一ツ木慎也×森美雪
![]() ん?・・・なんかあの後姿見覚えがある。 んんっ・・・誰だっけ? 喉の奥まで出掛かってはいるんだけど・・・思い出せない。 その時、びゅおっと突風が吹いて、ふいにその人が振り返った。 そして眼と眼とが合った。 「「・・・あっ!」」 同時にお互いを指で刺し、素っ頓狂な声をあげた。 「あ~っ一ツ木さんだったんですか」 「森さんじゃないですか~」 懐かし・・・くはないか、一ヶ月ぶりの一ツ木さんとの再会。 なぜか胸の奥が熱くなって嬉しくって堪らずに彼のほうに駆け寄っていった。 このとき、私には胸の熱さの理由は分からなかった。 「お久しぶりですね、会社の事では随分お世話になってしまって・・・」 一ツ木さんの前に立ち、まじまじと彼を見つめてしまった。 「・・・僕の顔になにかついてますか」 見つめられるのを不思議に思った一ツ木さんが問いかけてきた。 ―――あっいけない・・・つい見入っちゃった。 私はちょっと反省して、でも改めて一ツ木さんを見てしまった。 いつもと違う・・・、スーツ姿ではない、私服の一ツ木さんだ。 ジーンズにグレーのカジュアルなジャケット姿 それが良く似合っててドキドキしてしまう。 「いえ・・・、すみません、一ツ木さん私服だったんで、つい・・・」 私は正直に話して、一ツ木さんに笑いかけた。 その瞬間、一ツ木さんの顔がカっと赤面した。 「もももも森さん、かっからかわないでくださいよ」 テンパってどもっちゃうのも変わらないな・・・と心が温かくなった。 「これからデートですか?」 正社員になりたいと言って、ハケン会社とは関係なくなった私を最後まで お世話してくれた人・・・、優しいまなざしは今、誰に向けられているのかな。 なぜかチクリと痛む心を無視して聞いてしまった。 「デデデートだなんてっ!!今彼女いませんから」 その一ツ木さんの言葉になぜか安堵した。 「・・そうなんですか、ハケンの私にすらこんなに親身で優しいのに」 「はい~っ、残念ながらいないんですよ・・・、これが」 恥ずかしそうに頭を掻く姿が、なぜかたまらなく可愛く感じてしまった。 ―――あっ・・・、私・・・一ツ木さんが好きなんだ。 分かってしまった。 なぜ胸が熱くなったのか なぜドキドキしたのか ・・・なぜ・・・胸が痛かったのか 自覚した途端、ふらっと足のバランス崩してその場にへたり込んでしまった。 「森さんっ!!大丈夫ですか」 一ツ木さんが慌てて私を抱えて立たせてくれた。 触れられたところが熱い、全身、心臓になってしまったみたい・・・・・・。 いてもたってもいられなくて私はペコリとお辞儀して帰ろうとした。 だけど、支えられたままの腕が強く握られた。 「・・・一ツ木さん?」 動揺を隠して彼の顔を見つめた。 その彼の顔は今まで、見たこともないくらい真剣で私を見ている。 「・・・僕が本当の意味で優しくするのは、森さん・・・あなただけです」 「え・・・今なんて?」 それは・・・どういう意味? 私はあなたの特別なの? 「・・・泣かないでください、迷惑でしたね・・・忘れてください」 ―――泣いてる・・・? 頬に手をやると濡れた感触。 一ツ木さんの言葉で自分が泣いていることに気がついた。 「迷惑なんか・・・じゃありません」 きゅっと一ツ木さんの袖の端をつかんだ。 このまま誤解されて、会えなくなるなんて私には耐えられない。 勇気を出さなければ・・・先へは進めない。 それは大前さんに教わった夢を現実に変える力 「私もあなたが好きです・・・」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |