脱童貞
番外編


清掃員のバイトをしている。
夜とかだと、割当てがいい。
学校が終わってから、バイト仲間の
急なシフトチェンジのため、現場に向かう。
持ちつ、持たれつ。
いつもと違う現場。持ち場じゃない、慣れない現場。
きれいなオフィス。
そして、女の喘ぎ声。
耳を疑った。

廊下から、仄暗いオフィスを覗けば、
有名銀行の受付嬢が制服のまま、男とシている。
無理やりとかじゃないみたいだから、犯罪とかじゃなくて、
たぶん発情カップル。

あー、あー、いい御身分ですな。
俺も、早く社会人なりてー。

気まずくて、立ち去ろうにも女の声がえろくて、やばい。

勝手に利き手が、股間にいってしまう。

やべ。

気がつけば、声をオカズに扱いてた。
声を抑えながら、漏れる嬌声に興奮する。
程なくして、女の声が荒い息遣いに変わった。
様子を覗こうとしたら、男と目が合った。

「ナニシテンノ?」

ちんこを出したままの間抜けな姿で、彼女の近くに連れてかれる。
上司には言わないという約束だ。
仄暗い部屋で間近に見る彼女は、俺とあんまり変わらないくらいの
年に見えた。
でも、シャツから見える胸と、たくし上げられたタイトスカートと、
膝までおろされたストッキングと下着がこの上なくいやらしい。
先ほどで乱れたであろう、長い髪を細い指で梳かしながら、
俺に微笑む。

「君が、お相手してくれるの?クルクルパーマくん」

髪のことを言われて、はっと自分の頭に手をやった。

「ほら、早くハルコをイかせてあげてくれ?」

男にせっつかれる。
でも、俺は…

「…す、すみません、俺、はじめてで…」

恥ずかしい。なんで、知らない奴にこんなこと言わなきゃいけねーんだ。
断れない、俺が悪い。
案の定、男が爆笑しやがる。

「いい、いいよ。面白い。バイトくんの筆下ろしじゃないか。
シロートで男になれんだぜ。よかったじゃん」

うるせー。
彼女が背伸びして、細い指を俺の髪の毛に絡めてきた。

「誰にだって、はじめてはあるわよ。ねぇ、クルクルパーマくん」
「…いいんすか?」

そのまま、頭を抱きかかえられるように引き寄せられた。

「はじめてが、私でいいなら」

そのやりとりで、男が少し苛立ったように、早くやれという。
耳元でごめんね、と小さく囁かれた。
それだけで赤くなった。

男が、もう、濡れてるからそのまま入れろ、なんていう。
ムードも何もあったもんんじゃない。
先端をあてがうと、それだけでぬるぬるしたのが締め付けてくる。
全部、入れたら俺、どーなっちゃうんだろ…。
ずぶずぶ、先に押し進めてゆくと彼女が甘い声を出しながら、なかを
締め付けてくる。
驚くほどに簡単にイってしまった。
俺が。

「わーっ、すいません!!ほんとにすいません!!」

土下座。その前に抜け、俺。
男が、これだから童貞は、とかほざきながら嘲笑いながら言いやがった。
「へーきだよ、そいつ。ピル飲ませてっから。生じゃねーとな」
むかつく男だな。彼女は、優しく微笑みながら頭を撫でてくれる。

キス。
キスがしたい。
思い切り、抱きしめたい。

愛おしさで胸が、いっぱいになる。なのに、

「脱童貞、おめでとー。さっさと抜いて、もう行っていいよ」

平坦な口調で、男に引き剥がされてその場を出された。

「ばいばい、クルクルパーマくん…」

少し、さびしそうに見えたのは俺の自分勝手なエゴだと思う。
俺は何にも知らなくて、でも、彼女が幸せかどうか気になった。
でも、二度とその現場に行くことはなくて、学校もバイトも卒業して、
名前も知らない彼女はどんどん朧気になってゆく。
幸せになってください。
大好きでした。


社会人になって、新人から中堅。人事部も経て、今度は営業の主任を
任されることになった。

「特Aのハケンが来るんだって」

「なんですか!このクルクルパーマは!!」

最近、聞かないね。
聞かなかったね。

また、聞けたね。






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