをしなかったから、司と牧野はうまくいったんだって、
実はずーっとどこかで自惚れていた。
でもあいつらは運命だったんだって、最近になってようやく思えるようになってきた。
それでも牧野に愛された確証が欲しい。
愛した確証が欲しい。
それは、牧野と…。

見合い相手との何度目かのデートのとき、何かの拍子に、彼女が自分のことを話し始めた。

「私、連れ子なんですよ。小学生のとき、母親が今の父親と再婚したから。
それまではビンボーだったのに、周囲は手のひら返しちゃって、一夜にしてお嬢様扱い。
だから私、ちょっと人間不信のところがあるんですよね、きっと」

俺はちょっと面食らった。

「そんなこと、話していいの?」
「はい。最近では、インターネットで検索すれば、何でも出てきちゃいますからね。
そんなことより、類さんが、私のそういうこと知らなかったっていうほうが、ちょっとショックかなぁ…。
それだけあたしに…あっ、私に、関心がないってことなんですもの」

……『あたし』か。

彼女の言葉が、妙にツボに入って、俺は笑い続けた。
お酒が入っていたせいかもしれないけれど、あまりにもいつまでも笑い続ける俺を、
彼女は牧野の瞳で、でも穏やかに笑いながら、見つめていた。



数日後、さんざん悩んだ末、俺は牧野に連絡を入れた。
メールぐらいなら、今でもたまにはするけれど、
直接会おうっていう約束を取り付けるのは、本当に久しぶりだ。
今や牧野も、将来的に司の片腕となるべく、かなりのスケジュールをこなしながら勉強中だ。
時期後継者の立場の俺から見ても、かなりいい線いっていると思う。

俺が牧野と会ってから二週間が過ぎた。
その日の朝一番、牧野から直接電話がかかってきた。

「あたし…類と会う。明日水曜日の午後一時。場所は類が決めて」

そうひとこと言うと、電話は切れた。


ホテルの一室。
名目は打ち合わせ。
俺と牧野は会っていた。
高層階にあるホテルは、都会の喧噪からは全くかけ離れている。
冷房で心地よく冷やされているとはいえ、初夏の日差しは容赦なく部屋に射し込んでくる。

「この部屋、ずいぶん明るい…ね」

牧野が恥ずかしそうに言う。
俺は遮光カーテンをしめるが、それでも薄暗くなったぐらいだ。

「俺、先にシャワー浴びてくるから」

シャワーを浴びながら、柄にもなく手順を考えたりする。
初めてでもないのに、我ながら情けないな。
カシャっと音がしたので振り返ると、牧野がキャミソール姿で浴室に立っていた。
俺は牧野が濡れるのも構わず、そのまま抱きしめて唇を重ね、温かく柔らかい舌を絡め取る。

「どうしたの?」

唇を話して牧野に尋ねる。

「部屋で待ってたら、何だか不安になっちゃって…さ。
だから、来ちゃった」

俺は牧野をそっと抱きしめて、おでこに口づけた。

「先にあがってるから、ゆっくりシャワーしておいで。
牧野のこと、俺、待ってるから」
「うん」

牧野は上ずったような声で頷いた。

裸のままベッドに転がっていると、冷んやりしたシーツが火照った身体に心地よい。
ぼーっと天井を見つめていると、うとうとしてしまいそうだ。

「…類」

気がつくと牧野がベッドサイドにバスローブを着て立っていた。

「おいで」

俺は牧野の手を取ると、ベッドに引き入れる。
バスローブをはだけさせると、ブラジャーとショーツをつけている。
ベッドで牧野の上に重なり、首筋に唇を寄せた。
ブラジャーをたくしあげ、乳首をそっと口に含む。
胸に手のひらをそっとあて、ゆっくりと揉みしだく。
遮光カーテンを閉めているとはいえ、部屋はそれなりに薄暗いだけで、
牧野の表情が手にとるようにわかる。
司はたぶん、牧野の全身を丹念に愛撫するような性格ではないだろう。
俺が唇を這わすと、案の定、牧野がくすぐったがる部分があって、
でもそこを丹念に舌で刺激していると、どんどん蜜が溢れ、笑い声が切なげな声に変わっていく。

「類…ああっ、…類……」

牧野が喘ぎながらシーツをしっかりと握りしめている。
まだまだ司が知らない場所が隠されていることに気づき、俺はただ牧野を喜ばせたくて、
ますます牧野の身体に唇を這わせた。

牧野のショーツには、うっすらと蜜染みが出来ている。
流線型のそれを見ていると、隠された花びらの奥の形が見えるようだ。
ショーツをずらして、牧野の花びらに右手の中指をそっと差し入れる。
中から蜜が溢れ出ていて、かすかに甘い匂いが立ちこめる。
彼女の蜜はかなり透き通っていて、糸をひき、指以外の侵入物を欲しがって蠢いている。

「類ぃ…」

侵入させる指を増やし動かすと、牧野が切なげに俺の名を呼ぶ。

「俺が欲しい?」

牧野に意地悪く聞いてしまう。

「ん…」

牧野ははっきり答えようとはしない。

「ごめん。もう少し楽しませてね」

俺は彼女のショーツを抜き取り、足の指を口に含んだ。
一瞬、牧野の全身が固まったことがわかったが、そのまま指の間までじっくりとなめ回す。

「…イヤ」

思った通り、たぶん司にはここまでされたことがないんだろう。
足の指、足の裏、足首、膝の裏まで、丹念に唇を這わせていくと、
ついに牧野は、すすり泣きのような喘ぎ声を上げ始めた。

