あさって卒業
道明寺司×牧野つくし


「姉ちゃん、まだ出ねーの?」

弟の進が玄関口から、グズグズしているつくしを不思議そうに振り返った。
つくしは既に身支度済。両親が仕事に出たあと、いつもは二人一緒に戸締りして家を出るのだが。

「んー、サボっちゃおっかなぁって」
「まだ時差ボケしてんの?それか、腹でも痛いの?」
「時差ボケって、とっくになおったわよ。ただ今日、行っても授業もないし、いきなり行く気なくなった。」
「いいよな、卒業間近の三年生は。心配して損した。」

つくしが殴るマネをすると、進は肩をすくめて、登校していった。

「今日、どうやって過ごそう」

休んだはいいものの、勤勉さがウリのつくしには、今イチ時間のつぶし方がわからない。

「お昼は、お弁当だな」

(作っちゃったし)

「大掃除でも……」

(うあぁ、それはめんどくさいよ)

とりあえず居間と寝室の掃除をする。所詮ふた部屋しかない狭い家だ、すぐ済んでしまった。
開け放した窓から、3月になったばかりの冷たい空気を吸い込む。寝不足のアタマがはっきりするような気がした。
そのままずるずる窓枠下の壁にもたれて、畳にぺたんと体育座りする。
着替えるのすらおっくうで、まだ制服を着たままだ。司が最後にくれた制服。
卒業式を明後日に控えて、司からの電話を正直心待ちにしていた。
それなのにまた取り損ねた。出たと同時に切れたと思しき受話器を手にするのは何度目になるだろう。

「帰ってくる、電話だったのかなぁ」

(それとも、帰れない、か)

「かけ直しても出てくんないし。」

それから朝まで眠れなくて悶々としていた。
静の結婚式で会ってから、結局一度も話せていない。
パリで、初めて一晩一緒に過ごしたというのに。

ツっと、つくしは自分の唇を指でなぞってみた。

(やっぱアイツの唇とは感触が違う…ってあたりまえか。自分の指だもんねー)

でも、なんとなく止まらなくて、指で自分の舌をなぶってみる。司がしたように。
その指で、自らの耳の後ろから鎖骨にかけてなぞる。唾液で濡れた首筋が少しひんやりした。
その冷たさに、司の行為を思い出し、腰のあたりがざわりとした。
つくしはブラウスのボタンをお腹の辺り、4つ目くらいまで外してしまい、白い胸をあらわにした。
そして淡い色付きの先端をいじり始める。摘まんでみたり捏ねてみたり。

「…バカみたい」

どうにも、司とした時の刺激は得られない。自慰なんて初めてのことで、我にかえって猛烈に恥ずかしくなった。
こんなうすい胸を見られて、司に貪られて、我を忘れて喘いでしまったことすら恥ずかしい。
何てことしたのか、と思う。
司が、きれいだの愛してるだの、何度もささやいていた覚えはある。

(でも、コレ、のどこがきれいっだっつーのよ。うそつきうそつきっ)

(し、下はどうなのっ?)

こうなると、ナニを司の目に晒してしまったのか、怖ろしくてならない。
つくしは恐る恐る両足を大きく開き、ショーツを脱いだ。触れてみる。

(アイツ、ココ、舐めてたよね)

正直、下半身を責められ始めてからの記憶はあまりない。思いっきり乱れてしまった。
覚えているのは太ももに触れる司の髪の感触と、クチクチと湿った音がずっとしていたこと。

「あっ……」

その時の情景がフラッシュバックして、体の奥が甘く疼く。指にぬるりとした液体が絡みついてきた。
それを割れ目に塗り込める。何度も何度もなぞるうち、ひときわ感じてしまう個所がある。
突起をこすり上げると、あの夜とおなじ強すぎる快感。

「は…あっあっあっ」

脳裏の司にねだる。

(舐めて、吸って、噛んで)

