ただの少年になった
レイド×ジュジュ


ギリ様がいなくなった今、魔族がどうなったか、なんて考える人はあまりいないだろう。トランプでもチェスでも、親玉が倒れればゲーム終了。その手下の行方なんか、勝手に消えるものだとすら思われているに違いない。

しかし、残念ながら俺たちは消えなかった。
そりゃそうだ。俺たちは魔王ギリが生み出した存在とかではない。ちゃんとこの世に生を受けて生まれてきた生き物なんだ。
俺からしてみれば、父親(と呼べるかどうかはわからないが)が封印されてしまった、ただそれだけで、魔力には多大なる影響が出たが、意外に健康面とか精神的にはなんら変わりなかったりする。
チクリ魔もタテジワも、あのカヤでさえも、みんなそんな感じだ。
魔力がないから、カヤはただの顔の怖いじいさんになり、クロコはただの黒子になり、そして俺は、ただの少年になった。


ピンクボムとラッキースターは、ギリ様を封印した後どこかへ消えた。
俺からしてみれば、なぜあいつらの方が消えなければいけなかったのかがわからない。
本来なら、俺たちの方が消えて然るべき存在なのでは-…

アラハビカ。
ここは不思議な場所だ。

行き場を無くした俺たち落ちこぼれ魔族でも、拒絶する者がいなかった。

(というか…)

ギリ様が倒したあの日、絶望していた俺の頭によぎったのは、この街のことだった。
この街に、呼ばれたんだろな。
あまりに居心地が良すぎて、そんな事まで考えてしまう。

(あ〜あ…平和ボケしてんな、俺。)


そんな訳で、魔族は滅びずに、こっそりとこのアラハビカで暮らしている。
正直、もう世界を乗っ取るとか考えてる奴はいない。ここでの暮らしが心地よい。
その証拠に、カヤは毎日珍しいクワガタやカブトムシを集めるのに精を出しているし、チクリ魔は個人スタジオをオープンさせて結構商売繁盛してるらしい。他のやつらもすっかり順応して、一住人となっている。

(俺だけだな…)

こんなに喪失感タップリになっているのは、本当に俺だけだ。
でもそれは、父親を失ったことよりはむしろ、もう一つ…



(ピンクボム…)

お前のいない世界は、すっかり色を失い、俺を奈落の便器の中へと突き落とした。我ながらクサい考えだが、お前がいなくなった今、それが突き刺さるように痛い。

…だからだ。
何かを失った人間は、何かで隙間を埋めなければ前に進めない。
だから俺は今、きっと教会の前に立っている。
だって、ピンクボムが消えたのは、俺たちのせいなのだから…
神に、懺悔するんだ。

俺は顔を伏せ、マントを頭からすっぽり被り教会の扉を開けた。
思ったより明るい室内。マントを被っててよくわからないが、たぶん今ここにいるのは俺一人だ。
赤い絨毯の上を奥まで歩く。少し変わったデザインの十字架がそびえ立っていた。
(これは…プラトー教か)
中立を貫く宗教。アラハビカにはこの上なくお似合いだ。
そっと十字架に触り跪く。