太ももまで達したとき、俺は牧野の右太ももの内側に痣を発見した。

「ん?」

という声をあげると、牧野ははっとしたように太ももを寄せ、それを隠そうとする。
俺は牧野の身体に残された司の痕跡を見つけ、妙にほっとした気分になった。
司と牧野、幸せにやってるんだな。
そう素直に思うことができた。
そして、牧野に対する愛おしさが募った。
一方で、自分の所有の印をつけても大丈夫という、妙な安心感も得ていた。

「もうひとつつけてもわからないよね」

そう言いながら、噛みつくように司の痕跡の隣に、よりくっきりとした痣をつける。

「痛いよ…類…!」

牧野が呻く。それでも牧野の蜜壺からは、シーツに染み出るほどの液体が流れ出していた。

全身を唇で愛撫され、牧野は軽くいってしまったようだった。
俺は自分自身を手に取ると、牧野の花びらにそっとこすりつけた。

「類…あたし、今日、そのままで大丈夫だから」

牧野がまだ少しうつろな感じでつぶやいた。
それを聞いた俺は、そのままそっと牧野の中に侵入した。
牧野の中は考えていた以上に狭く、不規則な締め付け方をする。

「やっと、…俺、やっと、牧野の中に入れた…」

俺は思わず言ってしまう。
何だかものすごく感動しているのがわかる。

一方で、名器ってこういう女のことを言うんじゃないかな…、
総二郎だったらどんな風に評するんだろう…などと、
とってもバカなことをふと思い浮かべたりもする。
そうでもしないと、不覚にもすぐにいってしまいそうだった。

少しでも長く牧野の中にいたくて、小刻みに動く。
俺の付け根の部分と、彼女の入り口が密接に擦り合わさるような感じだ。
牧野はこういう感覚が初めてだったらしく、全身で俺にしがみついてくる。

「あっ、あっ、類…類ぃ……、、、こんなのって…こんな感じって…今まで……ないっ……」

何度も俺の名を呼ぶ牧野…。
我慢できなくなると、俺の左肩に噛みつくようにしながら、吸い付いてくる。

「ねぇ、あたし…あたし、もう変になっちゃう…。どうしたらいいか、わかんない…!」

牧野が全身で感じているのがはっきりわかる。
うっすらと汗をかいた額に、黒髪が貼り付き、
首筋はうっすらと赤味を帯びている。

「変になっちゃっていいよ。そんな牧野を見たい」

そう答えたものの、変になっているのは俺のほうだ。
快感と感動と、いろいろなものがごっちゃになって、ただわけがわからず、
牧野を突き上げる。

「ねえ、類…、類…、もう、もう…あたし…」

牧野も限界に近いようだ。
俺ももういっぱいいっぱい。

「牧野、ごめん。俺、もう我慢できなさそうだ。いっていい?」
「うん、そのまま…、そのまま出していいから…!」

俺は牧野の中に、自分の全てを解き放った。

俺は牧野のことが愛おしくてたまらず、ベッドでお互い横たわったまま、指と指を絡める。
思い切って気持ちを伝えて、牧野と身体を重ねることができて…。
いろいろな思いが巡る。
俺は彼女が困っていたら、やっぱり今でも力になりたいと思っている。
それをはっきりと自覚した。
やっぱりこれは愛なんだろうなって思う。
司への罪悪感は全くなかった。もちろん優越感も。
自分勝手な考え方かもしれないけれど、
司と牧野が一緒になったように、俺と牧野もこうなるのが自然で、
それが運命なんだと素直に感じられたから。

「司と比べて、どうだった?」

思わず牧野に聞いてしまう。
牧野が答えられないことなんて、計算済み。
でも牧野は明らかにかなり感じていて、俺にしがみつき、名前を呼び続けてくれた。
だから俺は言ってみる。

「ふーん、俺とのセックス、意外によかったんだ」

牧野は明らかに慌てたようで、

「恥ずかしいこと、言わないでよ…」

と、消え入りそうな声で言って背中を向けてしまった。
俺は牧野をそっと背中から抱きしめる。

「司に一生言えない、ふたりだけのヒミツができちゃったね」

牧野と会った日、俺は例の見合い相手と、またもやデートの約束をさせられていた。
午後八時、待ち合わせのホテルのラウンジに行くと、彼女は既に待っていた。
他愛もない話の後、ホテル内の庭園を散策する。
放し飼いにされた蛍が飛び回り、ところどころに黄緑色の光がぽーっと灯る。

「僕はあなたを幸せにする自信はまだありません」

俺は正直な気持ちを口にした。
すると彼女はこう言った。

「でもあなたとだったら、幸せを育てていけると思います。
きっとあなたと私だけの、愛のカタチを見つけられると思います」

彼女はそういうと、その意志の強そうな瞳を俺からそらさず、にっこりと笑った。
いずれこいつは「牧野みたいな女」から抜け出し、俺の心の中で、
牧野とは別の存在感を放つんだろう。
俺はそのとき初めて、彼女との運命を自然に受け入れた。
俺は彼女を思わず抱きしめると、そっと唇を重ねていた。


結婚式当日、招待客の中に牧野と司が見えた。
俺は挨拶回りで結構忙しくて、ふたりとまだ、まともに話をしていなかった。
牧野が俺をじーっと見つめている。
何だか泣き笑いみたいな妙な表情をしている。
俺は思わず、牧野に向かってウインクした。

「大丈夫だよ、俺は。
牧野とはずーっと一緒だし、こいつのこともきちんと愛していくから。
だから司といつまでも幸せでいて」

そんなメッセージを込めて。






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