「道明寺っ、どうみょうじ……っあっんっ」

イってしまうと、空しくて涙がこぼれた。右手は自分の体液でべとべとだし、
脱いだ下着が壁際に丸まって転がっている。みじめたらしい。
そのまま大の字に寝転がり左手で顔を覆って呟いた。

「道明寺に会いたい。キスしたい。」

「俺も会いたかった」

ふわっとキスが降りてきた。聞き間違えるはずのない声の主は。

「どどど道明寺っ?」
「おー」

あまりの状況に顔を覆う手を外せない。

(いつからいたの?あたし、さっきまでオ、オナ)

「見てたぞ、すっげかわいかった」

(みてただあ!?)

「どっから?いつからっ?」
「どっから、は玄関からだ。鍵空いてたぞ、不用心だろ。」

進が閉め忘れたのだと思い当たる。一緒に出るので、いつもつくしがカギを掛けるのだ。

(あたしが一緒じゃなかったから、忘れやがったわねーーっ)

「いつから、は、おめーがチチ揉んでるあたりから?」
「ばかあっ」

「いいかげん顔見せろ。顔見に来たんだから」
「やだ。恥ずかしくて顔見せらんない」

つくしは顔を覆ったまま、壁に向かって寝転がって司を見ようとしない。

「かわいかった、つってるだろ。それに恥ずかしくねーよ」
「恥ずかしくないわけないじゃない!あんなとこみられて」
「恥ずかしくねーよ。つーか、おれも、よくしてたし。」
「へ?」

司も並んで寝転がり、つくしを背中から抱きしめる。

「だーかーらー、おれもお前のコト考えてだな、よく……」

肩越しに顔を見やると、司はうっすら赤面している。

「すけべ」
「何がすけべだ、おあいこじゃねーか」

つくしは赤面してまた顔を背ける。

「でも、一人じゃつまんねーよな」

司が囁く。すでに片手はスカートの中に潜り込んでいて、唇はつくしの首筋を責め始めている。

「一緒にシよっか、な?」

こくり、とつくしは頷いた。

司は、つくしの髪をかき分けた。うなじの中央の窪みに鼻をこすりつけるようにして匂いをかぐ。
「盆のくぼ」と呼ばれる急所だったなあ、と余計な事を考えた。こんなに弱くて小さくて隙だらけで、
その気になったらどうとでもしてしまえる。

(わかってんのか?)

「あんた、なんで日本にいるの?」

背後から抱え込むようにしている司の腕の中から、つくしが問いかけてきた。

(わかってねえ)

いつもどうでもいいことばかり気にかけて、ムカつく限りだ。

「休暇。うちのジェット。お前の卒業式。プロム。」

司の言葉はぶっきらぼうを通り越して、単語のみ。
それでも、休暇が取れたので自家用ジェットでつくしの卒業式とプロムに出るために帰ってきた、
と言いたいことは伝わったようだ。
そっかぁ、とつくしは呟いて、司の顔が見えるようにもぞもぞ体を回転させる。正面から向き合って見上げた表情はうれしそうだった。

畳の上は、司にとっては固いばかりで身動きしにくい。つくしの膝を割って、片足を割り込ませた。
そのままつくしの腰を支えながら起きあがる。
つくしは司の膝の上にまたがった格好になる。下着を着けていないのでズボン越しに伝わってくる体温に
胸が躍ったことは内緒だ。わざとそうなるようにしたのはもっと内緒だ。

「ん」

改めて深く口付ける。
丹念に唇の感触を確認する。形をなぞるように舐め回し、その後メインとばかりに口中を貪った。
一度体を重ねて羞恥心が取れたのか、つくしもぎこちないながらも反応するようになっていて、
キスだけでもいつもより興奮する。

(ん?)

「牧野、あったけえ」

突然言われて、つくしは戸惑った。頭がぼんやりして呼吸を整えるのでいっぱいいっぱいだ。

「ほれ」
「わぁっ」

司の大きな手で、ウエストを掴まれて持ち上げられる。思わず色気のない声を出してしまった。

「やだっ」

司のズボンに大きな染みが広がっていた。つくしがまたがっていた部分だ。

「おまえ、反応よくなってね?キスだけでこんなに」
「う、うるさいうるさいっ」
「脱ぐわ。ちょっと立て。」

司は座ったままベルトを外し、下着ごと脱いでしまう。勢いよく司自身のが曝されて、つくしは
顔を赤らめた。

「いいな、この体勢。」

ちょうど自分の顔の前にあるつくしの腰を引きよせて、司が言った。

「牧野、見せろ」
「やだよ。ふざけんな」

しばしにらみ合う。

「覗いてたときのほうが、大胆だったのになぁ」

にやにや言う司に負けて、つくしは渋々スカートをまくりあげた。

「よく見えねぇ」

顔を寄せながら、司が囁く。内腿に司の吐息を感じる度に、恥じらう気持ちが消し飛んでゆく。
つくしは割れ目を自分の指で押し広げて、司に見せた。

「ん……っ」

司は、つくしの膝の後ろを支えながら、顔を押し付けた。キスと同様に形を確認するように唇でなぞる。
舌はようやく内側へ分け入っても中心を避けて遊んでいる。最後にようやく割れ目を広げるつくしの指と一緒に突起を執拗に舐めた。
かくかくと膝が崩れそうになるが、司は許してくれない。

「ふっ…う」

声にならないあえぎが洩れる。あまりにつくしが辛そうなので、太ももを伝う液体を丁寧になめとってから自分の膝の上に座らせる
。眉を寄せて快感に耐えているつくしの顔を見て、我慢ができなくて一気に挿入した。

「ぁあっんっ」
「…っ」

締め付けられて、司もイってしまいそうになり、必死で堪える。つくしの首筋に顔を押し付けて、荒くなった息を殺した。
呼吸を整えて、動き始める。ぐったりしていたつくしも反応する。2度目だからか、挿入でも感じるようになったらしい。

「あ、は、ぁん」

ぎゅっと瞑っていた目をあけて、つくしが、なめて、と小さくねだった。
背をのけぞらせて、乳首の周りをなめる。
つくしのあおのいた喉が動いて、また何か言ったような気がした。それに応えて赤く色濃くなった乳首を吸い上げる。
内部の締め付けがキツくなる。それに煽られて、今度は噛み付いた。
司は限界を感じて、向い合せにつくしをギュッと抱きしめ、動きを速めた。ガクガクと揺すぶられた勢いで、つくしの腰が手の内から逃げそうになる。
逃げんな、とばかりに尻を掴んで引き寄せ、さらに深く穿った。
つくしの腕が、司の頭に巻き付いて、口付けてくる。夢中になって応えてやる度、内部が大きくうねり、何度目かのキスで精を放った。

「きゃあぁっ」
「なんだよ、うっせえ」

余韻に浸っていたのに。
つくしが何やらギャーギャー喚きだしたので、司は不機嫌になる。

「制服、汚しちゃったよ!卒業式で着るのに〜」

確かに、つくしの着ていた服は皺だらけのぐちゃぐちゃで、特に最中にずっと身につけたままだった制服のスカートなどは
酷い状態になっている。

「そんなのいいだろ。新しいの準備させるから」
「何回も着ないのにもったいないよ!」

司は、はぁーっと額に手を当て溜息をついた。

「じゃあ、行くぞ。服着ろよ」
「へっ、どこに?」
「タマなら、それ、何とかできんだろ。」
「クリーニングとかで……」
「その色々なシミとか、どう説明すんだ?」
「うー」
「うち行くぞ」

つくしは、アパートのドアの鍵をかけた。かけたついでにガチャガチャと締まっていることを念入りに確認する。

「おまえ、何してんの?」

司が不審そうな顔をする。

「戸締り。変な人が入ってくるからね。」
「てめぇ」

青筋を立てる司を見上げて、つくしは微笑んだ。






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