「俺を許してくれ、ピンクボム…俺たちのせいで、お前はこの世からいなくなった…」

世界はこんなに喜びで満ちているのに。

「わかってるじゃないの、アンタ。」
「!?」

俺の懺悔に、返事が…

「だ、誰かいるのか?」

辺りを見回した。すると、いつの間にか、俺のすこし後ろに人がいる。綺麗な金髪のストレートヘア。そして、プラトーの法衣を纏うその姿は、まるで天使のようだったのだが…

「アンタ、もしかして…」

すっぽんぽん。

と思った瞬間俺は蹴り潰され十字架にめり込んでいた。

「殺す、やっぱり殺す」
「悪かった!だからもう止めて、マジで死ぬ!死ぬ!」

結構本気の仕置きをくらった。こいつ、人の心が読めるのか?
まぁ、読めても不思議ではない。彼女はたしか、ルナー…

「アンタ、クサい魔族よね」
「なんつー覚えられ方なんだ…」

まぁでも一応、覚えてはいたのか。

「冗談よ、レイド」
「!」

顔を見上げると、ニヤリと笑う彼女と目が合った。

「名前…覚えてたのか…」
「当たり前でしょ、あんだけちょっかいかけてきたんだもの。忘れるわけないじゃない」

…まだ、笑ってる。まるで昔の友達と話してるように、楽しそうな口調。

(ああ、なんか、)

ホッとするな。

俺一人だけ、世界から忘れられてるつもりでいたけど。
大切なもの、無くした気でいたけど、それは、コイツらだって一緒だったんだ…。

「悲しくないのか?どうして、俺たちを受け入れてくれる…?」
うなだれたまま、いつの間にか聞いていた。


「ん〜…、クーちゃんとニケくんは、それを望んでると思うから。」

「…どういう事?」
「例えば、君と仲良くなる事。」

そう言って、彼女は俺の手をぎゅっと握った。

「みんなケンカしないで、仲良くしよう、ってクーちゃんが言ってる」

俺はドキドキした。まるでこの子を通して、ピンクボムが語りかけてきてるみたいで…

「…天使?」
「まさか。あたしは中立の立場のルナー。」
「でも、天使だ。」

気付くと、俺は泣いてた。しかも、彼女を抱きしめて。
そんな俺の頭を、よしよし、となだめるように彼女は撫でている。怒りもせず、優しく。

「君も辛かったんだね、あたしと一緒…あたしもクーちゃん、大好きだもの…」「う…俺…」
「でも大丈夫、クーちゃんはアナスタシアに旅立っただけだから。レイドが会いたいと強く思うなら、また会えると思うわ」
「俺が、魔族でもか…?」
「仲良く遊ぼう、って言われたの、忘れてないよね?」

あぁ、そんなこともあったっけ…


ピンクボムは、実はちゃんと俺にも愛を注いでくれてたんだ。
今になって気付くんだから、本当おせーや、俺。

あぁ、誰かにむちゃくちゃ愛されたい。

「きゃっ…」

ルナーの少女を押し倒し、きつくきつく抱きしめる。
寂しいだけの最低男だ。そんなのわかってるけど、こんな気分、一人じゃ抱えきれない。
不思議と彼女…たしか名前はジュジュ、と言ったっけ…も抵抗しない。

「レイド」
「…何?」
「…かみさまが、見てるよ?」
「…仲良くなったね?って?」

冗談混じりで言うと、バカ、とつぶやいて彼女は俺にキスをした。

かみさま、ごめんなさい。
全然懺悔になってないけど、この子を抱かせて下さい。

キスは軽く触れた後、お互いを確かめ合うように、深く沈んでいった。時々甘い息が漏れ、その度俺は目の前の少女が愛しく、きつく抱きしめて体をすり寄せた。

ステンドグラスから射す午後の光が、金色の髪に輪を作る。
俺は彼女の服を優しく脱がせる。真っ白な肌に桃色の乳首。
それほど大きくはない乳房が、逆に神秘的でくらくらした。
照れてるからか、白い肌がうっすらと火照るのが余計にいやらしい。

「ジュジュ、綺麗だよ、本当に天使みたい」
「やめてよ、もう…」

俺は綺麗な彼女の髪を優しく撫でた。撫でながら、キスを繰り返し、優しく、ときには強く抱きしめた。
優しく、切ない繰り返しだった。
そっと乳首を口に含んで転がすと、さらに顔を真っ赤にして、

「あ、ぁ…」

と遠慮がちに喘ぐ。顔は気持ち良さそうにしてるのがバレバレだ。

「気持ち良い?」

つい意地悪したくなるくらい、可愛い。正直、ジュジュがこんなに可愛い反応をするとは、意外なのも手伝って余計に興奮する。
普段つんとして無表情な顔が、気持ち良さに上気して、涙が零れ落ちそうで…。

(ヤベ…マジ我慢できねぇ…)

俺は自分も服を脱いだ。
キラキラとした光の中、一糸纏わぬ俺たちは、何よりも弱々しく愚か者。
愚か者の俺の、一番愚かな欲望は、光の中、ある意味堂々と反り立って、彼女の目の前に姿を見せた。

「入れても、いいのか…?」

こんな俺の、こんな情けないものを、包んでくれるのか?

返事は、首を縦にひと振り。

タガが外れた。


誰かの事、こんな風にむちゃくちゃ愛したかったんだ。

彼女のそこが、すっかり濡れているのを確認して、俺は自分のものをあてがった。

「うっ…」

正直、先が触れ、すべる感触だけで気持ち良い。それはジュジュも同じみたいで、息がどんどん上がってきている。

「ん…んぅ…レイ…ド…」

徐々に、侵入させていく。初めて一つになるとは思えない位、彼女と俺は相性が良いみたいで、動かさないでいても気持ち良かった。

「痛くない?」
「ん…平気…ぁ」
「動かすぜ?」
「…少し、乱暴にしても良いよ。」

規則正しいリズムで突き上げる。さっきのセリフで理性も何もかも吹っ飛んでしまった俺は、自分でも驚くくらい、激しく腰を振っていた。

「あ、あぁ、んっ、ああぁん…あ、れ、」
「うっ、はぁ、はぁ…」

打ち付ける音が教会中に響く。繋がりあったところから漏れる卑猥な水音も、同様…。

(あぁっ、イキそう…)

俺は快感のまたその先を目指し、ピストンのスピードを上げた。

「あぁぁん!レイド…レイド、い、イク…!」
「はぁ…っぅん、おれも…あっ!!」
「あぁぁっ!!」

夢を見てるのだろうか。
俺は懺悔を出来たんだろうか…
ピンクボム…


気がつくと、俺はあらわな格好のまま、ジュジュの胸の中で眠っていたみたいだ。

「やっと気がついたの?君をひとりにできないから、ついていてあげたのよ」
「ん…ありがと。」

もぞもぞと起き上がり、服を着た。彼女にも着せてやった。なんだかもう、いつもの彼女に戻ったって感じ。

「あたしもね、救われたの、君に」

突然、彼女は語り出した。

「ギリがいなくなって、クーちゃんもニケくんもいなくなって、全部夢みたいだったの、今までのこと」
「…」
「でもね、ある日この街で君を見つけた」
「…当たり前だろ。おとぎ話みたいに、魔王が死ねば下っ端も死ぬなんて、ありえないよ」

すると、彼女はにこりと笑った。

「なら、クーちゃんにもきっと、また会えるよね…いなくなったと思ったレイドに会えたんだもの」
「あぁ、そうだな。ピンクボムはきっと、また俺たちに会いに来るよ」
「いっしょにあそぼ、って言ってね」
「…早く、来るといいな…」

…ま、それから何日か後、ピンクボムが本当にこのアラハビカに遊びに来るのは、また別の話。


アラハビカ。
そういえばここも、グルグルなんだっけな。
魔族も人間も一緒に楽しく暮らす、平和の劇場。ピンクボムはきっと、いや、ミグミグ族は、みんなで仲良くしたかったんだ。
そして願わば、それが劇でなく、本物になるように…


安心しな、ピンクボム。
俺たち、結構上手くやってるぜ。
相変わらずカヤは虫取りばっかだし、チクリ魔は使えねぇしタテジワは堅っ苦しいけど、楽しくやってるぜ。
今なら、人間と手をつないで平和を守るってのも、悪くないなって思う。


だから、今度は会いに来てくれよ。ラッキースターも連れてきて。

一緒に、手をつないで遊ぼう。な?






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