ぼくの知らない事
番外編


最近、勇者さんとククリさんの様子が変なんです。
夜な夜な起き出したかと思うと、二人で小一時間ほどどこかに行ってしまうんです。
そのことをジュジュさんにも話したら、顔を赤くして、
放っといてあげたほうがいいわよ、と何やら意味深なことを言われてしまいました。
何か知っているようなんですけど、それ以上なにを聞いても頑として
教えてくれませんでした。

ある日、ぼくはこっそり二人を尾行してみることにしました。
物音を立てないよう気をつけながら抜け出していった二人は、テントから
少し離れた場所の茂みの中に入っていったんです。
どうやら二人は、そこで何かをはじめたみたいです。
暗さと茂みを覆う草のせいでよく見えなかったので、ぼくは近くの木陰に隠れて
二人の声に聞き耳を立ててみました。
すると、ククリさんの声が聞こえてきたんです。
やや上擦った声で「勇者様ぁ、そこぉ」だとか「気持ちいい」とか、
心なしか荒くなった息遣いが……
次いで、勇者さんが「ここ?こっちのほうが好きなんだろ」と
意地悪をしているような、からかうような調子で言いました。
ククリさんの声や息遣いは、勇者さんの調子に合わせて、熱く荒くなっていきます。
俄然、興味が湧いたぼくは、二人に気付かれないようにしながら近付いてみました。
一歩一歩に神経を使って、慎重に二人のいる茂みに近付いていきます。
そのとき、夜空を覆っていた雲がわずかに途切れ、その切れ間から月の光が
射しました。茂みの中に浮かんだ二人の影は、地面に寝そべった一人の上に、
もう一人が座っているように見えたんです。
いったい、あの二人は何をしているんでしょうか?
ますます掻き立てられた好奇心を抑えられなくなったぼくは、
思いきって疑問の真相をこの目で確かめてみることにしました。
二人のいる茂みに手を突っ込んで、がさっと掻き分けました。

「ト、トマ!?」
「トマくん!」

勇者さんとククリさんが、揃ってぎょっとした顔で、突然現れたぼくを見ました。
あの影の通りの関係で、二人は身体を重ねていたんです。

「な、何をしてるんですか?」

我ながら間の抜けた質問だなぁ、と今になって思いますが、興奮しきっていた
このときのぼくには、これが精一杯でした。

「な、何って、なぁ?」
「み、見ての通りよ」

二人とも揃って、照れた笑顔を浮かべています。

「見つかっちゃったし、トマにも手伝ってもらおうぜ」
「えっ?」

勇者さんの発言に、ククリさんは顔を真っ赤にしました。
そして、ぼくのほうを恥ずかしそうに見て、

「い、いい?トマくん」
「ぼ、ぼくは構いませんけど……」
「じゃあ、来て。勇者様と一緒に、お願い」

ぼくは誘われるままに茂みへと入ると、ククリさんの傍らに座りました。
隣にいる勇者さんの見よう見真似で、同じことをククリさんにしていきます。
ぼくの手が、指先がククリさんの肌を刺激するたびに、さっきと同じ嬌声をあげていました。

「なかなかやるじゃん。トマ」

ククリさんの身体に手を這わせながら、勇者さんがぼくに言いました。

「そ、そうですか?初めてなんで、勝手がよく解らないんですが」
「なあ、ククリ。トマ、結構うまいよな?」
「う、うん。初めてだなんて信じられないくらい」
「じゃあさ、トマとオレ、どっちのが気持ちいい?」
「えっ?そ、それは……」

勇者さんの意地悪な質問に、ククリさんは俯きながら、

「ゆ、ゆうしゃさまのほう」
「あ、当たり前ですよっ!初心者のぼくと勇者さんを比べて、ぼくなんかに
勝ち目があるわけないじゃないですか」

ククリさんがそう答えると確信していたように勇者さんは笑いました。

「それにオレはククリの気持ちいいとこ、もう全部知ってるしな」

その台詞で、ぼっと火がついたように顔を真っ赤にしたククリさんは言葉を失って、
顔を伏せてしまいました。

「あれ?オレ、なんかマズイこと言った?」
「し、知らないっ!」

それから小一時間した頃。
ぼくたち三人はジュジュさんを残してきたテントに向かって夜道を歩いていました。

「ごめんね。トマくんにまで、あんなこと手伝わせちゃって」
「オレも、ついノリで頼んじゃったけど、悪かったよ」
「いえ、いいですよ。あのくらいのことなら、これからはいつでも言ってくださいね。
ぼくでよければ手伝いますから」

二人が夜な夜なテントを抜け出して、いったい何をしていたのかというと、
筋肉痛で困っていたククリさんのマッサージをしていたのでした。
踊りながら魔法陣を書く、というのは見た目よりずっと身体に疲労が溜まると
ククリさんは言っていました。
勇者さんは、そんなククリさんを思いやって、毎晩自分から申し出て、
マッサージをしてあげていたのでした。

三人の先頭を歩いていた勇者さんが、テントの近くまできて、

「ジュジュが寝てるから、起こさないようにそっと、な」
「うん」
「はい」

ぼくたちは足音を忍ばせて、テントに向かいました。
勇者さんがテントの入口を開けたとき、なぜかその動きが止まりました。
まるで見てはいけない何かを見たような感じで、開けた入口を閉じたんです。
テントに入ろうとするぼくとククリさんを押し止めて、今しがた三人で
静かに入ろうと申し合わせた場所まで遠ざかってくると、

「も、もう少し散歩でもしてこようぜ」

勇者さんが、不自然な笑顔でそう言いました。

「どうかしたんですか?」
「ジュジュちゃん、寝てたんじゃないの?」

勇者さんは、ぼくたちの問いかけに、いいから、と言うだけで
強引にぼくたち二人を引っ張ってテントから離れていきました。
いったい、どうしたというんでしょう?
ぼくの知らない事は、まだまだたくさんあるみたいです。






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